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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山

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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山
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リアクション

 日中、花見会場。

 白雪 魔姫(しらゆき・まき)エリスフィア・ホワイトスノウ(えりすふぃあ・ほわいとすのう)が花見の準備を整えるためにやって来た。魔姫が一緒に楽しもうと高原 瀬蓮(たかはら・せれん)を誘うと小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と一緒にお弁当を作って行くからという事なので手作り弁当を楽しみにしながら魔姫達は花見の準備をしていた。

「魔姫様、この場所はどうですか。間近で桜を見る事が出来ますよ。楽しく魔姫様達がお花見が出来るようにエリスがお世話いたしますね♪」
 エリスフィアはレジャーシートを魔姫が手伝う隙無く手早く敷いてからにっこり笑いかける。
「……そういうお花見をしたい訳ではないのに」
 魔姫は小さくつぶやいた。花見の参加者にエリスフィアは自分を数に入れていない。魔姫はそれが気に入らないのだ。エリスフィアと友人として楽しみたいのだが、ツンデレな性格のためか明確に口にする事が出来ずエリスフィアの準備を見守るばかり。
「……折角のお花見だし、暇だからワタシが料理でも作ろうかしら」
 場所取りの手伝いが出来なかった魔姫は花見で食べる料理でも作ろうと考える。
 しかし、
「心配ありませんよ。お料理の準備もすぐに終わりますから……はい、ご用意が出来ました。瀬蓮様達が手作りのお弁当をお持ちになるという事ですから胃薬の準備もしてありますよ。お茶のお代わりもあります。紅茶も色々種類を持ってきましたのでご希望があれば……」
 エリスフィアはてきぱきと料理を整え、いくつもの紅茶の缶や瓶に胃薬まで用意していく。全く魔姫が手伝う余地はどこにもない。
「……そう、じゃあ、お菓子だけでも自分で買って来るわ。ちょうど販売しているみたいだし……」
 魔姫はがっくりとため息をつきながらリース達の店に向かった。
「……魔姫様、少し元気がないように見えましたがどうしたのでしょうか……お菓子もご用意していますのに」
 お菓子を買いに行く魔姫を見送りながらエリスフィアは首を傾げるばかり。魔姫の気持ちは全く通じていなかった。手には『ティータイム』で用意した美味なるお菓子が載った皿があった。

 夜。
 夜光桜も咲き、重箱に入ったお花見弁当を持って瀬蓮と美羽がやって来た。
「魔姫ちゃん、今日はありがとう」
「うわぁ、美味しそうなお料理ばかりだね」
 瀬蓮と美羽が風呂敷に包んだ重箱をそれぞれ抱えながら到着。

 その時、
「あら、美羽」
 すぐ隣から高根沢 理子(たかねざわ・りこ)の声。
「リコ! お隣さんだったんだね。連絡してたお弁当持って来たよ。瀬蓮ちゃんと一緒に作ったお弁当」
 美羽が嬉しそうに自分が持っている重箱を見せた。理子は酒杜 陽一(さかもり・よういち)に誘われ、ジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)と共に花見に来ていたのだ。美羽は理子に連絡し花見の事について話した後、弁当を用意する事を伝えたのだ。本日は花見なので弁当は多い方がいい。美羽はしっかりと理子に弁当を渡した。
「これがねぇ。早速開けてみるわね」
 理子は弁当を受け取り、みんなと開けてみる事にした。
「魔姫ちゃんも開けてみて」
 瀬蓮も持っている弁当を魔姫に渡した。

