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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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温泉と鍋と妖怪でほっこりしよう

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 卓球コーナー。

 九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)達は卓球をするべくこの場所にいた。

「正々堂々とした勝負をするようにね。もちろん、ジャッジは公平にするよ」
 審判担当の冬月 学人(ふゆつき・がくと)はそれぞれ配置についている二組のチームに言った。
「おう」
「当然だろ」
 キスミとシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)。実は、キスミがルカルカと散策している間にヒスミがローズ達の誘いを受け兄弟揃った今、勝負を始めたのだ。
「勝ったらあれ、全部貰えるんだよな」
 ヒスミが指さしたのは椅子にこれ見ようがしに置かれている優勝賞品の温泉卵、フルーツ牛乳、アヒル隊長だった。
「もちろんさ。シンとローズはもう大丈夫だと分かっているけど、二人は物騒な物は持っていないよね?」
 学人が双子の持ち物検査を切り出す。
「何だよ、それ」
 当然、文句を垂れる双子。
「大人しく出せ。惨事に巻き込まれては敵わないからな。試合が終わるまで預かっておく」
 斑目 カンナ(まだらめ・かんな)は厳しい口調で促した。双子を知るため何かを持っている事前提である。
「……」
 双子は渋々手持ちの魔法薬を全て出した。
「持ち物検査も終わった事だし、試合を始めようか」
 学人が試合開始の合図を出した。

 先攻は、じゃんけんで勝ったシン&キスミチームからとなった。
「シン、ピンポン玉……」
 ローズは持って来たピンポン玉を差し出すも
「いや、いらねぇ」
 シンは断り、マイピンポン玉を取り出した。実は卓球好きであり、ローズ達も周知済みの事である。
「マイピンポン玉にマイラケットとは、きさま卓球をやりこんでいるなッ!」
 ローズはピンポン玉だけでなくラケットも持ち込んだシンに言った。すっかり妙なテンション。
「答える必要は無い」
 シンは勝負師の目で答えた。
「行くぜっ!!」
 シンは鋭いサービスショットで台の縁ぎりぎりにヒットさせる。
「くそっぉ」
 ヒスミは取れず、シン達に初点を許してしまう。
「なかなかやるな」
 ローズはラケットを構え直し、二撃目に備える。
「このシン・クーリッジに初歩的なミスは決してないと思っていただこうッ!」
 シンは出だし好調の勝負に闘志をたぎらせる。
「まだまだこれからだっ!!」
 再びシンの鋭いサーブがローズ達を遅う。
「そっち、行ったぞ!!」
 ヒスミが玉の軌跡を目で追いながら、大声を出す。
「任せろっ!!」
 ローズは駆けつけ、勢いよくラケットを振って見事に返す。
 しかし、
「こんなショット、訳もねぇ」
 シンが鮮やかに拾ってみせた。
「……出だしは好調だな」
 シンチームを応援するカンナは勝負の行方を大人しく眺めていた。
 勝負は続く。シンがカットなどの回転を加えて勝ちを狙い、点を入れるも
「行けーー」
 ローズが勢いよく拾って返す。
 その玉は、ネット際すれすれを飛び、卓に着地した瞬間、
「よし、頂きだ!」
 バウンドとするであろう玉を拾おうとするキスミ。
 しかし、玉はキスミのラケットから逃げるように離れて着地。
「また向こうの点かよ」
 シンは忌々しそうに洩らした。実は、勝負中何度かあったのだ。ネット際やコーナーすれすれの微妙な位置を玉が飛ぶ時に。勝負はさらに続き、拮抗状態。

 そんな時、
「おい、キスミどうした?」
 シンは隣で訝しげな顔をするキスミに気か付いた。
「……ん〜、何かいつものヒスミと違う。だけど、ラケットもここのを使ってるし、仕込む時間は無かったはず」
 キスミはヒスミの鋭い回転がかかったショットを逃した時に妙な違和感を感じていた。
「違う、か。お前が言うなら間違いねぇな。という事は……」
 キスミの言からある事実に辿り着くシン。
「…………おかしい」
 卓球が上手なシンを応援していたカンナもまた同じく何かに気付く。
「サーブ、打つよ!」
 ローズがサーブを打とうとした瞬間、
「打つなーーッ! 九条ジェライザ・ローズーッ!」
 カンナの鋭い待ったが入り、一時中断。
「何を言うかと思えば……」
「触らねぇと試合出来ねぇだろ?」
 ローズとヒスミは肩をすくめる。
「あんたらは何かイカサマをしているな。玉の動きが不自然だ。方法が分からないがなんらかのイカサマであるのは確かだ。許せん」
 カンナはビシっとローズ達を指さしながら指摘した。
「ほほう、イカサマですか、カンナさん、何か御証拠でもありますか?」
 ローズはわざとらしい笑みを浮かべながらからかい気味に返した。
「くっ、それは分からないが……その方法が分からない所が許せん! ヒスミ、何か仕込んでいるのではないか?」
 カンナは、証拠を問い詰められる言葉に詰まってしまう。
「はぁ、何言ってんだよ。最初に持ち物検査して全部没収しやがっただろうが」
 ヒスミは溜息をつき、カンナの言を妄言と取る。
「まぁまぁ、カンナも落ち着いて」
 学人は穏やかな笑みを湛えながら、カンナを落ち着かせようとする。
「追加ルールだ。イカサマを完全に見切ったらこちらが勝ちだ」
 カンナはこちらが有利となるルールの追加を提案する。
「ルール追加ね……グッド! それでいこう。ロゼ達もいいね?(たとえイカサマに気付いたとしても僕の介入を見抜きそれを証明できなければ彼等は将棋やチェスでいう『詰み』だけどね)」
 学人は面白くなると読んで胸の内でもにやりとしながら即呑むなり、ローズ達にも承諾を得ようと訊ねた。実は、ローズの『行動予測』によってシンがピンポン玉を出す事は予測済みで予めそのピンポン玉に学人が『式神の術』をかけてローズチームに点が入るよう細やかに操作していたのだ。
「いいよ。イカサマとやらを証明される前に勝負を決めればいいこと」
「だな」
 ローズとヒスミはあっさり承諾。
「では、作戦タイムだ!」
 承諾を得たところでカンナは作戦タイムを宣言し、シン達と相談を始めた。
「シン、キスミ、作戦だ。ラリーを続けないように一撃狙いで勝負を決めるんだ」
 カンナはこそっと作戦を提案。
「了解だ。玉の動きが不自然とか、そういう芸当が出来るのは、学人しかいねぇ。正々堂々にとか聖人面しておきながらイカサマに一枚噛んでやがるとは」
 シンもまた不正を見抜いていたが、証拠が無いため言い出すのは無理と考え、
「……そう言えば、オレが山に入っている間に誘いを受けたとか言っていたからその隙に細工ぐらい出来るな。ラケットに玉の回転を上げる薬でも使っているかもしれねぇ」
 キスミは兄が不正を働く隙があった事を思い出すもこれまた証拠はない。
「あいつの魔法薬が絡んでるとしたらオレ達の身も危なくねぇか?」
 シンは勝負とは別の妙な胸騒ぎを感じた。これまでにも双子の騒ぎに関わった故の直感である。
「……オレがいない時に作った物で心当たりがないから分からねぇ」
 キスミは肩をすくめるばかり。たとえ、薬が分かったとしても魔法薬は取り上げられているので何も出来はしないのだが。
「もうイカサマがどうとうか考えるのは面倒臭えッ。技術で押しきるぞ! それがオレの真実だッ!」
「あぁ。というか、ヒスミの奴、ずるいぜ。オレなんかここに来て何も試していねぇのに」
 シンは気合いを入れ直し、キスミは別の事で溜息をつきながら勝負に戻った。

