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祭壇に現れし魔獣 ~ガルディア・アフター~

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祭壇に現れし魔獣 ~ガルディア・アフター~

リアクション



魔獣ヴィグール

〜祭壇内部・通路〜

「グァァァァァァッ!」
 腐りかけた身体を光の刃で両断され、その場に崩れ落ちる亡者。
 動かなくなったその身体は済みのように黒く変色し、止まっていた時を思い出すかのように急激に風化していく。
「ふぅ……これで何体目でしょうね。ある程度浄化してから北都と合流しようかと思ったんですが……」
 振り向きざまに剣を抜き放ち背後に迫っていたスケルトンの首を斬り飛ばすと、蹴りでその体を一気に骨の塊へと戻した。
「……まだ無理そうですね。一体どのくらいの数がいるのでしょうか」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)は接近する敵へと対応しながら手を振りかざし、魔法の準備も忘れない。
 手の軌跡に合わせ、中空に出現した光の刃は多くの亡者を刺し貫きその身を灰へ変えていく。
「さぁな。もう数なんか数えてねぇよ……ったく、次から次へとっ!!」
 両の手を合わせて光を作るとソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)はそれを無数の小さな光球へと変え前方に放つ。
 放たれた光球は横殴りの雨の様に亡者の群れに命中し、彼らを光へ変えていく。
 亡者が一掃され綺麗になったはずの通路だったが、次の瞬間にはまた床や天井から亡者や怨霊が這い出して来ていた。
「またおかわりかよ……んなに一杯食えねえってのッ!」
 近距離まで接近していたグールの頭部を蹴り砕き、身体を掴んで群れの中に力任せに放り投げる。亡者の群れはぶつかった勢いで倒れもつれ合い侵攻が遅くなった。
 そこにクナイの光の刃が中空から降り注ぎ、亡者を一掃する。
「まあ、ここで食いとめておけば……あいつらの方にはいかねぇか」
「そういう事ですね。では、もうひと頑張りといきましょう!」

