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仮想世界で大暴れ!? 現実世界へ立ち戻ろう

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仮想世界で大暴れ!? 現実世界へ立ち戻ろう

リアクション

 第 4 章

 ゲーム端末を前に慌ただしく動く開発会社の関係者や技術者、有志で集まった生徒達などを見学席から見下ろす研究者は自分を追うシャンバラ教導団の動向を見張っていたものの、思った以上の素早さで会場の包囲を完成させて居た事を素直に感心した。
「ほう……流石に今度は本気で捕まえに来たと見られる。まあ、おそらく以前の事件のせいだけではないだろうが……しかし、私がここに居ると予測しての包囲としたら、中々洞察力は侮れませんね」
 研究者の呟きに【隠れ身】で姿を消している刹那は【殺気看破】で周囲を警戒するが容易にものものしい雰囲気を捉える事が出来た。研究者と共にゲームの行く末を観察していたファンドラと彼の隣でゲームを眺めていた女王・蜂(くいーん・びー)もいざという時のため、撤退時の動きに構える。
「……教導団の者達はわらわとイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)がひきつけよう、『煙幕ファンデーション』で目くらましをしている間に逃げるのじゃな」
「……ええ、そうさせていただきますよ」
 僅かな間を置いて研究者は刹那の言葉に応える。教導団が動き出すまでのひと時――彼はゲームの行く末をただ見守っていた。


 ◇   ◇   ◇


 金 鋭峰(じん・るいふぉん)の姿が講堂に現れ、首謀者捕縛部隊の体制が整うとルカルカ・ルー(るかるか・るー)が敬礼と共に出迎えた。
「金団長、報告します。特戦隊の配置完了及び首謀者と思われる者の特定を現在遂行中です」
「そうか、ご苦労であった。引き続き特定を急ぐとしよう……ルー少佐、赤の書……いや、ロートという名を付けたのであったな。彼はどうしている?」
 ルカルカが確か、とゲーム参加者用の端末が並べられた机の一角を見るとカルとジョンと共にプログラムを組み直し、仮想世界の契約者達とシルヴァニーへの援護に忙しそうな姿を見かける。
「カルとジョンと一緒に居ます、このまま2人のサポートをさせていてもいいと思いますが……」
「そうだな、彼はあのままカルカー中尉とジョン・オークのサポートに付いてもらおう。首謀者にはおそらく護衛の者もついておろう、油断などせぬように」
 鋭峰の言葉に集まった教導団員が一斉に敬礼する。首謀者逮捕に手を貸す為その場に合流した下川 忍(しもかわ・しのぶ)であったが、遅れてつい敬礼してしまった。
「……学園で事件を起こしたヤツを捕まえようと思っただけなんだけど、物々しい事になっちゃったぜ」
 1人、教導団の指示に気後れしそうになりながらも忍も武器を確認するのでした。

 講堂内にいる人間全てを撮影し、ノートパソコンで顔形のチェックを続けるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がゾンビの館で得た情報と照らし合わせていく。
「犯人は現場に戻る傾向がある。顔を変えている可能性もあるが、本来動かせない部分とその一致を辿れば犯人は自ずと浮かび上がるものだ……何人か気になる人物はピックアップしたが、この事態に見学席でのんびり見物している輩こそおかしいだろう」
 犯人――首謀者特定に至ると真っ直ぐに見学席を見据えた。

「……なるほど、彼の予測か。惜しいね、出来れば私が最初に出会いたかった」
 研究者が楽しそうに呟くと、ファンドラと女王・蜂が研究者の両脇に付く。ダリルが特定した犯人の居場所が指示され、一斉に包囲に動くのと刹那が『煙幕ファンデーション』で視界を覆ったのはほぼ同時であった。
「またー! もう、同じ手がそう何度も通用しないわよ!」
「ルカ、怒っている間に【Pキャンセラー】をかけてスキルを封じてくれ」
 ダリルが至極冷静にツッコミする傍ら、夏侯 淵(かこう・えん)へ鋭峰が指示を出す。
「やはり居たか……首謀者に加担し、護衛する者の捕縛は任せる」
「わかったのだ! 俺達の狙いはそこの犯人のみ……お前らはひっこんでおれ!」
 視界が『煙幕ファンデーション』に覆われたままであったが、『ダークヴァルキリーの羽』で覚えていた首謀者の位置へ向かって飛翔する淵にファンドラと女王・蜂が立ちはだかる。
「残念ですが、この方をお渡しする事は出来ません」
 『神の奇跡』を放つファンドラと、『蜂の毒針』を飛ばす女王・蜂が淵へ反撃する。『蜂の毒針』から間髪入れず、煙幕の隙から蝶のように舞い蜂のように刺す所作で槍を繰り出した。
「くっ……! 今日こそはあの犯人を絶対に逃がさないようにするのだ! 立ち塞がるというなら」
 女王・蜂の槍、ファンドラの『神の奇跡』を『悪鬼の狩弓』で射る事で相殺させた淵は忍術【水門遁甲・創操瀑の術】で洪水を起こさせようとしていた。
 
