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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山

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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山
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リアクション

「へぇ、これが夜光桜ねぇ。本当に光ってるのね」
 レジャーシートに座る御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は夜光桜を見上げ、舞い散る花びらを手に受ける。
 口調は素っ気無い感じだが、表情はしっかりと楽しんでいるようだった。
「とても綺麗ですね」
 御神楽 舞花(みかぐら・まいか)はソフトドリンクやリース達の店で買った飲食物を並べながら桜を楽しんでいた。
「舞花、今日は誘ってくれて感謝します」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は高級日本酒を用意しながら自分達をキャンプに誘ってくれた舞花にお礼を言った。
「いえ、私も一緒に楽しみたかったので、早速お花見を始めましょう、陽太様、環菜様」
 舞花の言葉で三人だけののんびりとした花見が始まった。少しして双子達の企みの情報が伝えられ舞花に一抹の不安を与えた。

「こういうのんびりなのもいいわね」
 環菜は陽太の高級日本酒をちょこちょこ飲みながら夜光桜を楽しむ。
「舞花?」
 陽太は日本酒を飲みながら賑やかに花見をしている参加者に目を向けている舞花に声をかけた。何か心配事でもあるのかと。
「……やはりヒスミさんとキスミさんが企画した物は予感通り平和には終わりそうにないと思いまして。以前、異世界の冒険に巻き込まれて商人をしたりヴァイシャリーの親睦会に参加した時に仲の良い幽霊夫婦に出会って探し物をお手伝いしたり……」
 舞花は双子に巻き込まれたこれまでの出来事を楽しく面白く話した。
「探し物が頭とは普通ならホラーですが、その夫婦の人柄のせいでしょうか、全然そんな感じがしませんね」
 陽太が食いついたのは幽霊夫婦の話だった。陽太は自分達のように仲良し夫婦という事で気になったのかもしれない。
「はい。ホラーと言えばイルミンスールのホラーハウスの宝探しも楽しかったですよ」
 ホラーつながりで舞花はホラーハウスで宝探しをして仲違いをする兄妹が少しだけ仲良くなる手伝いをした事を話した。
「確かノーンと一緒に行ったのよね。大きなパフェの写真も送ってくれたわね」
 環菜は参加した舞花達から送信されたメールの内容を思い出していた。
「はい。ノーン様は脅かし役の人達と歌ったり最後の打ち上げもとても賑やかで楽しかったです」
 舞花は楽しそうに話した。
 そこに
「素敵な話ばかりですね。他には何かありませんか?」
 三人のお喋りに加わる聞き知らぬ声。
「……他にですか、そう言えば、二人で恋活祭に行きましたね。お揃いの金のベルも貰って」
 声に促され陽太が環菜と参加した恋活祭の話しをしようとする。
「その話はしなくていいでしょ。それほど面白い事なんか……って、今聞いたのは誰?」
 恋活祭の話が出た途端、環菜は恥ずかしそうに慌てて陽太の言葉を遮った。そして、見知らぬ者が参加している事に気付いた。
 三人は声がした方向に振り向いた。
「……こんばんは。僕は猫又のシロウと申します。僕の親分が騒ぎを聞きつけ一緒に来ました」
 立っていたのは12歳ぐらいの少年。ポニーテールに袴を着ていた。どう見ても猫又ではない。
「……こんばんは。今日は妖怪の山で楽しく過ごさせて頂いております」
 舞花は『貴賓への対応』で丁寧に挨拶を返した。何を聞くにしてもまずは挨拶からだ。
「はい。ご丁寧にありがとうございます。加わってもよろしいでしょうか?」
 シロウは舞花との挨拶を終えた後、加わりたそうに訊ねた。
「あの、猫又というのは確か……」
 『博識』を持つ舞花が猫又について話そうとした時、
「そうです。人の形より少し楽な形態と本当の姿は……」
 そう言いシロウはぴょこんと白い猫耳と二叉の尻尾が現れ獣人のような猫耳姿になってから猫が着物を着ているような本来の姿になった。
「この姿よりこっちの方が皆さんにお声をかけるにはよいかと思いまして、あの、それで他にはどんな話があるんですか。親分の世話であまり山を出ないので」
 そう言ってシロウはまた人の形になり、ちょこんと正座をして話を促した。
「そうですね、イルミンスールの古城で大掃除と住人の捜索をした事がありまして、ぬいぐるみが歩き回ったりとにかく凄い状態で……」
 舞花は古城での壮絶な大掃除について話し始めた。
「へぇ、それはすごいですね」
 目をきらきらさせながら耳を傾けているシロウ。
「良かったらドリンクとお菓子もどうぞ」
 陽太がソフトドリンクと創作和菓子を勧めた。ついでに自分と環菜もソフトドリンクに変えた。三人で楽しむ事が目的であって酔う事が目的では無いし環菜も酒豪のように飲む人ではないからだ。
「ありがとうございます。他には?」
 シロウは創作和菓子を頬張り、ドリンクを飲みながら促す。
「素敵な初夢を見たり願い石というのにも出会いまして……」
 舞花は夢札なる物で見た初夢や執念の石職人が亡くなる瞬間まで作ろうとした願い石と災いを振りまく正体不明のどこぞの魔術師について話した。
「面白いですね。しかし、大変ですね」
 聞き終わったシロウは楽しい話が聞けて満足そうだった。
「妖怪の山はどうですか?」
 陽太はシロウに妖怪の山での生活を訊ねた。
「親分、自由気ままな猫又で騒ぎとか事件とかにあまり関わろうとしないんです。今日も本当は猫又定例会議の誘いがあったのですが、猫又定例会議というのは、いろんな所に住んでいる猫又が定期的にどこかに集まって話し合いをする事なんです。それがあるのに花見を発見して食べたり飲んだりするのが好きですから。今日もうるさいからと言って追い払われて、皆さんが楽しそうにお喋りをしていたので」
 シロウは大きなため息をつきながら肩をすくめた。
「……大変ね」
 と環菜。
「……もしかしてあそこにいるの君の親分さんじゃ」
 陽太は離れた場所で悲痛な叫び声を上げる猫又を発見し、指し示した。
 陽太が示した方向を確認するなり
「えっ? はい。僕の親分のミッカ親分です。本当に何してるのやら、あれほど食べ過ぎはだめだと……すみません。失礼します。お話、とても楽しかったです」
 シロウは大変呆れた顔になり挨拶も早々に親分の所に行ってしまった。