〜ヴィグールの祭壇〜

 地下深く。暗い祭壇の底にある小さな石造りの舞台。
 その中心に祈る様に座り、静かに終わりの時を待つ少女、リュアナ。
 後ろでは村長の声が響いている。
 数人の男達が槍のようなものを持ち、村長の近くに控えている。
「魔獣よ……此度も、生贄を差し出そう。この生贄の肉と魂によって静まり、今一度眠りの時を迎えたまえ……」
 リュアナは祈りながら、頭に過るのは一人の男性の事。
(……ガルディア、できれば貴方ともう少しだけ一緒にいたかった……もう叶わないことだけど、できるならばもう一度……貴方に――)
 そこで彼女の耳に信じられない言葉が聞こえてくる。
「全く、パフォーマンスも疲れるものだな。魔獣なんて存在、いるはずがないと言うのに」
「ど、どういうことですか!?」
 村長はリュアナの方を振り向くと、にやりと笑い答える。その笑いは悪人そのものであった。
「なに、簡単な事だよ。魔獣という畏怖の存在を作りだし、たった一人の小娘を犠牲にするだけで……この村は労せずに纏まる。魔獣という架空の存在に恐怖し、誰も村長である私の一族に逆らおうとしない。実にいい事ではないか」
 リュアナが村長を問い詰めようと立ち上がろうとすると、そばに控えていた男達が彼女を組み敷いた。
「いやっ! は、離してぇ!!」
「私が連れている男達がその事実を知っても平気な理由が、わからないか? その者達の一族も巫女として選ばれた少女を殺すという汚れ仕事を任されてはいるが……甘い汁も吸えているからなのだよ。殺す前にな」
 身体を撫で回す様に見つめる男達の視線を見て、彼女は全てを悟った。
「あぁ……い、いやぁぁぁーーーッ!!」
 もがき、抵抗するが力で抑えられた身体は身動き一つできなかった。
「まあ、せいぜい楽しめ。死という終わりの前に……ん? なんだ?」
 そこまで言って頭に落ちる雫に気づく村長。手で拭ってみると若干の粘り気がある。そして酷く臭い。
 気づくと自分の周囲に影が落ちている。自分を覆い隠すような建造物があっただろうか。
「――ひぃぃーッ!!」
 顔を上げた村長は赤い二つの大きな瞳を見た。痛みを感じる間もなく彼は巨大な顎で噛み砕かれて人としての生を終えた。
 その音に気づき、リュアナから離れた男達は悲鳴を上げながら逃げ惑うが、放たれる雷撃の帯によって捉えられ簡単に炭化。
 魔獣、ヴィグール。家等簡単に踏みつぶせてしまいそうなその巨体がリュアナの方を向いた。
 乱れた衣服を抑え、彼女は魔獣への恐怖でその場から動けずにいた。
(だ、誰か……助けて……)
 振り上げられた前足が彼女を踏みつぶす寸前、高速で飛んできた何かが彼女を空へとさらった。
 地を踏みしめる結果となったヴィグールは目線でゆっくりとその存在を追った。
「間一髪セーフ……だね。もう大丈夫だから、安心して」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)はその腕でリュアナを抱きながら宮殿用飛行翼で空を飛んでいた。
「村長は、一つ思い違いをしていたんだよ。ヴィグールは存在しないんじゃない……姿を見せていなかっただけなんだ。」
「姿を見せていなかった……?」
「そう。多分、眠りの周期がどこかで変わったんだろうね。だから儀式を行っても出てくることがなかった。そして、時が経つにつれヴィグールの存在は架空の魔獣であると誤認識されていったんだよ」
 銃型HC弐式・Nで受信した情報をリュアナに聞かせる北都。
「でも、血筋の巫女達はちゃんとヴィグールに対抗する術を残していたんだよ。それが貴女の歌なんだ」
「歌?」
「うん。いつも歌っている歌がきっとヴィグールを弱体化させるか、眠りにつかせる為の歌なんだと思う。この歌詞に見覚えない?」
 そういって銃型HC弐式・Nに表示された歌詞を彼女に見せると驚いたような表情をした。
「確かに……いつも歌っている歌です」
「やっぱり。この歌を歌って欲しいんだ。隙は僕らが作るから――っ!!」
 ヴィグールが無作為に放った雷撃によって砕かれた岩の欠片が宮殿用飛行翼に命中し、破損。急激に高度が落ち始める。
 なんとか体勢を整え地面へと着地すると、リュアナを降ろし北都はヴィグールと対峙する。
 弓による攻撃は多少ヴィグールの動きを鈍くするものの、ダメージはさほど与えられていない。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおーーーッ!!」
 壁から高速で駆け下りてきた何かがヴィグールの肩を斬り裂いていく。黒い流水のような軌跡を描き、その者の一撃はヴィグールに深手を与えた。
 肩から吹き出す血に呼応するように大地が震えるような咆哮を上げるヴィグール。
「グガァアアァァァァァァァァッッ!!」
