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野山に巣食う小巨人

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野山に巣食う小巨人

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■ビッグトロール大清掃作戦
 ビッグトロールへの攻撃は“奇襲による先制攻撃”と“1対多数による早期各個撃破”の二つを中心として行われる運びとなっている。
 これは熊谷 直実(くまがや・なおざね)が立案したもので、人数の少ないこの状況下では有効打になり得るであろうものだった。
 しかし実行するにはやはり周囲の地形を熟知している必要がある。そのため、契約者たちは素早くビッグトロールたちの集落周辺を念入りに調査。奇襲を容易に行える広い地形をその目で確かめていく。
「……で、吹雪はどうしてダンボールを被って移動しているの?」
 コルセアの常識的なツッコミが冴えわたる。というのも、周囲の地形を調べ上げている吹雪はなぜかダンボール箱(数々の逸話を持つ《歴戦のダンボール》である)を頭から被って行動しているからだ。
「潜伏行動には必須であります。――えーと、あそこが奇襲攻撃地点でありますから……だいたいこの位置であります」
 どうやら、自分の役割を担えるポイントを決めたらしい。吹雪はそのポイントを陣取ると、さっそく自身の得物である《試製二十三式対物ライフル》をセットしていく。
「まずこんな野山にダンボール自体あるのがおかしいことなんだけど……」
「セット完了。コルセア、攻撃地点の観測状況はどうなっているでありますか?」
 コルセアのツッコミにも慣れたものなのか、吹雪はすぐにライフルのセットを終えると完全に狙撃態勢に移っていた。ゆるい感じを保ちながらも、狙撃手特有の緊張感が周囲に張りつめてきたのを感じてか、コルセアはすぐに《双眼鏡『NOZOKI』》で戦場となるであろう奇襲攻撃地点を覗き、吹雪の狙撃をサポートする観測手となっていく。
「――奇襲攻撃地点、現在は動きなし。各人それぞれ準備は終わって……あ、待って。作戦開始したみたい。狙撃タイミングはこちら合わせで。対象は大きいから大丈夫と思うけど、外しはしないでね」
「大丈夫であります」
 コルセアからの状況報告に短く応える吹雪。その瞳は、既に一流の狙撃手たる視線になっていた。

 ……その吹雪たちが覗いている奇襲攻撃地点から少し離れた、ビッグトロールたちの集落。ビッグトロール5匹は自由気ままな生活を送っていた。と、そこに集落の入り口から大きな声が響いてくる。
「あれぇー? どうやら迷い込んでしまったみたいだなぁ。一体ここはどこなんだろぉ……」
 どうやら、山に迷い込んでしまった旅人のようだ。ビッグトロールたちは久しぶりの餌にありつけると、その巨体を起こし上げて5匹総出で入口へと向かい始める。
「うわぁ、ト、トロールだぁ!!」
 旅人は大げさに驚き、危機から逃れようと逃げ始める。ビッグトロールたちは考えるよりも先に身体が動く。旅人への疑問を一切持たずに、逃げる餌を何とか捕まえようと追いかけようとする。
 ――旅人、いや『メンタルアサルト』で旅人に扮した佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)の狙いはそこにあった。集落での戦いを避けるべく、自らが囮となってビッグトロールたちを誘い出し、奇襲攻撃地点へと連れ出そうとする。
 考える脳を持たないビッグトロールには効果てきめんであり、あっさりと誘導に成功。弥十郎はそのまま奇襲攻撃地点である、周囲を崖が覆う広い場所まで誘い込んでいった。
「……一匹目、射程範囲内。今ッ!」
「One Shot,One Kill……!」
 観測手コルセアの観測先に、誘い出されたビッグトロールの内の一匹が捉えられる。射程距離内に入ったと同時に合図を送ると、吹雪は合図に合わせたほぼ同タイミングで《試製二十三式対物ライフル》のトリガーを引く。
 大きく響く対物ライフルの銃声と共に、超遠距離から放たれた超大型の銃弾が瞬時にビッグトロールの頭部を貫通する。頭部を貫かれ、そこから噴き出た臭い血液が後続のビッグトロールたちの身体へ撒き散らされていく。
「頭部着弾。……うわぁ、タフとは聞いてたけど頭撃ち抜かれてるのに片膝付いて苦しがってるだけだなんて……」
「間も置かずに立ち上がったら、それこそ化け物であります」
 ヘッドショットには成功したものの、一撃で撃ち倒せないほどのタフさを持ち合わせていたビッグトロールを瀕死に追い込めた程度のようだ。すぐさま次射に移る吹雪であったが、すでに戦場のほうでも大きな動きが起き始めているようであった。
 吹雪の狙撃に合わせて、『パスファインダー』による地形掌握を得た直実が、地形を利用した落石攻撃などでビッグトロールたちを攻撃する。先ほどのヘッドショットによる血飛沫をまともに浴びて混乱を起こしかけているところへ、死角からの落石攻撃を受けさらなる混乱を生み出していくのを、契約者たちは見過ごすはずがない。これを機と見たか、それぞれ即席(または元から)で組んだチームで一気呵成をかけていく!
「おっさん、ナイス!」
 奇襲攻撃がうまくはまったことを賞賛しながら、弥十郎は後続のビッグトロールの一匹を狙いを定め、混乱による不規則な動きを『行動予測』で読みつつ『炎の聖霊』で攻撃を加えていく。その攻撃に合わせてさらに直実が追撃を加えていき、着実にダメージへと変えていく。