 一方、【Pキャンセラー】で【毒虫の群れ】の不発に成功させたルカルカは、【ポイントシフト】で刹那の背後を取ろうと狙う。
「首謀者への加担なんて見過ごせないわ、この前といい……今日こそ捕まえるわよ!」
 刹那を背後から拘束しようとするルカルカをかわし、【歴戦の飛翔術】で見学席を飛び回りつつルカルカとダリルへ向けて暗器を投擲して牽制する。
「全く、教導団の者はしつこいのう……じゃが、わらわも護衛の仕事をやり遂げなくてはならぬのじゃ」
 トン、と身軽に見学席の背凭れに着地しした刹那は、ルカルカとダリルの挟み撃ちから逃れ続け、淵と対峙するファンドラと女王・蜂へチラリと視線を送る。
(ふむ……向こうも連携攻撃を仕掛けて来ておるからの、ここは早い所依頼主を逃がすのが先決じゃな)
 刹那はふわりと中空へ飛んだかと思えば、ルカルカとダリルへ暗器を連続投擲し、2人がかわすと見越しておくと予想した移動先へ【しびれ粉】を散らす。
「しまっ……!」
 ダリルが咄嗟に【しびれ粉】を防ごうとするも、僅かに浴びてしまい膝をついてしまう。ルカルカは着地してすぐに踵を返し『聖槍ジャガーナート』で刹那へ向けて薙ぎ払ったが一寸差で刹那に届かなかった。刹那が後方に下がったのを合図にしたかのようにルカルカとダリルへ向けて狙撃の弾道が走る。【カモフラージュ】で姿を隠したままのイブが【シャープシューター】を使い、2人へ【エイミング】を仕掛けた。
「――援護シマス、マスター刹那」
 刹那が再び『煙幕ファンデーション』で視界を覆おうとする最中、淵と対峙するファンドラも指を慣らし『戦闘員』を呼び寄せて撤退の時間稼ぎに向かわせる。忍術を発動させようとしていた淵だったが、奇声を発しながら飛びかかってくる戦闘員に応戦せざるを得なかった。
「……っ! どこに隠れていたのだ!?」
 淵に向かってきた『戦闘員』を半分受け持つかのように忍が『ブーストソード』で抑えに入った。
「僕が抑えてるから、君は忍術を……! ったく、学園を騒がせただけじゃなくってこんな連中まで連れてきてたのか」
 追い打ちをかけるように女王・蜂が【毒虫の群れ】を放とうとする。それを制止する声にファンドラと女王・蜂は研究者へ振り返った。
「ファンドラ君、女王・蜂さん、ここはもういいですよ……先に撤退するといい。ああ、ゲームのデータはファンドラ君が持って行きなさい」
 研究者の言葉にファンドラと女王・蜂だけではなく、刹那も耳を疑う。
「依頼遂行にならぬじゃろう、承服しかねるのじゃが……」
「……まあ、1つはあなた方を巻き込んで捕縛という筋書きは私も本意ではないのでね。それに、力ずくの捕縛も辞さない勢いを感じる事だしあまり乱暴な捕まり方をするのはスマートではない」
 研究者の言葉に困惑を隠せないところであったが、それより早く淵が【水門遁甲・創操瀑の術】を発動させる。何もない空間に大量の水が涌き出し、大洪水となって刹那達を飲みこもうと迫っていた。
「仕方ない――! 撤退じゃ」
 予め確保していた逃げ道に飛び込んだ刹那達を見送った研究者は特に逃げる素振りもない。そんな研究者にルカルカと鋭峰がゆっくり近付いていく。

「……ここで逃げようとしたら、金団長と【ロイヤルドラゴン】仕掛けるわよ」
「おや、可愛い顔をして怖いお嬢さんだ」
 魔力の手錠が研究者の手に掛けられ、ダリルと淵が両脇を固めて講堂から連行していくと見学席での騒ぎが気になったのか、イーシャンがそちらを心配そうに見上げる様子を見せていた。ルカルカが安心させるように手を振るとイーシャンもそれに応えるように笑みを見せ、カルとジョンの手伝いに戻っていくのでした。