葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

リアクション公開中!

温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

リアクション

 部屋。

「こういうのも悪くないわね」
 部屋に到着するなり水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)はのんびりと畳の上で寛ぎながら窓の外を眺めていた。図書館で借りた本で適当に読書の秋を過ごそうかと思った所、町中でチラシを手に入れたマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)にせがまれて行楽の秋も悪くないとやって来たのだ。
 そのマリエッタは
「カーリー、温泉に行こう。美肌効果を確かめないと」
 温泉を楽しむ気満々である。ある一つの目的のためにここに来たのだ。
「ちょっと、マリー」
 ゆかりは足早に温泉に向かうマリエッタを追いかけた。

 部屋。

「早速、温泉に行こう! 早く美肌効果を確かめたいから」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は温泉に行く気満々。なぜなら旦那様の月崎 羽純(つきざき・はすみ)のためにもっと綺麗になりたいと思っているから。
「そうだな。行くか。疲労回復の効果も確かめたいしな」
 言葉とは裏腹に本当は混浴に誘いたかったのだが、効能に目を輝かせる歌菜を邪険には出来ずに月崎は希望を引っ込めた。
 二人はそれぞれ別れて温泉を楽しんだ。

 宿、玄関先。

「うおー、のっぺらぼうだ〜」
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は迎えてくれた夫妻に駆け寄りペタペタと触りまくった。
「……!!」
 アキラの行動に驚き、動けぬ夫妻。
「アキラ、何アホゥな事をしておる!!」
 アキラの行動に一番に反応したのはお馴染みのルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)。慣れた手つきで見事にアキラをどついてみせた。
「いってぇ」
 アキラはどつかれた箇所をさすりながらルシェイメアをにらんだ。
「貴様も初対面の人にこうやって不躾に顔を触れられたら嫌じゃろうが」
 ルシェイメアは腕を組みながらアキラを叱った。
 ルシェイメアの言う通りだと感じたアキラは
「……失礼な事をしてすみません。こうして会えた事が嬉しくて」
 頭を下げて謝った後、笑顔で出会いを喜んで見せた。
「……(いいですよ)」
「……(妻はのっぺらぼう一美人ですからね)」
 心が広い夫妻は手振り身振りで気にしていない旨をアキラに伝えた。
「……許してくれたみたいだ」
「何か少し惚気ておるの」
 アキラとルシェイメアは何となく夫妻の言葉を読み取った。
「温泉楽しみですね」
 ヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)は美容効果を持つ温泉が楽しみ。
「荷物はオレ達が運ぶぜ」
「部屋に案内するね」
 待機していた白銀と北都が荷物持ちと案内を買って出た。
「ありがとうございます」
 セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)は礼を言い、荷物を白銀に託した。
 アキラ達は特に気にする事無く同じ部屋を選んだ。ただし、着替えの時はアキラが席を外す形にはなるが。
 部屋に到着するなり早々に
「温泉に行って来ますね」
「私も行きます。楽しみですね」
 セレスティアとヨンは温泉に行き、他の客とガールズトークを楽しんだ。
 浴衣に着替えたアキラは
「よし、散歩に行って土産も見て温泉に入るぞ!」
 夫妻に教えて貰った散歩コースや土産を物色してから男湯に行った。混浴に興味はあれどヘタレなのとパートナーの手前諦めたという。
 部屋に一人残ったルシェイメアは
「窓の景色を楽しみながら読書でしようかのう」
 窓の外を楽しみつつゆるりと流れる時間の中、読書をしてから温泉へ向かい、不埒者を成敗していた。
 何やかんやと楽しく過ごした後、名物の鍋を食べる事になった。
「うぉ、これが名物の鍋か。なかなか美味しい! ところで……何でも無い」
 アキラは好奇心故にためらう事無く一番に頬張りながら作業をする女将を見てどうやって食事をするのか気になるも先の事もあって飲み込んだ。
「ふむ、なかなかいけるのう。この二種類の酒もなかなかじゃ」
 魔女のルシェイメアは妖怪料理も魔女料理と同じ認識で食しネネコ河童としょうじょうが卸した酒を楽しんだ。
「ん、美味しいですね。この食材は何ですか?」
 セレスティアは珍しい食材を発見しては女将に訊ねていた。
「……大丈夫そうですね」
 ヨンは皆が大丈夫そうなのを確認してから食し、満足顔になった。
 食事後はカードゲームをしたりして時間を潰す中、ヨンが一番最初に就寝した。
 アキラ達は、存分に宿を楽しんだ。

 部屋。

「珍しくおぬしが温泉旅行を企画したと思うたら妖怪の温泉宿とは楽しみであるの!」
「しかも美肌効果があるなんてたくさん入るわよ!」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)リーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)はすっかり満喫モード。
「……二人共なんか元気だな」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は二人の女子な空気に圧倒されていた。
「それじゃ、私は早速行って来るわね!」
 リーズは早々に湯へ向かった。
「うむ、妾は厨房にでも行ってみようかの。どのような料理を出すのか気になるからのう。特に妖怪製となれば是非女将に教えて貰わねばな。そして温泉……また妾の美しさが増してしまうの」
 エクスは浮かれた様子で厨房へ向かった。
 一人残った唯斗は
「……俺も温泉に行くか」
 ぼっちらぼっちらと男湯に向かった。

