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白百合革命(第1回/全4回)

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白百合革命(第1回/全4回)

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『9.古代人の陰謀』

 眩しい光が治まり、あたりの景色が見えてくる。
 今までいた、林の中ではない。
 ファビオ、亜璃珠、コウは、室内にいた。
 壁紙は貼られておらず、白い石がむき出しになっている無機質な部屋だった。
 学校の教室くらいの広さだ。
「私のことを覚えている? ファビオ・ヴィベルディ」
 その部屋には、青みがかった黒髪で青い瞳の外見30代くらいのヴァルキリー女性と、40代くらいの守護天使の男性がいた。
 ファビオは女性の顔を眺め、はっとした表情になる。
「覚えています。今、はっきりと思いだしました」
 ファビオの声は少し震えていた。
「誰だ?」
 コウが尋ねると、彼は緊張した面持ちで答える。
「5000年前、離宮に住まわれていた姫君の、母親……リヴィア・ヴァイシャリー様。アムリアナ女王の伯母に当たる方だ」
「ならば、無論、私のことも覚えているな?」
 守護天使の男性が威圧的な態度で言う。
 ファビオは男性を見て、しばらく考えてから、答える。
「……はい、フェクダ・ツァンダ様」
「ふん」
 鼻で笑い、あざけるような目で、守護天使の男――フェクダはファビオを見ている。
「それならば、シャンバラの騎士として蘇ったあなたが、今、この時代で仕えるべき相手は、誰なのか、わかるわよね」
 その女性、リヴィアがファビオに向ける目は、優しかった。
 ファビオは彼女に近づくと、床に片膝をついて頭を下げた。
「私はシャンバラと貴女に、忠誠を誓います」
「顔を上げなさい。離宮の守護を申し付けたあなたたち6人は、私の子供のようなもの。共に、シャンバラを立て直しましょう」
「はい」
 ファビオは素直に返事をすると、顔をあげて差し出されたリヴィアの手の甲にキスをした。
 その、彼の額に。
 リヴィアは一つの指輪を当てた。
 指輪は光のサークレットとなって、彼の頭の中にすっと溶けて入っていった。

