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年忘れ恋活祭2022 ~絆~

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年忘れ恋活祭2022 ~絆~
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リアクション



■深夜 〜大人たちの逢瀬〜
 中央広場の奥の二つの分かれ道の一つの先にある赤提灯や妖しいネオンが輝く大人の街、歓楽街。未成年立ち入り禁止で厳重な見回りが行われている場所で祭りの最後を過ごすお客達もいた。

 ルカルカは蓮華と祭りを楽しみ終わった鋭鋒と待ち合わせをして夜景が美しい建物の最上階にある高級なバーに来ていた。
「どうです、団長? 素敵な夜景だと思いませんか?」
 ルカルカは窓から見える色鮮やかな光溢れる夜景に目を向ける。今日のルカルカは鋭鋒に合わせてパンツスーツだ。
「……」
 鋭鋒は夜景に目を向けるもいつもの無表情で感動しているのか興味がないのか判別出来ない。
「ここなら静かに休む事が出来ますよ。そうです、何か飲みませんか?」
「……あぁ」
 鋭鋒はルカルカの誘いにも無機質にうなずき、二人は窓際の席に着いた。酒とおつまみは鋭峰が好きだろうと思われる物をルカルカが適当に注文した。
「どうですか?」
 ルカルカは、表情では美味い不味いが分からない鋭鋒に聞いた。
「悪くない」
 適度に飲んで適度に食べる鋭鋒はこれまた無機質な一言。
「そうですか。団長に渡したい物があるんですが、いいですか?」
 鋭鋒なりに楽しんでいると確認したところでルカルカはがさごそし始めた。
「何だ?」
 鋭鋒は感情の読めぬ冷たい目でルカルカの様子を窺っている。
「これです。団長、プレゼントは実用的な物がいいって言ってましたよね。だから」
 透明の包装紙で包んだクリスマスプレゼントを取り出した。以前、ヒラニプラの商店街に鋭峰の護衛としてお供した時に得た情報を元にルカルカが一生懸命用意した物だ。
「さっと触れて記録も出来る。執務のお供にいいかなって」
 中身は、『松香黄大理石製のピラミッド型ペーパーウェイトクロック』だ。表面のナノスクリーンで触ると現在時刻等をデジタル表示し、アラームや録音録画機能有りという優れ物。
「……無駄な装飾品も無い。実用性はあるな」
 ルカルカの説明と透明な包装紙ごしに贈り物を確認した後、鋭鋒が発したのは無駄のない言葉。
「受け取って頂けますか?」
 ルカルカは気に入ってくれた事に嬉しくなった。それもそのはず贈り物は世界にただ一つのオーダーメイドなのだから。
「……そうだな」
 受け取り、改めて開けて中身を確認するなり鋭鋒はじっとプレゼントを見つめている。ルカルカのこだわりに気付いたかのように。つまり、“黄色”は“金”、“ピラミッドの形”は“鋭鋒”を表していると。
「気に入って頂けて嬉しいです」
 気付いてくれた事にルカルカはますます上機嫌になった。
 二人はしばらく飲んでいたが、翌日の事を考え、夜が明ける前に店を出た。

 落ち着いた雰囲気の本格的なバー。

 遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)は夫婦でお酒を楽しむためにやって来た。
「へぇ、これがカクテル。綺麗な色だね、ジュースみたい」
 歌菜は楽しそうに色鮮やかなカクテルを見つめている。メニューに迷っていた歌菜のために羽純が注文したのだ。
「いいか、歌菜。強いから一気に飲むなよ」
 20歳になってそんなに日が経っていない妻に厳しく注意する羽純。二人でこういう店で飲むのは初めてなので余計に心配が入る。
「分かってるって」
 軽くそう言うなり歌菜は言いつけを守りながらカクテルを飲んだ。
「ん〜、ビールと違って苦くなくて美味しい♪」
 家で飲んだ事があるビールと違って飲みやすいカクテルを気に入った歌菜。
「そうか。歌菜が喜んでくれて良かった」
 嬉しそうな歌菜に思わず顔が綻ぶ羽純も頼んだブランデーを飲む。こちらは自分の酒量を心得ているので問題は無い。妻の介抱必要時のためにも酔って眠るわけにはいかない。
「私も。羽純くんと一緒にお酒を飲めるようになって嬉しいよ」
 歌菜はあまりにも美味しいカクテルにあっという間に飲み干してしまい、すっかり酔いが回ってしまう。実は歌菜は割とすぐに酔ってしまうのだ。
「羽純くん、次も何かおすすめ教えてよ〜」
 酔った歌菜は明るく上機嫌そうににこにこしながらメニューをひらひらさせる。
「歌菜、もう全部飲んだのか。もう少しゆっくり飲んだ方が」
 羽純は歌菜からメニューを取り上げながら空になったグラスを確認した。
「だって、美味しかったから。羽純くん、心配しないで。羽純くんが酔って眠ったらきちんと私が連れて帰るから。ん〜」
 歌菜はそう言いながら羽純に寄りかかったと思ったら羽純の服の釦に手を掛け始めた。
 歌菜は酔うと気分も明るくなってお喋りになるだけでなく行動も大胆になるのだ。
「ちょ、歌菜、何してる? こら」
 羽純は慌てて歌菜の手を握って止める。公衆の面前でこれはまずい。
「ん〜、何か熱くない? 服脱ごうよぉ」
「……こんな所でか? 冗談じゃない。ほら、歌菜」
 にこにこと可愛い笑顔を向けながら話す歌菜に羽純はため息をつきながら立ち上がり移動のため歌菜も立たせる。
「羽純くん、大好き、愛してる」
 甘えっ子状態の歌菜はべったりと羽純にもたれかかり、キスの雨を浴びせる。羽純はされるがまま。
「羽純くんは〜?」
 歌菜は羽純を見上げて甘え声で訊ねる。
「あぁ、俺も愛してる。ほら、歌菜、行くぞ」
 羽純は歌菜に答えながらしっかり抱き寄せてゆっくりと歩いて店を出て歌菜を休ませるために近くのホテルに向かった。

