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■朝 〜準備は早めのほうがいい〜
ここは空京より北東の方に存在するとある町。今日、この町では当日の朝から翌日の朝まで続く賑やかな祭り『年忘れ恋活祭』が開催される事になっていた。今回のテーマは“絆”という事でカップルや、友人、家族など様々な人が訪れる事になっている。そんな多くのお客達を迎えるべく露店の店主達は早朝から準備に大忙しであった。
「……朝から賑やかな、確か本日は恋活祭の日、翌朝まで続くとか」
空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)は賑やかに祭りの準備をしている人々を眺めていた。
その顔には祭りを喜ぶ色はなくただ人の動きを見ているだけだった。狐樹廊はそのままずっと祭りに関わる人々の様子を見守り続けた。
露店エリア、テントで防風した暖かな空間。
「これで準備は整ったかな」
「エース、料理も整いましたよ」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は猫カフェ『にゃあカフェ』出店準備をしていた。ニルヴァーナのカフェを出張出店だ。
エースが連れて来た双子の使い魔:猫のロシアンブルーの兄猫シヴァと弟猫ゼノン、みけねこ「かぼ」ちゃんも店のお手伝い。お客様をほっこりさせるのは確実。
「どれどれ」
エースはエオリアが準備をしたマドレーヌと焼き菓子を確認した。場所が場所なので凝った物は作れないので予め作っておいた物を温めるだけだが『調理』を持つエオリアの手作りなので味は最高である。
「これはイベントに合いそうだね」
エースが注目したのはベルを模して対になった感じのデザインの可愛いケーキ。
「カップルさんの絆が深まればと思いまして、それで飲み物は温かい物を中心に淹れてお出しする感じで」
エオリアはケーキの説明後、ココアや各種ラテ系に紅茶にエースがブレンドしたお手製のハーブティーなどの多種多様の飲み物の茶葉の入った缶や瓶を見せた。ちなみにエースが接客、エオリアは料理担当である。
「……準備も終わった事だし、もうそろそろ開店しようか」
料理を確認したエースはもう一度店内を見回した後、開店した。
クレープ屋『天使の羽』。
「恋愛イベントって事は女の子中心のお祭りなんでしょ? という事は女の子ウケするものを中心に売らなきゃ!」
店でアルバイト中のマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)が祭りにウキウキしている。
突然、
「桐条さん、販売勝負よ!」
ウキウキ顔を勝負師の顔に変えたマーガレットがびしっと桐条 隆元(きりじょう・たかもと)を指さしながら高らかに勝負を挑む。
「ほう、勝負とな。小娘よ、販売勝負などと言う台詞は一人でクレープを作れるようになってから言うが良い!」
笑止とばかりに隆元は小馬鹿にした調子でマーガレットに言い返した。
「……そ、それは」
痛い所を突かれぐうの音が出ない料理下手のマーガレット。
そこに
「あ、あの、こういうのはどうでしょうか。このお店で売っているクレープの具を小さいクレープ生地で巻いた一口サイズのプチロールクレープにして容器に入れて売りませんか。え、えと、一つの容器に入れる味は色々にしようと思っていて、小さいし味が色々あえば沢山食べられて楽しんで貰えるかと思うんですけど。大食い大会に参加している人達にも食べて欲しいですし」
アルバイトをするマーガレットと隆元のお手伝いのリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)がおどおど考案したクレープを聞いて貰おうと二人の会話に割り込んだ。
「それ、いいかも。じゃ、あたしはピンク色の生地で包んだ生クリームの上に苺とクランベリーとラズベリーをトッピングしてラズベリーとクランベリーのソースをかけた苺のクレープを売ろうかな。見た目も可愛いし」