「さて、お前達だが」
 フェクダがコウと亜璃珠の前に立つ。
「我々の目的は、現在のシャンバラの政権を打倒し、かつてのシャンバラ王国に近い、女王とシャンバラ国民による王政を樹立することにある」
「話が唐突すぎて、何とも答えようがない」
 コウはそう答えながら、パートナーのマリザならどう答えるのか考えていた。
 ファビオと同じように忠誠を誓うのだろうか。
「革命を起こすための同志を求めてるのかしら? 彼や、同志にどのような行動を求めているの?」
 亜璃珠は問いかけながら、ファビオを見ると、彼はリヴィアと共に部屋から出て行こうとしていた。
 離れるのは良くはないと思うが、亜璃珠達の前にはフェクダが立ちふさがっており、まだしばらくここから出られそうになかった。
「貴様ら、地球人に求めることは恭順だ。我等は政治が地球人の干渉により正常に行えていないことに危惧の念を抱いている」
 シャンバラの軍事のトップも地球人であり、国家神としての力はパラミタ人が辛うじて有してはいるものの、国を動かしている存在は純粋な国民より、既に地球人の方が多いと感じられること。
 かつては、1人のパラミタ人が多くの地球人と契約が出来た。
 そして、契約により複数の地球人の能力を、パラミタ人が身につけることが出来た。
 現在は逆であり、地球人の力が驚異的なまでに、膨れ上がり、なくてはならないものになっている。
 このままでは、パラミタと地球が正常な状態――離れた後。
 地球人を失ったシャンバラが衰退し、滅びを迎える未来しか見えない。
「シャンバラに正しく貢献せず、我々の力という恩恵だけ得ている貴様らにも使い道はある。
 得た力をエネルギーとして、パラミタに還すことだ」
 フェクダがコウと亜璃珠に求めるのは――。
「恭順か、死か」
 彼の言葉に、コウと亜璃珠は眉を寄せる。
「……判断するだけの情報が足りないわ。従うのなら、何をさせる気?」
 亜璃珠の問いに、フェクダは薄い笑みを浮かべながら答える。
「神楽崎優子、錦織百合子、桜谷鈴子、風見瑠奈……いずれか1人でいい、連れてこい」
「操って旗頭にでもするつもり?」
「いや、ヴァイシャリーへの宣戦布告時に、ヴァイシャリー侵略の意思を認めさせ、悪政の責任を負わせて公開処刑に処するためだ」
「それは……難しいわね」
 このことを知ったら、自分がと真っ先に言うのは、優子だろうと亜璃珠は思い軽く目を伏せた。
 ため息をついた後、すぐに顔を上げてフェクダに尋ねる。
「騎士の指輪を集めているそうだけれど、それに関しては?」
「騎士の指輪は、とある古代のシステムを発動するのに必要だ。数は多ければ多いほど威力が望めるが、発動キーとなる『白騎士の指輪』さえ手に入れれば、最低限の条件はクリアできる」
「その指輪はどこにあるの? 例えば……それと交換で、公開処刑はやめてもらうこととかできるかしら」
 そんな残酷なことをしたら、彼女達のパートナーのパラミタ人やその家族、仲間達を敵に回すことになり、よりシャンバラは混迷するわなどと、亜璃珠はフェクダに訴える。
「ほら、あの内容のうかがい知れない手紙で心を決めて来ているんですもの。間違いなく、私も滅びを迎えまいとしているシャンバラへの憂いがありますわ」
「貴様が使える人材なら、話を聞いてやってもいい。
 白騎士の指輪は、代々ヴァイシャリー家の直系に伝わっている。ヴァイシャリー家を継ぐ者、もしくはその婚約者が所持しているはずだが、現在は行方知れずとなっている」
(ヴァイシャリー家の後継者ってよくわからないのよね……。未成年の男子については、聞いても教えてくれるはずないし、ラズィーヤさんでさえ把握していない可能性も)
 とはいえ亜璃珠は出かけ前に、仲間からのテレパシーで話を聞いていたため、シスト・ヴァイシャリーが風見瑠奈に渡した指輪がそれなのではないかとも思えていた。
「我等に忠誠を誓うというのなら、貴様らにも騎士の指輪を授けよう。万が一、裏切り行為を行った場合は、精神を破壊させてもらう。
 恭順できぬというのなら、時が来るまでここで大人しくしていてもらう」
 そう言うと、フェクダは壁に手を当てた。
 浮かび上がった魔法陣をくぐり、彼の姿は部屋から消えた。
「リヴィアという女性が、ファビオの頭の中に入れた指輪。あれが騎士の指輪のようだな」
 フェクダが消えてしばらくしてからコウが言った。
「……あれを入れられたら、心を読まれたり、操られたりしそうよね」
「多分な」
 コウは携帯電話を取り出した。
 案の定、ここには電波が届いていない。
 パートナー通話は出来るかもしれないが、盗撮、盗聴はされていると思った方がいいだろう。


『10.エリュシオンからの使者』

 東シャンバラのロイヤルガード宿舎のロビーにて、優子とジャジラッドは顔を合せた。
「……変な噂が流れているせいで、若葉分校の皆にも心配をかけているようなら、『すまない。こちらは大丈夫だ』と伝えておいてくれ」
 土産の果物を受け取りながら優子は言った。
「元気そうに見せているが、無理をしているんじゃないのか? 疲れがにじみ出ている」
「少し訓練に力を入れすぎただけだ」
「それどころではないだろう」
 ジャジラッドは苦笑する。やはり初対面では、事実を語ってはくれないようだ。
「体調、そしてロイヤルガードとしての仕事があるため、動けないんじゃないのか? 百合園の生徒や、白百合団に任せることもできないヤバイ仕事があるんなら、聞いてやってもいい」
 自分に代わって動ける者を探しているのではないか。そう思い、ジャジラッドは優子の元を訪れたのだ。
「金銭を要求したりはしないさ。恐竜騎士団員としてロイヤルガード隊長と個人的に友好な人脈を作っていく事は今後、役立つと思っている」
 優子は少し考えた後。果物を管理室に預けると外へと歩き出す。
「これからとある人物と会う約束がある。一緒に来てほしい」
 それは鈴子、リナリエッタだけではなく、ジャジラッドにも向けた言葉だった。

