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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~
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リアクション


第3章 繋がる刻(とき) 6

「ふん……かかってこい」
 にやりと、イレイザー・スポーンどもに挑発的な笑みを浮かべたのは淡い金髪の青年だった。彼は腰にさげた鞘から剣を抜くと、その抜き身の刀身を敵に突きつける。
「貴様らに遅れを取るほど、俺は甘くはないぞ」
 瞬間――イレイザーの奇声が響いた。
「……っ! はぁっ!」
 それまで青年――モードレット・ロットドラゴン(もーどれっと・ろっとどらごん)が居た場所をイレイザー・スポーンの豪腕が通り過ぎる。転瞬、モードレットは身を翻すと、刃を一閃した。
 さらに、彼は勢いを止めることなく敵へと突っ込んだ。その動きたるやまさしく剣舞のそれである。見る者を魅惑の世界に誘う剣線が、いくつも華麗な筋を結んだ。
「モードレット……あまり、無茶はしすぎると……!」
「うるさいぞ、椋! 貴様は黙って見ていろ!」
 心配げにモードレットに声をかけたのは、久我内 椋(くがうち・りょう)だった。
 しかし彼に叱責と飛ばすと、モードレットは容赦なく、そして躊躇なくイレイザーどもに斬りかかっていく。その背中を見ながら、椋は昨日のことを思い出していた。
『俺は貴方の道具でもいい。傍にいたいんです。だから、ともに来てください』
 そう言ったのは、椋自身である。
 この金髪の青年は過去のモードレットであるが、椋のその言葉に興味をそそられたのか、ここまで共に着いてきてくれた。それが今のモードレットを形成しているのか? あるいはそうでないのか?
 椋には分からないが、今はモードレットと時を越えて出会えたことを嬉しく思った。
「久我内さん、イレイザーには“ギフト”が有効です! 私の“ギフト”を……」
 思考に耽っていた椋を現実に返したのは、ともに戦う沢渡 真言(さわたり・まこと)の言葉だった。振り向くと、彼女が二つの拳銃を手にイレイザーに狙いを定めている。
「分かった。じゃあ、俺とモードレットが敵を引きつける」
 椋はうなずいて、敵の元に飛び込んでいった。
 ほぼ自分勝手に戦うモードレットの動きは、偶然とはいえ敵を引きつけるのに一役買っている。あとはそれを真言が狙いやすいように誘導するだけだ。
 黒い刀身の刀を手に、椋は呼吸を整えた。
「――ッ」
 イレイザー・スポーンの群れが、“疾風迅雷”の衝撃波を受けて、雷鳴とともに吹き飛ばされる。
 それはモードレットと戦うイレイザー・スポーンとぶつかり合い、一箇所に溜まった。
「真言っ!」
「分かりました!」
 椋の合図にうなずいて、真言は二つの銃口を敵に向けた。
 瞬間、轟く銃弾の音。イレイザー・スポーンに穿たれた穴は瞬時に大きな穴と化し、彼らの身を朽ち果てさせた。
「ちっ……俺様の獲物を捕りやがって」
「す、すみません……」
 金髪の暴君は苛立ちを募らせたように言い放ち、真言は思わず謝った。が、すぐに暴君は身を翻す。
「……先に行くぞ。さっさと叩きつぶして、終わりにしてやる」
 言い残して、彼は二人を置いて走り去った。
 一瞬、ぽかんとそれを見つめていた二人だが、椋が慌てて立ち上がる。
「一人にしたら、どうなるか分からないな。急いで追いかけよう」
「え、ええ……」
 唖然とする真言と一緒に、椋はモードレットの背中を追いかけた。
 過去も現在も変わりなく、俺は貴方の背中を追うんですね……。そんなことを思いながら、椋はしかし、嬉しげに微笑を浮かべていた。


「ねぇ、ジュレ〜……何か話そうよ〜」
 繭の中を歩きながら、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)はそんなことをぼやいた。彼女が呼びかけるのは前を歩く淡い金髪の娘である。お団子頭の下の冷然とした顔で、彼女は振り返った。
「……任務遂行には不必要。敵の警戒に備えよ」
「ぶぅ〜」
 あまりにも機械的な物言いに、カレンは口を尖らせた。
 対し、淡い金髪の機晶姫――ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)はいかにも怪訝そうに眉をひそめる。何をそんなに話すことがある? とでも言いたげな顔だった。
「我には貴女の行動理由も言動も理解できない」
「そんなぁ〜……だってさぁ、せっかく二人でいるのに黙ったまま歩くって退屈じゃないかぁ。ボク、そんなのは駄目だと思うんだ」
「理由があまりにも不確定。理解不能である」
「むううぅ…………あーあ、ジュレって、最初はこんなだったかなぁ……もうちょっと優しかった気がしたんだけど、ボクの気のせい……?」
 一人でなにやらもんもんと悩ましげに頭を捻るカレンを、顔色を一切変えない機晶姫は不思議なものでも見る目で見やった。
 この女性はどうしてここまで楽観的でいられるのだろうか? 我々の任務は、この光の繭の中のイレイザー・スポーンの殲滅にある。状況は極めて緊張状態にあってしかるべきだが、彼女の頭の中は平凡な日常を過ごしているのとなんら変わらないのではないか? そもそも合理性が感じられない。
「理解不能……」
 再度考え込むようにジュレールはつぶやいた。
 その時――
「!?」
 目の前に黒い穴のようなものが出現する。それは、イレイザー・スポーンが現れる兆しだった。
「これより戦闘態勢に移行する。カレン・クレスティアは防護結界を張り、我のバックアップを――」
「だらっしゃああぁ!」
 言うより早く、イレイザー・スポーンが現れると同時に飛び出したカレンが、無数の雷撃の魔法を放った。敵はそれに包み込まれ、吹き飛ばされる。
 だが、そのあまりにも無鉄砲な戦いっぷりに、ジュレールは驚きを隠せなかった。
「カレン・クレスティア。我の命令に従い、冷静に状況を……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! バックアップが必要なら、ジュレがお願い! ボクは前に出るほうが性に合ってるのっ!」
 ジュレールの注意を一蹴して、カレンは更に両手の杖から魔法の放つ。炎や氷結の魔法など、数々の攻撃がイレイザー・スポーンに叩きつけられる。
 ジュレールはそれでも何か言おうと口を開閉していたが、やがて諦め、仕方なくレールガンを構えて彼女のバックアップに移った。
 カレンが取り逃がしたイレイザーは、彼女のレールガンが撃ち抜く!
(まったく、なんて戦い方だ)
 ジュレールは内心毒づきながら、過激な戦闘方法にため息を禁じ得なかった。だが、その顔にはどこか心地よさが滲み出ているようでもある。カレンの魅力がそうさせるのか? 彼女の声に従って動き――
「やったね、ジュレ!」
 その顔が破顔して嬉しそうに声を弾ませると、ジュレールもどこか嬉しくなるのだった。
 初めての感覚に戸惑いながらも、冷静でいることを自分に言い聞かせてジュレールはレールガンをどんどん撃ち放つ。
「ジュレ、やっぱりボクたちのコンビネーションは抜群だね!」
「…………」
 そう言って笑うカレンの背中を見ながら、ジュレールはかすかに、彼女には気づかれないようにうなずいた。