リアクション
◇ ◇ ◇ 「デュエル大会……このカードよね……」 リネン・エルフト(りねん・えるふと)は、拾ったカードを手に、ひとしきり考えた。カードは既にデッキが組まれてある。 「リネンじゃねーの。どうした?」 聞き覚えのある声に振り向けば、トオルだった。 「あ、POCのカードだな。リネンも大会に参加するのか?」 表情をほころばせたトオルに、リネンは頷く。 「こないだ、ならず者空賊から奪い返した積荷の中に入ってたの。 大会に参加してみたら、ひょっとして持ち主が見つかるかも、なんて……」 「そっか。俺も出るんだ。対戦相手になったらよろしくな! ……どうした? 何か変な顔して。ヘコんでる?」 「え? ううん……ただ、このデッキ……フリューネのカードが入ってたんだけど」 リネンは微かな溜息を漏らした。 「……私のカードって無いのかしら」 成程、とトオルは笑った。 ◇ ◇ ◇ 千返 かつみ(ちがえ・かつみ)は、一揃えのカードを半分ずつ二つに分けて、その片方を、パートナーの強化人間、千返 ナオ(ちがえ・なお)に渡した。 「対戦中も、なるべく見えるところにいるからな。頑張れよ」 「はい。かつみさんも」 「うん。 全く……何か、出掛けに『負けて帰って来た方に罰ゲーム』とか言い出す奴がいたからなあ……。 あいつの場合、何言われるのか予想つかなくて不安だよ」 「罰ゲームって何でしょうね!」 好奇心旺盛なナオの言葉に、 「ま、楽しくやるのが一番さ」 とかつみは微笑んだ。 ◇ ◇ ◇ 「ククク、カードバトルか」 ドクター・ハデス(どくたー・はです)は、カードバトル大会の要項を見てニヤリと笑った。 「各学校の校長達を使役できるとは、中々面白いルールだな! よし、各学校の校長を怪人化させた、『暗黒校長デッキ』で勝負しようではないか!」 オリュンポスマーク入りの、黒いカードスリープを掲げて、ハデスは高らかに笑う。 勿論、暗黒校長カードというものは無く、その辺はハデスの自称設定である。 「全校長カードは揃わんな。 何、勝ち進むに従って、デッキも完成に近づいて行く! 完成したその時には…………くくく…………」 一体何が。 ◇ ◇ ◇ カードゲームの大会申込書を書きながら、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、ひとつひらめいた。 「ねえねえ、一番負けた人が回らない寿司を奢るのはどう?」 「食べ放題だろうな?」 パートナーの英霊、夏侯 淵(かこう・えん)が真っ先に乗る。 ギフトのコード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)も頷いた。 「よし、乗った!」 「そうと決まればダリルも参加だからね〜」 「は? 俺は観戦だけのつもりで……」 既に記入済のダリルの参加申込書を手に、ルカルカは颯爽と受付に走って行き、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が止めようと思った時には既に受理されていた。 ◇ ◇ ◇ 女は、三人寄らなくてもかしましい。 「……お前等これ楽しいの?」 新風 燕馬(にいかぜ・えんま)の心底からの疑問に、殺意じゃねーのかこれ、と突っ込みたくなる冷たい視線が返って来た。 「次に同じ発言をしたら燕馬でも銃殺刑ですよ」 「そーね。斬刑ね」 「……ごめんなさい」 ここは素直に謝る。まだ命は惜しいのだ。 「でも、懐かしいですわね、トレーディングカード。 『レア手に入れたぜ』とか抜かすドヤ顔の男子共をシメて根こそぎ巻き上げてやった幼少の頃を思い出します」 「……お前そんなことしてたの?」 パートナーの意外な過去に、彼女、サツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)の迷子防止の為だけに付いて来た燕馬は、開いた口が塞がらない。 「サツキちゃーん、この大会はリアル暴力無しだからねえ」 ローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)がくすくす笑う。 「でも解るわ。こういうのって単純に集めるだけでも楽しいのよねー。 何が入ってるんだろう、ってドキドキしながら袋を開けるのも忘れちゃいけない醍醐味なワケ。この気持ち、わかってくれる?」 「淫乱ピンクと同意権というのは腹立たしいですが、解りますその気持ち」 ローザの言葉に、サツキもこくこくと頷く。 「俺は今、アウェー感を全力で感じている」 結局、燕馬は大会中、2人のパートナーが戻って来るまで、会場の隅で船を漕いでいた。 ◇ ◇ ◇ ゲーム大会会場を見物していたら、いつの間にかパートナーの姿が見えなくなった、と、ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)がキョロキョロと周囲を見渡しながら歩いていると、何やら人の集まっているブースの前で、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が、トオルとハグして離れるところなのだった。 しまった! と思いながら走り寄る間に、呼雪はトオルに何かを誘われ、言われるままに何かを書き込んでいる。 「呼雪? どうしたの」 「ヘル。ああ、今何か、トオルが人数が足りないらしいと……」 受付に用紙を出して戻って来たトオルが、「よう」とヘルに手を振った。 「……まさか大会に参加するの? 呼雪も?」 「そうなのか?」 「そうなの」 うん、と呼雪に訊ねられたトオルが頷く。 「しかし、俺はカードゲームとかトランプくらいしかやったことがないんだが……」 今更事情を知って、呼雪が戸惑う。 「俺も似たようなモン。ヘーキヘーキ」 トオルは安請け合いして、やがて張り出されたトーナメント表を見て笑った。 「俺とコユキ、一回勝ったら当たるぜ! 頑張ろうな!」 こうなったら参加するしかない。 呼雪は、はいっ、と渡されたカード一式から適当に選んでデッキを組む。 「……本当に大丈夫なの?」 その様子を見て、不安げにヘルは呼雪に訊ねた。 「まあ……多分」 「ま、いいか。それなら応援するからね!」 ◇ ◇ ◇ コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)とベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、てくてくと歩いているハルカの姿を見つけて声を掛けた。 「ハルカ? 君も大会に参加するの?」 「するのです。面白そうなのです。 ベアさん達もです?」 「美羽さんに誘われて。 戸惑いましたけど、ちゃんとできたら楽しそうですよね」 ベアトリーチェは、持っていたルールブックを少し持ち上げて見せる。 大会開始直前まで、少しでも読みこんで理解しておきたかった。 「トレーディングカードゲームのことは、よく知らないんだけどね」 「デッキも、美羽さんに作って貰って」 コハクとベアトリーチェは、そう言って苦笑する。 美羽は今、運営に協力を頼まれて、二人とは別行動になっているらしい。 「ハルカもそんなに詳しくないですけど、楽しそうなので、弱くてもいいのです」 「成程」 と、コハク達も頷いた。確かに、美羽はとても楽しそうだった。だから自分達も、一緒にやろうと思ったのだろう。 「そうだね。もしも対戦することになったら、よろしく」 「よろしくなのです」 |
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