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赤と青の鼓動、起動するは人型古代兵器

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赤と青の鼓動、起動するは人型古代兵器

リアクション



AIに必要なモノ


〜遺跡内部・制御コンソール前〜

 その部屋は他の場所のように広く作られていないようだった。人が一人入れるぐらいの広さ。
 正方形の部屋の奥には円筒状の装置と大型のモニターが設置されている。
 時折そのモニターを見ながら御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は必死にキーボードで文字を打ち込んでいく。
「そこに表示されているパスコードを全て入力してくれ」
 彼女に研究所研究員の声が伝わる。研究所と通信が常に繋がっており、彼女は装置の解除方法を聞きながらトラップの解除に当たっているという状況。
 更にいうなら、モニターには突入班が電磁トラップに掛かり放電されている姿が映し出されていた。悲痛な叫びが彼女の指を焦らせる。
「急がないと……急がないと!」
 ふと部屋にけたたましい警告音が鳴り響く。舞花はその音にびくっと身体を震わせた。
「え……もしかして打ち間違え……!?」
 研究員の暗い声が事実を告げる。
「どうやらそのようだ。そこのパスワードは一度間違えると二度と入力することができない。……突入班には自力で脱出してもらうしかないな」
 モニターには放電が続き、悲痛な叫びをあげる突入班の姿が見える。突入班はイコンに乗っている為、その表情を窺う事は出来ないがきっと苦悶の表情を浮かべているのだろうと彼女は想像する。
 全て自分のせいだ……そう思って諦めかけた時、彼女の服から何かが転げ落ちる。
「……? これは――」
 まだ諦めるには早い、彼女はそう誰かに言われたような気がした。
 舞花は床に落ちた使役のペンを掴むと制御装置に書き込む。全機能停止と。
 モニターの中で放電が止み、突入班が解放されたのを確認した舞花は研究員の指示に従ってその場を後にし、遺跡から脱出していった。

〜遺跡内部〜

 遺跡の内部、突入班が進んだルートは別のルートの先に制御ドックのような場所があった。
 そこにイーグリットIIIへ乗り込んだヴァディーシャ・アカーシ(う゛ぁでぃーしゃ・あかーし)がいる。
 邪魔になる瓦礫をどかし、同行しているジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)の通り道を作る。
「どうしてボクがこんな雑用なんか……」
 文句を垂れるヴァディーシャにシヴァがすかさず突っ込む。
「そんなの決まってるでしょ。ちびっこ、あんたにデータの解析や端末の操作ができるっていうの? 無理でしょ?」
「うぐ……で、でも装置のオンオフぐらいは……っ!」
「そんなの自分でできるわよ、元々おっぱい以外足りてないアンタに手伝いなんか期待してないから。わかったらさっさと辺りを探して使えそうなハードでも持ってきなさい」
 しょぼくれた様子でヴァディーシャは部屋の捜索に向かった。心なしかイーグリットIIIが肩を落としているようにも見える。
 コックピットの中で自分の手でおっぱいをむにっと持ち上げるヴァディーシャ。重い。かなりの重量が手に伸し掛かっている。
 確かに色々至らない所はあると思うが……あんな言い方はないのではないだろうか。
「別に気にしないですけど、気にしないですけど!!」
 ヴァディーシャの文句が狭いコックピット内に木霊した。
 そんなヴァディーシャの悩みなど一切考えていないシヴァは端末を操作しながらイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)に必要なデータを送る。
「ママ、どう? そのデータ関連で集めればいいの?」
「そうね……この機体構成データを中心に集めてくれるかしら。あ、それとあんまり喧嘩しないようにね?」
「……はいはい、了解したわよっ――別に……喧嘩してるつもりは」
 シヴァの声の後半は小声になり、イーリャには聞こえていないようだった。
 イーリャはシヴァから送られてくるデータを解析し始める。
 どうやらこの遺跡は過去の兵器研究の施設だったようだ。
 最初に製作されたのがガルディア。最強の戦闘兵器を目指して製作された。
 パイロットの存在を不必要とし、その機体性能は高性能を追及していく。
「パイロットが不要? でもAIにはそれほど臨機応変な戦闘は……」
 さらに解析を進めていくとガルディアには自己学習する対話型のAIが搭載されている事が分かった。
「ガルディア戦闘学習プログラム……実戦形式の戦闘を経験させ、敵パイロットを殺害させるまでを学習させる。そんな……」
 このプログラムの通りに学習が行われたとしたら……一体どれほどの人間が殺害されたのだろうか。
 解析を進めながらイーリャはシヴァから送られた別のデータを閲覧する。
 そこにはアーヴェントに関するデータが少し記されていた。
 何らかのデータのコピーが使用されている事。対ガルディアを想定され製作されたが、そのほとんどの武装プランは他の場所で製作された事。
 しかもその武装やパーツはこの場所に届かなかったらしい。
「だからガルディアに比べてアーヴェントの武装は簡素だったのね……」
 彼女は送られてくるデータを解析し、他の契約者達へと送信していった。

