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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 10

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 10

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第5章 大きな侵略者・みーんなワレらのモノッ story4

グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)が依頼に対しての対処法を口にする前に、シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)が口を開いた。
「住民の避難を最優先に。分体は発見次第、可能な限り祓って行きましょう」
「アンタ…ついに脳が…」
 無気力で無関心なシィシャに提案をされたグラルダは、彼女の思考回路が壊れてしまったのかと思い唖然とする。
「私の脳は極めて正常です」
 その言葉に対して意外だという目で見られ、さらに不満げな顔になった。
「不可視では手が出せ無い、呪歌に抵抗する策が無い、そもそも中級を祓える力が無い」
「分かっちゃいるけど、改めて言葉にされると腹が立つわね」
 今のグラルダではカエルにされるのがオチだと言われている気がした。
 容赦ない現状を言葉にするシィシャに、グラルダは腕を組んで頬を膨らませた。
 それを見た彼女に“まるで子供ですね”と言われる。
「己の力量を悟るのは大切ですが、少々甘んじていませんか。最近、身を危険に晒したのは何時です?貴女が安策を講じた裏で、危機に立ち向かっているのは誰?」
 仲間まで危険な目に遭わせているのでは?と指摘する。
 グラルダはシィシャの指摘に返す言葉もなかった。
「口先だけでは幾らでも尊大になれるでしょう。かつては、それを認めさせるだけの気概が確かにあった。今や、ただの高慢な小娘に成り下がろうとしているのですよ、貴女は」
 今まで言わずに溜め込んでいたことを全て吐き出し、彼女がどんな反応をするか待つ。
「住民の安全確保は最優先よ、これに変更の余地は無いわ。魔性の処置に関しても、これまで積み上げてきたものを否定するつもりは無い」
 説教されて打ちのめされた様子を見せず、グラルダはすぐに言葉を返した。
「本体と突入組が本格的な戦闘に入るまでに、全ての住民の避難誘導を完了させる。それで見極めなさい」
 人の発見と避難を優先させるべきだと述べる彼女に、シィシャは黙って頷いた。
「カエルされては口だけになるわ。…終夏、町の人の避難を手伝ってもらえる?」
「呪いの解除をている人はもういるけど。避難させている人はいないかもね。…あ、和輝さんからテレパシーが」
「なんて言っていたの?」
「町の人がまたカエルにされてしまったら、町の出入り口に集まるように伝えてくれってことだね」
「―…なるほど、その場所なら脱出もさせやすいわ」
 物理的感覚のない相手ということで、どこも安全な場所など存在しない。
 硬い建物だろうと容易く通り抜けてくるはずだ。
 ならば、万が一のことを考え、脱出口に近い場所に誘導しようかと考えた。
「他は手が足りていそうだから、和輝さんがフレンディスさんたちを連れてく来てくれるって」
 本体を祓える者を呼んでくれるらしいと五月葉 終夏(さつきば・おりが)が伝える。
「ありがたいわね」
「分体のほうは倒せても、そちらは私たちにはまだ無理ですから」
「こっちに向かってくれているみたい。待っていよう」
 動かれると合流が難しくなるため、動かないように…とも伝えられている。
「スーちゃん、その間に解毒ドリンクを用意してくれる?」
「いいよー。いっぱいいるっぽいねー、おりりんどうやってはこぶのー?」
「新しい魔道具もあるし、ちょっと厳しいかな」