「……瀬蓮、卵焼きが多いようだけど」
 弁当を開けて魔姫が開口一番に言ったのは弁当箱の大部分を占める卵焼きの量だった。
「……美羽ちゃんに教えて貰って卵を爆発させずに卵焼きが出来たの。それで嬉しくてつい多く作っちゃったの。おにぎりも作ったよ」
 瀬蓮は照れながら卵焼き増量の訳を話した。
「そう。早速、頂こうかしら」
 魔姫は瀬蓮作の卵焼きを口に運んだ。
「魔姫ちゃん、どう?」
「……美味しいわ」
 緊張しながら味を訊ねる瀬蓮に魔姫は笑みを浮かべて感想を口にした。
「良かった」
 瀬蓮はほっと胸をなで下ろした。
「リコ達はどう?」
 美羽は開けて食べている理子達に訊ねた。
「陽一の作った弁当に美羽達の弁当やみたらし団子と美味しい物ばかりで太りそうね」
 理子はすっかり満足そうだった。
「うむ。瀬蓮、美味しく出来てるぞ」
 セレスティアが卵焼きをもごもご食べながら言う。
「……形は不細工だが美味しい」
 ジークリンデはもそもそは瀬蓮のおにぎりを頬張っている。
「あぁ、美味しいよ。良かったら俺が拵えた弁当もどうぞ」
 美羽や瀬蓮が作ったおかずを一つずつ食べた後、陽一はお礼にとばかりに自分が拵えた弁当を好きなおかずをつまめるように差し出した。魔姫達はおかずを幾つか貰い美味しく頂いた。
「よろしければ、お茶でもいかがですか? 様々な種類がありますよ。それに胃薬もありますので何かありましたらお声をかけて下さいませ」
 エリスフィアは様々な茶葉と理子の発言から胃薬を見せた。
「それは安心ね」
 理子は軽く笑いながらエリスフィアに言った。エリスフィアはすぐに陽一達の分の紅茶の準備を始めた。
「……エリス、量が増えて大変でしょう。運ぶぐらいはするわよ」
 魔姫は普通の友達がやるように手伝いをしたいと思い声をかける。
「魔姫様は瀬蓮様達がお作りになったお弁当を食べていて下さいませ。すぐですから」
 エリスフィアの返事はやっぱりメイドだった。
「……そうね」
 粘る事はせず魔姫は大人しく瀬蓮と美羽が用意した弁当や『調理』を持つエリスフィアが作った美味しい料理を食べ始めた。
「……魔姫ちゃん」
 瀬蓮は気付いていた。魔姫がエリスフィアと友達のように同じ立場で過ごしたいと。
 とにかく賑やかに花見が始まった。途中、狐火童の事を知り、巻き込まれる事に。

 夜、妖怪の山前。

「……ほう。今日は随分おめかししてるな」
 長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)は待ち合わせ場所に立つ九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)を神妙な顔で頭から足の爪先まで見た。
「……あのおかしいですか。こんな普段より女性らしいお洒落な服」
 珍しそうに自分を見る長曽禰の視線に気恥ずかしさでローズは少し頬を染めた。
 本日の服装はパートナーのシンからのアドバイスを貰い白のシャツワンピース、薄水色のカーディガンにヒールが少しある靴を履いて普段より女性らしいお洒落をしていた。
「いや、いいんじゃないか。お前も年頃なんだから」
 見過ぎている事に気付いた長曽禰は急いで視線を逸らして言った。その口調はまるで父親のよう。特に最後の言葉は。
「……そうですね。あの、長曽禰さん行きましょう」
 ローズは胸の奥がチクリと痛むのを感じていたがすぐに花見の方に気持ちを向けた。今日はまだ始まったばかりだ。
 ローズと長曽禰は仲良く並んで花見会場に向かった。

 色々と雑談しながら会場に向かう道々。
「それより、足は大丈夫か。さっきから引きずってるだろ? その靴、脱いだ方がいいんじゃねぇか?」
 突然長曽禰が眉を寄せながらローズの靴の方に視線を向けた。最初はローズが上手く庇い気付かなかったのだが、今では靴擦れを起こして足を引きずっていると傍目でも分かるほどの有様。
「……大丈夫です。早く行きましょう、会場まであと少しですよ」
 ローズは強がりの笑顔で答え、平気だと言わんばかりに長曽禰を抜いて早足で歩き始めた。胸の中ではいつもと違う事をして自爆している自分に情けなくなっていた。
「……おい」
 長曽禰は急いでローズを追いかけた。
 何とか二人はローズが双子から聞いた会場から離れ過ぎず静かに花見が出来る場所に到着した。だが、ローズの足はもう限界だった。

