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通り雨が歩く時間

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通り雨が歩く時間

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「まずは店内に散らばった破片を片付けてからだな。三人はその間、休憩でもしていてくれ」
 シンは『ティータイム』で手早くお茶を用意してから自分は掃除道具を装備。
「いいんですか? 手伝いますよ」
 ササカは自分の店であるため手伝おうとする。
「商品の陳列が出来るようになってから頼む。それまではゆっくりしていてくれ。ロゼ、頼むぜ」
 シンはお疲れのササカや面倒を掛けるオルナをローズに任せて掃除に行った。
「はい。本当にすみません」
「任せて」
 オルナは申し訳なさそうに頭を下げ、ローズはいつものようにシンを見送った。
 シンが片付けをしている間、調合談義という名のガールズトークは始まった。

「ところでオルナさん、この間、送ったレシピと素材はどうでしたか?」
 ローズは紅茶を楽しみながら以前、魔法中毒者の遺跡で見つけたレシピや素材を送ってからの事を訊ねた。
「なかなか面白い物が出来たんだけど……ちょっとね」
 オルナは言葉を濁し、ちらりとササカを見た。
「もしかして……あんな事が起きたのは」
 ササカは心当たりありまくりの声を上げた。
「何かあったんですか? また配合の分量を忘れたり素材を間違えたりしたんですか」
 ローズはもしやと問いただした。以前も配合や素材を間違えたりしていたのでそれだろうと。
 そしてその予想は
「……その全部。それで」
 大当たり。オルナは溜息をついた。
「この子、三日ほど自宅前で野宿をしていたのよ。四日目に私が気付いてから一週間保護したのよ」
 ササカが代わってオルナの身に起きた事を語った。
「……何か変な生物が出て来てさ、消えるまで家に入れなくて。あ、でも成功したらそれが凄くてさ。一口飲んだら一日は物忘れしないんだから。もう感謝だよ」
 オルナは笑いながらローズに結果を報告した。
「それで少しの間、平和だったのね」
 ササカはその時の事を振り返っていた。薬を使用した事はどうやら伝えられていなかったようだ。
「それは凄いですね。やはり魔法中毒者のレシピだけはありますね」
 ローズは感心した。凄まじい物忘れが収まるとは奇跡としか言いようがないのだ。
「でも薬漬けはまずいかなと思ってあんまり使わないんだけどね」
 調薬を知る者のとして心得るべき事は心得ているらしい笑みを浮かべるオルナ。
「賢明ですよ」
 ローズも同意見だとばかりに笑んだ。
「だけど、凄いね。あの遺跡が魔法中毒者の研究所だったなんて。しかもあたしの家を滅茶苦茶にした原因の魔術師が現れるんでしょ」
 オルナは正体不明の魔術師の話題を口にした。何せ自宅が事件の現場になったりしたのでなおさら身近な事柄だったり。
「その予定なんですけど。色々大変みたいです」
 騒ぎに関わり中のローズは進展しそうでしない状況を簡単に話した。
 それからも『薬学』を持つローズとオルナは調合談義を続けた。

