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特別なレシピで作製された魔法薬

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特別なレシピで作製された魔法薬

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 妖怪の山。

「……何か慌ただしい感じですわね(毎回思いますが、吸血鬼のわたくしは妖怪の仲間になるのでしょうか)」
 アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は心無しか雰囲気が忙しい事に気付きつつも内心では馴染みの事を考えていた。
「あれ? 何これ? ねぇ、アディ、見て」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が弾んだ声でアデリーヌを呼んだ。
「どうかしまして……さゆみ、それは何ですの? 体は大丈夫ですの? 痛いとか気分が悪いなどはありませんの?」
 呼ばれて見たアデリーヌの目に映ったのはカラフルな植物を体に生やしたさゆみの姿。そして、わき出る心配と不安。実は温泉に浸かりながら春の花を愛でようとここにやって来たのだ。それが何の因果か騒ぎに巻き込まれていた。
「無いよ。アディ、心配し過ぎ。ここ妖怪の山だから妖怪に悪戯されたのよ。きっと……」
 さゆみは呑気に言うなり、明るい色合いの植物に触れた。
 途端、さゆみは素材化した記憶を読み取っていたそれは素敵な記憶。素材の色が明るいほど幸せなものなのだ。
「……さゆみ?」
 アデリーヌは訝しげに声をかけた。端から見たらぼんやりしているように見えるから。
「凄いよ。この明るい色の素材を触ったらアディと過ごした楽しい記憶が見えたよ。何なのかな。ほら、この輝く植物なんか凄く綺麗だよ」
 さゆみは楽しそうで胸に咲く花に見惚れていた。
「さゆみ、触らない方がいいですわ。まだ、詳しい事が分かっていないのですから。それより急いで宿に行きましょう(あの輝く植物、何か嫌な感じがしますわ)」
 心配のアデリーヌはさゆみのように呑気に構える事は出来ない。特に胸の花には嫌な予感がしてたまらない。
「もう、アディは」
 さゆみはアデリーヌの心配ように肩をすくめた。
 二人は何やかんやと言いながらも宿に向かった。

 温泉宿『のっぺらりんの宿』前。

「さゆみ、到着しましたわ」
 アデリーヌは到着出来た事にほっとして隣のさゆみに振り向いた。
 途端、
「さゆみ!?」
 真っ青になった。
「……何か動くのが……辛い……」
 さゆみが弱々しい声を上げて力無くその場に倒れてしまった。胸に輝いていた植物は枯れている事を示す茶色にくすんでいた。
「どうしたましたの? さゆみ? さゆみ、さゆみ」
 突然の事にアデリーヌはパニックに陥り、さゆみの上半身を抱えてひたすら呼びかける。
 その時、
「どうした? あぁ、被害者だね。空中散布を受けていない上にこれはまずい。早く解除薬を飲ませないと。ついさっき、完璧な物が完成したからすぐに回復するよ」
 宿から一つ目小僧が現れてアデリーヌ達を迎えた。
「……解除薬……完璧な物……どういう事ですの? さゆみに何が起きているんですの? このままだとさゆみは……」
 状況が分からぬアデリーヌはただただ焦るばかり。最愛の人を失うのではないかと。
「胸に咲く輝く植物は命を素材化した物だよ。それが枯れると死んでしまう」
 一つ目小僧の口から死という単語が出た途端、
「……死……そんな……さゆみが……」
 信じられぬアデリーヌ。つい先程まで和気あいあいとお喋りをしていたため余計にこの状況が浮世離れしているようで。
「悪いけど製作手伝って。丁度、出来上がった薬は全部作ってしまって今追加を作っている所なんだ」
 一つ目小僧はアデリーヌを手伝うように促すと
「……えぇ」
 アデリーヌは何とか正気を取り戻し手伝いに加わった。
 何とかアデリーヌも加わり追加の完璧な解除薬の作製は成功した。

 完璧な解除薬製作完了後。
「さゆみ、解除薬ですわ」
 さゆみに完璧な解除薬を投与しようとした時、アデリーヌの目に枯れ果てた胸の植物が目に入った。
「……あぁ、胸の植物が……」
 一瞬だけ手が止まるも
「大丈夫だよ。飲ませてみよう」
 一つ目小僧に促され
「……えぇ(お願い、さゆみ)」
 恐る恐るアデリーヌは投薬し、出現した植物は全て姿を消した。
 しかし、
「……」
 さゆみは静かに目を閉じたまま。
「やっぱり、間に合わなかったのですわ。わたくしはまた大切な人を……」
 アデリーヌは悲しみ滲む表情を浮かべ、そっとさゆみの顔に手を触れた。本当なら温泉宿で幸せな時間を過ごしているはずなのに何でこんな事にとアデリーヌの胸がきりきりと痛む。
 そんな時、
「……悲しそうに……しないで……アディ」
 途切れ気味の声。自分を気遣う優しい言葉。
 まさかの事に
「さゆみ!! 目覚めましたのね。てっきり枯れて……あなたを失ったかと」
 アデリーヌは驚き思わずさゆみを抱き締めた。
「失う? 何の事?」
 何も知らぬさゆみは抱き締められたまま、きょとんとしている。どうやらほんの少しだけ枯れていない部分が残っていたようだ。
「さゆみ、よかったですわ」
 感極まるアデリーヌ。
「……心配掛けてごめんね」
 事情は分からぬが恋人に沢山心配を掛けた事は確かだと感じたのかさゆみは謝った。