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【ぷりかる】祖国の危機

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【ぷりかる】祖国の危機

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第一章

「状況は分かったけどさぁ。ボクはエリュシオンが嫌いだからね。まぁシリウスがどうしても頭を下げるなら……」
「頼む。サビクの力が必要なんだ」
「え、どうしても? ……か、軽すぎる……これじゃツンデレにもならないでしょ……」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)から状況を聞いていたサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は、即座に頭を下げたシリウスに面食らった。
 学院を通してソフィアからの打診を聞いたシリウスはすぐさまサビクと話を付けると、リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)と共にその足でソフィアの元へと向かった。

「いつも、すまない」
「気にすんなって。ま……始める前に、だ。少しお茶にしようぜ。この前のお茶会のお礼……見様見真似だけど帝国風に淹れてみた。気分も休まるんじゃないかと思ってさ」
 シリウスの姿を見るなり苦しそうな表情でそう言ったソフィアに、温かいお茶を差し出す。
 隣ではリーブラが優しく微笑んでいた。
「今、もう一人助っ人に声をかけてきたんだ。すぐ来るから、その間だけでもさ。他の連中もそろそろ集まるころだろ?」
「ああ」
 少し落ち着く頃には、続々と仲間たちが集まってきていた。
「ソフィア、大丈夫だとは思うけど、念のため窓には近づかないで。一応、こないだみたいなこともあるかもしれないから」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)からの耳打ちに小さく頷くと、ソフィアは少し位置を変える。
「会議中はちゃんと見張ってるから。安心して話を進めてね」
「助かる」
 ソフィアを安心させるように笑うローザマリアに、ソフィアは頷いて見せた。
 ローザマリアはそのまま光学迷彩とベルフラマントで姿と気配を消し、ソフィアを護衛できる位置につく。
 再び刺客が現れても対応できるよう殺気看破を使用しインビジブルトラップを仕掛けた。

「こちらの事情に巻き込んでしまって本当に申し訳ない。だが、どうしても皆の力が必要なんだ。集まってくれたこと、感謝する」
 密かに集まった40人近い仲間たちの姿を見て、ソフィアが頭を下げた。
「えぇと。助っ人に呼ばれたサビクだ。よろしく、ソフィアちゃん。で、ボクからはだけど……殴りこむ口実と必要戦力を見積もっておきたいかな。個人の友情はともかく武装しての越境は政治問題にもなる。ソフィアちゃんの家が口添えしてくれるならいいけどそうでないなら……ま、正面対決は避けた方が無難かな?」
 サビクの言葉にソフィアは一瞬悔しそうに目を閉じ、すぐに口を開いた。
「現時点ではクーデターが起こりつつあること、私の母が捕らわれていることしか分かっていない。敵の戦力が分からない以上、今の段階で刃を交えることはできない。ペルムへ入るまではここにいるピウスが誘導する」
 ソフィアの後ろで控えていたピウスが目礼する。
「だが、それ以上のことは今のアントニヌス家ではできないと思う」
「なるほどね。とにかく今は敵の情報を調べることが第一、ってことか」
「情けない話だが、それしかない」
「隠密行動だね。りょーかい」
 ソフィアの言葉にサビクが考えを巡らせる。
「それで、さ。事前知識として、クーデターの背景を知りたいんだよな。クーデターって普通、一朝一夕で起きるもんじゃないし、起こせるもんでもないと思うんだよ。ソフィアの家のこと、造反した龍騎士の事……知っていることを教えてほしいんだ」
 シリウスの言葉にソフィアが頷く。
「今確実に伝えられるのは、家のことだけだな」
 逡巡するように振り返るソフィアに、ピウスが頷いて見せる。
「辛い話になるのはわかってる。けど、信じてくれ。絶対に両親は助け出すって。……オレはさ、血の繋がった家族っていないんだ。だから、友達の家族くらいは守らせてくれよ?」
「ありがとう」
 シリウスの言葉にソフィアが少し笑顔を見せた。
「父はアントニヌス帝……ペルム地方の選定神だ。幽霊城に捕えられている母はオリカ。父上も母上も私では歯が立たないほどに強い。だからこそ、今回捕えられているというのが不思議なんだ。相手が相当の武力を抱えているか、何かしらかの要因が絡んでいるのか……どうか皆、注意して臨んでほしい」
 その言葉を合図に、それぞれ立ち上がると、具体的な侵入経路や個々の役割について調整をすると、素早く作戦行動を開始した。
「わたくしは偵察に出た皆さんの連絡や、ソフィアさんからの情報をまとめて記録する係に回りますわ。色々な情報が不規則に飛び交うことになりそうですし、書記役は必要と思いますの。ソフィアさんも……まとめはこちらでやりますから、皆さんからの情報で何か思い出すことがありましたら、気の向くまま話してくださいな。その方が気分的にも楽でしょう?」
「ああ、助かる」
 リーブラの申し出にソフィアは深く頷いた。
「ソフィアおねえちゃん」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がソフィアに駆け寄る。
「幽霊城ってなんだかこわそうなところだから、ボク、何か詩になるお話を聞きにきた吟遊詩人になって、お城の様子を見てくるですよ〜。もし歌のお仕事いわれてもちゃんと歌えたらだいじょうぶだと思うです」
「接触を図るのか。危険だな……」
「たぶんだいじょうぶです。だから、お仕事って言われたときのために、エリュシオンの詩を教えて欲しいです〜」
 ヴァーナーの言葉に、不安を抱きつつもソフィアはエリュシオンの代表的な詩をいくつか伝える。
「気を付けて」
「は〜い。行ってきま〜す」
 ヴァーナーは詩をすぐに覚えると、ペルムに向かい飛び出していった。