リアクション
――さて、話を現在に戻そう。
『キロスさん
卯月祭の会場で決闘の決着をつけましょう!
指定した日時に会場まで来てください。
腕によりをかけて……じゃなかった腕を磨いて待っています!
アルテミス・カリスト』
こう書かれた果たし状と地図を手に、キロスは指定された丘の麓に辿り着いた。辺りは祭りで賑わっており、とても決闘をするような雰囲気には見えない。
「よくきてくださいました、キロスさん!」
(来なかったらどうしようかと、ちょっとドキドキしてました……)
そこには、いかにもデート用といった可憐な服装に、大剣を背負ったアルテミスが待ち構えていた。
「そ、それでは、勝負の前に、まずはこれを食べましょう! お腹が空いては、勝負ができませんからね。ええ!」
そう言ってずい、とアルテミスはバスケットを差し出す。
「それって……」
「ここに座って下さい!」
アルテミスの気迫に押され、キロスはとりあえずレジャーシートの上に腰を下ろした。
すかさず、アルテミスはキロスの前でバスケットの蓋を開ける。と、サンドイッチのような形をした名状しがたい何かが、うねるように動いていた。
「……これは、何だ?」
「腕によりをかけて作ったお弁当です」
そう、自信満々に答えるアルテミスだが、
「普通食材は動かねえだろ!?」
キロスの切実な突っ込みが入った。
「踊り食いですよ! 当然動くんです!」
「そ、そうか……」
アルテミスの気迫に再度押されたキロスは、サンドイッチに「踊り食い」という言葉を使う機会などないであろうことにも突っ込まず、明らかに納得してはいけないところで納得した。
キロスは、恐る恐るそのサンドイッチに手を伸ばす。
ガブリ。
――今の擬音は、決してキロスがサンドイッチを口にした音ではない。キロスが、サンドイッチに指を噛まれた音だ。
「!?」
食材の反乱(?)に、思わずアルテミスもはっと息を飲んだ。
「これも不意打ちの作戦か……やるじゃねえか……!!」
一方キロスは、完全に臨戦状態である。
「キロスさんがその気なら……いざ、尋常に!!」
平穏な丘の中腹に、キン、と刃と刃の打ち合う音が響き渡った。遠くから駆けつけてくる警備員も目に留まらないらしく、二人は再び剣をふりかぶった。
そんな二人のピクニックだか決闘だか分からない時間は、まだしばらく続くようだ。