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爆弾魔と博士と恐怖のゲーム

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第1章 名状しがたい者
 空京の町中は、混乱と逃げ回る住民達であふれかえっていた。
 この自体を沈静しようと、刑事を初めとした警察や軍隊も右往左往している。

「……こんなもの!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は逃げる人達の合間で、
小さな紙切れをびりびりと破き始める。
 紙切れは紙吹雪になって空を舞う。それはついさっき当選番号が発表されたサマージャンボ宝くじだった。
 もちろん、すべて当選番号にかすりすらしていない。
「あーもうっ! あのペーパって人に関わるとろくな事が無いわね!」
「落ち着きなさいよ、セレン。それに宝くじまではペーパは関係無いわよ?」
「関係あるわ。あたしの可愛いお嫁さんとのデートまで邪魔してくれて! 死刑に値する!」
「そ、そうかもしれないわね……」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は顔を少し赤くしながらも、何とかセレンフィリティを何とか宥めようとする。
 そこでセレアナは、何かを見つけセレンフィリティの肩を叩いた。
「あれ、刑事?」
 見つけたのは、走っている平助だった。

 泡銭 平助は逃げ惑う住民達をかき分け走る。
 放送をジャックしてまで流されたあの映像、平助はそれに見覚えがあった。
 ふと夕が部下だった頃を思い出してしまう。
「ちっ……あいつは部下でもなんでもない、犯罪者だ」
「また、会ったわね刑事さん」
「あ?」
 平助は足を止め、後ろへ振り返る。そこにはセレンフィリティとセレアナが立って居た。
「………………お前達、いつもその格好なのか?」
「……もう慣れたわ」
 思わず平助がつぶやいた疑問に、セレアナは目を伏せながら答えた。

   §

 そのころ、謎の物体がぽつりぽつりと空京に現れていた。
「な、なにあれ!!」
「……」
 それはそこにいる人々にむかって、突然黒い触手のようなものを伸ばす。
 悲鳴を上げ逃げようとする住民達、それに併せてその黒い物体はゆっくりと大きくなっていく。

 あざ笑うように、それはふたたび触手のような物を振り上げる。
 だが、その触手は”ライトブレード”によって切り裂かれた。

「アキ様! 恐怖心メーターがもう60%を超えています!」
 アレキサンダー ぷー助(あれきさんだー・ぷーすけ)は、ライトブレードを地面に振り下ろす霧島 暁(きりしま・あき)
店のディスプレイに表示される数値を伝える。
 どうやら、恐怖心メーターと呼ばれる、その数値はどこでも確認が出来るらしかった。
 暁は軽く頷くと、住民達へと振り向いた。
「もう大丈夫、僕のこの力と可愛いぷー助のサポートがあれば、何も恐れる事なんて無いさ。ね? ぷー助」
「もちろんです、さあ。早くここから安全な場所へ避難いたしましょう!」
 突然現れ、ヒーローのように現れた暁達に、不安だらけの住民達の心を和らぐ。

 が、それもつかの間、1体しか居なかったはずのそれ、名状しがたい者は分裂し、3、4、5体へと数を増やしていく。
 暁は名状しがたい者達向かって、再びライトブレードで横殴りに切り裂く。
 名状しがたい者は真っ二つに分かれ消滅する。
 ぷー助は”弾幕援護”を張り、暁の援護をする。

「はあはあ……」
 だが、どこからか名状しがたい者達は現れてくる。
 気がつけば暁は息を切らし、手が追えなくなるかもしれないとさえ感じていた。
「僕がなんとかするから、ぷー助がみんなを――」
「アキ様、ここはぷー助に任せて、みなさんを先へ逃がしてください!」
 増える敵に、ぷー助は「今こそ、ぷー助がアキさまを守るとき」と考えた。
 だが、暁は自分が守るからと、それを拒否する。
 頑なに拒否する暁に向かって複数の触手が飛び出す、ぷー助はその前へと躊躇無く飛び出す。
 暁はなんとかぷー助を止めようとするが、間に合わない。

「え――」
 そう思った時だった、ビキニ姿の女性、セレンフィリティが”疾風迅雷”で目の前を通り過ぎる。
 セレンフィリティは、ぷー助の背中をつかみ上げると、暁へと放り投げる。暁は慌ててそれを受け止めた。
「あ、ありがとう」
「礼は良いから、早くみんなを避難!」
 セレンフィリティの言葉に暁は頷くと、ぷー助と共に住民達を避難させる。
 暁達の活躍に住民達は次第に心が和らいでいく。

「なによこの黒いのは」
 後からセレンフィリティに追いついたセレアナは驚きの声をあげる。
 平助はそれを鼻で笑って見せた。
「これも奴の発明品か」
「発明品?」
「ああ、奴はゲームだって言ってたからな。さしずめ、これはゲームの敵って言ったところか」
「――来るわ!」
 セレンフィリティは名状しがたい者達が動き出すのを、”行動予測”でいち早く読み取る。
 名状しがたい者達は触手を一斉に、セレンフィリティ達へと伸ばしていく。

「遅いわ」
 セレアナは”女王の加護”でこちらへと向かってくる触手を軽やかに避けると、
”絶望の旋律”を名状しがたい者へと向ける。そして、”エイミング”でその姿を捕らえると銃弾を放った。
 見事に命中、名状しがたい者はパンッという音と同時に空気へと消える。
 セレンフィリティは名状しがたい者達を、一気に”疾風突き”で貫いていく。

 暁達は住民達を避難させ終えたが戻ってくると、すぐさまセレンフィリティ達の援護に入る。
「ぷー助いくよ!」
「はい、アキ様!」
 名状しがたい者達を、ぷー助は”破壊工作”で爆破していく。
 暁は”封印解凍”で力を解放させると、ライトブレードで切り裂いていく。
 暁達の活躍もあり、名状しがたい者達は押されていた。

「アキ様、あの黒いの大きくなっていませんか?」
「ああ、なってるみたいだね。1つに合体してるような 」
「都合が良いわ、一気に決めるわよセレアナ」
 セレアナは頷くと、3メートルは超えようとしている名状しがたい者へと、絶望の旋律を構え何発も連写する。
 やがて弾が切れると、名状しがたい者は触手を縦横無尽に広げセレアナ達へ向ける。
 だが、それは既に遅かった。セレンフィリティは体をくるりと捻らせながら触手をくぐり抜け、あっという間に名状しがたい者の足下にたどり着く。
「ちょっと痛くするわよ」
 にやりと笑みを浮かべると、セレンフィリティは希望の旋律で名状しがたい者を、一刀両断する。
 あっという間に、名状しがたい者達は空気へと溶けていき、その姿を消す。

「ひとまずは落ち着いたかな……あれ」
 アキがため息をついていると、ようやく終わったかと平助が姿を現す。
 セレンフィリティは、平助を見て「やっぱりね」とつぶやいた。
「刑事さん、夕のことまだ引きずってるわね、本調子じゃないでしょ?」
「――さあな。ほら行くぞ、アジトはあっちだ」
「どうも素直じゃないわねあの人」
 セレアナはため息をつく。