○     ○     ○

 ヴァイシャリーの繁華街にある、ありふれた酒場の個室に、優子は鈴子、リナリエッタ、ジャジラッドと共に訪れた。
 店の前で、ヴァイシャリーに到着したばかりの、アレナ、葵、康之と合流をして、店内へと入る。
「アレナちゃんよかったね。優子隊長も回復したみたい」
 葵が元気にアレナに言うと、アレナはほっとした表情で頷いた。
「良かった良かった!」
 このまま何も起きないで欲しい。
 そう願いながら、康之は笑顔でアレナの頭をぽんぽんと叩く。
 アレナは康之の内心にも頷くかのように、何度も頷いていた。
 店内に入り、優子が予約者の名前を店員に告げると、7人は比較的静かな奥の個室に案内された。
 ……その個室に、先に訪れていた者がいた。
「お久しぶりです。神楽崎優子隊長」
 すぐに立ち上がり、深く礼をしてきたのは女性だった。
 その隣にいた、黒髪の男性も女性に倣って頭を下げた。
「久しぶり。わざわざ来てもらってすまない」
 言いながら、優子は手を差し出して皆に座るように指示をだし、自分もその女性の前の席に腰かけた。
「いえ、お時間をとってくださいまして、ありがとうございます」
 優子が座ってから、その女性も腰かけ、続いて男性も座った。
 彼女はメンバーを見回した後、深くかぶっていた帽子と、眼鏡、マスクを外した。
 ……御堂晴海だった。
 晴海は、とある組織のスパイとして百合園に潜入していた過去を持つ女性だ。
 現在は七龍騎士レスト・フレグアムのパートナーとして、エリュシオン帝国第七龍騎士団に所属している。
 また隣に従えているエリュシオン帝国の秘術書『ヴェント』も彼女のパートナだ。
 皆に再び礼をした後、晴海は帽子と眼鏡、マスクをしなおした。
 非公式な、公には出来ない訪問のようだ。
「実は、シャンバラに出現した炎の渦について、お話があります」
 飲み物が揃ってから、晴海は話し始めた。
「エリュシオンの龍騎士の間では、あの現象は失われた帝国の秘術書『ヒュー』によるものではないかと噂されています」
 5000年前、エリュシオンとシャンバラの戦時中。
 エリュシオン帝国は、シャンバラに地球人と契約をした4冊の魔道書を送り込んだ。
 強大な力を持つ4冊の魔道書は、シャンバラに大きな被害を与えたという。
 その4冊、ヴェント、ティラ、ヒュー、アクアのうち、帝国の元に残ったのは『ティラ』だけであった。
 『ヴェント』はシャンバラで保管されていたが、現在はエリュシオンの管理下に戻ってきている。
 後2冊、火の禁術が記されたヒューと、水の禁術が記されたアクアは失われたままであり、その魔術も受け継がれてはいなかった。
「また、第七龍騎士団は、近年解散と編成を繰り返していまして、現団長に代わる前に脱走した地球化兵に、古代シャンバラのものと思われる特殊な魔道書と契約をしている者がいました。
 その魔道書も、今回の現象に関与している可能性があります」
 その魔道書には、光と時空を操る魔術が記されていたらしいが、エリュシオン帝国の誰もが読むことが出来ず、魔術を操ることが出来たのは、契約をして人型となった魔道書本人だけだったという。
「ヒューの力と、そのシャンバラの魔道書の力が混ざりあって発生した現象ではないかと、エリュシオンでは話しあわれています」
 ただ、エリュシオンもシャンバラ同様、余力がなかった。
 またこの問題が表沙汰になれば、両国の関係の不安要素となるだろう。
 それらの理由から、ヴェントのパートナーである晴海が、内々に調査に訪れたということらしい。
「それがヒューの力であり、魔術書を発見できた場合は、帝国に持ち帰るように言われています。必要に応じて、契約をするようにとも。ですが、私は……真にパラミタの平和を願っている正しい心の持ち主がいるのなら、その方にお任せしたいとも思っています。たとえば、神楽崎先輩、とか」
「私には扱いきれないよ」
 と、優子は苦笑した。
「実際、エリュシオンの秘術書の全ての魔術を使いこなせるのは、神の力を持つ龍騎士だけのようです。だから私が契約をして、彼の管理下に置くのが一番いいのかと思うのですが……一か所に力が偏るのは良くはないと思うのです。あっ、でもこれは私個人の考えですので」
「解ってる。心に留めておくだけで、誰にも言いはしない」
 お願いしますというように、晴海は優子に頭を下げた。
「炎の渦ですが、調査を行いながらヴェントの魔力による抑え込みを試みてみます。ご協力いただける方がいましたら、お願いします。
 あと、魔術書と共に脱走した地球化兵ですが……こちらは、抹殺し、魔道書を回収するようにと命じられています。発見した場合は、ご連絡いただけましたら幸いです」
 言って、晴海は写真をテーブルの上に置いた。
 短い銀髪に青い瞳の、暗い印象の青年だった。
「シャンバラの方でも、契約者で動ける者がいたら、ダークレッドホールの抑え込みを試みて欲しいと呼び掛けてみよう。……キミも手勢を率いて協力してくれたらありがたいんだが」
 優子がジャジラッドに目を向けた。
「恐竜騎士団員として七龍騎士のパートナーと個人的な友好関係を築いておくことは、有益なんじゃないかな?」
「確かに」
 ジャジラッドは口元に笑みを浮かべた。

