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一会→十会――絆を断たれた契約者――

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一会→十会――絆を断たれた契約者――

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【パラミタにて: 断ち切られた絆】


 期間としては10日にも満たないくらいだったろう。
 だが採石場から逃げてきた契約者達は、変わってしまった。
 ゴズの魔法は『絆を断ち切る』と不鮮明な言葉で現されるように、その効果は一定では無い。
 単に契約した相手の事を忘れると言う訳でなく、自らが結んだ『契約』について考えると、その考えごと消えてしまう。
 契約した相手の事を連想させるものがあると、それに付随する思い出が消える。
 ゴズがヴァルデマールに与えられた魔法は、そういったものだった。
 つまり――、
 例えば契約したパートナーとの関係が、戦いの為の合理的なものであったら、魔法の効果はそれ程多岐に渡って響くものでも無い。
 だがジゼルのように生活の全て関わる関係であった場合や、ハインリヒのように疑問に思わねばならない立場であった場合は、その限りでは無くなってしまう。
 次々と消えていく記憶。ぽっかりと空いた穴。
 心は助けを求める様に、周りのものでそれを塞ぎ補おうとする。
 兄と慕った相手を失ったジゼルは、彼女の傍で彼女を守るハインリヒに兄の存在を混同し、ハインリヒの方も様々な矛盾点を修正しようと、それが正しいのだと思い込んだ。
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は彼女が使えるべき主君を失い、親友として守りたいと願うジゼルを主とした。
 愛する男性を失った遠野 歌菜(とおの・かな)は、その想いを失った結果、極度の男性嫌いになってしまった。
 今もまさにその憎い存在――男に向かって「汚らわしいです!」と、吐き捨てたところだ。

「何なんですかあなた、楽屋までジゼル様を追い掛けてくるなんて。
 はっきり言って……ストーカーですよ!」
 歌菜が睨みつけているのは、たった今ジゼルの楽屋の入り口でフレンディスに廊下に追い出されたコード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)である。
 シャンバラからジゼルが消えた後、彼女の影を追い掛けたコードは、ネットの噂を通じ、ある歌姫がエリュシオンでコンサートに出演するという情報を掴んだ。
 歌姫――『ルサールカ』は、此処数日の間で突如としてネットに歌声が流れ世間を賑わせ始めた謎の歌手だが、ジゼルを知るものならばあれがセイレーンたる彼女の歌声だと分かる。
 それにパパラッチに捉えられた数枚の写真は、全てが兄に庇われ顔こそ見えないものの、ドレスから覗く陶器のように白くきめ細やかな肌、波打つ乳白金の髪はジゼルに間違い無かった。
(なにやってんだよジゼル!
 ドレス似合うけど……あ、いやそうじゃなくて)
 こうして居ても立っても居られず、コードは此処迄やってきたのだ。
 コールバックはこないが根気強くジゼルの端末を鳴らし続け、周囲に聞き込みをし、移動中の彼女に何度も接触した。
「ジゼル、君を迎えに来たんだ!」
 コードはそう呼び掛け続けるが、その度に飛んでくるのはハインリヒや歌菜やフレンディスの迷惑そうな視線で、ジゼルはこちらに振り向きもしない。
 遂には楽屋の扉を(信じてくれなくてもいいから一緒にきてほしい)と、祈るような気持ちで叩き続けたコードの前で繰り広げられたのが、先程の出来事なのだ。
 コードはパートナーたちから事情を聞いていたから、彼等に何らかの変化が起きている事は推測できる筈なのだが、ゴズの魔法の効果がこれ程までに影響しているとは思っていなかったのだろう。
 しかしフレンディスはジゼルを主としていたし、歌菜はパートナーの思い出に付随する魔法少女アイドルとして活躍した日々も忘れ、今はジゼルの信者と言えるくらいに彼女を妄信している。
 主君に、唯一無二の至高の歌姫に大嫌いな男がしつこく近付いてきて、二人が許せる筈も無かった。ジゼルに近付いていいのは、彼女が兄と認める男のみだ。
 ジゼルは『お兄ちゃん』を愛しているのだから、それが正しい筈だった。
 しかし、この兄妹は本当にただの義兄妹だったろうか。
 ジゼルは彼をただ兄として愛し、兄はそんな彼女を大切にし続ける。彼等はそんな関係だったろうか。
 そう考える度に歌菜達の中には募るものが有ったが、ジゼルの傍にお兄ちゃんが居ない違和感に比べれば、それらは些細なものだったのである。

