First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
第二幕
「え、えっと、私はご老公様に仕えるくノ一の、シノビ・シルバー! あ、悪代官と越後屋の結託の証拠は、この私が掴んでみせますっ!」
舞台の中央で、つっかえつっかえ、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が叫んだ。はっきり言って棒読みだが、可愛いのでこの際観客は目を瞑ることにした。
芸者に化けたシノビ・シルバーは「悪の廻船問屋・越後屋」に誘われ彼の屋敷を訪れ、風呂に入った。なぜ、どうしてなどと尋ねてはいけない。そういうものだからだ。
「うう……こんな舞台上でお風呂に入るなんて、恥ずかしいです……」
客には聞こえぬよう呟き、アルテミスは風呂桶の中に顔ごと沈んでいった。
舞台がくるりと回転し、越後屋ことミネルヴァと、代官を演じるドクター・ハデス(どくたー・はです)が現れた。そこでまた、どっと笑いが起こる。
ミネルヴァは、どう見てもか弱き女性で、それが男物の着物を着て「さあ、お代官様。こちらの『闇のスーツケース』をお納めくださいませ」とやっているのだから、おかしくてならないのだ。
「ククク、越後屋、そちも悪じゃのう」
ハデスもかなりノリノリである。そこへ、縛られたスケサン・レッドとカクサン・ブルーがが連れてこられた。シノビ・シルバーの仲間である二人は、「悪代官」の罠にかかったのだ。ちなみに演じているのは、オリュンポス特戦隊のメンバーである。
「レ、レッド! ブルー!」
アルテミスが愕然と――棒読みだが――叫んだ。忍び装束を着た姿に、客席からは舌打ちが聞こえてきた。
「おのれ、悪代官!」
シノビ・シルバーの正義の剣が、悪代官へと襲い掛かる。
「先生方!!」
越後屋のかけ声で、侍たち――これも戦闘員だ――がわらわら現れる。しかし、怒りに燃えたシノビ・シルバーの敵ではない。
「うおおおお!」
追い詰められた悪代官だったが、不敵な笑みを崩そうとはしなかった。
「フハハハ! そのような印籠ビームや桜ブリザード攻撃など効かぬわ!」
ハデスの親切な説明のおかげで、シノビ・シルバーの攻撃方法が観客にも分かった。
「食らえ!!」
ハデスの合図で、アルテミスがほんの少し横へ移動すると、ミネルヴァの仕掛けた【インビジブルトラップ】が爆発した。
爆発自体はごく小さなものだったが、音だけは派手で紙ふぶきも散った。更にアルテミスが思い切り飛んだものだから、観客たちは目を丸くした。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密芝居一座オリュンポスの座長、ドクター・ハデス! いかがかな、葦原の庶民どもよ! 我らオリュンポス一座が得意とするヒーローショーは!」
一瞬、場内を静けさが包んだ。次いで割れんばかりの拍手と笑い声が鳴り響いた。文字通り、小屋が揺れるほどの歓声だった。
「あー……これはあれね」
大音量の拍手と笑い声の中、たまたま近くになったリカインとセレスティア、ヨンの三人は、オリュンポス劇団の分析を行っていた。
「パロディかなんかだと思われているわね」
「どういう意味ですか?」
耳を塞ぎながら、声を張り上げてセレスティアは尋ねた。
「このわけ分からなさ、不条理さ。……悪が勝つ話なんて、ちっともスカッとしないじゃない?」
「普通は」
弱い者――つまり自分たち庶民を苛める権力者が勝つ話など、面白いはずがない。だが、受けている。
「この芝居そのものが、その権力者たちを揶揄しているっていうかね……だって、なんかこう、駄目な悪役って感じじゃない?」
ハデスは大真面目に語っているのだが、観る側である町民たちは、その姿を見て笑っているのである。
「だから、パロディ」
「それは確かに目新しいですね」
少なくともヨンの調べた限り、そういった類の芝居はどこにもかかっていない。いや、そもそも契約者が学校外で芝居を演じることなど、まずない。その物珍しさも手伝っているかもしれないと、セレスティアは思った。
小屋自体は、染之助一座が借りているそれと、然程変わりない。こちらの方が、舞台も客席もやや大きいかもしれないが、それだけだ。
「これは困りましたね……」
セレスティアはこめかみを軽く揉んだ。小屋の設備も同じで、むしろ役者のレベルは染之助の方が上に見える。参考に出来る点が、ほとんどないのだ。
「男の人が、多いですね」
周囲を見回して、ヨンが言った。「後、子供」
言われてみれば、男性や子供連れ――それも母親より父親と一緒だ――が多いようだ。年頃の娘は見当たらない。アルテミスの入浴シーンが売りの一つだからかもしれなかった。
「そう言えば、ご近所の人が言ってました。『カカァは青瓢箪みてえなのが最後におっ死ぬのがいいんだろうけどよ、俺らは違えよ』って」
そう言った植木屋は、ヨンがオリュンポス一座を見に行くと教えたら、悔しがっていた。『きれーなねーちゃんが脱ぐんだろ!?』と。
「……狙うとすれば、そこかもしれませんね」
セレスティアはアキラへ、そう報告した。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last