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そして、蒼空のフロンティアへ

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新世界へ



「ああ、ゴリさん、甲斐ちーに頼んでいた物完成した?」
 イルミンスール魔法学校の研究室にやってきた鳴神 裁(なるかみ・さい)が、猿渡 剛利(さわたり・たけとし)に聞きました。
 発端は、物部 九十九(もののべ・つくも)に恋人ができたことです。
 それはそれでおめでたいことなのですが、なにしろ、物部九十九はナラカ人です。誰かに憑依しなければパラミタでは活動できません。
 というわけで、当然のように鳴神裁に憑依して、デートにでかけるということになります。
 これは、ある意味、地獄です。
 まだ、ぼっちだというのに、勝手にリア充のあれやこれやを体験させられる身にもなってください。このままでは、鳴神裁の精神が持ちません。
 ということで、三船 甲斐(みふね・かい)に憑依専用のボディをイコプラなりパワードスーツなりの技術を応用して作ってもらえるように手配していたのですが……。
「甲斐ちー、どうしたの?」
 研究室で、膝をかかえてぼーっとしている三船甲斐を見つけて、鳴神裁が唖然としました。
「なんなの、この燃えかす?」
 アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)が、三船甲斐をツンツンつついてみましたが、ほとんど反応がありません。
「それが、小ババ様イコンの完成を見て、目標を見失っちまって……」
 猿渡剛利が、説明します。
まあ、そういうこともあるわよね
 アリス・セカンドカラーが、三船甲斐をツンツンしながらつぶやきました。
「燃え尽き症候群!? じゃあ、憑依用ボディはどうなるの!?」
 また勝手にデートに身体を使われるのかと、鳴神裁が戦々恐々としました。これ以上二人の仲が進むと、危険です。大危険です! お手々繋いで以上はダメです。
「それは大丈夫。大丈夫なんだが……」
「なあんだあ。できているんなら、早く見せてよ」
 急かす鳴神裁に、猿渡剛利が、恐る恐る完成した物部九十九 憑依用ボディ(もののべつくも・ひょういようぼでぃ)を披露しました。
「だっるい。誰よ、これ」
 鳴神裁の前に現れた物部九十九・憑依用ボディが、開口一番そう言いました。姿形は、本来の物部九十九そっくりです。
「ちょっと待った。ボディだけって言ったのに、自我があるじゃないかあ!」
「あるのよね。あー、めんどくさい。めんどめんど……」
 鳴神裁の抗議に、物部九十九・憑依用ボディがやる気ない態度で肯定しました。
「ちょっと予定外でさあ。とりあえず、試すだけでも試すか?」
 もう、半ば投げ槍で猿渡剛利が言いました。
「まあ、試すだけなら……」
 そう言うと、鳴神裁が、自身の中から物部九十九を呼び出しました。
『はーい、例の奴できたの?』
「まあ、そういうことだから、移ってみて」
 そう言うと、鳴神裁が物部九十九・憑依用ボディのおでこに自分のおでこをくっつけました。
 鳴神裁の身体から何かがスーッと抜けていく感じがあり、逆に、物部九十九・憑依用ボディは、身体の中に何かが入って来るのを感じました。同時に、物部九十九・憑依用ボディの本来の意識が、一段別の位置に移動します。
「うん、ちゃんとできるよ」
『あれ? 身体が軽い? っていうか、楽だわこれ。いったいどうなってるの?』
「ええとね、ボクが憑依したんだよ」
 頭の中で不思議がる物部九十九・憑依用ボディに、物部九十九が説明しました。
『ああ、それは楽だ。じゃ、後は任せたから、好きに身体を使っていいよ。ボクは少し昼寝するから、起こさないでね。お休みー』
 そう言うと、物部九十九・憑依用ボディの意識は、身体の中で眠ってしまいました。
「わーい、やっと念願の身体を手に入れたあ!」
 物部九十九が、小躍りして喜びました。どうやら、物部九十九と物部九十九・憑依用ボディの利害が一致したようで、まったく問題はないようです。
「これで、彼が言っていた新しい世界っていうのに、いつでもいけるね」
 恋人と約束したのは、世界生みで生み出された新世界を目指そうと言うことでした。
「まあ、正直、そこへ行く方法はまだ分からないけれど」
「新世界……!」
 そのとき、不意に、三船甲斐がその言葉に反応しました。
「あっ、起きた!?」
 ツンツンつついていたアリス・セカンドカラーが少し下がります。
「新世界かあ、いいよね。つーわけで、甲斐ちー、甲斐ちーも新世界行こうぜ」
「面白い!」
 鳴神裁の言葉に、三船甲斐が完全復活して叫びました。
「うん、それって、すっごい面白そうね。わたしも一枚かませてもらおうかしら?」
 アリス・セカンドカラーが目を輝かせて言いました。どうせなら、もっとメンバーがほしいところです。ヴァイシャリーで変態を探して退治している及川 翠(おいかわ・みどり)なんかよさそうです。なにしろ、テヘベロを手なずけているということですから、新世界で何が出てきても平気でしょう。後で声をかけてみましょうか……。
 さて、それはそれとして、新世界を目指すにも、どこにあるのかなど、情報が必要です。
「じゃあ、ひとまず、大図書室で調べてみるかな」
 鳴神裁の提案で、一同は大図書室を目指していきました。