「警備員を呼びました」
 フレンディスはジゼルの肩を庇うように抱いたまま、コードに冷たく言い放った。
 ジゼルを何とかシャンバラへ連れ戻そうと手段を選ばなかったコードに、ジゼルは恐怖を覚えたのだろう。彼女の青い顔を見て、歌菜が扉を無理矢理閉めようとする。
「さあ、出て行って下さい!」
「ジゼル、頼むよ、何とか言ってくれよ!」
「Ich weiss nicht!!
 コードあなた、一体どうしちゃったの? パートナーがどうとか契約がなんとか、私知らない。ヒラニプラに行った事も、一度も無いわ。そんな場所で事件になんて巻き込まれるワケないのに、そんな変な話でっちあげて、私に何をさせたいの!? Ich kann es nicht mehr aushalten.Hoer auf,ueber mich lustig zu machen! 私の事は放っといて!」
 廊下に喧騒の声が響く中、トリグラフに呼ばれたハインリヒが駆けつけると即コードを突き飛ばして女性達を楽屋へ押し込んだ。
「Geh weg “Idiot”」
 吐き捨てたこれは酷い侮辱だったが、今のハインリヒ達から見たコードは、妙な事を言って大切なジゼルを追い掛ける変質者にしか見えていないのだから、当たり前の対応だったのかもしれない。
 漸く警備員たちが此方へ着たのに一瞥し、ハインリヒが背中の後ろで楽屋の扉を閉めたのに、フレンディスと歌菜が安堵の息を吐き出すと、ジゼルが耐えきれないとばかりに声を荒げる。
「Ich will nicht!(*もう嫌!)」
「shhh.Was ist los? Erzaehle mir.(*シーッ、君らしく無いよ? 話してご覧?)」
 宥める言葉をかけてもジゼルはコードの言葉に何かを掻き立てられたように、両こめかみを手で挟み、苛立った様子で部屋の中を行き来する。思い出そうとするとその瞬間に消えていく記憶を掘り起こされそうになり、彼女はパニックに陥っていた。
「Was soll ich tun!? Das macht mich wahnsinnig! Bitte hilf mir jemand!(*どうしたらいいの!? 頭がおかしくなりそう、お願い誰か助けて!)」
「Du siehst muede und gestresst aus.Ich bleibe bei dir……(*疲れて神経質になってるんだよ、僕が傍にいるから……)」
 縋る様に見上げてくるジゼルを何とかソファに座らせると、手を握って、背中を軽く叩いて、落ち着かせようと試みる。
 こうして彼女に優しく接していても、ハインリヒの心からは棘が抜けない。ジゼルが何かから逃れる様に派手に動き回り始めると、彼女の金や美貌や権力を狙う周囲の動きも活発になった。
 こうしてジゼルが自由に生きる事は人間として反対しないが、義兄として彼女の出自は隠さねばならない。お陰で全く気が抜けないでいる彼は、内心渦巻く苛立ちを押さえる事に必死だったのだ。
 フレンディスと歌菜が居て、ほんの数分留守にしただけでこれだ。ジゼルを守る為には、もっと神経を研ぎすませていなければならない。
「大丈夫だよジゼル、全て上手く行く。
 俺も、フレンディスも、歌菜も、皆で君を守るから。そう約束したんだ、ね?」
 ハインリヒの声に、フレンディスもつい先程まで争うような声が聞こえていた扉を見たまま続く。
「そうですね。ジゼルさんの身に何か御座いましたら『あの方』に何とお詫び――」
 と、彼女はそこでハインリヒへ振り向く。
 ハインリヒもジゼルも、彼女の言葉に違和感を覚え、三人は視線を絡ませた。
「『あの方』とは一体……」
 数秒の重い沈黙を、歌菜が破った。
 受付からの連絡に、楽屋の内線電話の受話器を手にしたまま、歌菜はジゼルに「ジゼル様、どうしましょう」と質問する。
「誰?」
 フレンディスが感覚を研ぎすませている中ハインリヒが問うと、歌菜は渋い表情で答えた。
「飛鳥馬宿です」