 美肌を求める乙女達が集う女湯。

「今日はゆっくり出来ますね」
 湯に浸かるセレスティアはすっかり極楽気分。何せ宿にいる間は家事を一切しなくていいので存分に羽を伸ばしている。
「……はぁ、美肌の他にほんの少しでもいいからボリュームが」
 ヨンは胸を見て溜息。たくさんではなくても少しあればと。
「……そうよね。スタイルが良くなるとかあれば」
 同じくマリエッタも自分の胸を見て溜息。ちらりと見るゆかりの素晴らしいプロポーションに比べて自分はまるっきり中学生な容姿そのもの、溜息が出ない方がおかしい。
「……」
 沈黙する二人。
 そして、
「まだ成長の余地はあるはず」
「そうですね」
 マリエッタとヨンは希望的観測で自分達を慰めたり励ましたりするのだった。
 隣では
「美肌もなかなかのものよ。肌が瑞々しくなって張りが出ているもの」
 美肌効果に喜ぶゆかり。
「ですよね。もう肌がツルツルで吸い付く感じ♪」
 歌菜も腕を触りながら嬉しそう。
「そうそう。一回の入浴でこれだけ綺麗になるならもっと入ればもっと綺麗になるって事だよね」
 リーズは美肌効果に大満足の様子。
「お風呂巡りでしたら付き合いますよ。この後、他の湯も行く予定ですから」
 セレスティアがリーズをこの後する予定の湯巡りに誘った。
「それなら付き合うわ。もっと綺麗になるんだから」
 リーズは迷い無く誘いに乗った。
「ふはぁ……肌の色が明るくなった感じよね……」
 ゆかりはゆっくりと湯に浸りながら頭の中で自分の年齢を計算する。
 途端、
「……って、私、来年で」
 ゆかりははっと我に返る。四捨五入をするとお肌の曲がり角どころではなかった。
「カーリー、大丈夫?」
 マリエッタが少しのぼせ始めたゆかりに声をかけた。
「大丈夫よ、あまりにも気持ちよくて」
 ゆかりは手で仰ぎながら答えた。
 その時、
「美肌ねぇ。肌や胸よりも髪でしょ。美しさは」
 6メートルもある黒髪を器用に頭上でまとめた美女が会話に加わった。
「……髪?」
 聞き返す歌菜。
「そうよ。この美しい髪! この髪に魅了されて何人もの男性が私の所に……」
 聞かれた事が嬉しいのか美女は嬉々として髪自慢を始めた。
「確かにとても綺麗ね。何か特別な手入れとかしているの?」
「えぇ。とっておきの洗髪料に貴重な櫛で梳かしているんだから」
 訊ねるリーズに美女は近くにある妖怪製の洗髪料を見せながら自慢。
「……また始まった」
 その様子を呆れたように眺める透き通った肌を持つ美女がいた。
「始まったというと?」
 ゆかりが妖怪らしき美女に訊ねた。
「彼女、沼御前の榊宮(さかきのみや)と言うんだけど自分の髪が大好きで褒められると調子に乗るのよね」
 美女は呆れながら理由を話した。
「沼御前って大蛇が化けているという妖怪よね?」
 『博識』を有するゆかりはすぐに沼御前の榊宮がどんな妖怪なのか見当が付いた。
「そうそう。大蛇の姿も美しいだろうって調子に乗ってるのよ。ちなみにアタシはつらら女の透香(とうか)よ」
 透香は溜息をつきながら答えた。
「つらら女なのに熱いお湯に入っていて大丈夫なの?」
 マリエッタが抱いて当然の疑問を%にぶつけた。
「えぇ、熱対策でオイルを塗ってあるから。塗らなくてもアタシぐらい妖力が強ければ温度を下げるだけで溶けはしないけど。他人に迷惑を掛けたくないから。この後、冷湯にも入るけど」
 透香は腕に湯をかけながらにこやかに答えた。
 そんな透香の呆れなどお構いなしに榊宮は歌菜と話していた。
「それで榊宮さん、その洗髪料って人間でも大丈夫ですか?」
「私達が使っても綺麗になる?」
 興味を持った歌菜とリーズが洗髪料に食いつき、使用したくてたまらなくなる。
「えぇ、大丈夫よ。良かったら使ってみる? 髪が艶やかになって絹糸のように櫛が通るわよ」
 自分の話を聞いてくれて嬉しい榊宮は洗髪料を快く二人に差し出した。
「是非!」
「私も」
 受け取るなり歌菜とリーズは早速、使用した。
 その結果、
「うわぁ、何かいつも以上に髪に張りと艶が」
 歌菜の髪の毛は生まれ変わったと思えるほど美髪になっていた。
「色艶がよくなった感じ。これも温泉と同じく妖力が入っているの?」
 リーズは艶やかな赤色の髪を撫でながら訊ねた。
「凄いです。それ販売とかしていますか?」
 見守っていたヨンは驚きの声を上げた。
「してるわよ。この宿で。しかも私だけじゃなくて二口女も使ってるのよ。妖力もたっぷりよ」
 自慢げに宣伝を始める榊宮。
「それは是非買わないと」
「お土産に忘れずに買いたい」
 歌菜とリーズはすっかり買う気になったり。
 その時、
「へぇ、美肌効果のある温泉ねぇ、素敵な所に招待してくれるのね、オルナ?」
「そりゃ、当然だよ。ササカ様々、感謝しまくりですから〜」
 二人の女性が入って来た。
「この声は……オルナさんとササカさんも来たんですね?」
 聞き覚えのある声に歌菜は瞬時に反応した。