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仇討ちの仕方、教えます。(前編)

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仇討ちの仕方、教えます。(前編)

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   第九幕

「義姉上!!」
 健吾と卓兵衛はもがいた。鎖を千切ることは出来ずとも、外すことは可能なはずだ。
 鎖は健吾の四肢に絡みついて離れようとはしなかったが、卓兵衛を縛るその一本は、ほんの一瞬、力を緩めた。
「千夏様!!」
 卓兵衛は槍を突き出した。切先が鋭く、葛葉の頭部を狙う。
「甘いな……」
 卓兵衛の耳元で、誰かが囁いた。
「な、何奴!?」
「……お前等には同情しよう……俺も仇討ちで身を堕としたが故に。……だが、悪いがお前らはここで死んでもらう……俺の恩返しの為に」
 河上 利秋(かわかみ・としあき)の【疾風突き】が卓兵衛の喉を捉え、その矮躯は遥か後方へと吹き飛んだ。
「卓兵衛ぇ!!」
 健吾の絶叫が響く。
「おのれぇ! 離せ! 離さぬか! 正々堂々と勝負しろ!!」
「だーめ。お兄さんはこのまま潰れちゃえーっ」
 クスクス笑いながら、ハツネは鎖の力を強めた。――と、その顔が強張り、咄嗟に腕を振り上げる。瞬時にして、氷の壁が出来上がった。【アブソリュート・ゼロ】だ。刀が、氷の壁を滑っていく。
 ちっ、と仁科 耀助は舌打ちし、そのまま「蛇骨」に向けて刀を振り下ろした。【アルティマ・トゥーレ】の冷気が鎖を覆う。
「そんなことぐらいで、びくともしないもん!」
「そうかい、ならこいつはどうだ!」
 続けて、【火遁の術】の炎が同じ部分を襲う。
「あっ!!」
 鎖が見る見る真っ赤になっていく。「壊れちゃう!!」
 ハツネは慌てて「蛇骨」を解き、手元に戻した。
「もうっ、怒ったの! みんな、みんな壊れちゃえ!!」
 ハツネの周囲にエネルギーが集まる。だが、
「そうはさせるか」
 暗黒が、ハツネを包む。【エンドレス・ナイトメア】の影響で、ハツネの集中力は完全に切れた。それどころか、吐き気と頭痛で混乱してくる。
「キライ! みんな大っキライ!」
 やべえ、と鍬次郎は舌打ちした。
「いいところだが、勝負はお預けだ」
「逃がすか!」
「まあ、そう言うなよ。お楽しみはまた後で、ってな」
 鍬次郎の合図で、利秋の【剣の舞】が匡壱を襲った。匡壱がそれを弾き返す間に鍬次郎はハツネの体を抱え、利秋共々あっという間に姿を消した。
 無論、葛葉と千夏の姿は既にない。
「後を頼む!!」
 匡壱が後を追う。
「卓兵衛! 卓兵衛!!」
「落ち着け、気を失っているだけだ」
 ――重傷だけどな、とベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は内心付け加える。
 応急手当てを済ませた頃に、匡壱が戻ってきた。
「駄目だ。見失った。連絡はしたから、すぐに迎えが来る。――それにしても、何で三人だけで出かけたんだ?」
「卓兵衛が、――あなた方は仇討ちに反対のようだと。十内を見つけても邪魔されるやもしれぬと言うので――間違っておりました。あの男が、こんな卑怯な真似をするとは!」
「まだ立花十内の仕業と決まったわけじゃないだろう?」
「他におりますか? 我らはこの島に知り合いもいないのです!」
 匡壱は反論できなかった。確かにこの島で健吾たちを狙うとすれば、当の敵である十内を措いて他にあるまい。
「――あ、これが例の仇討ちか」
 ぽん、と耀助が手を叩いた。
「おまえのせいで、人手が全然足りなくなってるよ。ありがとうよ」
「いやあ……こっちも人助けだし?」
「おまえらは、何をしてたんだ?」
「買い出し」
 ベルクはくい、と顎をしゃくった。道の遥か向こうに、無造作に置かれた弁当がある。
「太夫が飯を作る暇も惜しいって、稽古してるんだ。で、比較的暇なオレたちが出かけてきた」
「耀助は稽古から逃げ出してきたんだろ」
「あんまりいい役じゃないし。ま、何とかなるでしょ」
 耀助はにやりと白い歯を見せる。
「稽古――芝居のですか?」
 卓兵衛の手を握っていた健吾が顔を上げた。「お尋ねしたい。この男に見覚えはござらぬか?」
 健吾が取り出した立花 十内の似顔絵を見て、耀助とベルクは息を飲んだ。咄嗟に平静を装ったが、バレなかっただろうか?
 ――その顔は紛れもなく、染之助一座の下足番、左源太だった。