 * * * 



 時間を前に戻して。

 馬宿は採石場へ同行していなかったが、現場の異変をいち早く察知することが出来た。伊達に千年以上豊美ちゃんに付き従っていない、という所だろうか。
 故に、ニコライが酷く疲弊したアッシュを連れて『豊浦宮』にやって来た時も、慌てる事無く対応をしていた。

「……では、アレクと豊美ちゃんはその者によって異世界へ囚われている、と」
 ニコライから現場の様子――アレクや豊美ちゃんを始めとする契約者を襲ったのは『君臨する者』と名乗ったゴズという亜人であること、アッシュが空間に穴を開けたことでハインリヒや一部の契約者は脱出できたこと、なおも多くの契約者が囚われの身になっていること――を聞き取った馬宿はそれらを頭に留め、今後自分が為すべきことを検討し始める。
(最終的には、囚われた契約者を救わねばならない。アッシュは暫く動けない、すぐの反撃は難しい。
 ヴァルデマールとその部下がこの機に攻め入る可能性も否定できん。……その時が来るまでは耐え忍ぶ、か)
 瞬時にそれらを判断した馬宿は、状況が変化次第連絡をくれるというニコライによろしく頼むと伝え、主不在となった『豊浦宮』を支えるべく各所に手配を始めた――。

「そのアレクさんって人、とっても強いって聞いてたッスけど、それでも負けちゃうんスね」
「こら、失礼なこと言わないの、六兵衛。
 ……大丈夫、豊美ちゃんも一緒だし。自分よりみんなのことを気にする豊美ちゃんらしいな、って思ったわ。
 豊美ちゃんが居ない今、私達が街の平和をお届けしないとね」
 不穏な事を口にした馬口 六兵衛をたしなめ、馬口 魔穂香がそう口にすると、六兵衛は驚いた顔をしてやがてううっ、と涙を流し始めた。
「あの魔穂香さんがここまで言うようになったなんて、ボクは感動ッス」
「うーん、思ったことを言っただけなんだけど。……え、これって――」
 微妙な表情を浮かべていた魔穂香は、モニターに映し出された録画映像に注目する。今二人は街の平和を守るという目的で街のそこかしこに設置された防犯カメラの映像をチェックしていたのだが、そこに思いがけない姿を見つけたのだ。
「六兵衛、他にも同じような人が居ないかチェックして。……多分これ、馬宿さんに報告しないと」
「りょ、了解ッス。……でもよくおかしいって分かったッスね」
 六兵衛の疑問に、魔穂香は何を言っているのと言いたげな目を向けて言った。
「友達の様子がおかしかったらすぐに分かるでしょ」