 一方、ローズ達。
「ここまでは予定通り。シンの疑り深さも既に予測済みだもんね。相手が技術的に勝ってるけど、こっちが勝つよ」
 ローズは余裕でこそこそ作戦会議をするシン達を眺めていた。
「あぁ。だけど、キスミの奴、気付いたな」
 ヒスミはラバーにこっそり染み込ませた魔法薬を勘付かれた事を知った。
「まぁ、こっちが仕込んでいるのはそれだけじゃないからねぇ(もし、暴走するとしてもその前に何とか終わらせばいいかな)」
 ローズは気楽な言葉とは裏腹に胸内ではヒスミの魔法薬の警戒も怠っていなかった。

 シン達の話し合いが終わった所で、
「それじゃ、勝負再開」
 学人の合図が響き、勝負が再開された。
「話し合いで何か分かったのかな? 誰がどんなイカサマをしてるのか。詳しく教えてもらいましょうか」
「ばれなきゃ、イカサマじゃねぇよ。だろ?」
 ローズとヒスミは、挑発作戦に移行。

「そりゃ、まぁ、賛同だけどさ」
 あっさり兄の言にうなずくキスミ。
「おい、というか、まさか」
 シンが何かを言おうとするのを先回りして
「シン! 君は次に『これも作戦のうちかロゼ!』……という!」
 サーブ用の玉を持つローズはビシッと言い放つ。
「これも作戦のうちかロ……ハッ!」
 シンはついつい乗ってしまう。
 そんなシンとキスミに
「のまれるな! 技術はこっちの方が勝ってるんだ」
 カンナが奮い立たせる。
「あぁ、分かってるぜ」
「おう」
 カンナにうなずいてからシンとキスミは勝負に戻った。
「…………(しかし、ロゼ達の作戦が変わったという事はイカサマを封じ込めたか? それともまだ何かあるのか……まだあたしらは……受け身の対応者にすぎないのか……ッ!)」
 カンナは胸の内で勝負について迷走し、
「…………(ロゼ達はまだ相手を挑発する余裕があるか。まだ精神的に優位にいる! 攻めているのは僕らだ!)」
 学人は余裕に笑みをこぼしていた。
「それじゃ、行くよ!」
 ローズのサーブがうなる。
「作戦通りに行くぞ」
「分かってる」
 シンの合図で作戦は実行に移された。
 それはシンが玉が打ち上がってしまうような回転をかけて打ち相手が狙い通りロビングしてきたらキスミがスマッシュを打っていくというものである。
 前半とは違うシン達の動きに
「考えてきたみたいだな」
 余裕の言葉を洩らしつつ玉を必死に拾うローズ。
 勝負は続き、
「これを決めれば、オレ達の勝ちだ」
 キスミはサーブを打つ前のシンに言った。勝負は拮抗し、後一点入れたらこちらの勝利というところまで来ていた。
「あぁ、分かってる。……勝利の感覚が見えて来たッ!」
 キスミにうなずきつつ、集中するシンはラケットを持ち直し、ピンポン玉を強く握り締める。わき上がる勝利への感覚。
「とりゃぁっ!!」
 シンは、誰も見たことが無い黄金長方形の回転を繰り出す。
「絶対に取るぞ!!!」
 ヒスミは食いつき、玉を拾おうとする。
 しかし、
「おわぁっ!!」
 突然、ラケットが燃え上がり、ヒスミは慌てて手放し、玉を見逃してしまった。これまで打った玉の摩擦で魔法薬の影響が現れ、明白なイカサマの証拠となった。
 それにより、勝利はシンチームのものとなるもローズ達は速やかにヒスミの不始末を片付けた。