「……かなり壊しているな」
 ごみ袋一杯になったガラスの破片を処分するために一度シンが戻って来た。
 その時、店のドアが開いて
「物が散乱しているようだけど、何かあったの?」
「凄い有様だな」
 歌菜と羽純が現れた。
「大変な時に来たな。実は……」
 シンは苦笑混じりに歌菜達を迎え、事情を簡単に話した。
「オルナさん、お掃除が苦手なんですか。実は私もなんですよ。お掃除は嫌いじゃないんですけど綺麗にしようとする程、何故か散らかってしまう事があって」
 オルナにシンパシーを感じた歌菜はすっかりオルナの味方になっていた。何せ歌菜も整理整頓が苦手なので。
「……歌菜、まさか」
 羽純はこの先の展開を予想するのだった。
「でも、主婦になるにあたって、一生懸命花嫁修業して羽純くんにも手伝って貰って。かなり上達したんですよ」
 歌菜は胸を張りながらオルナに語る。
「へぇ、凄いねぇ。やっぱり頼りになる人がいないとだね」
 歌菜の話を感心しながら聞くなりオルナはちらりとササカを見る。
「……何が頼りになる人よ。前から言ってるでしょ、私はオルナの保護者じゃないって」
 ササカはオルナの視線の意味を知るなり呆れたように言った。
「仲良しなんですね。私と羽純くんもお手伝いしますよ。オルナさんも一緒にお片付けがんばりませんか?」
 オルナ達の様子に微笑んだ後、歌菜は掃除にオルナを誘うのだった。羽純の予想通り。
「そうだね。たっぷりと休んだし、頑張るよ!」
 休憩もしてエネルギーも充電出来たオルナは勇ましく椅子から立ち上がった。
「という事だけど、羽純くん、いいよね?」
「あぁ。どうせ雨が止むまで動けないし、このままでは困るだろう」
 羽純は雨で動けない事もあり歌菜に付き合う事に決めた。
「オルナ、本当に大丈夫なの?」
 オルナの頑張る発言に一抹の不安を覚えるササカ。
「大丈夫だって」
 親友の心配など全く気にしない元気なオルナ。
「オレ達が見ているから心配はねぇよ」
「そうそう、あっという間に片付けちゃうから」
 シンと歌菜がササカの心配を払拭する。
「商品陳列の確認で忙しいようでしたら私が番をします。来客が来たらすぐに知らせますから」
 ローズもまた手伝いに加わる。何せササカは商品陳列で忙しい事は明白なので。
「……ありがとうございます」
 ササカは礼を言い、皆の力に頼る事にした。
「オレはあっちの棚から片付けて行く。早速だけど、ササカさん、陳列の手伝いを頼むぜ」
 シンはササカと一緒に商品陳列へ急いだ。
「それじゃ、私達はオルナさんと片付けを始めるね」
 歌菜は羽純とオルナと共に近くの現場へ移動。

 『ハウスキーパー』を有するシンはあっという間に片付け、商品陳列まで作業を進めた。
「……これはこっちをでいいな」
「はい。本当に助かります」
 シンはオルナに場所を教えて貰いながら散らばった商品や陳列を待つ物を並べていた。そんなシンの隣にはカゴがあり、気に入った雑貨を次々と放り込み、買い物も同時進行で行っていた。元々調味料の入れ物やテーブルクロスや食器を買う予定だったのだ。ローズは掃除が終わってから店で使うようなお洒落な小物を購入した。ちなみに全てササカにサービスして貰った。

 一方、歌菜達は
「さて、こちらも始めるか。まずは二人共俺の指示通りに動く事、いいな?」
 掃除を開始する前に羽純は歌菜とオルナに注意事項を叩き込んだ。なぜなら歌菜に任せると本人悪気が無くとも散らかる事が多々あるからだ。オルナもまた同様の理由で。
「いいよ」
「ササカの親友として頑張るよ」
 歌菜とオルナは元気に返事をし、リーダー羽純の下で頑張る事に。
 羽純は歌菜とオルナに指示を出しながらササカに商品を置く場所を確認したりと忙しく動いた。
 人数もいて何とか片付けはあっという間に終わった。
「終わったな。二人ともやれば出来るじゃないか。頑張ったな」
 羽純は最後まで掃除と片付けを続けた歌菜とオルナを労った。
「羽純くんもお疲れ様」
 歌菜はにこっと羽純を労った。
「みんなのおかげだよ。ササカ、ばっちり綺麗になったよ」
 オルナは誇らしげに様子を見に来たササカに言った。
「えぇ、どうなるかと思ったけど……皆さん、本当にありがとうございました」
 ササカは無事に店内が綺麗になった事に安心し、手伝ってくれた皆に頭を下げた。
 その時、
「虹が出てるよ」
 ローズが窓の外の虹に気付いた。
「虹? 本当だ! 綺麗だね。ほら、オルナさん、まるで頑張ったオルナさんを祝福してくれているみたい」
 歌菜は虹を確認してからオルナを手招きした。
「うわぁ、本当だぁ」
 やって来たオルナは虹を見るなり感動。
「折角だから虹を背景に記念撮影でもするか?」
 羽純は携帯電話を取り出しながら言った。
「さすが、羽純くん、名案! という事でみんな外に出よう!」
 歌菜は皆に声をかけた後、一番に外に出た。
「出よう、出よう。ほらササカ」
「はいはい」
 オルナもササカの腕を引っ張って外へ。
「私達も行こうか」
「あぁ」
 ローズとシンも折角だからと外に出た。
 そして、美しい虹を背景に記念写真撮影をした。