 大人の雰囲気溢れる小さなバー。

「……これがお酒ね」
 クリスマスに20歳になったさゆみはごくりと緊張しながらカクテルを見つめている。寒さから避難するために入ったのがこのお店。初めてのお酒を飲むにはなかなか良い雰囲気。
「大丈夫?」
「大丈夫よ。アルコール度数も低いから。それに介抱してくれる人もいるし」
 心配する恋人に軽く答えてからさゆみは楽しみにしていた初めてのお酒を一口ゴクリ。
「どう? 初めてのお酒の味は?」
「最高!! これが大人になるって事なのね」
 さゆみはまだ心配そうにしているアデリーヌに元気に答えた。
「そうね。でも少しずつ……」
 吸血鬼のアデリーヌは店の雰囲気も手伝ってか少しずつさゆみと一緒にいられる時間が少なくなっている事に切なくなっていた。また最愛の人を失い果てしない喪失感に苛まれるのかと。自分とさゆみでは寿命自体違うから。
「……こっちを見て、私はいるよ。今ここに」
 アデリーヌの心を知ったさゆみはそう言ってから軽く口づけをした。少しでも寂しさが癒す事が出来たらと。
「……さゆみ……私、幸せ者ね。最愛の人とこうして一緒にいられて……」
 アデリーヌは先の不安さえ消してしまう優しい茶色の瞳に笑んだ。
 二人はこのまま静かに店を出てホテルに向かい。そこで大人の夜を過ごし、朝を迎えた。

 静かなバー。

 しっとりとした音楽、落ち着いた雰囲気、ゆっくり話すには丁度良い場所だ。
「静かで落ち着く店ね」
「だろう」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)はフリューネのために予め調べておいた店に案内していた。リネンがフリューネと過ごす事は知っていたので自分は大人の時間に約束をしたのだ。祭りは翌日の朝まで続くのだからわざわざ時間をかぶせる必要は無い。

 早速、レンとフリューネはお酒と料理を楽しみながら語らう。
「去年のクリスマスはお互い、時間を作る事が出来なかったが、今年は何とか出来たな。クリスマス当日とはいかなかったが」
 レンは忙しかった去年の事を思い出していた。
「そうね。まぁ、会えるのならいつでもいいんじゃない?」
 フリューネも同じようにうなずくもすぐに笑顔でレンに言った。
「そうだな。重要なのは何の日かではないからな」
 レンも同意した。大事なのはイベントではなくこうしてフリューネと過ごす時間。今夜はレンにとって最高の思い出となった。
「……今日は本当に素敵な一日になったわ」
 フリューネはリネンと過ごした事、レンと今こうしている事を考えながらぽつりと言葉を洩らした。
「そうか。実はクリスマスプレゼントを用意しているんだ」
 頃合いだと思ったレンは用意しておいたクリスマスプレゼントをフリューネに差し出した。
「クリスマスプレゼント? 私に?」
 フリューネはサプライズに驚き、少々素っ頓狂な声を上げてしまった。
「あぁ。受け取ってくれ」
「えぇ」
 フリューネはレンの言葉を後押しに恐る恐る受け取り、包みを開け始める。
「……人に相談して身に付けて邪魔にならない程度の物の方が望ましいらしいからそれを選んだのだが」
 レンは去年のクリスマスに人に相談して得たアドバイスを話した。
 中に入っていたのは『流星のアンクレット』だった。
「……ありがとう。気に入ったわ、レン」
「そうか」
 笑顔で礼を言うなりフリューネは早速身に付けた。
「だけど、申し訳ないわ。私は何も用意していないもの」
 フリューネはふとレンのために何も用意していない事を思い出した。
「すでに用意してくれた。こうして俺と過ごしてくれる時間だ。これこそ俺にとって何よりのプレゼントだ」
 レンはほのかな笑みを口元に浮かべながら抱く気持ちを言葉にした。
「そう。だったら、存分に飲んで食べて話しましょうか」
 レンの言葉にフリューネはウィンクをし、新しい酒を注文した。
「あぁ」
 レンも続いて酒を頼んだ。
 たっぷりと楽しんだ二人は夜が明ける少し前に店を出た。

「うっ、寒いわね。店の中が暖かかったせいね」
 フリューネは肩を振るわせ、白い息を吐き出した。
「……大丈夫か」
 レンは巻いていたマフラーをフリューネの首にそっとさり気なく巻いた。
「あ、ありがとう。レンは大丈夫?」
 フリューネはレンのさり気ない気遣いに喜ぶも他人を気遣う事は忘れない。
「これぐらい、何ともない」
 レンはフリューネの言葉をありがたく貰うも軽く答えた。
 レンとフリューネは揃って深夜の街を歩いた。