「君たちの報告を元に、ここに映っている者たちが採石場に向かっていたかを調べた。
 ……君たちの予想通り、彼らはほぼ全て、採石場に向かっていた契約者だったよ」
 馬宿が、魔穂香から報告を受けて調べた内容を目の前の魔穂香と六兵衛に伝えた。『契約者と思しき者たちが街で不可解な行動を取っている』、それは魔穂香の発見と馬宿の調査により確信へと変わった。しかし肝心の、何故そうなったのかが分からない。
「君たちは引き続き、監視に当たってほしい。もしも彼らに対する処置が決まった場合、より多くの協力を頼むことになるかもしれない」
「分かったわ。出撃の準備もしておくから、よろしくね」
 そう言って魔穂香と六兵衛が部屋を後にし、一人残された馬宿がふぅ、と息を吐いた所で、隣の端末が新着メールを知らせてきた。その差出人を見た馬宿は表情を変え、即座に内容を確認する。
「……何だ、これは」
 馬宿がそう口にしたのは、複数の原因からだった。メールの差出人――ハインリヒが馬宿に送ってきたメールの文章は途切れていて、明らかに別のところに宛てたものを抜き出しコピーしてペーストしたように見える半端なものだった。前半は英語でこれは馬宿にも読めたのだが、内容は部下への指示書らしかった。部隊運用権限についての変更点と、予算の割り振りについての変更指示が纏めて書かれている。秘匿すべき細かい部分は張りつけの際に上手い事抜いてあるようだが、こんな事務的な書類を送ってきた意図が理解出来なかった。
(後半は……これは、ドイツ語だろうか。俺では読めないな……)
 翻訳機を介せば読めないことはないが、これだけ意図を図りかねる内容だ、細かなニュアンスが大事なのだろう、そう馬宿は判断する。
(……彼に助力を願うか。ちょうど見舞いに行こうかと思っていた所だしな)
 そう決め、馬宿は腰を上げると、彼――アッシュが休んでいる部屋へと足を向けた。

「……あぁ、確かにあなたの言う通り、ドイツ語で書かれている。
 単語を切り貼りしたような感じだから、意図はいまいち分からないけれど――」
 馬宿からメールの文章を見せられたアッシュはそう答え、直後ある箇所に目を留めるとしばし動きを止めた。
「何が書いてある?」
 そこにおそらく重要な何かが書いてあると悟った馬宿の問いに、アッシュはすぐには答えず険しい顔を浮かべて呟いた。
「ヴァルデマール、既にここまで契約者の事を掴んでいたのか?
 ……ん、ごめん、質問に答えていなかったね。……ここにはこう書いてある、『異世界から戻った契約者に、記憶の抜け落ちが見られる』『考えると分からなくなる』。
 内容から察するに、彼……ハインツも同様の症状にかかってしまったんだろう。
 きっと気付いた時点でメモして、あなたに送ったんじゃないかな。
 でもこのメールを書いている時点で、魔法に逆らっているのだから、彼は精神的に相当な無茶をしていると思う。心配だ……」
 補足を交えたアッシュの説明で、馬宿は採石場から帰還した契約者に異変が起きている事を知る。それは直前に自身が掴んだものと同じであった。
「何故そうなったか、分かるか?」
「ああ、これはおそらく、『絆を断ち切る魔法』によるもの。
 推測だけど、ヴァルデマールは契約者の力の源が『絆』であると掴んでいるようだ。魔法世界に連れて行かれた契約者は絆を絶たれ、契約者であったことすら忘れてしまっている。その影響がこちらのパートナーにも及んだ結果だと思う」
 正確には絶たれた、というよりは縛り上げられ、非常に細くなっている状態だという。アッシュは鎖に『絆を縛り上げるもの』と名付けることでこのような状態を作っているのではないかと付け加えた。
「ひとまず続けようか。
 『異世界とこちらの戦力の分断は、敵の魔力自給問題ではなく、武器性能』
 ……これは…………?」
 何の事だろうと、二人は揃って首を傾げる。ハインリヒの言わんとしたことがいまいち掴めない中、馬宿の持っていた携帯端末が着信を知らせる。発信元を見た馬宿は図ったようなタイミングだな、と呟いて応答した。