「ほらほらッ! こっちだ魔獣野郎!」
 足の間をすり抜ける様に白銀 昶(しろがね・あきら)が地を走った。
 彼を追いかけ、雷撃を放ったり足を踏み鳴らすがそのどれも北都の弓での妨害を受け、白銀を捉えるには至っていない。
 ヴィグールの脚に霊断・黒ノ水を突き刺し、そのまま一気に駆け上がりながらその巨大な身体を裂いていく。
 背中まで到達すると、高くジャンプし地上へと降りる。ヴィグールの動きはそれに追いつかず、咆哮をあげながら無作為に雷撃を放つ。
 地面に落ち、大地を抉った雷が一筋の帯へと変わって白銀に迫った。雷の落ちた場所が悪く回避は間に合いそうにない。
「……っ!!」
「させないっ! タイミング合わせて!」
「……わかりました」
 白銀と雷の間に割って入った十七夜 リオ(かなき・りお)フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)が二人同時に耐電フィールドを展開する。
 展開された半透明のフィールドは迫る雷の帯を受け止めた。重い衝撃が展開する二人を襲う。雷の帯はフィールドにぶつかると四散しかき消える。
「くっ……一撃が重い、そう何度も防げないか。だったら攻めに出るよ! フェル、守りは任せた!」
 飛び出すリオに追従しながらフェルは迫る雷の猛攻を耐電フィールドを展開し、全て防ぎきる。
「受け止めずとも、方向を変えるだけなら……一人でも問題ないです」
 ヴィグールの大きな足が地面を削りながら二人に襲い掛かった。そのまま吹き飛ばすつもりなのだろう。
 その行動を先読みしたフェルは右手を突き出して意識を集中する。
 彼女の手からまるで花が咲き、花弁が開くように氷の盾が顕現。ヴィグールの足を受け止めた。衝撃で若干地面に足が埋まったものの、押し負けるようなことはない。
「リオ、今です」
 地を蹴って跳躍するとリオはヴィグールの足に乗る。そのまま巧みに駆け上がりながら彼女は融合機晶石【バーニングレッド】を握りしめ自らの体に取り込む。
 駆け上がる速度と比例するように彼女の身体は徐々に綺麗な紅い炎を纏っていく。背中まで駆け上がった彼女は更に高く跳躍、身に纏った全ての炎を機晶石に集中させていく。
(あの魔獣、雷を放つ時は背中の大きな二本の角から放ってるね。ならその角同士の中心に雷を発生させる器官の様な物があるはず!)
「生贄の代わりにこれでも食らえぇぇぇーーッ!」
 狙いをつけると彼女は姫晶石に溜まったエネルギーを一気に解放、魔獣の背中に向かって放った。紅い螺旋状に回転するエネルギーの奔流が魔獣の背中を砕き、撃ち貫く。
 激しい咆哮をあげ、暴れまわるヴィグール。
 巻き込まれないように上空から降下してくるリオの着地の手助けをするフェル。
「これで奴は、雷を自由に操れなくない。だいぶ戦いやすくなるはずだよ」
「なら、後は俺に任せろ……巻き込まれないように離れていてくれ」
 背後から姿を現したのは狐面の男……紫月 唯斗(しづき・ゆいと)
 暴れるヴィグールを眺めると、彼は一言。狐面で顔は見えないがその下の表情は微笑んでいるのだろう。
「よぅ、おめぇがヴィグールか? 今から――滅ぼすから」
 踏み込みからの加速で一気に距離を詰める唯斗。ある程度接近したら両手を後ろに突き出し掌で炎を爆発させる。衝撃でさらに加速した彼の身体は弾丸のようにヴィグールに迫った。
 唯斗の鋭い蹴りが暴れるヴィグールの横っ腹を歪に曲げる。衝撃でくの字に曲がり、若干空中に浮いた四足歩行の魔獣は更なる乱打を受けその高度を上げていく。
「はぁぁぁぁ……ッ!」
 身に纏う鬼種特務装束【鴉】【PCM−NV01パワードエクソスケルトン】から紅い光が放出され始める。高速で動く彼の動きは黒い影の様に見えた。紅い光の帯が彼の動きを軌跡として中空に描き出す。
 満身創痍となったヴィグールは渾身のアッパーによって高く打ち上げられ天井に衝突し力なく落下。
 その落下に合わせ、彼は正中線を中心に驚くべきスピードで全ての急所を貫いた。
 地鳴りとも取れる地響きを響かせヴィグールは大地に落ちた。
「こんなもんで終わると思うなよ? お前が生贄に与えてきた全てをくれてやる……ッ!」
 攻撃の再開に入ろうとした唯斗に黒いイカヅチが真っ直ぐに伸びた。咄嗟に躱したが、掠った腕には強力な電撃特有の痺れが軽く残っていた。
「なんだ……!?」
 ヴィグールは黒い電撃を纏い、ゆらりと二本足で立ちあがった。紅い目を光らせ腕を薙ぎ払う様に振るった。
 その軌道に沿って黒いイカヅチが地面を削り扇状に広がった。
「グガァァァアアアアアァァァァッ!!」
「ここからが本番って事か……いいだろう、受けて立つッ!!」
 黒い鬼神と黒い魔獣は再び人外の戦闘を繰り広げていく。誰にも邪魔をすることなど許さないかのように。

