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リアクション
『5.謎の世界』
百合園生達がダークレッドホールに突入して数時間が過ぎた頃。
祥子とエリシアはツァンダ方面へと向かった。
電波が届く場所でエリシアと別れ、祥子は携帯電話で百合園女学院に報告。
小島に向かった者達からも、白百合団に報告が届いており、瑠奈とゼスタはなんらかの理由で、ダークレッドホールに向かったことに間違いはないということを知った。
「繋がらない、か」
祥子は念のため、携帯電話で小夜子に電話をかけてみるが、電波の繋がらないところにいるか、電源が入っていないとアナウンスが流れるだけだった。
「ダークレッドホールがシャンバラ国内のどこかに繋がっているのならもしくは、と思いましたが……」
エリシアは蒼空学園に戻り、映像データの受信を試みてみるがやはり何も届いていない。
「行方不明になっていた方が、記憶を失った状態で発見されたといいます。わたくしのイコプラも、データーを抹消された状態で戻ってくるのでしょうか」
苦笑しながらそう言い、飛び込んだ人々が無事に戻ってくることを願いつつ、エリシアは今後の事について考えるのだった。
『6.ダークレッドホールの先』
「う……っ」
体を焼くような痛みに、リンは強く目を閉じた。
「しっかり! 技を用いれば耐えられます」
小夜子は、龍鱗化で皮膚を硬質化し、リンを引き寄せて抱きしめた。
強い力に引っ張られる。既に自分の意思で進んでいるのではない、炎が渦巻くその先へと、2人は吸い込まれる。
「何かが燃えてるんじゃない、魔法の、火」
苦しげにリンが言う。
大渦に巻きこまれ、2人の身体は激しく回り、引き裂かれるかのような衝撃をも受けていく。
強い力から開放されても、熱さは残っていた。
「熱い……でも、気温が高いというより、魔法の熱のようです」
小夜子はリンと共に、ダークレッドホールの先の地上に降り立った。
「別の、世界?」
そこはナラカとは違うが、夕焼けのような赤い光に包まれた空間だった。
2人が降りたのは、パラミタの大荒野のような荒野。
遠くに、街が見える。
小夜子はすぐに、テレパシーを試みる。が、祥子からの返事はない。頭の中にノイズが響き、上手く集中も出来ない。
携帯電話を操ってみるが、上手く電話もかけられない。誤作動を起こしているようだ。
「魔法の力が、沢山渦巻いてる」
リンが苦しげな表情で言い、辺りを見回す。
強力な電磁波や魔力が渦巻いており、精密機械はまともに働かず、通信は勿論、精神エネルギーを用いる技の使用や、集中が必要な技の使用は困難なようだった。
「ぜすたん、どこ?」
リンが歩き出す。
(待ってください)
小夜子はなんとか集中して、リンに短くテレパシーを送ってみた。
(うん)
リンからの返事が小夜子に届いた。近距離ならテレパシーで呼びかけることも出来るようだった。
「やみくもに歩いても、見つけられないよね、どうしよう……」
リンは体中に火傷を負い、高熱を出した時のような症状に見舞われていた。
リジェネレーションで若干体力は回復しているが、それ以上に消耗していく。
この空間は、体力的に彼女にはとても厳しかった。
小夜子も発熱時のような症状に見舞われていたが、リンよりは酷くはなかった。
(……現在の風見団長と私の体力、身体能力は恐らく同じくらいです。団長もそう何日も耐えられない、はず)
「何か、来る」
リンが一方を指差した。
エアバイクのような乗り物に乗った、人型ロボットだった。
小夜子とリンに向けられたロボットのレンズの目が、不気味に動く。
「セイゾンシャ、ホカク」
その言葉と同時に、そのロボットは銃になっている腕を向けてきた。
直後、光の弾が発射される。
「岩陰に隠れてください」
小夜子はロボットの攻撃を躱して飛びつき、七曜拳を駆使して倒した。
だが、思うように体は動かず、ロボットからの打撃も随分と受けてしまった。
