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リアクション
第5章 熾天使とドラゴン
セルマ・アリス(せるま・ありす)は、ドラゴンの巣へと向かっていた。
「研究者としてはそっとしておきたい所なんだけど……」
というのが彼の本音ではあるが、討伐隊や寺院が動いている以上、放っておくわけにもいかない。
「ドラゴンさんと熾天使さんの恋なんて素敵だね〜」
ゆる族のミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)はそう言うと、盾を空に向けた。彼女の構えたジュラルミンシールドに、氷の槍がぶつかって、砕ける。
空はあいかわらず泣いていた。
「……どうして、ドラゴンが居るのに異常気象が続いているのだろう? どうして、少女は情緒不安定のままなのだろう?」
「ふたりに聞けば、わかるのかな?」
「どうかな。だけど、彼らとは話す必要があるね。聞きたいことがたくさんあるから」
ドラゴンの巣の周辺では、地元の民を巻き込んで、お互いが望まないかたちで傷つけあっている。
ドラゴンか、地元民。そのどちらかが、住み慣れた土地を手放すという選択は、ありえなかった。
「事件を収束させるには、星辰異常をしずめるしかないようだからさ。――こんな濃霧をつくっちゃうような、異常な気象を」
セルマは立ち止まって、目の前に広がる深い霧を見つめていた。この濃霧さえ抜ければ、ドラゴンの巣に辿り着けるはずだ。
彼はいちどミリィに視線を移す。
「……行こう。ルーマ」
パートナーの愛称を呼んで、ミリィが盾を持っていない方の手を差し出した。
「うん」
セルマも同じように、開いている方の手で彼女の掌を握り返した。ミリィの手は、水をたくさん吸い込んで、しっとりと濡れている。
離れ離れにならないよう慎重に、ふたりは真っ白い濃霧のなかへと踏み込んでいった。
「パートナー達も竜好きだから。ドラゴンの力になってあげたいね。もちろん、少女の力にも」
スレイプニルに跨って、源 鉄心(みなもと・てっしん)も竜の巣を目指していた。
鏖殺寺院の飛空艇が飛び交っているため、空中での移動は危険が伴うが、フリューネたちの活躍により、敵勢力はだいぶ手薄になっている。
「それにしても、不可解な点が多いな。現場に行ってみれば分かるのだろうか」
「星辰異常……消滅した島の幻影、泣き止まない女の子……」
ティー・ティー(てぃー・てぃー)が、ワイルドペガサス『レガート』さんの上でつぶやく。
「それじゃ、その子もいずれまた消える、幻みたいなものなんでしょうか? だから、ずっと泣いているんでしょうか……?」
「愛するものに抱かれて眠りにつけるなら、例えそれが最後になっても、幸せなことかもしれませんの」
鉄心のスレイプニルに乗せてもらったイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が、ティーの嘆きに応える。
イコナは途中まで、ブレードドラゴン『サラダ』に乗っていたが、異常気象が激しかったので搭乗を断念。サラダには、安全な岩陰でお留守番してもらっていた。
サラダは体が大きい上に、イコナにはパートナーのように広範囲を守れるスキルがなかったからだ。
その代わり、彼女は多彩な回復系スキルを持つ。
ここに来る前には、「ドラゴンが怪我をしているみたいなので、治療したいですの!」と息を巻いていたほどだ。
やる気じゅうぶんのイコナとは反面、鉄心の武器として同行するギフトスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)は、とても眠そうだった。
「拙者、出来るだけ働きたくないでござる」
などと、清々しいまでのニート発言さえ飛び出した。
スープはむにゃむにゃと、なにやら意味深なセリフを、寝言のようにつぶやいていた。
「しかし……。どらごんと少女の愛……でござるか。……拙者もどらごんギフトでござるが……ふむ。アリ、でござるな……」
空を翔ける彼らは、竜の巣付近に発生した濃霧へと飛び込んでいく。
視界不良のなか、鉄心がディメンションサイトを使って道案内していた。
「もうすぐ、霧を抜ける。竜の巣はすぐそこだ」
鉄心の言うとおり、真っ白な空間の先には、ぼんやりと外の灯りが差し込んでいた。
彼らはその微かな光に向かって、飛び込んでいった。
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