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通り雨が歩く時間

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通り雨が歩く時間

リアクション

 ヴァイシャリーの街。

「……ったく、何でこんな天気の良い日に仕事なのよ」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は恨めしい目で青空をにらんだ。
「仕方無いわよ。仕事が終わってから少し観光したらいいんじゃない?」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はセレンフィリティの文句に呆れながらも宥めるのだった。本日セレンフィリティ達は出張のためここに来ていた。そのため国軍制服を着用している。
「そうね……ん、ちょっ、雨? 勘弁してよー!! 近くの店に避難するわよ」
 セレアナの宥めに納得した時、頭上から雨が降って来てセレンフィリティは慌てて近くの店の軒下へ。
「えぇ。それにしてもおかしな雨よね。魔法かしら」
 同じく軒下に避難したセレアナはおかしな雨を見た。
「そんな事より中に入るわよ。丁度、喫茶店だし」
 セレンフィリティは店を確認した後、店内にさっさと入って行った。
「そうね」
 セレアナも続いた。見たところ人体には無害なので心配はないだろうと。

 喫茶店。

「……ったく、仕事にゲリラ豪雨って本当にツイてないわね」
「通り雨だからすぐに止むわよ」
 窓の外を眺め、セレンフィリティはますますげんなりしセレアナは青空を確認していた。
「少しここで雨宿りをするわよ。どうせ仕事の方は急ぎじゃないし」
「そうね」
 セレンフィリティとセレアナは視線を窓から目を離し、メニューを開いた。
 その時、
「セレンお姉ちゃん!」
 聞き覚えのある少女の声が背後から降って来た。
「……この声」
 セレンフィリティはメニューから顔を上げて振り返った。
 そこにいたのは地球人の少女。
「絵音じゃない。どうしたの? みんなお揃いで」
 セレンフィリティは笑顔で絵音と彼女の背後にいる三人組と陽一に声をかけた。
「旅行だよ。途中で陽一お兄ちゃんにも会ったよ!」
 絵音は見知ったお姉ちゃんとの再開を喜んだ後、ちろりと陽一を見上げた。
「前はその面倒を掛けてしまって」
 イリアルは自分達姉弟が起こした誘拐騒ぎを思い出し、申し訳なさそうに言った。何せセレンフィリティは誘拐犯扱いを受けたから。
「もう、その事はいいいわよ。それよりそっちも雨宿りなんでしょ」
 三人は根っからの悪人ではないと知っているセレンフィリティはカラカラと笑いながら言った。
「……せっかくだからみんなも座ったらどう?」
 セレアナは三人組と陽一に相席を勧めた。
「陽一お兄ちゃん、こっち、こっち」
 絵音はちょこんとセレンフィリティの隣に座ってからぽんぽんと自分の隣の席を叩きながら陽一を誘った。
「ありがとう」
 すっかり気に入られた陽一は絵音の隣に座った。
 三人組は適当に座った。
「急に雨が降り出して驚いたよ」
「しかも変な雨で」
 ハルトとナカトは雨について口にした。
「今日は、お姉ちゃんが御馳走してあげるから好きな物を頼んでいいわよ。あんたらも」
 久しぶりの再会に気分が良いセレンフィリティは絵音と三人組に思わずサービス。
「セレンお姉ちゃん、ありがとう!」
 絵音は喜んで何を頼むか選び始める。
「私達まで御馳走になるのは……」
 イリアルは申し訳なさそうにする。絵音はともかく自分達まで御馳走になるのはあまりにも気が引ける。
「気にしなくていいから、セレンの言う通りにしてあげて」
 セレアナは笑いながら三人組を促した。
「それじゃ、私は」
「ナカト兄ちゃん、何頼む?」
「オレは……」
 三人組もそれぞれ注文し始めた。

