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祭の準備と音楽と

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祭の準備と音楽と

リアクション


プロローグ

 ニルミナスの村。ミナスと呼ばれた女性を型どった像が見守る広場に静かなギターの調べに合わせて歌声が響く。熾月 瑛菜(しづき・えいな)。彼女が普段ライブなどで弾く曲よりも柔らかい印象を持つ弾き語りを、村の子どもたちは目を輝かせて聞いていた。
「♪―――っと、おしまい。……あれ? ミナホ?」
 ひとまず曲を終えて一息つく瑛菜。気づけば子どもたちの中にこの村の村長であるミナホ・リリィ(みなほ・りりぃ)の姿があった。
「お疲れ様です瑛菜さん。子どもたちの面倒を見てくださってありがとうございます」
「いや、それは別にいいけど。いつの間に来たんだ? 全然気づかなかった」
 瑛菜の言葉に子どもたちは『ミナホはこどもっぽいからなー』とか『ミナホちゃん影薄いからねー』とか口々に言う。
「…………あんた、子どもたちに舐められてんね」
「……もう、諦めてます」
 はぁと息をつくミナホ。その様子に瑛菜は自分も子どもたちと同じような感想を持っていたとは言えない。
(……まぁ影が薄いのはともかく、子どもっぽいのは仕方ないと思うけどね)
 記憶障害。10年ほど前からの記憶を失い、たびたび一部の記憶を失っているというミナホ。そしてこの村の状況を考えれば人生経験豊富とはならないだろう。周りが大人ばかりで見せかけだけは立派な大人に見えてもその実は10歳程度とは言わなくても、自分と同じかそれより下の精神年齢でもおかしくない。そう瑛菜は思う。
「瑛菜さんは慕われてるし尊敬されていますよね」
 ミナホの言葉。子どもたちも『瑛菜おねえちゃん好きー』とか『瑛菜さんカッコいい』とか続ける。敬称からしてミナホと違う。
「……まぁ、案外、こういうのあたしにあってるのかもね」
 子どもたちの面倒を見るのはと瑛菜は言う。
「……案外ですか? 普通に瑛菜さんにはピッタリだと思いますけど」
「そうか? あたしって基本的にガサツじゃん」
「それ以上に世話焼きじゃないですか。困ってる人がいたらすぐに駆けつけちゃいますし」
「……否定はできないけど」
 子どもたちの懐き具合からも瑛菜の面倒見のよさは伺えるとミナホは言う。
「それより、あんたはどうしたんだよ。あたしに何か用?」
「いえ、祭の準備が本格的に始まる前に村をゆっくり散歩しようかなと。流石にもう少ししたら休んでる暇ないくらい忙しくなりますから」
 その途中で瑛菜と子どもたちの姿を見つけたとミナホ。
「ふーん……この後も散歩?」
「いえ、散歩はここで終了です。村の散策はいつもミナス像を最後に終えてますから。この後は祭の準備をしている人たちの視察ですね」
 最初はユニコーンの住処周辺で動いている契約者たちの視察に行こうと思うとミナホは伝える。
「瑛菜さんは?」
「企画会議は明後日だっけ? そっちには参加するよ。それまでは子どもたちと……あとはアテナの様子見」
 パートナーであるアテナ・リネア(あてな・りねあ)が落ち込んでいることをどうにかしたいと瑛菜は言う。
「私も気になりますからよろしくお願いします」
 子どもたちもアテナもとミナホはお願いする。
「あんたも頑張るんだね」
 瑛菜の励ましの言葉。それに頷きミナホはユニコーンの住処へと向かっていくのだった。