迷いの先に

〜ヴィグールの祭壇〜

 契約者達と合流したガルディアが最深部に辿り着いた時、状況は悲惨なものであった。
 その場にいたほとんどの者が傷つき、ヴィグールから離れた位置に退避している。ヴィグールがそれ以上彼らに近づかないように足止めしている契約者達も既に満身創痍状態。気力のみで戦っているに近い。
「どういう状況だ……これは」
「ふむ……危機的状況に陥ったヴィグールが本性を現した、といった所か。動物にはよくある反応の一つだな」
 冷静に状況を分析するメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)の横でエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はもう走り出していた。
「冷静に分析してる状況じゃないっ! 僕らは回復に回ろう! メシエはあっちの人を頼む!」
 軽いため息をつきながらその背中を見ながらメシエも走る。その表情は柔らかい。
「まったく、着いてそうそうに忙しい事ですね」
 メシエの目線の先でエースはホーリーブレスを発動し傷ついた契約者達を癒し始めた。その優しい息吹は傷ついた身体を静かに包み込み徐々に傷を塞いでいく。
 意識の戻った契約者達のそばによるとを助け起こし、彼は優しく声をかける。
「もう大丈夫ですよ。君達の傷は僕らが癒します。ですが、塞げるのは傷だけで体力が戻るというわけではありません。無理はせずに体を休ませておくようにしてください」
 伝え終るとエースは立ち上がり、別の倒れる契約者の元へと向かう。さながらその様子は戦場の看護師のようにも見えた。
 救護に専念しているエースに危険が及ばないか注意しつつも、メシエは命のうねりを発動し的確に傷ついた契約者を救助していく。
 エースの伝えたことを同じように丁寧に説明し、別の契約者の元へ走った。唯一違う所は、怪我の程度を判断しより重傷な者を優先している所ぐらいである。
 といってもエースが特別それを見抜けないわけではなく、メシエの経験則から来るもので彼意外には不可能といえる。

 彼らの後方、通路の入り口付近にて戦闘しているのはエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)
 エースとメシエが回復に専念できるように湧き出す怨霊や亡者の群れを一人で食い止めていた。
 数が多いだけで怨霊や亡者達はそれほど強くはない。囲まれないように注意しながら戦うだけで十分に足止めできている
「一体一体はそれほど強くはないようですね。これなら僕だけでも大丈夫そうです。エースが怪我をしている人達を上手く助けられるといいのですが……」
 エースたちの方を心配しつつも、彼は亡者達を一匹たりとも後ろへと逃さずに排除していった。

「私も……役に立てるなら。怖がっていられない……!」
 意を決し、リュアナはその場から立ち上がり歌を歌い始める。
 静かな音色の歌が辺りに響き渡る。聞いているものの心を安らげるかのような、優しい歌。
 歌に反応し、ヴィグールが苦しみ暴れまわった。腕を振り回し所かまわず破壊する。ゆっくりだが確実にヴィグールの動きは鈍っていく。
 ヴィグールはなおも続く苦しみから逃れようと黒いイカヅチをリュアナ目掛けて放った。
 接近するイカヅチの前にガルディアが立ちはだかり、彼の手は腰の刀に伸びる。柄を握り抜こうとするが、まだ迷いがあるのか抜くことができない。
 目の前に助ける事の出来なかった少女、エリーの姿がちらつく。
 自分が戦えば、また結末は同じになってしまうかもしれない――。
 ガルディアにイカヅチが直撃する寸前、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)によってそのイカヅチは弾かれた。
 彼の左手の手甲レンズ部分から光刃が伸び、カタール状の形を取っている。彼がどういう存在なのかガルディアは一瞬で理解した。
「動ける限り――戦え。それが俺達の存在理由だ」
 彼は疾駆する。誰よりも早く。まるで他とは違う己の存在をガルディアに見せつける様に。
 速度をそのままにヴィグールの足を手に持った二丁の銃で撃ち抜く。直後、彼の姿がふっと消える。
 次の瞬間にはヴィグールの傷口の真横に彼の姿はあった。
 傷口内部にシリンダーボムを投擲すると彼は高速でその場を離脱する。彼が離れた位置に出現するのと同時にヴィグールの右ひざが内部から爆砕した。
 咆哮をあげながらヴィグールは片膝をつく。爆砕された足はズタズタになっており、血だまりを地面に作っていた。あの様子ではもう立つことはできないだろう。
 ガルディアの隣に現れた彼はガルディアの方を向かずに喋る。
「俺は兵器種である事を肯定している。自分自身からは逃げられない――違うか?」
「俺は……俺は……」
 震えるガルディアの手に優しく自らの手を重ねるルカルカ・ルー(るかるか・るー)。柔らかな笑顔で彼に語りかける。
「力の振るい方はその人次第……自分を信じて、ガルディア」
 ガルディアはゆっくりとルカと共に刀を抜き放つ。白い刃がヴィグールの方を向いた。
「大丈夫。そばに付いてるから……一緒にッ!」
 ルカとガルディアは二人で刀を握ったまま走る。
 ヴィグールは二人に向けて薙ぎ払う様に黒いイカヅチを二、三度放った。イカヅチの壁が二人の前に立ちはだかる。
 それはまるでガルディア自身を捕らえる心の鉄格子の様にそびえ立つ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーッッッ!!」
 穏やかな水色だった彼の瞳が、紅い深紅の色へと変わっていく。刀の切先を中心に白い光が二人を包み込むように発生した。
 それは迫る黒いイカヅチを弾き返し、更に二人の速度を上げていく。
「喪う痛みを知っているからこそ。貴方はもっと強くなれる。護る為の力としてッ! 旧き災厄の獣と共に迷いごと断つッ!」
 二人を包んでいた白い光が収束し刀に集まっていく。白く輝く刃となった刀はヴィグールの胸部に深々と突き刺さった。
 ヴィグールの傷口から白い光が溢れだし、それは閃光となって辺りを包む。
 白い光の中でガルディアは懐かしい声を聴いた気がした。
(もう……大丈夫だね、ガルディア)
 ルカがガルディアの方を見ると、彼の頬を一筋の涙が伝っている。
 その涙を知ったのはルカだけであったが彼女はそれを誰にも言うまいと思い、自らの心の奥にその光景をそっとしまう。
 閃光が収まった時にはそこにヴィグールの姿はなかった。
 戦いは終わったのである。気を張っていた他の契約者達は肩から力が抜け、その場にへたり込むものや抱き合い笑いあう者達もいた。
 そんな中でただ一人ガルディアは中空を見つめている。ルカもまた何も言わずにその隣に立っていた。
 ダリルが近づいてきて、すっと手をガルディアに差し出す。
 ガルディアも深紅の目でダリルをしっかりと見ると、その手を握り返し固い握手を交わした。
 ここに事態は終結を迎えたのである。

