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リアクション
その後、弾や沙夢、ザカコに詩穂と、プレートを持った面々や、桜坂 のの(さくらざか・のの)やノリコ、ヴォルフたちも少しずつ集まってきた。匂いに釣られてか、ののとはぐれていたパトリック・エイベル(ぱとりっく・えいべる)もふらふらと姿を現す始末。
「白桃のタルトですの、どうぞ召し上がれですの」
にわかに人数が増えたところにイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が手作りのお菓子を振る舞えば、バーベキューセットの世話を焼いている鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が、
「ロゼさーん、お肉焼けましたよ。あ、たまねぎも」
とせっせと取り分け、最近トレードマークになっているうさみみを付けたティー・ティー(てぃー・てぃー)が皆の所へ運んで回る。
そんな長閑な光景が繰り広げられているその横では、しかしレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)とクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)のふたりが中心になって、ビニールシートに腰を下ろし、集まってきたプレートについて真剣な顔で検討して居た。
「謎を解いたらさくらちゃんの居場所が開くんだったわよね?」
一緒になって参加して居るののが、プレートの一枚を弄びながら呟く。
「そうなのよ、でも出てきたのはこのプレート。ってことはやっぱりこれは鍵ってことだと思うんだけど」
と、真面目に謎解きに参加しつつも、レオーナはぴったりとののの隣を陣取って、必要以上に密着している。ののもくっつかれて嫌な気はしないのか、あまり気にしている様子は無い。
「この挑戦状、こっち側に正方形が書いてあるってことは、正方形に並べてみればいいのかしら」
「そこの彼らに聞いたんだけどね、時計塔の壁に、5×5のマス目に区切られたくぼみがあったらしいんだ」
ローズが視線でヴォルフ達を指す。場の端で所在なげにしていたふたりは、急に話を振られて少しばかり驚いた顔をしながら、クレアらの元に近寄ってくる。
「そう、丁度これくらいの……いや、見て貰った方が早いか」
ヴォルフは指先で空間を切り取って見せようとしてから、思い直してあっちだ、と指をさす。クレアとレオーナを中心とした数人が立ち上がり、プレートを持って移動した。
大時計の壁には確かに、アリスのお茶会のレリーフに囲まれ、5×5に区切られたくぼみがあった。
「そのプレートの形といい、そのマス目といい、どこかにそんなパズルゲームがあったね」
「ああ! えっと、アレ。……なんだっけ、アレ。ぴったりはめると消える奴」
きっとあんな風にはめこむのよ、と言うと、レオーナは
「頑張れー! クレアー! 愛してるー!」
肝心な所をパートナーに丸投げした。
ちなみに、愛してるー、などと言いながら、右手はちゃっかりののと繋いだままである。
そんなレオーナの様子に少々呆れながらも、クレアは冷静に、手元のプレートを目の前のマス目にはめ込んでいく。
「こういうときは、大きいものから埋めていくのがセオリーですわね」
一番大きなものは「てーぶるくろす」と書かれた7マスのものだが、これは縦2×横3マスの長方形の左下に1マス分飛び出ているだけ。何処にでも置けそうな形だ。
「それより、こっちの方が置きづらくない?」
そう口を挟んだのは、布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)だ。その手にあるのは「ふしぎのくに」のプレート。
確かにこちらは、縦に5マス分の長さと横に2マス分の幅がある。挑戦状と書かれた用紙には、回転させたり裏返したりすることを禁止する旨のイラストが書き込まれているので、置ける位置は限られてくる。たとえば、一番右に寄せてしまうと右下に2マス分の空白が出来てしまい、他のパーツが入れられない……というようなことを考えながら、ふたりは協力して、一つずつパーツを収めていく。
「これを……こうすれば!」
「できましたわ!」
それほどの時間を掛けず、全てのパーツがくぼみの中に収まった。
見守っていた面々からも拍手が上がる。
すると。
スゥ、とレリーフの彫られた壁の横に切れ込みが走り、それは両開きの扉の形になった。そして、ぎ、ぎ、ぎとわざとらしい音を立てて開く。
「あ、開いたぁ!」
扉が開くのと同時に、時計塔の中から女の子の声が響く。
「さくらちゃん!」
真っ先に時計塔の中へ飛び込んで行ったのは詩穂だ。咄嗟に油断なく周囲を確認し、危険が無いことを確かめる。室内はがらんと広いばかりで、何か装置のようなものが有る様子も無い。その部屋の中に、桜の森公園の精 さくら(さくらのもりこうえんのせい・さくら)が座り込んでいた。
詩穂はもう大丈夫、と微笑みかけ、さくらを抱き上げて外に連れ出す。
さくらは安心したからか、表情を崩して泣き出してしまった。暫く話を聞くことは無理そうだが、詩穂がせっせとあやしているので落ち着くのも時間の問題だろう。
無事にさくらは解放された。
これでまずは一安心――といきたいところだが。
「でも、この空間は元にもどらないのね」
佳奈子のパートナーであるエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)がぽつりと呟く。
「まだ解けてない謎があるって事?」