 賑やかな会話は注文した料理が届いてから始まった。
「それであんたら今調子はどう?」
 セレンフィリティは三人組の近況を訊ねた。
「みんなのおかげで何とかやってるかな」
 イリアルはスイーツを夢中で食べる絵音に目を向けながら答えた。少しだけ亡き妹を思い出しているかのようで。
「休みの時とか一緒に遊んだりさせてくれて絵音ちゃんお両親も分かってくれてるからさ」
 ハルトが少し詳しく近況を話した。
「それはよかったわね。あんたたち、しっかり絵音ちゃんを守ってやりなさいよ」
 セレンフィリティは隣に座る絵音の頭を撫でながら少しだけ厳しい口調で言った。絵音は嬉しそうにセレンフィリティを上目遣いに見ていた。
「そりゃ、当然さ」
 代表してナカトがきっぱりと言い切った。もう大事なものを失いたくないから。
「ところで絵音ちゃんと両親との間はうまく行ってる?」
 セレアナはそれとなく絵音と両親の間を訊ねた。三人と一緒という事は両親が仕事である可能性が高く以前は、そのせいで絵音は寂しい思いをしていた。
「相変わらず仕事が忙しく今日のように休日も仕事の時があるけど別の日に埋め合わせをして出来るだけ時間を作って一緒に過ごすようにしているみたいよ」
 イリアルが答えた。絵音の両親は何とか娘と過ごす時間を作り大切にしているらしい。
「上手く行っているみたいで安心したわ」
 セレアナはほっとした。
「スノハとはもう喧嘩してない?」
 セレンフィリティは絵音に親友との仲を訊ねた。
「うん、してないよ。セレンお姉ちゃんは元気?」
 絵音は元気いっぱいにうなずいた後、セレンフィリティの近況を訊ねた。
「あたし? 最近少尉に昇進していきなり仕事三昧で大変よ。今日も出張でここに来たわけよ。もう過労死寸前」
 セレンフィリティは少し大袈裟に言い放った。
「えー、セレンお姉ちゃん、大丈夫? これあげるから元気になって」
 絵音はセレンフィリティを励まそうとスイーツに載っていたフルーツをセレンフィリティの皿に載せた。
「ありがとう。もう元気になるわ」
 そう言って貰ったフルーツをぱくりと食べるセレンフィリティ。
「セレン、なに子供に励まして貰ってるのよ」
 セレアナは思わず呆れた。子供に励まされるとはツッコミを入れずにはいられない。
「陽一お兄ちゃんにはこっちのフルーツあげる」
 絵音は陽一も元気にしようとフルーツを陽一の皿に載せた。
「ありがとう。最近、何か面白い事はあった?」
 陽一は笑み、貰ったフルーツを食べながら近況を訊ねた。
「あったよ。前にパパとママと一緒に海に行ったら大きな砂のお城があったんだよ」
 絵音は両親と行ったパラミタ内海での海水浴を思い出していた。一番印象に残ったのは巨大な砂の城だったようだ。
「実はその城、あたしとセレアナお姉ちゃんともう一人と一緒に作ったのよ」
「えー、あの城を三人で? 本当に?」
 セレンフィリティの言葉に絵音はもの凄くびっくりして見せた。
 その顔が面白くてセレンフィリティは
「そうよ。大変だったんだから。造る度に巨大なゴーレムが城を壊してしまって、だから爆弾で吹っ飛ばして……しかもそこにいるお兄ちゃん、巨大化してゴーレムを滅茶苦茶に倒したのよ」
 テキトーな話をブッこく。
「本当?」
 絵音は事実かどうか確かめようと上目遣いに陽一に問いただした。
 陽一の返事は、
「本当だよ」
 絵音をがっかりさせないものだった。実際倒したのは事実なので。ただし再生されたが。
「セレン、子供相手にテキトーな事を言わないの」
 セレアナは呆れたようにツッコミを入れた。
「テキトーってほぼ真実だから問題無いわよ。そうそう他にもね……」
 セレンフィリティはまたまたテキトーな冒険譚をテキトーに話して絵音を喜ばせてはセレアナのツッコミが場を盛り上げていた。

 そうこうしているうちにいつの間にか雨は止み、
「ねぇ、虹が出てるよ!」
 虹が現れ、絵音を喜ばせた。
「折角だから虹を背景に記念写真でも撮る?」
 同じく虹を見たセレアナは素敵な提案をした。
「うん、撮る!」
 元気に返事するなり絵音は駆けて一番に店を出てしまった。
 この後、絵音の大きなお友達も急いで外に出て虹を背景に素敵な記念写真を撮った。