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リアクション
【戦う相手は自分自身】
まずはこの談話室を出て、若崎源次郎を探そう、ということになり、一同は警戒に警戒を重ねながらも、扉をそっと押し開けて、薄暗い廊下へと出た。
ところが、廊下へ出た途端、ジェライザ・ローズがその場に凍りつき、愕然たる表情で全身を小刻みに震わせ始めた。
「どうした?」
最初に気付いたジェイコブが、怪訝そうに問いただす。
ジェライザ・ローズは、ごくりと喉を鳴らせて声を絞り出した。
「だ、駄目……この暗闇……」
自分でもよく分からなかったが、ジェライザ・ローズは見通しの効かない闇の中に入ると、堪えようのない恐怖を覚えるようになってしまっていた。
何故なのかは、分からない。
だが現実として、ジェライザ・ローズは暗闇に対する恐怖を、まるで小さな子供のように感じてしまうのである。
流石にこれは拙い――ジェライザ・ローズは咄嗟に、コントラクターとして考えられる暗闇対策の能力を駆使してみた。
他の面々が心配そうな面持ちで見つめる中、ジェライザ・ローズは未だに表情を強張らせたままではあるものの、何とか気力を振り絞って小さく頷き返した。
「ごめん、もう大丈夫……これで、何とかなりそう」
闇の中を見通す技能を駆使することで、自分自身の中で沸き起こる恐怖心を辛うじて抑えきった。
どういう訳か、いつものような劇的な効果は得られないのだが、それでも己に襲いかかる恐怖を打ち払うのには十分な機能を発揮している。
今のジェライザ・ローズには、それだけで良かった。
だが、異変はそれだけではとどまらなかった。
「ん? あれは……」
ルカルカが、緊張した面持ちで左右に分岐する廊下の向こうを見渡した。
薄闇の中で複数の人影が、不自然なまでにぎこちない歩き方を見せていたのである。
敵だ――ルカルカは直感した。
この時、闇への恐怖を克服したジェライザ・ローズと入れ替わる形で、今度はジェイコブ、ザカコ、そしてセレンフィリティの三人が愕然たる表情で硬直してしまった。
先程のジェライザ・ローズといい、そして今度の三人といい、一部のコントラクターの間に何か精神的な異常が発生している――少なくともフィリシアとセレアナの両名はそのように推察した。
「拙いですわ……ルカルカさんのお話ですと、ここではコントラクターとしての能力は極めて限定的にしか機能しないということですのに……」
フィリシアがジェイコブの逞しい腕にそっと触れて、落ち着かせようとしてみたのだが、しかしジェイコブは次第に呼吸が荒くなる一方で、まるで落ち着こうとする気配が感じられない。
その直後。
T字路になっている廊下の左右から、それまでぎこちない動きで廊下を漫然と歩いていた複数の人影が、コントラクター達の存在に気付いたのか、一斉に向きを変えてこちらへと殺到し始めた。
「う……うぉぉぉぉぉぉーッ!」
不意にジェイコブが、廊下一杯に雄叫びを響かせて一目散に駆け出した。
奇声を上げながら迫り来る謎の人影の群れに、敢えて突っ込んでいく格好となったジェイコブのすぐ後に、フィリシアが慌てて続いた。
「こ、こここ、怖く、怖くない、わよ……全然、全然、全然……」
セレンフィリティがいつもの勢いを完全に失い、全身をわなわなと震わせながら、その場にへたり込みそうになるのを必死に堪えている。
一方のセレアナは、殺到してくる謎の人影の群れからセレンフィリティを庇う形で一歩、前へ出た。
「んもうッ! いきなり絶対絶命じゃないのッ!」
ルカルカは叫びながらも、しかしその行動は冷静だった。
彼女は談話室から持ち出しておいた雑誌を硬く丸め、その内側に棒状に固めた新聞紙を挿入しており、その先端に火術を用いて即席の松明を完成させた。
火の勢いは決して強いとはいえないが、それでも襲い来る人影の群れを怯ませ、後退させるには十分な仕事を果たしたといって良い。
「皆、ついてきてッ!」
先頭を駆け出したルカルカの後を、他の面々が続く。
しかし、全員ではない。
既に何名かが、この集団から脱落、或いはあらぬ方向へと離脱してしまっていた。
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