 また三人だけの花見に戻った。
「クレープが食べたくなったので買いに行って来ますね」
 舞花は売り歩いているマーガレットを発見し、クレープを買いに行った。
 そのため陽太と環菜の二人だけとなった。
「……今日は本当に素敵な日ですね。大切な人達と過ごせるんですから」
 陽太は、買い物に行く舞花の背中からほんのり上気した環菜の横顔を見てドキドキしながら心の底からの言葉を口にした。舞花を大切に思い、計りきれないほど環菜を愛しているのだ。
「……そうね」
 ツンデレの環菜は陽太と同じ気持ちだが言葉少なだった。それでも陽太にはしっかりと伝わっていた。
 すぐに桜クレープを持った舞花が戻って来て再び三人の花見が再開した。

「……夜光桜か。これはまた風流だね。あの双子の提案にしてはいい場所じゃないか。まあ、これであの二人が悪戯をしなければだけどね」
「そうですわね。そう言えば、お父様の生まれた所でもこうしてお花見をするのですよね。こうやって、桜の花を見て家族や友人と一緒に過ごす。素敵な風習ですわ」
涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)は仲良く頭上の夜光桜を眺めていた。
「……ふふ、二人共、お弁当を食べましょう」
 ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)は夫と娘の夜光桜を眺める姿に親子だなと思わず笑みをこぼしつつ涼介とミリィのために小皿に様々なおかずを取り分けていた。
 ミリアに呼ばれ、涼介とミリィは顔を下に移してミリアから小皿を受け取り、花見が改めて始まった。

「とても美味しいですわ」
 ミリィははむはむと鶏の唐揚げや出汁巻き玉子を頬張った。
 昼に三人で仲良く作ったお弁当だ。他に助六寿司や菜の花の辛し和えに筑前煮などボリューム満点である。

「涼介さん、どうぞ」
 涼介に盃を渡し、酒を注いだ。
「ありがとう。折角のお花見だからミリアさんも飲みましょう」
 涼介は盃をミリアに差し出した。
「……ありがとうございます」
 ミリアは盃を受け取り涼介に注いで貰った酒を楽しんだ。
「……」
 ミリィは、酒を互いの盃に注ぎ合い飲み交わす涼介とミリアの姿を見てとても幸せそうだった。

