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リアクション
一般の人々
時間は少々、遡る。
カリペロニア。
ダークサイズの本拠地。
ダークサイズ首領ダイソウトウに、幹部のアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が面会していた。
「なにぃ? つまり空京放送局で、シャンバラ女王に祈りを捧げる番組をやれと言う事か? 秘密の抜け道は悪党のロマンよ」
ダイソウトウは幹部名「秘密の〜」ことアキラに聞いた。
「はい! 空京放送局の大株主であるダイソウトウ様であれば、造作も無い事でしょう」 しかしダイソウトウは渋い顔に渋い声で、アキラの提案をはねのけた。
「愚か者! 我々はパラミタ大陸征服を目指すダークサイズなのだぞ。仮にも悪者なのだ。
シャンバラを支配する女王のために祈れ、と言うのか」
「……うまく行ってシャンバラがひとつになれば(十二星華ユニット)アイドル【M】のサインがもらえますよ」
「なに! じゃあ、やろう」
ダイソウトウはころりと意見を翻した。
「では秘密の抜け道は悪党のロマンよ。空京放送局には手配しておこう。首尾よくサインを手に入れてくるのだ!」
「ハハッ」
こうして空京放送局にて、アムリアナ女王に祈りを捧げる特別番組が放送される事が決定した。
「……さーて、【M】のサインをどーにかもらう手を考えないとな」
アキラはぽりぽり頭をかく。もっとも【M】のメンバーはアムリアナ女王を敬愛する十二星華だ。事情を話せば、サインの一枚や二枚、快く書いてくれるはずだ。たぶん。
番組を放送するにしても、いきなり予定を変更して放送しても視聴者は驚きの方が大きくて、女王への祈りの効果は薄そうだ。
アキラはそう考えて、告知CMを流すように空京放送局に頼んだ。
アナウンサー秋野 向日葵(あきの・ひまわり)も「女王様の為だものね。喜んで協力するよ」と約束する。
そこに綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)が訪ねてきた。
「女王様の為に、一般の方を集めて合唱するイベントを開くのどす。イベントをこちらで放送していただけまへんでしょうか?」
「それってタイアップできそうだな」
彼らと放送局スタッフがそうやって、局の会議室で話をつめていると急に外が騒がしくなった。
がらがっしゃーん!!
「空京放送局はのっとったぜ!」
舎弟を率いたB級四天王駿河 北斗(するが・ほくと)が乱入してきた。
「放送局ジャック?! さてはダークサイズの仕業ね?!」
向日葵が条件反射で叫ぶ。
ダークサイズ幹部のアキラは「おいおい」と一人ごちた。
向日葵が、わーわーと暴れている舎弟の一人を捕まえる。
「いったい何の騒ぎ?」
「ふっ、世界を救えば女子にワーキャー言われてモテるって聞いてな」
「……は?」
「死にかかった姫さんが、放送局を俺達のモンにすれば救われて、キャッキャウフフできるって言うじゃねぇか」
意味がよく分からない。
その間にも北斗は、止めようとする警備員をちぎっては投げている。
北斗のパートナーの一人クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)は火術の炎を手に、局員を脅しにかかる。
「あは、手加減て苦手だから、炭にならない内におとなしく従った方が良いとお姉さん思うなあ」
その時、局内放送からセレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)の声が響いた。特別番組でアナウンスを務める為、勉強に行っていたのだ。
「空京放送局はこれから女王様の為に皆さんに祈ってもらう番組を予定しています。
放送局をのっとって妨害する人は、女王様がどうなってもよいんですか?」
「へ?」
北斗と舎弟、クリムリッテの動きが止まる。
「それ……本当?」
セレスティアの背後で声がした。放送室制圧の為に来た、北斗のもう一人のパートナーベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)だ。
「ええ、本当です。今まさに局のスタッフさん達と、特別番組の制作や広報の打ち合わせをしていたところですよ」
「ジャックするまでもなかったって事ね。……それを突っ込んじゃって……ハァ」
ベルフェンティータは北斗の猪突猛進ぶりに、大きくため息をついた。
実は北斗たちは、空京放送局をジャックしてアムリアナ女王へのメッセージを一般から募集しようとしていたのだ。