進むべき道

 ヴィグール討伐の報せに村人達は喜びのあまり連日連夜、宴を催して騒ぎに騒いだ。
 凱や他の契約者達の働きもあって、初めて生還した巫女であるリュアナは村に温かく迎えられ、次期村長になるべきだ! などの声も上がるほどであった。まあ、酒の席での事ではあるが。
 村長に口止めされていただけで、彼女の歌のファンは多く村人の誰もが彼女を死なせたくなかったらしい。
 結局村の重役達の真意は分からずじまいではあったが、騒ぎが集結し独裁的な支配を強いていた村長がいなくなったのでそれで良しとしているのかもしれなかった。
 現に巫女であるリュアナについては大手を振って歓迎しており、自らファンだったと申し出る重役もいたほどである。
 そのリュアナは戻ってきてからずっとガルディアの姿を探していたのだが……結局、宴の最中は彼を見つけることはできなかった。

〜村・入口〜

 リュアナがガルディアと会えたのは宴から数日後の事である。
 彼は旅支度を済まし、再び村から旅立とうとしていた所であった。
 走って村の入り口の門まで来た為に、リュアナは肩で息を切らしている。
「ガルディア……はぁはぁ、やっと、会えた……」
「…………」
 ガルディアは無言のまま振り向かない。
「行ってしまうんでしょ? わかってるから……きっともうここには……」
 リュアナの声がどんどん沈んでいく。言いたくない言葉に近づく程に暗く。暗く。
 後ろ手にガルディアが何かをリュアナに放った。
 山なりにゆっくりと落ちてくるそれを落としそうになりながらも必死に掴む。
「これは……ペンダント?」
 背中を向けたまま、ガルディアは口を開いた。
「――――預けておく」
 歩き出す彼の背中にリュアナは大きく手を振った。表情にもう暗さはない。彼の行動の意味を知ったからである。
「ガルディア、いってらっしゃいっ!」
 彼は背を向けたまま、申し訳程度に手を振ってその言葉に答えを返した。
 リュアナは照れくさそうな彼のその動きを見て満面の笑みを浮かべ、背中が見えなくなるまで手を振り続けたのであった。

担当マスターより

▼担当マスター

ウケッキ

▼マスターコメント

お初の人もそうでない人もこんにちわ。ウケッキです。
今回は前回のお話のガルディアの物語をお届けいたしました。
過去を振り切るのって難しい事ですよね。
戦士として甦ったガルディア、これからどのように活躍してくれるのでしょうか。
もしかしたらまた、彼の物語を書く時が来るのかも……?

今回はこの辺で。
ではではー。


▼マスター個別コメント