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無人島物語

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無人島物語

リアクション

 ちょうどそのころ。
 この港から、一隻の巡視艇が出航していた。海難事故の調査のために、桜井静香が貸してくれた船だ。
 事故当時、現場近くを航行していて一般人を助け出したという、重要な役割を果たしている。
「結局一番早いのがこれか」
 白百合団員のシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、静香の命で事故調査に赴くところだった。
 遭難者の捜索でなく、事故海域の調査だ。沈没した現場へ向かい、海底に沈んでしまった『ダイパニック号』を調査しようという思い切った方法だった。
 これが事件なら証拠隠滅の危険もあるし、なるべく早めに調査を始めたかったのだが、積極的に協力してくれそうな人はいなかった。
 唯一、巡視艇より早い乗り物があったのだが……。
「行ってしまいましたね。私たちもそろそろ追いかけましょうか」
 巡視艇に乗り込んでいた、百合園学園生のアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)は、空の彼方を眺めながら言った。
 彼女のマスターの佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)は、『レティ・インジェクター』に乗って行ってしまった。
『レティ・インジェクター』は、どう見ても注射器なのだが、小型飛空挺で巡視艇よりは早い。だが、元々が二人乗りな上に、一人分のコックピットに食料や水、救助のための道具を乗せているため、同乗できなかった。
「調査に行くのって、オレたちだけかよ。他のやつら無関心すぎるだろ」
 シリウスが言うと、アルトリアが返してきた。
「残念ながら、勘違いしないでくださいね。私たちはあくまで無人島に漂着したであろう遭難者の捜索ですからね。『ダイパニック号』が沈没した現場を通って、あなたたちを海の底へ降ろしていきますけど、その後は『レティ・インジェクター』を追いますから」
「……それってさ、オレたち帰りどうするの?」
 シリウスは聞く。
「あなたたちが入って行った付近を漂ってますので、そこまで来てください」
 アルトリアは答えた。
「あのさ。この船は、海難事故調査のために静香が貸してくれたものだよな? 遭難した連中の捜索なら、他の船使えよ」
「通信なら、そちらの分も引き受けますわ」
「……まあ、特に問題ないか」
 シリウスは、同乗して協力し合うことを約束した。自分以外にも百合園生がいたので悪いということは無い。
 航行は順調に続いた。
 台風が過ぎ去ってから天気もいい。波も穏やかで揺れや障害も少ない。とても、客船が沈んだとは思えないような静かな海域だった。
 その間にも、アルトリアはルーシェリアと連絡を取り合い捜索を続けていた。
 普通の(?)、海難操作の場合でも空と海から探す。その定石どおりだ。
「さあ、オレたちはここで一旦お別れだ」
『ダイパニック号』が沈んだ地点まで来ると、シリウスは『D.M.S』にしまっていた『ホエールアヴァターラサブマリン』を展開した。
 パートナーのサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)に操作を任せ、シリウスはサブシートでソナー手兼通信手を勤める。イコンに登場するときと同じだ。
「シリウス、潜水スーツは着た? 潜水艇の準備はいい?」
 ザビクは聞く。
「いやまあ……サビクに言われて潜水スーツも持ってきたけど、これ使う時ってまず死んでるよな……」
 準備しながらシリウスはボソリと言った。
 やがて準備も整い、『ホエールアヴァターラサブマリン』は巡視艇から海へと入って行った。
「いってらっしゃい」
 アルトリアが見送るなかゆっくりと沈んで行く。
 ………。
 ………。
『ホエールアヴァターラサブマリン』は慎重に海の中を探索して行く。
 今乗っているのは、ガネットと違って小柄なぶん非武装だ。警戒を密にし。潜水艇の死角や入れない場所も『アクアバイオロボット』を送り込んで丁寧に調べていく。
「シリウス、記録とれてる?」
「今のところ順調。異常なし」
 シリウスは、海面を巡航している巡視艇とも連絡を取り、自分たちの位置を確認する。
 ………。
 ………。
 さらに深い地点へと潜っていくことしばし。「……見つけた。あれだ」
 シリウスは、海底に『ダイパニック号』の船体を発見した。 
 沈没時に大きく破損して、船体は無残にもぼろぼろになっている。
「これはやばいな。結構破損度が大きいぞ」
 まずは船体の損傷具合から調べ始めるシリウスだが、ちょっと判断しあぐねていた。
 中から爆発したとも見えなくもないし、水雷攻撃の形跡にも見えなくも無い。自沈しても、こんな感じになるんじゃね、多分……?
「救助された乗員は氷山つってたけど……これ本当に氷山か?」
 疑うからには、事件である証拠がほしかった。
 船を海底から引き上げるには、とんでもない費用がかかる。調査するだけでも相当なものだ。今回も、シリウスたちがいなかったら、誰も好き好んで調べようとはせず、沈んだ『ダイパニック号』の状況はわからずじまいだっただろう。
「う〜ん、オレにはよくわからねぇな。細かい事故原因は、専門家の鑑定待ちだなこりゃ……、サルベージできたらだけど」
 ただの事故なら、そのまま船員たちの証言が適用されることになる。
 沈んだ船を引き上げるか否か、その決定権は所有者であるオーナーにあるのだ。
 リナ・グレイが「船は引き上げません」と言えば、『ダイパニック号』はこの海底で永遠に眠ることになり、誰も調べることなくこの事故は収束へ向かう。時がたち風化し忘れられていくだろう。
 だが、明らかに事件であることが証明できるなら別だ。
 捜査当局が税金を大量に導入しても引き上げるだろう。保険会社も乗ってくるかもしれない。
「とりあえず、あたりに散らばっている遺留品を拾えるだけ拾って行くか……」
 後は、それを分析して報告書をあげるだけだ。
 何か、手がかりになるものが含まれていることを願うばかりだった。

 さて、場面を移そう。