「例え図体が大きくても、人の形になってるんなら急所は同じ――! あたしのキック、ノロマなあなたに見えるかしら?」
 ――別のビッグトロールの個体を相手にしているのは美羽と舞香の即席コンビ。舞香は『疾風迅雷』のスピードで踊るようにして、ビッグトロールの無規則な攻撃を回避しつつ、その『魅惑の脚技』で相手の全身の急所を《ハイヒール》の『経絡撃ち』で蹴り抜き、さらには小巨人の顎をハイキックを蹴り飛ばす! その威力は《強化型ビキニアーマー》による高い露出度をトリガーにしての『裸拳』で飛躍的に高められており、ビッグトロールの顎骨すらも砕いていった!
 勢いついたその蹴りはわずかながらビッグトロールを宙へ浮かせる。そこへ《プロミネンストリック》によって空を駆ける美羽が、小型飛空艇の2倍の速度を保ったままの『滅殺脚』で宙に浮いたビッグトロールを大地へ叩き落とさんとばかりに、思い切り蹴り飛ばしていく!
「やぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 村の人たちや自然を守るため、美羽はあえてビッグトロール討伐の意に達する。その決意を乗せた足技は履いているミニスカートを容易にひるがえしていくが、そのスカートは《鉄壁のスカート》。いくらひるがえそうともその中を見ることは誰一人として叶うことはない。
「このまま昇天させてあげる……!」
 大地へ叩きつけられ、その巨体をバウンドさせたところへ、舞香の更なる追撃が入る。顎を蹴り潰しただけに留まらず、みぞおちに膝蹴りを喰らわせ、その反動で顔部分へ飛びかかると、後ろ回し蹴りで眼球を潰し、首筋へ延髄切りをお見舞いしていく!
 それだけで終わらせるつもりは毛頭ないようで、『投げの極意』を最大限に生かした脚投げ――巨漢殺しのフランケンシュタイナーでビッグトロールの巨体を投げ飛ばさんとする!
 しかし一般的な人の身長をゆうに超すビッグトロールを投げ飛ばすのは至難の業、そこでバウンドでわずかに浮いたビッグトロールの身体を美羽に再び蹴り上げてもらう。
 二人の協力を為してこそ生まれた、強力なフランケンシュタイナーが見事に決まり、ビッグトロールは何度目かの地面叩きつけを喰らっていった!
「これで終わりよ、逝きなさい!」
「できることなら別な方法を探したかったけど……ごめん!」
 舞香と美羽はそれぞれ『超高度キック』と《プロミネンストリック》で超高高度へとその身を移す。そして一気に急落下しながら、最後の一撃である踵落としと『滅殺脚』をビッグトロールに浴びせていく!
 ちょうど起き上がったところへの着弾だったようで、踵落としはビッグトロールの脳天――頭蓋骨をもろに直撃、美羽の『滅殺脚』はビッグトロールの鳩尾に決まり、その2撃が決め手となったのか、舞香と美羽が相手にしていたビッグトロールは地に伏し、沈黙してしまった。
「ふふっ、この服装といい脚技といい……あなたたちみたいなケダモノに見せるにはもったいないくらいのサービスよね☆」
 ビッグトロールを倒した後も、舞香は自信たっぷりにそう口にしたのであった……。