「えっと、んーじゃあねー、はこぶのつくってあげるー」
 スーは緑色の茎や葉、白い花でカートを作りドリンクポットを置いた。
「かわいいーカート!」
 可愛らしい白い花のカートを発見したルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)が駆け寄ってきた。
「町の人を避難させる時にいるかもと思ってね。スーちゃんに作ってもらったんだよ」
「ルルゥが押して手伝うんだよー」
「それでは両手が塞がってしまうぞ。儂が運んでやろう」
「むぅー…」
「触りたいのは分かるがのぅ。我慢するのじゃ、ルルゥ」
 残念そうに膨れるルルゥ・メルクリウス(るるぅ・めるくりうす)の頭を、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が撫でて宥める。
「目に見えるのが偽者?」
 ルルゥはフレアソウルの翼で飛んで町の様子を見る。
「本体は不可視にも可視にもなれるのじゃ」
「ん、混ざってるってことなんだねー。箒に乗っている人がこっちにくるんだよー?」
「ほう。到着が早いのぅ」
 目撃した相手はアニス・パラス(あにす・ぱらす)たちだろう。
 アニスは草薙羽純たちの姿を見つけて空で待機する。
「ほとんど女の子しかいないね?」
「(もっと近づいてみたらどうだ、アニス)」
「(むー。男の子もいるから無理ー)」
 人に慣れさせようと精神感応で言う和輝に、イヤイヤするようにかぶりを振った。
 “まだ2人だけだろ…”と言いたくなったが、無理させると宝石の能力にも影響でてしまいそうだ。
「テレパシーで呼ばれてきたのだが、待ち合わせはここでよかったのかな?」
「すでにクリスタロス内は、魔性が活発にうろついているからな、涼介。町の出入り口辺りにしたんだ。彼らも無事、到着したようだな。はぐれないように誘導しよう」
 避難誘導のために呼んだフレンディスとベルクに目を向け、メンバーの集合を確認した。



 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は声を張り上げ、町の者たちを避難させようと呼びかける。
「この町は今、危険な状態だ。急いで町の出入り口のほうへ集まってくれ!」
「お友達が…、いきなりカエルになっちゃったの。うぅぇえん、皆カエルになっちゃう?」
「心配ない、すぐ元の姿に戻れる」
 カエルにされた友達を抱え、泣きじゃくる子供に優しく言う。
「羽純おねーちゃんがね、元の姿に戻してくれるんだよ。ルルゥと一緒においで」
 ルルゥは小さな手を握って案内する。
「子供の誘導はルルゥに任せるかのぅ」
「女のほうは、私とアニスが連れて行く」
「なぜ女限定なのじゃ?」
「いや、深い意味はない。アニスが怖がってしまうんでな」
 なにやら誤解されそうだと感じた禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)は理由を話した。
「ふむ…。それならいたしかたないのぅ」
「アークソウルの探知などは行ってもらってはいるが。私が代わりに伝える…すまないな」
「他の者との会話に慣れていないと?」
「女相手なら少しは話せるが…。聞こえるか分からんからな」
「なるほど、了解した。手分けして誘導することになりそうじゃが、離れすぎないようにしたほうがよいか?」
 草薙羽純の質問にリオンは“そうしてくれ”と告げ、彼女はアニスと共に誘導を始めた。
 人やカエルにされた者を発見し、集め終わった頃…。
 町の路上は侵略者の分身が詰めつくそうとしていた。
「一輝から送られた撮影風景か…。さて、退路がないわけだが」
 送信された画像を目にした和輝は嘆息した。
「うわー、たくさんいるよ、リオン」
「町というからには、規模的に予想はしていたが。これほどまでに増えてしまうとはな」
「やばやばーっ。ねぇ、誘導は他の人にやってもらおうよ。こんなにたくさん、守りきれないし」
