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リアクション
桜月 舞香(さくらづき・まいか)と桜月 綾乃(さくらづき・あやの)が肩を並べて入室する。
「失礼します」
「今日は進路の相談だったよね」
「はい。卒業まであと一年ですし、そろそろ真剣に決めないと思ったんです」
舞香は真面目な表情で頷く。一方で綾乃の方は気楽な笑顔を浮かべていた。
「桜月……綾乃さんの方は決まってるの?」
「私の進路希望はもう決まってるの」
綾乃はこくりと頷いた。
舞香を実の姉のように慕い、同時に突き進む舞香をフォローし抑える、優しいお嬢様。そんな風に彼女のことを思っていた静香にとっては、このことは少し意外だった。
「じゃあ、綾乃さんの希望を先に聞こうかな」
「うん、いいよ。私は卒業したら、魔列車に就職して、車掌さんや運転士さんになりたいな、って……。お父様に言ったら猛反対されそうだけど……やっぱり私、鉄道が好きなんだもの。
桜井先生やまいちゃんは、応援してくれるよね!?」
「え? うーん、応援っていうか……やりたいことがあるならチャレンジしてみるといいと思うよ。そうか、綾乃さんは鉄道が好きだったんだね。
じゃあ、舞香さんは?」
「まだ決まってないなら、桜月家のメイドさん兼ボディガートさんになって、ずーっとうちに居てくれれば嬉しいなぁ……なんてねっ。冗談冗談っ」
嬉しそうに夢を語る綾乃の一方で、まだ舞香の表情は固かった。
「あたしにはこれといった特技も実績もありませんし戦う事くらいしかできない女です。
かといって男と一緒の職場なんて居たくないですし、女性だけの戦闘部隊の就職口とかあったら斡旋して欲しいんですけれど……、やっぱり王宮の女官辺りに仕官するしかないんでしょうか」
「女性だけの戦闘部隊には心当たりがないな……女官になるなら、それこそ戦闘だけってわけにはいかないと思うよ。それに取次いだりなんかで男性と一緒に会話する機会もあると思うしね。宮殿には男子禁制区域があるから、なるべくそこにいることはできるかもしれないけど」
「まいちゃん、百合園のこと大好きなんだし、先生になって学校に残るとか、どうかな?」
横から綾乃が口にしたのは、気軽な思い付きだったのだが……。
「百合園の教師? 考えなかったわけじゃないんだけど、あたし頭悪いし……」
驚いたように言ってから、舞香は静香を見た。
「それに。 教え子になる後輩達に『ここは男子禁制の女子高です』って堂々と指導できる自信、無いですから」
その眼にははっきりと拒絶が宿っている。
「偽りの仮面を被って純真な乙女達を騙し続けながら『私達はいつも正しいことをしてるから、信じて付いて来て』ってちゃんと生徒達の目を見て言えるものなんですか? あたしにはその感覚が信じられません」
そもそも。男性が嫌いな舞香が静香を相談……対話相手に選んだのは、これを言っておきたかったからだ。
「百合園のことは大好きですし、ここがこんなに素晴らしい学校なのは校長先生達の人格の賜物だと尊敬もしています。
でも、だからこそ、あたしはこの事が百合園で一番の心残りです。だからあたしは先生の部下にはなれません。
卒業する先輩達も、入ってくる後輩達も、最後まで欺き続けて。一体いつまでこんな事が続くんでしょうね……」
「……ごめん」
静香は目を伏せ、頭を下げた。
「確かに、舞香さんの言っていることは正しいと思う。僕が男だって知っている生徒は多いけど、パンフレットや入学式に自分から話しているわけじゃないからね」
それから今度は顔を上げて、真っ直ぐに舞香を見る。
「自己正当化に聞こえるかもしれないけど……僕は事情があって、女装して校長をすることをラズィーヤさんに決められてた。同時に、僕は女装が好きだったし、地球の百合園女学院に入学したかった。ただ心までは女の人じゃない。それを前提に聞いてほしいんだけど……僕は校長をするうちに、少し解ったことがあるんだ。
桜月さんが男っていう性別を……特に誤魔化して入学するような男が嫌だ、って感じるように、自分が男であることが嫌だったり、男が苦手な男だったり、身体と心が別の性別の人だっている。
僕が今男性だって明かして、女装を辞めて、校長も辞めたら、そういう生徒の居場所がなくなっちゃうんじゃないかな……って、今は思ってる。
そして、僕は今は自分の意志で校長を続けたいと思ってる。そのためには何をしたらいいのか、考えてる」
こういう状態が良くないと思う生徒がいるのは分っている、と静香は続ける。
「望むような答えを出せるかは分からないけど、考えはよく分かったよ」
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