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 街外れの神社。
 境内で掃除をする早乙女 姫乃(さおとめ・ひめの)は二人の女性に話を聞かれていた。
 一人は白波 理沙(しらなみ・りさ)、もう一人は雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)だった。
「噂というか、事件に巻き込まれて困っている人なら知ってます」
「巫女さん、本当!?」
「理沙、慌てないで」勢い込む理沙を押し留める。「詳しく聞かせて」
「最近、毎日お参りに来る人がいるんです。あまりにも熱心にお祈りしているので、どうしたんですか? と尋ねたんです」
 動かしていた箒を止め、思い出しつつ話す姫乃。
「そうしたら、早くこの街の治安が良くなりますようにって。自分みたいな人を出さないでくださいって」
「自分みたいな人……被害者ってことね」
「具体的な内容は聞いてる?」
「なんでも、商品を盗まれるらしいです。高値の織物だとか」
「それは調査の価値ありだわ」
 言うが早いか動き出す理沙。
「ちょっと、待ちなさいよ……ありがとう。参考になったわ」
「いえ、これであの娘の役に立てるのでしたら」
 雅羅が会釈すると一陣の風が吹く。それが治まった時には二人の姿が忽然と消えていた。
「あれ……消えちゃった?」

 川岸に立つ一軒家。
 見た目は普通の家だが、そこには街で評判の織物職人チェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)が住んでいた。
「うんしょっ……と。ふぅ」
 川で水洗いしていた織物を片付ける小さな背中。
「これを乾かして、採寸して、裁断して……やはり間に合いそうにないですわ」
 時間を計算すると、どうしてもため息が出てしまう。
 一つ一つ、すべてを自分の手で作り上げていく職人。
 完成まで時間がかかってしまうのはわかりきっているのだが、これは彼女のせいで起きた過ちではない。
 仕上がった織物が盗まれた。
「どうしようかしら……」
 気づいた時から新たに作り直しているが、流石に無理な話。取り戻すことができるなら、それが最善なのだが。
「この頃治安も悪いみたいですし、わたくしの件は後回しにされそうですわね」
 友人の結婚祝いだったのだが、もう他の物を用意するしかない。
「その悩み、解決してあげるわ!」
 口上と共に現れた黒装束。情報を聞き駆けつけた理沙だ。その後を追うように、
「姉さん、ちょっと待って! まだ、着替え終わって――」
 衣装を手で無理やり押さえる雅羅。
「もう、早替えは基本よ?」
「そんなこと言ったって……」
 先ほどの出番からほんの数分。着慣れていない衣装なら、尚更時間が欲しかった。
「えっと……あなたたちは?」
 頬に汗がつたいつつも尋ねるチェルシー。
「怪しいものではないわ。あなたが盗まれた織物を取り返してあげる、正義の忍者よ」
「その言い方自体が怪しい気がするわね……」
 雅羅のボヤキなど無視し、理沙は続ける。
「盗まれた織物の特徴を教えて」
「はあ……」
 怪訝に思いながらも、どうせ盗まれたもの、特徴を教えても変わりないかと当たりを付け、
「桜色を基調とした、桜柄の物ですわ」
「わかったわ。大船に乗って待っててね!」
 それだけ聞くと颯爽と去っていく。
「だから待ちなさいって……まったく、無鉄砲なんだから」
 腰に手を当てて嘆息する雅羅。
「あの……」
「ん、何?」
 チェルシーは申し訳なさそうに伝える。
「衣装の前が肌蹴てますわ……」
「えっ……きゃあっ!」
 叫んで座り込む。
「もうっ! 理沙のバカっ!」
 素に戻ってしまう雅羅だった。