「仕方あるまい。だが、分断さてはやつらの思う壺…。私たちは後方の守りを行おう、アニス」
 ぶくぶくブレスが吐き出す魔性の分身に、酸の雨を降らせながら目的地へ向かう。
「シィシャ、アタシたちもこいつらを片付けるわよ」
「はい。住民を誘導している彼らを、狙わせるわけにはいきませんからね」
 グラルダの命令を聞き入れたシィシャは無表情に頷いた。
「遠慮はいらない、やりなさい」
 感情のないものたちを睨み、裁きの章で魔法ガード力を削ぎパートナーに倒させる。
「数が減っているように思えませんね」
「これだけいれば当然だわ。片付けるといっても、全部やる必要はない。逃走路だけ確保出来ればいいわ」
「なるほど、了解です」
 静かに頷いたシィシャはグラルダが酸の雨を被らせた標的を狙う。
「強化により、増えた効果が発動することなく、消滅していますね」
「それは祓えなかった時のものでしょう?」
「確かに…」
 誘導班と接近しすぎず、離れ過ぎず距離をとりながら片付ける。
「来い、カエル」
 注意を自分に向けさせようと、和輝は祓魔銃で光のミストを放つ。
 無感情な表情の彼らは、本体が命令した基準で和輝も邪魔者と判断した。
 青や緑の泡を吐き出し、排除しようとする。
「(なるほど。意思がないゆえに、機械的に動いているな。撹乱は無理か…)」
 ポイントシフトの高速移動でかわし、リオンの詠唱稼ぎをする。
「(アニス、目に見えるものは全て気配があるか?)」
「(ううん…ない、と思う。これだけたくさんいると調べるが大変だよ)」
「和輝と話しているのだな?」
「えっと、ごめんリオン。話しかけてた?」
「いや…。本体はベルクに頼もうと思ってな。その分、アニスの手間も省けるはずだ」
「あうあう、ちょーっと今回はそうするしかないかも」
 “もっと和輝の役に立ちたいのにぃ〜…。”
 心の中ではそう思いながらも、そうもいっていられない。
「分身くんが減ってきたね、リオン」
「さすがに逃走通路のみだかな」
 弱らせた相手を哀切の章で消滅させながら言う。
「わわっ、誰か歌っている。これってカエルソング!?」
「焦るな、アニス。終夏の使い魔…スーといったか?あれの香りで、かかりにくくなっているはずだ」
「花の魔性の香りって、いいー匂いだよね♪」
「香りを楽しむはよいが、分身の判断も頼むぞ」
「はぁ〜い♪リオン、和輝の周りにいるのもそうだよっ」
 気分がよくなったのかニコニコと微笑み、気配のないものをリオンに教える。
「あれれ、あの中に気配があるのがいる…」
「やつらの本体のほうだろう。…フレンディス、頼んだぞ」
 リオンはベルクに抱えられているフレンディスに視線を向け、本体を祓ってくれと言う。
「まだ抵抗する力があるようですね」
 灰色の球体に包み込んで体力を減退させるが、魔性は諦めず歌い続けている。
 歌が効かないと分かると、今度は緑の泡をぶくぶく吐き出した。
「嫁ー、ワレの嫁ーッ」
「フレイはやらねぇって言ってんだろ。フレイは俺のもんだ!」
 ベルクはフレンディスを庇い、ラバーソウルでポイズンブレスを防ぐ。
「マ、マスター。…そのようなことを言われては、集中できませぬ」
 彼の言葉に彼女は顔から炎が出そうなほど真っ赤になり、詠唱を止めてしまった。
「今更、恥ずかしがるなって。これも慣れる訓練と思っておけ。それよりも、今はしつこいあのやろうを祓わねぇとな。しつこいやつはビンタをくらわせてやれ」
「そ…そうですね。町の人がこんなにも困っているのですし…」
 冷静さを取り戻したフレンディスは、光の波で退かせようとするが…。
「あ、ああっ。術の形が!?」
 さきほど彼に言われた言葉を思い浮かべてしまい、平手打ちの形に変えてベールゼブフォを叩いた。
「いいんじゃね?聖書による罰ってことでな」
 慌てる彼女の姿が可愛く、にやりと笑った。
「羽純おねーちゃん、ぶたれちゃってるみたいだよ」
「ん…?女にしつこくすると、ああいうことになるということなのじゃ。―…そんなことよりも、探知に集中せねばな。ルルゥ、そこの水路に何やら気配がある」