マーガレットも新たな商品を閃く。味や形だけでなく生地の色も変えたら可愛くて見た目も楽しいはずだと。
「では赤川に作らせよう。しかし、甘い物ばかりでは飽きる上に苦手な者も居よう」
隆元はそう言うなり野良英霊:赤川元保にマーガレットが思いついたクレープ生地を作らせ、自分もまたクレープを考える。
「……ふむ」
何かを思いついたと思われる隆元はいそいそと作業を始めた。『調理』を持つ隆元は、蕎麦粉と水と塩等を使って作った生地にベーコンと卵を乗せて焼いた地球で作られているガレットを作り上げた。
「え、えと最後にこれはどうですか。カップルでクレープを買いに来て下さった方にこれを一人一個プレゼントをしてはどうでしょうか」
リースはベルの左右に翼が生えてる『天使の羽』オリジナルのベルを二人に見せながら聞いた。
「リース、名案よ!」
「良い案だ」
マーガレットと隆元は即賛成。
ようやく、クレープ屋『天使の羽』開店。
『にゃあカフェ』、開店したばかりで客が少ない店内。
「まだ静かだな」
匿名 某(とくな・なにがし)はココアを飲み、マドレーヌを頬張りながら店内を見渡す。
「開店したばかりだからな。というか、誘う相手俺以外にいなかったのか?」
匿名の向かいに座る高円寺 海(こうえんじ・かい)はちらほらと行き交うカップルに視線を向けながら少々不機嫌そうに聞いた。
「……いや、用事があると言われてな」
本当ならば恋人と参加する予定が用事があると断られ、友人の海を誘って来たのだ。しかしこれには重要な思惑があったり。
「……そうか」
海は適当に流した。
「俺の事はどうでもいいんだよ。問題はお前の事だ」
匿名は話題を海に戻した。
「俺の事?」
海は紅茶を飲んでから首を傾げた。
「そうだ。基本無愛想だがルックス的にもモテるだろう。こう、好きな女の子とかいないのか? こういう可愛い店でその子と過ごしたいと思わないか」
匿名は近くにいた「かぼ」ちゃんを抱き上げながら“可愛い店”を強調して海から意中の相手を聞き出そうとする。
「素敵な思い出になると思うよ。カップルにおすすめの可愛いケーキもあるし」
エースが何気に匿名の加勢。
「……と言われてもなぁ。まぁ、柚に告白はされた事はあるかな」
海は杜守 柚(ともり・ゆず)に告白された事を思い出した。
「で?」
匿名は、「かぼ」ちゃんを地面に降ろしてから話を促す。
「でって。まだはっきりとは答えてない。今は次の試合の事で頭がいっぱいなんだ。それが終わったらちゃんと考えて答えを出したいと思ってる」
海はあっさり答える。
「真面目に考えてるならいいけど。たまには息抜きでバスケ以外の事にも目を向けてもいいんじゃないか。何でも息抜きは大事だろ? 例えば、その子をこの祭りに誘ってみるとか。せっかくの人生で数少ない学生生活だ。恋人として誘うのが難しいなら友人とかマネージャー的な感じで誘ってみたらいい。冒険とか普段の生活じゃ見えない部分が見えてくるかもしれないぞ」
匿名は語調を強め呆れたように言う。
「……というか。何でそんなにお前が熱くなるんだ」
熱い説教をする匿名に呆れる海。
「それはお前にも充実した毎日を送って欲しいからだ。バスケとか色々やれる事はあるけどその中でも一番体感して欲しいのは恋愛だ。本当、人生変わるぞ?」
恋人のいる匿名の言葉には現実味が溢れていた。
「……そう言ってもな」
言葉を濁す海。自分の気持ちを言葉にしたり女性の扱いが苦手なのでなかなか無理難題。
「まぁ、女性の扱いが苦手なのは知ってるが本当にもったいないぞ」
そう言うなり匿名はすっと立ち上がった。
「おい、どこに行くんだ」
海は慌てて匿名に突っ込んだ。
「用事を思い出した。悪いが、俺はこれで」
匿名は一言、そう言ってさわやかに店を出て行った。
「用事って暇じゃ無かったのか」
取り残されたのは熱い言葉を散々かけられた海だけ。
「……あとは」
匿名は海が視認出来る所に潜み、密かに柚に連絡し、来るのを待った。
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