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特別なレシピで作製された魔法薬

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特別なレシピで作製された魔法薬

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 妖怪の山。

「……早く解除薬が出来るといいね。今の物は気休め程度というし」
「そうだな」
 歌菜が『風術』で集めた汚染空気を羽純が『アブソリュート・ゼロ』で凍結していく。 振り返ると二人の足跡代わりに氷の壁があちこちにそそり立っている。
「これでひとまず安心だけど……」
 歌菜はじっと氷壁を見つめ、心配の声を洩らす。
「まぁ、俺達がやっている事も気休めでしかないからな。早く空気清浄薬を散布して欲しいところだ」
 歌菜の危惧を先回りする羽純。
「そうだね。でもきっと大丈夫。捜索も上手く行って薬も出来るはず。シンリさん達は調薬については誇りがあるから仕事はきちんとしてくれるよ(空気清浄薬は液体だから完成したら一気に汚染が解決してここもすぐに救われるはす)」
 歌菜は不安はあれど心配はしていなかった。
「それは間違い無いな(いくら解除薬を撒こうとも黒亜が確保されない限り安心は出来ないが)」
 前にシンリ達に会った事を思い出してうなずく羽純の胸中は黒亜捜索が気掛かりであった。こちらが苦労して解除薬を作製しても魔法薬一滴で全て台無しという可能性があるのだから。
「羽純くん、行こう。絶対に犠牲者は出さないように」
「あぁ」
 歌菜と羽純は救助に急いだ。

「大丈夫ですか? この解除薬を飲んで下さい」
「えぇ、ありがとう」
 歌菜は被害者の雪女に通常解除薬を渡した。
「今、のっぺらりんの宿で完璧な解除薬を作っているのでそこに避難して下さい」
 歌菜は錠剤を飲む雪女を見守りながら解決の糸口が見つかっている現在の状況を説明する。
「えぇ、分かったわ。でも本当に大丈夫なの? こんなに……」
 雪女は不安そうな顔。
「大丈夫です! 絶対に助かります! 私と羽純くんも全力で助けます!」
 歌菜はどんと胸を叩き安心させるための笑顔を浮かべた。
「……ありがとう」
 雪女は歌菜の笑顔に少しだけ不安を払拭し宿に向かった。

 時には
「おい、その素材を引っこ抜くな。抜いたら記憶を失う。その胸の花も弄るな」
 素材化した記憶を引っこ抜こうとする少年座敷童に遭遇し羽純が急いで止めたり
「えぇえ、危ないの!?」
 何も知らぬ少年座敷童は抜こうとする手を大慌てで引っ込めた。
「あぁ、だがもう少ししたら完璧な解除薬が出来るから安心しろ。それまではこれを飲んで凌いでくれ」
 羽純は解除薬を渡しつつ安心させる事も忘れない。
「ありがとう」
 礼を言い通常解除薬を飲んで素材化進行が緩やかになった所で
「避難場所はのっぺらりんの宿だが、道は分かるか?」
「一緒に行くよ?」
 羽純と歌菜が避難場所を教え同行を訊ねる。
「大丈夫だよ! 姉ちゃんと兄ちゃんも気を付けろ」
 少年座敷童はさっさと行ってしまった。
「あぁ」
「気を付けてね」
 羽純と歌菜は見送った後仕事に戻った。

 しばらく後。
「歌菜、俺達も宿に戻ろう」
「どうして? 素材化が始まったから? でも被害者はまだいるんだよ」
 羽純の提言に歌菜は小首を傾げた。
「……胸に植物が生えているからだ」
 通常解除薬のおかげで遅延していた記憶の素材化が二人の身に起き、歌菜に至っては胸に輝く植物が現れていた。羽純は自分より進行が速い歌菜を心配していた。
「大丈夫だよ。ほら、まだ動けるよ」
 歌菜は軽く動いて見せ、笑顔で平気だと主張するが
「動けなくなってからでは遅い。ほら、歌菜」
 羽純は頑として譲らず何とか無理矢理にでも宿に連れ帰るため歌菜の腕を掴もうと手を伸ばすが、
「解除薬で進行も遅いし大丈夫だよ。私の事よりも救助だよ。もっと酷い人もいるからまだ動ける限りは諦めたくない」
 歌菜はスカっと羽純の手をかわして先を歩く。
「その言い分は正しいし分かるが……」
 歌菜に振り回される事が多い羽純だが、ここは譲れない。譲ってしまえば大事なものを失う可能性があるから。
「だったら行こう!」
 歌菜は聞き入れず頭にあるのは救助の事。黒亜を知っているだけにこの騒ぎがどれだけ大変なのか理解しているから。
「……」
 引き止めるのをやめた羽純は諦めて歌菜に振り回されるかと思いきや
「ちょっ、羽純くん!?」
 歌菜を強引に抱き抱えた。先程引き止めようとした手を回避されたため絶対に回避されない方法を取ったのだ。隙を突かれた歌菜にとっては大慌て。
「頼むから俺の言う事を聞いてくれ。俺にとって歌菜が一番大事だ。枯れてしまっては遅いんだ」
 羽純は歌菜を抱えたまま最後の説得。羽純にとってどんな被害者よりも抱えている妻が一番大事なのだ。
「……羽純くん」
 自分を映す黒色の瞳から歌菜は自分がどれだけ心配されているのかを知り、救助を急かす言葉を失った。
「俺達以外にも動いている奴はいるんだから、他に任せたらいい」
 歌菜が自分の思いを分かってくれたと読み取った羽純は優しく言い聞かせた。救助に動くのは自分だけでは無いのだから。
 ここで
「……(歌菜の胸に素材が生えたから宿の方に退避する。後は頼む)」
 羽純は『テレパシー』で舞花に救助から離脱する事を伝えた。同時にシンリを発見し完璧な解除薬製作に向かわせた事を知った。
「歌菜、シンリが完璧な解除薬の製作に加わったそうだ」
「……良かった。これで助かるね」
 羽純はすぐさま歌菜に報告し、安心させた。
 そして、
「……羽純くん、ごめんね」
 歌菜は少しだけ元気の無い声で改めて謝った。自分の行動で誰よりも大切な人に心配させた事を。
「あぁ」
 羽純は口元をわずかにゆるめて許した。
 歌菜と羽純は無事に宿に避難し、後ほど完璧な解除薬を服用し事なきを得た。