「我々の下にも、シュヴァルツェンベルク中尉――ハインリヒ・ディーツゲンからメールが送られてきました。
 実は中尉なんですが……この間ジゼルの様子を見に行ってからまともに連絡がつかなくて…………、言っている事もどこか支離滅裂なんです。
 このメールも出した覚えが無いと仰って、これは私達の見解なんですが――」
 悩ましい声でそう前置きし、馬宿に連絡をしてきた人物、ニコライはもう一人の少尉ドミトリー・チュバイスと、上官のメールの内容について紐解いた内容を語って聞かせる。
「全てがそうでは無いですが、契約者は往々にして、スキルに頼る戦術を駆使するものが多いです。力の劣る女性なら尚更かしら。
 スキルを使用する戦術では、誰にでも扱える現代兵器より、剣や槍のようなものが好まれますよね。契約者の技術や能力は、しばしば銃弾の速度と威力を上回ると言われていますから。
 けれども契約者がスキルを失った状態で、剣や槍が武器だった場合、今回の結果から鑑みても、魔法を使える異世界人の方が戦闘力で上回ります。
 だから契約者は、異世界に連れて行かれた。……ですが我々兵士達はスキルを失っても、現代兵器で対抗してくる可能性がある。邪魔にならないよう、此方側に残されたのでしょう」
 一口に魔法、といっても様々であるが、概ね共通しているのは『本来そうである(あった)ものを改変する』であると言えよう。これが何を意味するかといえば、『強大な現象を発生させるためには、本来そうである(あった)ものを大きく変える必要が有るため、少なからぬ時間を有する』ということであり、また『現象を発生させる操者の能力による所が大きい』でもある。
 だが、現代兵器は非常に短時間で強大な現象を発生しうるもので、かつ比較的誰でも同じ効果を発揮させられる。これは一部のずば抜けた魔法使い以外の魔法使いにとって脅威である。
「兵士達の中でも、兵器を使わずに戦うものはあちらに連れて行かれました。この事実がこの推測の裏付けになっているかと――」
「反転すれば、現代兵器でもどうにかなる相手ってことだよねぇ」
「ジーマ、その言い方はよくないわ」
 ニコライが同僚を嗜めるのを電話腰に聞きながら、馬宿は考える。
(相手は『絆を断ち切る』魔法すら使ってくる。部下であるというゴズが使える以上、他に使える者は居ておかしくない。
 いわゆる武器だけで戦いを挑んでは、『現代兵器を分解する魔法』で無力化されてしまう可能性もある。契約者のスキルを駆使して戦おうとしても今回のような事態に陥れば無力となる。……両方が手を取った所で絶対に優位に立てるとは限らないが、少なくとも魔法世界を相手にするには、契約者らしい戦いをする契約者と、地球人らしい戦いをする契約者、両方が必要になる)
 そこまで瞬時に至った馬宿は、次に己が為すべきことを見定める。軍の作戦はニコライ達に任せ、こちらは『契約者らしい戦いをする契約者』を集める。その対象は――今回の事件に巻き込まれ、パートナーの記憶を失ったもの達。
「アッシュ、身体の方はどうだ?」
 通信を切った馬宿が、腰を下ろしてアッシュに尋ねる。彼は未だベッドに横たわっていたが、顔色は良く疲れた様子もない。
「全く問題ないよ。介抱してくれたこと、感謝させてほしい」
「改まってお礼を言われるような事ではない。……どうしてもというなら、これからの行動で応えてもらいたいものだな」
 言葉とは裏腹に浮かべた柔らかな顔に、アッシュはフッ、と笑った。
「僕の力が必要だというなら、喜んで貸そう。あなたはもう、これから何をするべきか決めているだろうから」
「そう言ってくれると話が早い。……あぁ、俺の事は馬宿、と呼んでもらって構わない。その力、頼りにしているぞ、アッシュ」
「分かった、こちらこそよろしく、馬宿」

 二人の手が固く結ばれる。
 そして明朝、二人は『豊浦宮』を発つと、パートナーを失い混乱状態にある契約者を確保するべく足を向けた――。