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白百合革命(最終回/全4回)

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白百合革命(最終回/全4回)

リアクション

 白百合団員のシスティ・タルベルトがリーダーを務める救護艦は、先に向った百合園の救護艇と同じように、ダークレッドホールを越えたところで、救護艦を捨て、輸送機とイコンで異空間の空へと飛び出た。
 輸送機の方は無傷とはいかず、一旦地上に不時着をすることになり、荒野の状態の良い場所を選び、訪れた者達は下り立った。
「さ、流石にキツイですね……それになんだか、ふらふらします」
 佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)は頭を左右に振りながら、輸送用トラックの運転席に向う。
「なんだか、力が抜けていくような……」
 トラックの荷台には、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)により水、食糧、衣料品が十分詰め込まれている。人も数十人くらい乗せられるスペースもあった。
「のんびりしている時間はないわ」
 ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)が隣に座っていたシスティのシートベルトを外した。
「立てるかしら?」
「……当たり前だ」
 蒼白とも言っていい顔の、システィが立ち上がる。
 軽くふらついたが、手すりを掴み体勢を整え、前を見据えてシスティは歩き出す。
(好きにはなれない。というか、嫌いだけれど。死なせるわけにはいかないのよ)
 ブリジットはシスティと共に歩き出す。
 彼女は武装をして、護衛のためにシスティについてきた。監視目的でもあるが。
「……これが、日々を懸命に暮らす人々が何の脈絡もなく見舞われるかもしれない苦しみです」
 言いながら、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)はシスティにフレイムジャンパーを羽織らせた。
「いや、それだけではない。この感じ……力が吸い取られているのか?」
 呼雪は眉を寄せる。
「人のエネルギーを、命を何かのエネルギーに使うつもりなのだろうか」
「まさか……と言いたいが、ありえないことではない」
 苦しげな表情で、システィが答えた。
「伝えられていた以上に、猶予はないようです」
「……ああ」
「システィは、こっち! 急いで」
 ゲイルバレットの操縦席から桐生 円(きりゅう・まどか)が呼んでいる。
「先に行っている」
「ついて行くと言いたいところだけれど、乗れないわね。気を付けて」
 ブリジットはシスティを円に任せ、自分は共に訪れた者達と共に、ルーシェリアが運転をするトラックに乗り込んだ。
「ええっと、ここは荒野であちら側に川が見えましたから……」
 出発前に、陰陽師のエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)から届いていた情報を元に、先に訪れていた者達の居場所の見当をつけていく。
「あちら方面に美咲さん達はいるはずですぅ。飛ばしますよ〜」
 場所を確認してすぐ、ルーシェリアは出発をする。
 同時にシスティを乗せた円のイコンも出発をした。