「ごめんなさい。綺麗な桜を見て楽しもうと思ったのに、見苦しい所を見せてしまって」
 ローズは目的の場所であるベンチに座って靴を全て脱いだ。
「そんな事はどうでもいい。それより手当が先だ」
 長曽禰はローズの両足の酷い靴擦れを心配した。
「手当は自分でしますから。長曽禰さんは桜を楽しんで下さい。食べ物とか飲み物とか売っているかもしれませんよ。私の事は大丈夫ですから」
 長曽禰に心配されローズは情けなさとこんな姿を長曽禰に見せたくないという気持ちでいっぱいだった。
「……そうか」
 長曽禰は少しローズを一人にさせて落ち着かせた方がいいと判断し、ぶらりとどこかに行った。

 長曽禰を見送り一人になったローズは
「……本当、何してるんだろう。自分から誘っておいてこんな情けない姿を見せて。長曽禰さん、呆れてるかな」
 ため息をつきながら妖精の塗り薬を患部に塗った。こんな自分を見て長曽禰は呆れているのではと悲しい気持ちになった。手当が終わると深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
 その間、長曽禰はリース達の店に向かう途中、知り合いに会っていた。

 しばらく後。両手に飲食物を抱えた長曽禰が戻って来た。
「ローズ、足はどうだ?」
「ほら、この通り治療は終わりました。本当に迷惑をかけてしまってごめんなさい」
 ローズは妖精の塗り薬で手当をした両足のかかとを見せた。
「……落ち着いたようで安心した。ほら」
 長曽禰はローズのかかとを確認して安心した後、買って来た創作和菓子とリース作の飲み物を差し出した。きっちり自分の分も買っていた。
「ありがとうございます……長曽禰さんの隣を一緒に歩いて、恥ずかしくないようにって思ったんです。でも長曽禰さんが私のことを娘のように思ってくれたのは嬉しいんですけど子供に見て欲しくなくてこんな……長曽禰さんに迷惑をかけているようじゃ、まだまだ子供ですよね」
 ローズはお菓子や飲み物を受け取るも口は付けずに隣に座る長曽禰に抱える思いを自嘲気味に言った。視線を脱いだ靴に向けながら。
「……ローズ、今日はどうしたんだ?」
 ほろ酔いフレーバーティーを飲みながら訊ねた。
「いえ、すみません。何を話しているのか分かりませんよね。その、長曽禰さんのぶっきらぼうだけど優しい所私のお父さんに似ているという事を話したかったんです」
 ローズは暗い顔を明るくした。もう靴擦れの事も気になっていなかった。
「……そうか」
 長曽禰はうなずくだけで何も言わなかった。ただ、ローズが元気になった事は良かったとは思っていた。
 二人はこのままベンチで花見を楽しんだ。
 帰宅する際、
「また靴擦れを起こしちゃいけねぇから。乗れ」
 長曽禰はローズがまた靴擦れを起こしてはいけないと考え、屈み背中をローズに向けた。
「……あの、そこまで迷惑をかけるわけには」
 ベンチに座ったままローズは戸惑うばかり。花見の始めから最後まで迷惑をかけてばかりだと。
「あのな、お前一人背負うぐらい何の迷惑にもならねぇよ。さっさと乗れ」
 長曽禰は呆れ気味に言うなり、語尾を強めてローズを急かした。
「……はい」
 ローズは大人しく長曽禰に背負われる事にした。長曽禰は背中にローズ、手に靴を持って下山した。その間、長曽禰の背中のローズは緊張しながらも心の端でまだ仲が良かった頃の父親におんぶされていた事を思い出し、絶対に素敵な女性を目指そうと決心した。
 無事二人は下山した。