 食事が一通り落ち着いたところで
「お花見ですから、お抹茶を点てますね」
 ミリィは抹茶を点てて涼介とミリアにご馳走していた。
「ミリィ、とても美味しいですよ」
 ミリアは涼介に教えて貰い『調理』を持つミリィが作った桜餅を美味しそうに食べた。
「今日は何から何まで風流だね」
 涼介はまったりと抹茶を飲みながら光を弱めつつ散る花びらを楽しんでいた。

 その時、家族団らんを破る叫び声が響いてきた。
「ふぎゃぁぁぁ、お腹が痛いにゃぁぁぁ、死ぬにゃぁぁぁ」
 空気を切り裂く悲痛な叫び。

「お、お父様、お腹が痛いと苦しんでいる方が……」
 ミリィは抹茶を点てるのをやめて叫び声の主を捜し、お腹を抱えて苦しそうにのたうち回っている着物を着た20代半ばの女性を発見した。
「あそこにいる人だね。ミリアさん、ごめん、少し行って来るよ」
 涼介も患者を確認してからミリアに謝った。家族を放って他人を優先しようとしている事に。
「私の事は気にしなくて構いませんから行って下さい」
 ミリアは涼介達がどうしたいのか分かっていて理解していた。
「……ありがとう」
「お母様、わたくしも行って来ます」
 涼介とミリィは急いで苦しんでいる人の所で急いだ。
「……行ってらっしゃい」
 ミリアは夫と娘を静かに送り出した。

 現場。

「ちょっと食べ過ぎただけなのにゃぁぁぁ、痛いにゃぁぁ、死ぬにゃぁぁぁ」
 着物を着た女性が結い上げた日本髪を振り乱し、脂汗を流しながら苦しそうにしていた。
 その女性の頭から茶色の猫耳と二叉の尻尾が現れ、しだいに日本髪をした三毛猫と化していた。
「……大丈夫ですか」
「……猫又だね。人用の薬は効くかな」
 猫又に声をかけるミリィと涼介はルシュドの薬箱と猫又に視線を向けながら少々困っていた。
 そこに
「あ、あの私もお手伝いします。食べ切れないほど買って行ったので心配になって」
 リースがやって来た。実はリースが止めるのも聞かずに大量に商品を買って行った事が心配になって来たのだ。店は隆元がいるので心配無い。
「ありがとう。とりあえず、痛み止めを使ってみようか」
 涼介はリースに礼を言ってからルシュドの薬箱から食べ過ぎに効く薬を出した。
 ミリィが猫又を支え、リースが水を渡して涼介が口に薬を放り込もうとした時、
「親分!!」
 陽太達の所でお喋りをしていたシロウが駆けつけて来た。

「……あ、あの、この方のお知り合いですか?」
 リースが現れた見知らぬ少年に訊ねた。
「あ、はい。僕は猫又のシロウと言います。苦しんでいるのは僕の親分のミッカです。また食べ過ぎたんですね。あぁ、腹痛の薬も前に使い切ってまだ作っていないのに」
 シロウは名乗り簡単に事情を話した。
「……その薬について教えてくれるかな。私が持っている薬は猫又用ではないから効き目が悪いかもしれない。素材が分かればすぐにでも薬を用意出来るかもしれないから」
 涼介が手早く用件を言った。話し込むよりも早くミッカを腹痛から解放させてやらなければならない。
「あ、はい。でもこの妖怪の山にしかない物ばかりで……」
 シロウは少しためらいながらも素材を教えた。
「……ミリィ、持って来ている素材を代用して作るよ」
「はい、お父様」
 『薬学』を持つ涼介とミリィは持参した薬箱から代用出来そうな物を素早く選び、調合して粉薬を作り上げる。
「……えと、私はミッカさんの様子を看ていますね」
 涼介達が薬を作っている間、リースはミッカの様子を看ていた。
「本当にすみません。迷惑をおかけして」
 何も出来ないシロウは恐縮するばかりだった。