○     ○     ○


 円が操縦するゲイルバレットは、ほどなくしてサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)と共に操っているシュヴェルト13を発見し、先に訪れていたメンバーと合流を果たした。
「お疲れさん。待ってたよ。さっき瑠奈ちゃんとも合流したんだけどね」
 通信が使えないためサビクはシュヴェルト13から降りて、円とシスティと顔を合せた。
「瑠奈の状態は?」
 青ざめた顔で、システィがゲイルバレットから降りてくる。
「吸……いや、大量出血したみたいで、容態はかなりヤバい。今はシュヴェルト13の中で治療中だよ」
 体力が奪われ始めた為、外は勿論脱出ポッドの中での介抱は危険と思われるとの判断で、魔法の影響を受けにくいイコンの中へと移されたのだ。
「他に重傷者は?」
「今はいないよ」
「それなら、瑠奈と陰陽師の式神を連れて一旦シャンバラに戻らせてもらう」
「それはできない」
 サビクの案内でシュヴェルト13のコックピットに向かおうとしたシスティの前に、樹月 刀真(きづき・とうま)が現れた。
 コックピットの中は狭い為、刀真は医者の九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)と交代で瑠奈の看病に当たっていた。
「この場にはいなくても、まだ発見されていない人々が沢山いる。瑠奈以上に危険な状態な者もいるだろう。何があっても瑠奈は最後だ、自分だけ助かるってことを嫌がる娘だってことは、君だって知っているだろう?」
「その瑠奈の立場を考えない、身勝手な行動が仲間や友人を危険な目に遭わせた。今だって、彼女が帰還すれば、そのイコンは探索に動けるし、医者やお前だって瑠奈に縛られていないですむ。彼女は帰るべきだ。シャンバラで治療すれば、数日で回復して、皆の役に立てるだろう。けど、ここにいたら邪魔なだけだ」
 何故か敵意さえも感じる声で、システィは刀真に言った。
「ええっと、彼女は白百合団員のシスティ・タルベルト。瑠奈先輩の友人でもある。名家のお嬢様で、契約者じゃないけど護身術としてテレポートが使えるんだって」
 円が皆に簡単にシスティのことを説明した。
「契約者じゃない?」
 刀真が眉を顰める。
「大丈夫なのか? 顔色も良くない。イコンの中にいた方がいいだろう」
 刀真はシスティを案じて、強めな口調で心配そうに言う。
「あのさ、瑠奈ちゃんが足手まといになってるのは確かにその通りだから、そちらのイコンに移してもらえるかな? シュヴェルト13でやっておかなきゃならないことがあるからね」
 サビクが円に問いかけた。
「んー、わかった。状況把握してる分、そっちに動いてもらった方がいいだろうしね。
 システィは大人しくイコンの中に入ってて。刀真くんと喧嘩しちゃだめだよ」
 円はイコンを降りて、刀真と共に、瑠奈の治療に当たっていたローズを手伝い、瑠奈を自分のイコンへと運び入れた。
「状態は安定していますから、点滴を続けながら安静にしていれば、過度の悪化は防げると思います。ただ、外に連れ出してしまうと、長くは持たないと思いますのでその点に関しては注意をしてください」
 血圧や心拍数を確認し、機器の使い方を刀真に教えると、ローズは他の患者の受け入れ態勢を作るために、一旦イコンを後にした。
「なんかくらくらするんだけど、なんでだろ?」
 瑠奈に席を譲り、刀真も看病のために入り込んだ為、円は居場所がなく外で待機していた。
「力が吸い取られているようなんです」
 橘 美咲(たちばな・みさき)が水と救急道具を背負って、脱出ポッドから出てきた。
「気付いていると思いますが、恐らく時間はあまり残されていません」
 美咲はポッドの中で鈴子から地上で起きたことを聞いていた。
 保護された人々が偽物であったこと。彼らが事件を起こしたこと。
 それは美咲が想像していた範囲内の出来事だった。
 ただ、事件のタイミングはもっと後だと思っていた。
 何か大きな事件の最中に、至るところで事件を起こして混乱させるのではないかと。
「事態はかなり逼迫していて、先のテロの混乱が冷めない状態で次の事件を起こす用意が相手方にあるような気がします。
 もしかしたら、私たちがこの地に居ること自体が、相手にとって有利に働いているのかもしれません」
 美咲がそう言った直後。
「式神のイコプラに動きがありました。何かを伝えようとしているみたいです」
 鈴子がイコプラを抱えて、美咲と円に見せる。
 イコプラは腕でぐるぐる渦のようなものを書き、両手を交差させて×を作り出していた。
「……まさか、ダークレッドホールがなくなった?」
 美咲はすぐに、紙にダークレッドホールが無くなったの? と書き、イコプラに見せると、しばらくして、イコプラは首を縦に振った。
「入口を塞ぐことで、テレポートが使える人やテレポートに必要な物資を運べないようにした?」
 円がそう言うと美咲は真剣な顔で頷く。
「体力的な問題もありますが早々に脱出出来るよう、皆で手分けして行動していきましょう」
 プップーとクラクションが聞こえてきた。
 ルーシェリアが運転するトラックが近づいてくる。
「佐野さん、こっちです!」
 美咲は大きく手を振りながら近づいた。
「他の皆さんは、光条兵器を使う人型の人造人間と思われる人達を追っていきました。
 美咲はルーシェリアと合流をすると、助手席に乗って手書きの地図を見せる。
「あともう一つ、気になる場所があります」
 マリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)に見せてもらったものを、写したものだ。
「ゼスタ・レイラン先生と、行方不明者と思われる人が、地図のこの門の場所で消えたそうです。もしかしたら、どこかと繋がっているのかもしれません。確認のために連れて行ってください」
「私も行きます」
 ローズが治療道具を背負って、ポッドから飛び出してきた。
「わかりました。飛ばしますよー」
 ルーシェリアは再びクラクションを鳴らして、鈴子に合図を送った後、美咲を助手席に、円とローズを荷台に乗せて門へと向かった。