 古びて風化した書物や崩れた本棚のある部屋の入り口にレイが膝を付いた状態で待機している。
 その中でルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は部屋から発見した映像データを見ていた。
「なんの映像データなんだろうね」
「何かの手掛かりになるといいが……」

〜過去〜

 消灯された格納庫のデッキにガルディアはいた。いたというよりは設置されているというべきか。
 今日の訓練プログラムは終わった。もうここを訪れる人間もいないだろう。そう思ってガルディアは休眠状態に入ろうとする。
 そこで小さなぱたぱたという足音を聞いてそれを中断する。
 こんな時間に誰だろうか。時刻はもう夜中。研究者達が来るとは思えない。
 そう思うガルディアの前に一人の少女が立っている。
「こんばんわ、ガルディア」
 研究員とは見えない少女の為、返答する義務はないと判断したガルディアは沈黙を守る。
 戦闘以外の出来事には興味がない。ならば訓練プログラム以外の時間は休眠にあてて少しでも整備の手間を減らした方が得策だろう。
 そんなガルディアの判断を無視するように彼女は話しを続けた。
「もう……研究者じゃないからって無視ですか。悲しくなってくるんですけど……」
 ガルディアの装甲に背を預けるようにして彼女は座る。
「まあ、喋りたくないならいいですよ。きっと昼間の戦闘プログラムで疲れてるんでしょうし」
「……疲れてはない、ただ意味がないと判断した」
「意味がない? そんな事ないわ。対話型のAIであるあなたは喋ることでも学習するんでしょう? ならお話も一つの訓練だと思うんだけどなぁ」
 確かにその通りであった。日頃の戦闘での学習は動きや戦闘方法などのデータは収集できるが、会話に関するデータはほぼ所得できない。
 できるとしたら断末魔の悲鳴程度。およそ相手パイロットとは会話らしい会話はしていない。
「…………一理あると判断。」
「ふふっ。ならお話しましょう」

 それからというもの、度々エリーは部屋を抜け出しガルディアの元で夜中を過ごした。
「町ではお買い物ができるんですよ。お金を払って、商品を買う」
「奪う、ではなく?」
「そう。お金を渡して品物を貰うんです。そこに争いはありませんよ」
 エリーはガルディアに教えていく。戦闘では知ることのできない知識を。
「草原に座ってお花を眺めていると優しい気分になれるんです」
「花を眺める……?」
「はい、きっとガルディアも一緒にいったらそう思うはずですよ。だって、こんなに楽しくおしゃべりできるんですもの。花を見て何かを感じたりすることだってできるはずです。」
「……」
 ガルディアは思う。自分が花を見て? 感じる? 何を?
 思案してみたが、満足のいく答えは導き出されなかった。
 ある日、彼女が苦しそうに咳き込んでいるときがあった。ガルディアが尋ねると彼女は力のない笑顔で答える。
「あはは……ごめんね。心配させちゃって。大丈夫だから」
 咳が治まるのを待って、彼女はゆっくり話し始める。
「私……病気なんです。ここにはそれの治療の為だってお父さんが連れてきてくれて。でも、なかなか治らなくて……」
 エリーの表情が少しだけ暗くなる。が、すぐに元の笑顔に戻ってガルディアに言った。
「大丈夫。諦めてませんから。だって……ガルディアといろんな所に行ってみたいですから。もっと色んなこと、実際に見て、触れて、感じて。教えてあげます」

 その日から、彼女はガルディアの元を訪れることはなかった。

〜遺跡内部〜

 ルカとダリルは映像を見終わって考える。
「この映像の通りだとしたら……ガルディアの目的は?」
 ダリルは考え込みながら、話す。
「人に仇成す事ではないか……そうなると最奥部にある何かがその答えのカギなのかもしれないな」
 二人は移動しながら考えることにしてレイを立ち上がらせる。
 と、そこに通信が入る。聞き覚えない声であった。
「私は……エリー。聞こえますか……?」