結局、北斗達は、女王の為の特別番組やイベントの手伝いをする事で、空京放送局を強襲した事はお咎めなしとされた。
イベントで歌われる曲は御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が作ったものだ。
風花が曲のデモファイルを作り、これは一連の放送やイベントを告知する際のBGMとして使われ、また空京放送局のホームページでも視聴したり、ダウンロードできるようになっていた。
放送やホームページで告知が始まると、イベントへの問い合わせが空京放送局に殺到した。
皆が思っている以上に、一般の人々の関心は大きいようだ。
当初考えていた以上に、イベント参加者が集まると見込まれ、急遽、用意していた会場をもっと広い会場に変更することとなった。
会場となった、よく音楽イベントや政治集会が開かれる野外公会堂に続々と人々が集まってくる。
アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)とアストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)が手分けして、会場に来た人々に歌詞カードを配る。
北斗や義理堅く残った一部の舎弟が、会場の誘導整理を行った。
司会進行をするのはセレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)。
「シャンバラ王国に尽くしてくださったアムリアナ女王陛下に、息災をお祈りしましょう」
セレスティアが切々と訴える。
会場のスミでは、立派に役目を果たしている彼女をアキラが目を細めて眺めている。彼が横目でちらりと見ると{SFL0026256#ルシェイメア・フローズン}も、神妙な面持ちで祈りを捧げていた。
やがて歌が始まった。
御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が人々をリードする為にマイクで歌う。
想い言葉(ことのは)に込(こ)めあなたに届けよう
願い歌に乗せあなたに届けよう
あなたの心に安らぎが満ちるよう
あなたの体に癒しが届くよう
想い願い鳥となりて天翔け
悪しき力払わん
彷徨いしあなたの心引き戻さん
重なりし想い癒しとなる
重なりし願い希望となる
あなたの笑顔に光満ちるよう
あなたの体に力満ちるよう
われらは歌おう
世界に響き満ちるように
われらは願おう
あなたが笑えることを
人々の歌声が、空京の摩天楼に響いていく。
何台ものカメラが、その様子を中継していた。またイベントの模様は、テレビやネットのニュースでも伝えられた。
「これで人々の想いを役立てて欲しい」
この様子を録画、録音したメディアを、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が砕音に渡す。
当初は、アキラのパートナーであるルシェイメアが使節団に加わり、ナラカ城使用のタイミングにあわせて、互いの携帯電話でライブで放送を行なおうと考えていた。
しかし砕音によれば、ナラカ城による想いの照射という施術の時期を、患者である女王の状態を確認しないまま決める事は不可能だ。
また現状では、帝国がどこまで干渉してくるか、どのような条件を出してくるか分からない。
ナラカ城の使用は一週間後からもしれないし、一ヵ月後になるかもしれない。
空京放送局も予定が立たない事に人員や機材を裂いたままにはできない。
また、多くの人数を動員する紫音のイベントは、余裕を持った日時を指定して、その日その時に行なわなければならない。
加えて、ナラカ城の使用は複数回になると見られる。
そしてパートナー間の携帯電話でライブ中継したとしても、ナラカ城側で認識する事ができずに、無駄になる可能性が高い。
そもそもナラカ城は対闇龍の為の巨大装置であり、今回のような用途に使うのはまったくのイレギュラーだ。闇龍とは関係ない想いを、ただの携帯電話で送ったところで効果は望めない。
それらの理由から、砕音は放送やイベントを記録メディアに収めた物を持ってきて欲しいと求めたのだ。
「おっと、こいつも忘れないでくれよ」
北斗が舎弟と共に、大量のダンボールをかついで使節団の事務所にやってくる。
「千羽鶴だ! たって、千どころの数じゃねえぞ。それにまだ外に、メッセージを詰めたダンボールが山になってるぜ!」
メッセージは空京放送局で募集したものだ。
またイベント会場では、アルスとアストレイアが作った歌詞カードで千羽鶴を折ってもらった。日本人以外には馴染みの薄い折鶴だったが、慣れないながらも想いを込めた鶴が集まっていた。