「囲まれたら、切り抜けるのは無理でしょうね」
一先ず、リンと共に岩陰に隠れながら、傷の手当をして。
対策を練ることにする。
○ ○ ○
「出口っぽい場所ないですねー」
アルコリアが降り立った場所は、廃墟の街だった。
乗っていた三つ首の龍とは逸れてしまった。
エリシアのイコプラについては覆って持ってきたので損傷は激しいが、稼働はしているようだ。
辺りには、現代のパラミタでは見かけない街並みが広がっている、
ヴァイシャリーの地下に潜った時に見た造りに似ている気がする。
「あの狭いダークレッドホールの中に、街が一つ入ってるはずないですし、別の世界か空間に飛ばされたみたいですね」
脱出方法は全く思い浮かばないが、アルコリアはとりあえず探索をしようかと考える。
「それにしても、やる気がでませんねー……」
興味本位な観光気分で訪れただけで、大きな目標があるわけでもなく。親しい人がいるわけでも、可愛い女の子がいるわけでもなく。
更には、渦巻く電磁波と魔力が不快感を与えてくれる。
暑くて仕方がないことも、やる気が出ない原因だ。
「この玩具はどうしましょう。せめて女の子の機晶姫だったら気晴らしくらいにはなりますのに」
1メートルほどもある、エリシアの機晶姫は全く動かない。
ただ、カメラは稼働中のようであった。きちんと録れているかどうかは怪しいが。
「ん? ああ、ただの消し炭ですね。飛空艇の残骸とかも放置されていますねー」
辺りを見回していたアルコリアは、原型をとどめていない残骸や、黒焦げの人であったモノを発見した。
それから……。
「ピー、ピピッ。セイゾンハンノウ、カクニン」
エアバイクのような乗り物に乗った、人型のロボットの姿。
「セイゾンシャハッケン、ホカク」
若者の姿をした、無表情の人を見た。
「ホカク」
巡回していたそれらのモノは、アルコリアに気付くと武器を向けてきた。
人型ロボットの方はレンズの目でアルコリアを観察しながら、筒状の武器となっている腕を。
若者は体内から、光条兵器を取り出して。
「とりあえずは」
アルコリアは軽く歴戦の魔術をぶっぱなして、攻撃。
魔術は――普段の2割くらいの威力にしかならなかった。精神力は倍以上消費した気がする。
そして、ロボットの方も若者の方も強い魔法耐性があるらしく、大きなダメージは与えられない。
続いて発動しようとしたホワイトアウトに至っては、魔法がかき消されてしまう。
「魔法、使いにくい世界みたいですね」
それならばと、ごく普通に杖でボコボコ殴ってみる!
「普通に傷つくようですね、うふふふ……」
多少の攻撃を受けながらも、アルコリアは両方を殴り倒した。
「ピピ、セイゾウンシャハッケン」
「ピー、センゾンシャカクニン」
「ピピピー、セイゾンシャホカク」
「あらら」
倒したロボットが信号を送ったのか、次々にロボットや……無表情の剣の花嫁のような、若者達が集まりだす。
「全部倒すのは無理ですー。倒しきるような構成で来てないので」
アルコリアはイコプラを抱えて、敵を振り切り、適当な建物の中へと避難した。
(ゼスタさんと風見さんもこの空間に閉じ込められてる? どーでもいいけど)
そういえば、アルコリアの前に突入した2人はゼスタを気にしていたようだった。
なら、自分は瑠奈を見つけて連れて帰ろうかなぁなどと考える。
なにせこの世界は潤いと女の子成分が足りなすぎる。
不足しているミルミ分は、小夜子達か瑠奈で代用するしかなさそうだし。
「乾いて乾いて仕方がないですねー。オアシスはどこでしょう」
ふふふふ、と笑みを浮かべながら、アルコリアはイコプラを撫でて気を紛らわせる。
『7.迷子探偵の発見』
迷ったと言っても、人道の場所は把握している。
ただ、どのあたりにいるのかが良く分からないだけで。
「とはいえ、日が暮れる前には帰らないと危険よね」
お嬢様が独りで歩きまるような場所でもない。
あともう少し調べたら今日は帰ろうか、そう思いながらブリジットは薄暗い森の奥へ進む。