 会合後、優子は白百合団と、各学校や契約者達が集まる施設に連絡を入れた。
 晴海は化粧で変装をすると、ヴェントと共にダークレッドホールへと向かって行った。


『11.愛菜』

「うさぎさん、うさぎさん、そっちにはこわいオオカミさんがいるんだよぉ」
「おしえてくれてありがとぉ。おれいにお花ばたけにつれてってあげるね!」
「それはうれしいなぁ。でも今日は、シチューの日だから、家にかえるよ」
「ママがまってるんだね。うん、それじゃあね」
 可愛らしい子供の声が聞こえる。
 目を覚ましたヴァーナーは、声のする方に体を向けた。
「ん? 痛くないです」
 確か自分は、ベッドが沢山ある部屋で、痛い事や苦しい事を沢山されていたはずだ。
 でも、今は拘束もされておらず、さほど体の調子も悪くなかった。
 服装は、捕まった時のままだったが、武具や道具は持っていない。
「あ、おきたの〜。おねーちゃん、愛菜とあそぼ〜!」
 ヴァーナーが体を起こしたことに気付くと、うさぎとカバのぬいぐるみを持った少女が、近づいてきた。
「ここはどこです? 愛菜ちゃんは痛いことされてませんか?」
「愛菜はいい子にしてるから、いたいことされないよ。おねーちゃんはテストに合格したらから、ほんばんがくるまで、愛菜と遊んでていいんだってー」
「ボクは百合園に帰らないといけないです。皆が心配しているかもしれないですから」
「えー、かえっちゃうの? でも百合園はどーんして、なくしちゃうんだって、ママがいってたよ。それまでおねーちゃんは、愛菜と遊ぶの〜」
 ヴァーナーはぐいぐい引っ張られて、ベッドから下ろされる。
 ……その部屋には、窓もドアもなかった。
「ええっと、わかりましたです。愛菜ちゃん遊びましょう。でも、遊び終わったらお外への行き方とか、教えてくださいです」
「お外には出られないんだよ。このお部屋では魔法とかも使えないの。トイレに行きたくなったら、このボタンを押すんだよ」
 愛菜がリモコンを取り出して、ボタンを押すと――床の下から、個室が現れた。
「お風呂はこっち、ご飯がたべたくなったらこっち〜」
 ご飯のボタンを押すと、自動販売機のような機械が床から現れた。
「ごはんたっくさんたべてゆっくりすごしていいんだよ。おねーちゃんとたくさん遊んで、いっぱい元気にするのが、愛菜のやくめなの!」
 そういって、少女は嬉しそうに笑った。
「元気にしてくれるですか」
 愛菜の純粋な笑顔を見て、ヴァーナーの顔にも微笑が浮かんだ。
「あれ? 愛菜ちゃんぶかぶかの指輪してるんですね。ママのですか?」
「ううん、これはママにたのまれて、レイルから借りたの。レイルは愛菜のお友達!」
「レイル……? ええっと、レイル、何君かな?」
「レイル・ヴァイシャリーくん♪」
 嬉しそうな愛菜の言葉に、ヴァーナーは目を瞬かせた。
 レイル・ヴァイシャリーのことは、ヴァーナーもよく知っている。
 ヴァーナーになついている、ヴァイシャリー家の可愛い男の子だ。