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【特別シナリオ】あの人と過ごす日

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【特別シナリオ】あの人と過ごす日
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リアクション


■二人だけの時間


 シャンバラ教導団、執務室。

「……団長、書類をお持ちしました」
 董 蓮華(ただす・れんげ)金 鋭峰(じん・るいふぉん)に頼まれていた書類を提出していた。
「あぁ……それは?」
 鋭峰は書類を受け取る時、蓮華の手にある見た目も匂いもきつくない淑やかな花束に目を止めた。
「これですか。その、執務室に飾って少しでも忙しい団長の息抜きになればと……もちろん、迷惑でしたら飾るのはやめます!!」
 蓮華は恐る恐る理由を話すが、鋭峰のいつもと変わらぬ無愛想な顔を見るなり慌てて引っ込めた。鋭峰の迷惑になる事は彼一筋である蓮華にとっては絶対に嫌だから。
「……いや、やめる必要はない」
 鋭峰はいつもの調子で言った。
「あ、はい」
 蓮華は鋭峰の答えを聞くなり引っ込めていた花束を出し、花瓶に丁寧に飾り始めた。
「…………団長、書類はどうですか?(団長のためにお仕事の邪魔にならない花を選んだけど……気に入ってくれるかしら……)」
 蓮華は花を飾りながら自分が提出した書類を確認する鋭峰に訊ねた。胸中は花の事でいっぱい。鋭峰のために一生懸命で健気な乙女である。
「……問題無い。ほう、なかなかよい花だな」
 書類確認を終えた鋭峰は結果を伝えながら飾られていく花々に少々癒されているようであった。表情には表れていないが。
 ようやく花を飾り終え
「そうですか。団長のお仕事の邪魔にならないように匂いも色もきつくない物を選んだんですが」
 蓮華は書類にミスがなかった事に安堵しつつ花のチョイスを打ち明けた。
「……そうか」
 そう言う鋭峰は飾られた花を眺めているばかり。
「良ければ、一息入れませんか? お茶を淹れますよ」
 蓮華は今日も仕事詰めの鋭峰に少しでも休んで貰おうと声を掛けた。
「……そうだな」
 鋭峰は書類や時間を確認してから答えた。
「はい(今日の気温と湿度と……団長の様子を考えて茶葉は白豪銀針にしようかしら。上品な甘さが穏やかな癒しを運んでくれるように)」
 蓮華はストレス解消や眼精疲労回復などの効能を持つ白茶の最高級茶を選び、鋭峰のために用意に入った。

 茶を用意した後。
「……今日は白豪銀針です。どうですか?」
 蓮華はどきどきしながら喉を潤している鋭峰に訊ねた。実は内緒だが、茶を淹れるのは天下一品だと言われるレベルに日々研鑽を重ねているのだ。鋭峰が自分の淹れる茶で少しでも和み心癒されて華やげるようにと。
「あぁ、落ち着く」
 蓮華が真心を込めて淹れた茶に癒された鋭峰が発したのはたった一言。ただし、蓮華の気遣いに対しての言葉でもあったり。
「そうですか」
 蓮華は嬉しそうに顔を輝かせた。
「座ったらどうだ」
 鋭峰は先程からずっと立ったままである蓮華にも座るように勧めると
「あ、はい」
 蓮華は近くの席にどきどきしながら席に着いた。
「……(いつ見ても格好良くて……自分の事よりも立場や世界情勢を優先して……でもそこが素敵で……あぁあ、団長と恋人になれて手を繋げる日が来たら……でもパラミタが平和になるまで無理だって分かってるけど……団長)」
 茶の繊細な味を楽しむ鋭峰の様子を見るだけでも心臓はバクバクで顔は紅潮気味。頭の中は当然団長一色。
 そのため
「……どうだ?」
 現実の鋭峰が自分の方に顔を向け、何事かを訊ねている事に気付かず、
「ふぉわ、団長? な、何がですか?」
 蓮華は声を裏返して驚き、鋭峰に聞き返した。自分を見る鋭峰と目が合い鼓動が早鐘の如く激しくなった。
「最近どうだと聞いたのだが」
 鋭峰は呆れた様子は無くいつもと変わらぬ表情でもう一度同じ質問をした。
「あぁ、最近の事ですか……そうですね……庭の花壇が満開で綺麗なんですよ。実は先程飾った花も庭の花なんですよ……それに春野菜も沢山なって毎朝ジュースにして飲んでます。だから、この通り、元気もりもりです」
 蓮華は二人きりという緊張と大好きな人の視線が向いている事で顔を赤くしたまま語り最後は片腕を曲げて力こぶしを作った。
「……では、お裾分けという事か」
 鋭峰はもう一度花を見て口元をわずかに綻ばせた。
「団長はどうですか? ちゃんと朝ご飯は食べてますか? 一日の活力は朝ご飯からと言いますよ!!」
 鋭峰を愛し心配するあまり胸の内で留めておこうと思っていた事が口から出てしまった蓮華。
「あぁ、問題無い」
 鋭峰はさらりと流してしまう。話題にあげるほどでもないというように。鋭峰にとっての大事は仕事の事だから。
「本当ですか!? 団長の事ですから仕事ばっかりじゃないですか……あの……もしもですが、良ければ、明日朝会議の前にお持ちしますよ!」
 蓮華は少し遠慮気味に恐る恐る訊ねた。断られるかもしれないと覚悟しながら。
「それは構わないが、君にとっては手間ではないのか」
 鋭峰は自分よりも蓮華の活動の妨げになるのではないかと気に掛けた。
「そんなの大丈夫ですよ!! パラミタ一の物を用意します!」
 蓮華は鋭峰の言葉に思わず勢い込み、声まで大きくなってしまう。
「……それは楽しみだな」
 鋭峰は蓮華の大袈裟な様子に思わず少々苦笑を混ぜながら言った。
「……少し大袈裟でしたね。でも、美味しい物を用意しますから」
 恥ずかしそうに前言を取り消すも気持ちは前言通りの蓮華。
「そうか。しかし、今日は君のおかげで良い息抜きが出来た。いつも君は……」
 鋭峰は自分と蓮華とのこれまでの事を振り返り、何事かを言おうとするが
「私がお役に立てたのなら嬉しいです(これからも団長が心の癒しを求めた時に力になり背負う重荷を少しでも軽く出来るように支えていきたい)」
 鋭峰が発する言葉の先を知る蓮華は優しい微笑みを鋭峰に向けた。
「もう一杯、お茶は如何ですか?」
 蓮華は立ち上がり、お代わりを勧めると
「あぁ、頼む」
 鋭峰は空になったカップを差し出した。
 ほんの少し蓮華と鋭峰、二人だけの和やかな時間は続いた。