と、その時。
「ん? 動物の声じゃないわよね」
鳴き声が聞こえた気がして。
ブリジットは足下に気を付けながらその方法へと急いでみた。
木々の先に、少しだけ開けた場所があった。
そこには小さな池があり、そのほとりに――。
「う、うううっ。コワイ、コワイ……たすけ、て」
「わからない、わからない。ナニモ、わからない」
震えている男女の姿があった。
「ち、ちょっと! あなたたち!?」
ブリジットは転びそうになりながら、2人に近づく。
それは、行方不明となっていた、ゼスタ・レイランと風見瑠奈だった。
二人は身を寄せ合って震えている。
「ま、まさか本当にここにいるなんて」
ブリジットは慌てながら、携帯電話を取り出す。
辛うじて、電波は届いていた。
「副団長補佐、まだ港にいるかしら。蒼空学園の子もいたら、話が早いんだけど」
ブリジットは北の空の港で聞き込みをしている、レキへと電話をかけた。
すぐにレキは小型飛空艇オイレに乗って、翼のあるレグルスと共に空からブリジットの居場所と突きとめて駆け付けた。
美羽はツァンダの救急隊に連絡をしてから、レグルスの案内のもとブリジットたちと合流をする。
「風見団長……」
レキが声をかけても、瑠奈は首を横に振り「コワイコワイ」と片言で言っているだけだった。
「ちょっと失礼」
ブリジットはおもむろにゼスタの服――検査服のようなガウンを引っ張る。
「中には、何も着ていないみたいね。記憶も持ち物も何もかも奪われて、捨てられた……ってこと?」
「もうすぐ、街の人たちが助けに来てくれるからね。大丈夫だよ」
美羽はしゃがんで、震えている2人に声をかけた。
ゼスタと瑠奈は茫然とした表情で、何もわからない、怖い、という言葉をただただ繰り返していた。
その後、2人は他の発見された行方不明者と同様に、ツァンダの病院に運ばれた。
『8.不思議な力』
光術で呼び出した光を頼りに、アルファは鍾乳洞を進んでいた。
二次災害の元になるつもりはなく、慎重に。
何かの際には、すぐに退避できるよう気を付けながら、歩いていた。
そんな彼女の視界が突然明るくなった。
声、ではない。
心地良い強い光を感じとって。
その光が誘う場所へと、アルファは自然に歩いていた。
そして――。
「何してんだァ!」
突然響いた男性の声。
体に感じる、熱さ、冷たさ、口の中に入り込む水。
「ぐ……けほっ、けほっ……」
オアシスの水の中から、竜司に引き上げられたアルファは何が起きたのか分からず、ただ咳き込んでいた。
「てめぇは、突然鍾乳洞から出て行って、自分で自分を焼こうとしたんだ」
少し落ち着いてから竜司に話を聞いたアルファは信じられないというように、首を左右に振った。
しかし、確かに纏っていた服の一部が焦げている。
「助けて、くださったのですか」
アルファは竜司の服も焦げていることに気付いた。
「あなたはどなたですか?」
「若葉分校のイケメン番長、吉永竜司とはオレのことよ」
竜司は胸を張って答える。
若葉分校――は、白百合団の元副団長、ロイヤルガードの隊長の神楽崎優子を総長としている分校だ。
「ありがとうございました。吉永さん」
アルファは竜司を信じることにした。
「そういやァ、洞窟の入り口に、松明らしきものが落ちてたよなァ。焔狼盗賊団の奴らも、自分達で自分達を黒焦げになるまで、焼いたとか」
彼らは無法者の犯罪者であり、ここはシャンバラ政府の管理下に置かれた場所でもないため、検死などは行われていない。
「……わたくしは、何者かに操られていたのでしょうか? ただ、とても心地の良い力でした。力がみなぎるような感覚も、受けていました……」
まだ少し、茫然としながらアルファは竜司にそう語ったのだった。
その後、竜司はスパイクバイクの後ろに乗せて、アルファを百合園に送り届けてあげたのだった。
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