「危ないってこと?」
「本体のほうが分からぬが、魂のある者がそこに隠れている」
「あの植物があるところが通れそうなんだよ」
 民家の庭に並んでいる植木鉢を指差し、この道はどうかと聞く。
「ふむ、問題なさそうじゃ」
「―…ルルゥはフレアソウルがあるからあまり疲れないけど。皆は疲れていそうだね」
 ずっと走りっぱなしの住人たちをちらりと見る。
「止まって休むわけにはいかぬからのぅ…」
「皆ー、もうちょっとだから頑張ろう!」
「えーん、疲れたよぅ。やだやだぁ〜」
「あわわ…、止まったらカエルになっちゃうから、…走ろう?強い子はね、たくさん頑張っている子なんだよ!」
 ルルゥは走れない〜とごねる子供の面倒をみたり、勇気づけたりしている。



 クリスタロスの出入り口までたどり着くと、ルルゥはフレアソウルの翼を解除した。
「カエルにされちゃった人は、ルルゥたちが治してあげるんだよ」
「押し合うでない、順番を守るのじゃ」
「4人いれば早く戻せるかな。ミリィはルルゥさんのほうを手伝ってあげて」
「はい、お父様。…一緒に治してあげましょう、ルルゥさん」
 ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)は誰から治せばよいか迷っているルルゥに寄る。
「初めてだから、どきどきなんだよ」
「一番大切なのは、治してあげたいという気持ちですわ」
 献身的な心があれば扱いやすいと教える。
「つまり、一生懸命にってこと?」
「ふふっ、そのような感じかもしれませんね」
「やってみるんだよ」
「慣れないと大変ですから手伝いますわ。…癒しの光よ、傷付きしものに活力を与えよ」
 ミリィは深呼吸をして精神を落ちかせ、暖かく柔らかな光をイメージする。
 白い宝石が彼女の祈りに反応し、淡い光でカエルの身体へ浸透していく。
 暖かく柔らかな聖なる気が、黒い影を捕らえる。
 グゲェーゲェコ〜ッと悲鳴に似た鳴き声を漏らした影は、2人の浄化の光に消滅した。
「ひ、人に戻ったんだよ!?」
 影が消えた瞬間、カエルにされた者は人の姿に戻った。
「徐々にってことじゃなくって、いきなりだったよ」
「わたくしも少し驚きましたわ…」
「2人共、上手くいったようだね」
「治せて嬉しいんだよ!」
「まだまだ治さなくてはいけない人がいますよ、ルルゥさん」
「あ、うん。もっと頑張るんだよ。一緒に治療すると早いってこと?」
「慣れない頃は、お父様と治していたんです。努力することで、1人でも早く治せるようになりますわ」
「1人で治療だなんて、皆…すごい!」
 ルルゥは銀色の瞳を輝かせ、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)たちを見上げる。
「お父様。グラルダさんたち…大丈夫でしょうか」
「町の人たちがいるのに、魔性を引き連れてくるわけにもね。私たちは仲間を信じて、治療に集中しようミリィ」
「まだ、カエルにされている人たちがいますからね。ルルゥさんのところへ戻りますわ」
「ああ、頑張っておいで。さて、私のほうも始めるかな」
 涼介はカエルの鳴き声しか発せず、泣き喚いている者の傍へ屈んだ。
「全てを癒す光よ、傷付き苦しむものに再び立つ活力を」
 温かく優しい光を嫌う呪いの元が、目の前の小さな体の中を暴れまわる。
「(ふむ、呪いはプラスの気は好まないようだね)」
 柔らかい綿で包むように元である影をくるむ。
 影はたまらずカエルにされた者の口から飛び出て消滅した。
「以前よりも解除が早くなった気がするな…」
「お疲れ様。どうぞ、スーちゃんが作ったドリンクだよ。あれだけいたら、ブレスの回避は出来なかったと思うんだ」
「ありがとう…。他の人ももらっているのかな?」
「うん、甚五郎さんに配るの手伝ってもらっているんだよ」
「―…甘すぎず、ほっとする味だ。こういう機会でもないと、花の魔性が作った飲み物を口に出来ないからね」
 涼介の言葉に終夏は“それ、薬だけどね”と小さく笑った。