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【第六話】超能力の可能性、超能力の危険性

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【第六話】超能力の可能性、超能力の危険性

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 同時刻 ヴァイシャリー 某所

『超能力を駆使する機体――それがお前達だけの技術と思うな』
『そういうことだから、デカイ面してられんのも今のうちだぜ!』
 セラフィート・セカンドのコクピットで桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)が叫ぶ。
 
 ――BMI2.0。
 機体に搭載されたその機能を最初から利用し、全力の戦いをしかける煉。
 この戦いの前に海京へと帰還し、新たな力としてこの機体を受領してきた煉とエヴァ。
 セラフィート・セカンドは惜しげもなくその力を使い、漆黒の“ヴェレ”と超能力戦を演じる。
 
 その横では遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)の駆る念竜が“ヴェレ”三機を相手に大立ち回りを演じていた。
『――! はぁぁぁっっ!』
 歌菜の気合いを込めた声とともに、念動力による不可視の一撃が放たれる。
 やはり“ヴェレ”は不可視の障壁を展開するが、念流の一撃はそれを突き破って“ヴェレ”を破壊する。
 大爆発を起こす“ヴェレ”。
 今までの苦戦が嘘のように、“ヴェレ”は一撃で破壊されたのだった。
 
『歌菜、大丈夫か?』
『はぁ……はぁ……大、丈夫……! この程度でへばってなんか、いられない……からっ!』
『歌菜――』
『イルミンでの戦い――あの時の怖さや無念さ……忘れられない。同じ想いをする人を、作りたくないから! その為に、戦うよ!』
『わかった。だが、くれぐれも無理はするな』
『心身に過負荷がかかるイコン。私に何処まで出来るだろう……けど、羽純くんと一緒なら、大丈夫。きっと何とかなるよ!』
『なら俺も付き合おう。最後まで』

 羽純の問いかけに気丈に答える歌菜。
 歌菜は次の“ヴェレ”に狙いを定めると、また一体を撃破する。
 
『私達も忘れないで』
『BMIなら私達の機体も積んでるもんね!』
 セラフィートとともに出撃したメイ・ディ・コスプレ(めい・でぃこすぷれ)マイ・ディ・コスプレ(まい・でぃこすぷれ)の機体――ダスティシンデレラver.2
 この機体もまた、漆黒の“ヴェレ”を追い詰める機体の一つだ。
 積んだBMIを活かし、超能力戦を仕掛けるダスティシンデレラ。
 
 気付けば三対一の状況。
 とはいえ、漆黒の“ヴェレ”もさるもの。
 凄まじい超能力を駆使し、セラフィート・セカンドと念竜相手に互角の戦いを演じる。
 逆に三機が苦戦すらし始めた時だ。
 
『邪魔するぜ――おらぁっ!』
 共通通信帯域に割り込んでくる青年の声。
 声の主――斎賀 昌毅(さいが・まさき)は、愛機であるフラフナグズを突撃させる。
 バスターライフルを連射しながら突撃するフラフナグズ。

 咄嗟に障壁でガードする“ヴェレ”bis。
 その瞬間、昌毅の声が共通帯域に響く。

『思った通りだぜ。こちとら初回襲撃時にお前と同じタイプを相手にしてるんでね!』
『何のことですか?』
 “ヴェレ”bisのパイロットが聞き返してくると、昌毅は吼えるように言う。
『お前等の機体が使う障壁はオートじゃねえってことだ! 今も間に合って良かったな、危ねぇところだったぜ?』
『まるで見えているように言いますね』
『御名答。見えてんだよ!』
 
 誇らしげに言う昌毅。
 先程行った、バスターライフルによる“ヴェレ”bisの周辺すら流れ弾で破壊するほどの乱射。
 それにより巻き起こった砂埃の中で、障壁がおぼろげにではあるが浮き上がっている。
 
『初回の時に俺が相手したタイプがようやく登場か、随分な重役出勤だぜ』
 挑発するように言いながら、昌毅も攻撃に加わる。
『行くぞ、マイア!』
『うん!』
 相棒のマイア・コロチナ(まいあ・ころちな)と合図を交わし、激しい攻撃を開始するフラフナグズ。
 
 三対一ともなれば“ヴェレ”bisもただでは済まない。
 じょじょに苦戦を強いられていく漆黒の“ヴェレ”。
 その時、異変が起きた。
 
 セラフィート・セカンドと念竜、そしてダスティシンデレラ。
 パイロットの意志とは無関係に、その三機の攻撃が突然止んだのだ。
 
『……! 助かりました! 天貴さん!』
『どういたしまして。ロッツ・ランデスバラットから移設したBMIジャマーが役立ったわ』
『まさか使うことになるとは思いませんでしたが、あって良かった』
『あなたの“ツァオベラー”に異常はない?』
『ええ。ジャマーのことが予めわかっていたおかげで機体に対策もできましたし、それに――』
『それに?』
『――この機体の機能はBMIと100パーセントイコールではないのですから』
 
 専用通信帯域で言葉を交わす“ヴェレ”bisのパイロットと彩羽。
 直後、唯一影響を受けていないフラフナグズがデュランダルで攻撃をしかける。
 
『どんな手段を使ったか知らねぇが! 俺の機体は動けんだよッ!』
 昌毅の操縦技術と戦闘力は申し分ない。
 だが、漆黒の“ヴェレ”はそれに互角以上の強さで応戦する。
 やがて機体の損傷が重なっていくフラフナグズ。
 フラフナグズは遂に撃墜される寸前まで追い詰められていく。
 
 一方、歌菜はジャマーの影響下に置かれた念竜のコクピットで格闘していた。
『負けません! 私達には、守りたいものがあるから!』
『歌菜……』
『機体に頼るだけでなく、私の歌も少しでも役に立てば……!』
 
 心を決め、歌い始める歌菜。
 魂のすべてを込めた歌声が戦場に響き渡る。
 その時だった。
 
 ジャマーによって封じられていた念竜の機能が再起動を果たす。
 だが、不思議なことに。
 今までのように念動力による破壊は一切行われない。
 
 ただ、周囲へと力場が広がっていくだけだ。
 その力場は何の破壊も行わない。
 
 やがて辺り一帯を包み込む力場。
 するとどうだろうか。
 煉やマイ、更には昌毅までも戦意が収まっていくのを感じたのだ。
 
 戦闘中だというのに、本人達にも不思議でならない。
 だが、それは“ヴェレ”bisのパイロットも同じようで、機体の挙動に不審なものが見え隠れする。
 その力場に抗しようと、“ヴェレ”bisもまた力場を発する。
 
 そのせいだろうか。
 ほんの一瞬。
 歌菜と“ヴェレ”bisのパイロットの意識は繋がったような状態となる。
 それによって歌菜へとなだれ込む、『偽りの大敵事件』が起こったまさにその時のイメージと、怒りや憎しみの感情の数々。
 思わず動きを止める歌菜、そして念竜。
 
 対する“ヴェレ”bisはというと、困惑したような挙動を見せた後、撃墜寸前のフラフナグズを放置してどこかへと撤退していこうとする。

 追撃しようにも、念動力や魔法の攻撃は出ず、相変わらず謎の力場が出続けるだけだ。
 しかも、戦意が収まってしまっているせいか、無意識のうちに攻撃を保留していしまっている状態。
 そんな中、歌菜はせめてもと声を張り上げた。
『待って……せめて、名乗っていきなさい……!』
 すると、僅かな間も置かず返事がくる。
『“蛾(ファルター)”――そう、お呼びください』
 そして今度こそ、漆黒の“ヴェレ”はどこかへと去っていったのだった。