 薬は何とか完成し、
「出来ましたわ。ミッカさん、薬ですよ」
 ミリィは急いでミッカに飲ませた。
「にゃぁぁぁ」
 苦そうに顔をクシャリとしたが、何とか飲み切った。
「ふぅ、落ち着いたにゃぁ。ありがとうにゃぁ。これでまた食べられるにゃ」
 ようやく落ち着いたミッカは助けてくれた人達に感謝を述べるもまだ懲りていなかった。
「もう勘弁して下さい。猫又定例会議をサボって腹痛を起こして情けないですよ。ただでさえ、前に起きた騒ぎに何にも関わらなかったんですから。実力者と謳われる猫又が」
「あんな会議くだらないにゃ。猫又と人がどーのこーのと言うけど、シロウ、妖怪も人も長所短所があるものにゃ。どちらかに偏って意見するのは公平じゃないのにゃ。シロウも猫又になる前に人に可愛がられていたと人ばかり贔屓するのはやめるにゃ。物事は曇りなき目で見る事が大切にゃ。それよりやりたい事する方が有意義にゃ」
 呆れるシロウと我関せずのミッカは他人が居る前で身内のやり取りをしていた。

「……確かにそうだね。人も妖怪も食べ過ぎたらお腹が痛くなるからね」
「多めに作りましたので薬をどうぞ」
 涼介は現金なミッカに思わず笑ってしまいミリィは予備にと薬をシロウに渡した。
「お見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした。薬、ありがとうございます」
 シロウは丁寧に受け取った。
「またお菓子を買いに行っていいかにゃぁ?」
 ミッカはリースに気付き、声をかけた。
「え、えと、買ってくれるのは嬉しいですけど……でも、またお腹を壊してしまっては」
 リースは困ってしまった。また同じような事が起きるのではと思って。
「今度は大丈夫にゃぁ」
 ミッカは元気に言うが、どう見ても大丈夫には見えない。
「大丈夫じゃないですよ。いつもはまともなのにどうして食べ物の事になると駄目猫又になるんですか。ほら、帰りますよ」
 巻き込まれ疲れたシロウはミッカの腕を引っ張り、会場を後にした。
「ふにゃぁぁぁぁぁぁ」
 ミッカの虚しい悲鳴だけがいつまでも響いていた。
 涼介達とリースは猫又達を見送ってからそれぞれの場所に戻った。

「涼介さん、ミリィ、お帰りなさい。二人共どうぞ」
 ミリアは嬉しそうに戻って来た涼介とミリィを迎え、いつの間にか隆元から買ったリース作のフレーバーティーを渡した。
「ありがとうございます。桜色に発光して綺麗ですね」
「いただくよ」
 ミリィと涼介はほろ酔いフレーバーティーで喉を潤し、ほろ酔い気分になった。
 しばらく経って狐火童が出始めたので三人はテントで過ごす事にした。悪戯をしようと来た猫化したヒスミに涼介はハリセンを見せていつものように追い払った。

「ミリアさん、今日は三人でお花見のはずだったのに途中、抜け出してしまって……」
 涼介は改めて団らん途中抜け出した事を謝ろうとするが、ミリアの言葉が被り、消えてしまった。
「……あの時、私やミリィのせいで抜け出さなかったらきっとがっかりしてました。私は涼介さんをとても誇りに思います。人を今日は妖怪ですけど助ける涼介さんの事を」
 ミリアは妖怪助けに行く二人の姿を思い出しながら微笑んだ。言葉通り本当に自慢出来る家族だと。
「……ミリアさん。はぁ、私は凄く幸せ者だなぁ、隣に素敵な奥さんと可愛い娘がいて」
 涼介はミリアの横顔といつの間にか眠ってしまったミリィの寝顔を見ながら思っていた。こんな素敵な家族と過ごす幸せな時が永く続くように自分自身も努力をしないといけないと。何があっても二人を護り、如何なる時も傍にいたいと。
「……それは私もですよ。今度お花見する時は三人じゃないかもしれませんね……もう一度、桜を見て来ます」
 ミリアは少し悪戯っ子の様な笑みを浮かべてから夜光桜を見に外に出て行った。
「……ミリアさん」
 残された涼介はミリアの言葉を心の中で反すうしていた。ミリアと同じく今度は自分達夫婦とミリィと『本当』の子を交えてなのかもしれないと思っていた。