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終章1 探索終了に関するいろいろ


 結局、広間の底の金色の正体は、パラミタリンドヴルムの鱗だと判明したわけであり、一部のお宝狙いをがっかりさせた。


「鱗って……何だそりゃ。無駄足じゃねーか」
 話を聞いてレナンはぶつぶつ言った。彼らもまた、情報収集の成果で広間までは辿りついたのだった。
「でも、キラキラして綺麗なの。見られてよかったの」
「……まぁ、風景としてはいいかもしれんが……」
 水嫌いを推してきた甲斐がイマイチなかった気がして、ついぶつぶつ言ってしまうレナンだった。
「パラミタリンドヴルムの鱗って、お宝としての価値はないの?」
「研究者にならあるかもしれんが……
 ……どうなんだ?」


「まぁ、そんな所よね。そんなに簡単に金目のものが手に入ったら苦労はないわ」
 こっちも真相を知って憮然とするセレンフィリティの横で、セレアナが苦笑する。
 彼女たちも、ヌシが立ち去った後に広間まで到達していた。
「んー、残念。でも、まぁ……楽しかったから、いいわ」
 そう言うと、セレンフィリティはセレアナの首に腕を回し、湯の中で足で水を掻いて泳ぎながら、広間の入り口近くの岩陰に連れ込んだ。
 広間に入ってしまうと足がつかないほど深いと聞いているので、そこから中には入らない、それに――
 ここからの方が、広間の全貌がよく見える。
 2人の立てた波が、広間の方まで広がると、水底の金色が揺らめき、まるで夕暮れ時の凪の海のように煌めいている。
「ねぇ、いい眺めじゃない……?」
 セレンフィリティの声が、セレアナの耳のすぐ傍で聞こえた。
 熱いのは、湯気のせいだけではない。
「そうね……」


 優夏はのぼせて倒れた後、フィリーネによって風通しのある岩屋の一角に担ぎ込まれていた(その場所を見つけるのに、他の探索者たちの残したメモ書きや看板が役に立った)。
 そしてついさっき、「う、この展開は……フィーがエロ同人みたいに!?」と言いながら目を覚ましたところであった。
 今までの展開が倒れた自分の夢(妄想か?)だったことと、自分の有様を自覚して、恥ずかしいことこの上ない。
「あたしの名前呟いてうなされてたけど、どんな夢見てたのかな〜」
 などとフィリーネにツッコまれて肘で「うりうり☆」されて、恥(じらい)の上塗りである。
「あーぁ、所詮エロ同人は儚い非リア充の夢……」
「ん、何?」
「あ、いや何でもないっ。ていうか、お宝……あー……」
 結局引きこもり資金も手に入れられず――お宝の正体を彼ら知るのはもう少し後のことになる――暑くて熱気の籠る奥部からは引き上げた方がいい、ということになり、湯の温度も幾分低い、入り口に近いゆったりとした入浴場に引き返して来て、そこでしばらくのんびり休憩することにした。入り口に近いからか、通気性もよい。
「はーぁ……お宝……」
 汗を流そうと洗い場で上半身を洗い、ぼんやりぼやいていると、
「優夏ー?」
「んー?」
「背中流してあげるー☆」
 フィリーネが来て、優夏の後ろにぴとっとくっついて、湯を流してきた。
(結局、お宝得られんかったけど……これはこれで、ちょっとお得やったかも)
「ねぇ、優夏」
 いきなり呼ばれて、えっ、と慌てて、赤くなった顔を引き締める。
「あのね、優夏。
 …宝物、見つけてると思うけどなぁっ☆」
 そう言って、いきなりフィリーネは優夏にぴとっと抱きついた。 


 ペルセポネは、湯当たり(?)から回復した後、ルカルカら他の契約者たちの助けによって何とか「マッパでの帰還」を免れた。
 しかし、パージした後どこかに流れていったパワードスーツの装甲を探して回収するのに、オリュンポスの戦闘員たちを総動員することになり、大変手間をかける羽目に。


 源泉噴出孔でヌシを見たのがきっかけで、最後の秘密の抜け穴の存在を知った唯斗は、大変狭い穴で苦労したが、縮界を駆使して空中走りまで使ってそれを何とか調査した。
 そこから、噴出孔のある場所から広間の天井へと直接通じる通路があること、噴出孔から流れ出た湯の一部が直接に(途中の流れで適当に温度を下げながら)広間に流れ込んでいることを突き止めた。
 しかし、この通路は、ヌシが広間と洞窟外とを行き来する時に使う通路であろうことも突き止め、運営に提出する書類にはその旨の注意を書き記すことも忘れなかった。


「だからさ、ヌシが食べたんじゃないかと思うんだよねぇ」
 弥十郎は、仕掛けておいた温泉卵が消えた湯だまりを前に、八雲に言った。
「いや、誰かが持ち帰ったってこともあるかもしれんぞ」
「けど、ここに来るまでに間欠泉とかかなり長い完全水没の通路とかあったじゃない。
 ここまで普通の湯あみ客が来るとも思えないんだよねぇ。まして、卵持って出口まで行くなんて」
「まぁ、そうか……」
「うん、きっと、ヌシが丸呑みしたんだよ。
 それなら、卵の殻が一つも見つからないのもうなずけるしねぇ」
「ヌシ……温泉卵食べるのかなぁ……」

 結局、この温泉卵消失事件は、決定的な証拠もなく謎のまま終わる。