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里に帰らせていただきますっ! ~ 地球に帰らせていただきますっ!特別編 ~

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 ■ 妻を連れての里帰り ■



 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)と結婚して約1年になる。
 パラミタでの生活はあれやこれやと忙しく、実家に結婚の報告をきちんと出来ていなかったことに思い当たり、涼介はミリアを里帰りに誘ってみた。
「ミリアさん、今度の休みに私の実家に行きませんか? 一応、結婚の報告と家族に紹介したいというのもありますが、私の産まれ育ったところを見てもらいたいなぁと」
「それは私もご両親にご挨拶しないといけませんね。『宿り木に果実』のお休みをあわせますから、日程が決まったら教えてくださいね」
「ああ、そうするよ」
 実家のほうには、今度は妻と一緒に来ると言ってあるから大丈夫だろう。あとは日程を調整するだけだと、涼介はスケジュールを確認するのだった。


 上野から地下鉄などで移動すること30分。文京区本郷に涼介の実家はある。
 本郷家は江戸時代から続く開業医で、外観は純和風の平屋建て、隣に診療所が併設している。
 ミリアは何を見ても珍しそうにしていたが、特に本郷家の佇まいは目新しかったようだ。
「ここが涼介さんの育ったお家なんですね。向こうの看板は何て書いてあるんですか?」
「あれは本郷診療所……ああ、そうか。ミリアさんは日本語は……」
「簡単なのならなんとか分かりますよ。でもあまり画数が多い漢字とか、普段使わない言葉だと難しいですね」
「日本語は難しい言語だからね。けれど、美しい言語でもあるんだ」
「今度教えてくださいね。涼介さんの国の言葉、たくさん知りたいです」
「ああ。今日も何か分からないことがあれば、何でも聞いてくれていいからね」
「はい。お願いしますね」
 頼りにしてます、とミリアは涼介を見上げた。

「ただいま」
 半年ぶりの実家の戸を開けると、すぐに妹の本郷 涼子が顔を出した。
「お帰りなさい、兄さん。ミリア義姉さん、いらっしゃいませ。みんな、2人が来るのを待ってたんだよ」
 そう涼子が言っている間に、父の本郷 涼太郎と母の本郷 恵美も玄関先にやってきた。
「ただいま。前言ってた通り、妻を連れて来たよ」
「はじめまして。ミリアです。どうぞよろしくお願いします」
 ミリアが笑顔で挨拶すると、父母も相好を緩めた。
「おかえり。ミリアさんはようこそ。それから、結婚おめでとう」
「こんなに可愛いお嫁さんが来てくれて、涼介も幸せ者ですわね」
 普段はこの時間、父母が家にいることはないが、今日は2人の帰省にあわせて、診療所を休みにしてくれている。その両親に口々に祝われて、涼介とミリアはありがとうございますと揃って頭を下げた。
「玄関先もなんだから、まずは早く荷物を解いて、ゆっくりしてくださいね」
 長旅で疲れただろうからと2人をいたわり、涼子は家の中を示した。


 2人は涼介の自室で荷解きをして、しばらくゆっくり過ごした。
 涼子がよく冷えた麦茶を持ってきてくれたので、それを飲みながら涼介の昔のアルバムを広げる。
「これは何歳くらいの時なんでしょうか。ちっちゃいですね」
 楽しそうにアルバムに見入るミリアに写真を撮ったときの状況を説明するうち、涼介は図らずも昔語りをすることになった。
「パラミタに来る前の私は、どこにでもいる普通の学生だった。魔法の使い方や護身用の剣術などは叔父から習ったが、表だって使うことはなかったなぁ。まあ、使う場面もなかったし、それに力をひけらかすようなことは好きじゃなかった。それにアレは力として使うためのものというより、自己を鍛錬・制御する精神修行みたいなものだったからね」
「涼介さんは昔から、涼介さんだったんですね。あ、この写真はここのキッチンでしょうか?」
「そうそう、料理に関してはこの頃から得意だったんだよな。皆が喜んで食べてくれるのが嬉しくて、よく台所を占領していたよ」
 そうして話をしていると、涼子が部屋に呼びに来た。
「お母さんが夕食の準備をするから手伝ってもらえないかって言ってるけど、いい?」
「ああ、すぐ行くよ」
「私もお手伝いします」
 涼介とミリアはアルバムを閉じると立ち上がった。

 けれど、涼介は台所に行くより前に、父に呼び止められた。
「涼介も20歳になったのだから、一杯付き合え。息子と飲める日が来るのをずっと待っていたんだからな」
 そう言えば自分も成人したのだと、涼介は改めて思った。
「料理は私に任せて、どうぞ行ってきてください」
 ミリアにも促され、涼介は父の酒に付き合うことにした。

「おお来たか。まずは飲め飲め」
「まだ酒に慣れてないので少しだけ頂きます」
 父と酒を酌み交わすのは、どこかくすぐったい気分だ。
 最初はとりとめもない話をしていたが、そのうちに本当の強さとは何か、を父は語り出していた。
「真に強い人間には、その中に優しさがある。医者というのは時に苦しい選択を迫られることがある。これは町医者の家系である本郷家の男に課せられた宿命みたいなものだ」
「宿命……」
「ああ。人の命を救うということは強くなければ行えない。お前にはその素質があるのだから、自分を見失わず、家族や友を護れる気高い力と心を持った男になれ。今のお前になら出来るさ」
 涼介が酒を飲める歳になったら、この話をしようと思っていた。そう言って父は、涼介の杯に少しだけ酒を注ぐ。
 それを涼介はぐっと飲み干した。父の教えを全身に染み渡らせるように。


「ミリアさんにたくさん手伝っていただきましたのよ。本当に料理がお上手ですのね」
 出来上がった夕食を食卓に運びながら、母がミリアの腕前を褒める。
「いえ。私こそ、いろいろ教えてもらいました」
 恥ずかしがるミリアに代わって、涼介が言う。
「普段からカフェテリアの看板娘として料理しているからね」
「だからですのね。さすがですわ」
 この日の本郷家の食卓には、和風とパラミタ風と、両方の家庭料理が並んだ。
 それを食べつつ、家族の会話は弾む。
「それにしてもミリアさんって、とっても素敵な人だよね。兄さんの奥さんにはもったいない人かも」
 普段以上に料理をぱくぱくと食べながら、涼子が言う。
「でもね、返ってきて2人で部屋にいるとき、お似合いの夫婦だなぁって感じたんだ。だからさ、兄さんはミリア義姉さんのことを大切にしないと駄目だよ」
「そんなこと、涼子に言われるまでもなくしてるよ」
「兄さんたらのろけてる」
 涼子はちょっと笑ってから、真面目な顔でミリアを見た。
「ミリア義姉さん。改めて、兄さんのことよろしくお願いします。兄さん優しい人だから、ミリア義姉さんを悲しませることはしないと思うけど、自分の不甲斐なさで落ち込むことがあったら支えてあげてください」
 涼子の言葉に、ミリアはにこりと笑顔で答える。
「もちろんです。大切な夫ですもの」
 その返事に、涼子はほっとした様子になる。
「ありがとう、ミリア義姉さん。2人がこれからも仲良く幸せでありますように」

 そうして和やかな食事が終わると、涼介は居ずまいを正した。
「改めて。私本郷涼介いや、涼介・フォレストはミリア・フォレストと昨年結婚しました。まだまだ未熟な2人かもしれないけど、親父たちには温かく見守って欲しいかな」
 涼介が頭を下げるのにあわせ、ミリアも頭を下げる。
 それに対して皆が投げかけてくれるおめでとうの言葉が、2人への最高の祝福だった――。