「このタフさ……話に聞いていた以上じゃない! さっさと片付けて、のんびりとしたいものだわ」
「まったくもって同意するわね……!!」
 別のビッグトロール個体を相手にするセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。すでにその身には、セレアナからは『女王の加護』を、セレンフィリティからは『パワーブレス』を互いに使い合って能力を高めている。
 その上で現在は、セレアナが『秘めたる可能性』から発現させた『ディメンションサイト』で空間把握し、それと併用してセレンフィリティの『メンタルアサルト』と『行動予測』で予測不可能の動きをしながらビッグトロールの攻撃を回避。
 鈍重な敵の動きの隙を突いて、セレンフィリティが《【シュヴァルツ】【ヴァイス】》による銃撃、セレアナが中遠距離からの『天のいかづち』で体力を確実に奪っていく。
 だがしかし、聞いていた以上のタフさを誇っていたビッグトロールに対してはスズメの涙ほどの効果しか得られていないようにも感じ取れる。それほどまでの強靭さを持っているビッグトロール相手に、セレンフィリティたちは苦戦を強いられてるほかなかった。
「はっ! もっと俺の攻撃に耐えてみせろよなぁッ!!」
 その一方では、別個体に対してハイコドがビッグトロールの顔をただひたすらに殴る、殴る、殴り倒すの一辺倒で攻撃を続けていた。ここには書ききれないような罵詈雑言をビッグトロールへ挑発するかのように浴びせ、赤黒く染まった拳も加えて畳み掛ける。相手はほぼ完全にサンドバッグのようになっているが、タフネスさだけを武器にハイコドで攻撃を仕掛けようとしている。
「この程度かよ……わりぃが、とっととくたばっちまえッ!!」
 大きな腕振り攻撃をあえて拳をぶつけることで受け止め、そのまま押し戻す勢いで殴り抜く。そしてトドメを刺さんと、ビッグトロールの胴体へ《寄生獣ワーム》を伸ばして突き刺し、それをロープ代わりにして一気に相手後頭部へ回っていく!
「キシシ、喰らいなぁッ!!!」
 後頭部に回り込むと、間髪入れずに鎖骨から肺めがけて《ウプウアウト》の尖爪を遠慮なく突き刺す。そしてそこから《融合機晶石【ライトニングイエロー】》による放電攻撃で、体内から電撃で焼き尽くさんとする!
「――これでもまだ生きてるのか……面白れぇ、だったらこいつも持っていきなぁッ!!」
 体内放電をもってしてもまだ生命活動を続けているビッグトロールに対し、ハイコドの口角がにやりと上がる。そのまま握り拳を握っていた右腕を振り上げると、《ウプウアウト》を突き刺したまま再び前面へと回りこみ、『七曜拳』で顎や鳩尾、さらには脇腹や膝を容赦なく殴りまくる。
 そしてラストの一撃として用意したのは『自在』によって形成された気の槍。ただでさえ《ウプウアウト》を突き刺されたまま移動されて、抉られる形となったビッグトロールの身体を、気の槍でこれでもかと言うほどに突く、突く、突く、突き刺す。
 そして……何度も突き刺した結果、そこにあったのはもはやビッグトロールなどではなく、内部が焦げた肉の塊と化していたのであった。


 奇襲から始まった、混乱に乗じての先制攻撃は見事に型にはまり、ビッグトロールたちへ大打撃を与えていく。吹雪とコルセアが超遠距離からの狙撃によるサポートも加わり、あと少しですべて片付く……そんな時だった。
「っ!?」
 ――ほぼ瀕死となっていた、最初に狙撃を受けたビッグトロールが立ち上がる。ほとんど動けない状況だというのに、それでも立ち上がるというその生命力はどこから来るのか。
 しかし視界はすでに機能していないのだろう、周りが見えない状態で契約者たちに対し、あらん限りの力任せによる大振りの無差別攻撃で襲いかかってくる!
「なんてしつこい奴……!」
「大丈夫、あいつにはきちんとあいつの敵を用意したわ!」
 生命力の高さに思わず舌打ちを打ちそうになるセレアナだったが、セレンフィリティがすでに策を講じているようだ。
 襲いかからんとする瀕死ビッグトロール。だがその前に立ちふさがったのは、なんとこれまた同じ別個体のビッグトロールだった。普通とは様子が違い、その瞳はどこか現実以外を見据えているようにも見える。
 ……それもそのはず、このビッグトロールは先ほどまでセレンフィリティとセレアナが相手していた個体であり、体力を存分に削った後にセレンフィリティが『その身を蝕む妄執』で強い幻覚を見せている状態であった。
 片や幻覚によって敵味方の判別を付けられず、片や瀕死によって視界不明瞭。僅かながらの考える力すら持てなくなった2匹の個体は、お互いに攻撃――同士討ちを始めてしまう。これこそがセレンフィリティの狙っていた策である。
 さらに弥十郎たちが戦っていた個体も同士討ちに巻き込む形となったようで、3匹の殴り合いが続く。……そしてそれが少し経ったところで、3匹は共に力を使い果たし、それぞれ倒れてしまった。
 こうなってしまえば、後はトドメを刺すだけである。ビッグトロール討伐に積極的な舞香とハイコドが次々と完膚なきまでにビッグトロールの生命活動を止めていく。
 ……実に瞬きの時。その間にビッグトロールは全滅を余儀なくされたのであった。