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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

リアクション

「ヒャッハァ〜! 空京はこっちのシマだぜェ〜? この件、俺達空京大分校略して空大が仕切らせて貰うぜェ〜!」
 突如立ち上がったのは、南 鮪(みなみ・まぐろ)だ。
「島? 住民の避難に関しては、空京警察の指揮の下、行われます。空京の防衛に関しては、国軍の駐留軍に早急に動いていただきます。空大の方もどちらかに協力していただけると助かります」
「む……」
 アイシャの言葉に鮪の隣に座っていた織田 信長(おだ・のぶなが)が腕を組む。
 地の利を把握できていない者に、指揮は任せられぬと思ったが、空京警察も国軍となった教導団の駐留軍も、空京大学が出来る以前から空京に存在していた。自分達より知識があり、組織力もある。
「しかし、契約者達の能力を活かし、纏めることが出来るのは契約者だけ。かような時の戦術は速さこそ命ぞ。この負けられぬ戦に勝つ為には当然の要求であろうよ」
「ヒャッハァー! このスーパーエリート様に任せておけよ、最高の結果にしてやるぜ」
 鮪がそう言葉を続ける。
「このような場で話し合っている時間は無駄というもの。お主の名のもとに早急に指揮系統を作るべきではないか」
 信長の眼力と自信に満ちた説得に、アイシャは鮪に不安を感じるも空大――もとい、空京大学生に、国軍とロイヤルガードに所属する者以外の契約者指揮を委ねることにした。
「自警団のような立ち位置で動いてください。空京警察に協力する方、国軍に協力する方はそれぞれそちらの指揮下に入ります。また、空京に残っているロイヤルガードにはこのシャンバラ宮殿を中心とした防衛を指揮していいただきます。そちらには、既にアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)さん、秋月 葵(あきづき・あおい)さん、そして騎沙良 詩穂(きさら・しほ)さんが向かってくださっています」
「ヒャッハー! 防衛計画発動だぜ!」
 鮪はさっそく、防衛計画を立てていく。
 テクノコンピューターを使い、ユビキタスや特技を駆使してまずは戦力の把握に努める。
 空京大生、空京を訪れている契約者の予想数。
 出撃可能なイコンの数。その他、空京大学、及び宮殿が所持する兵器等のデータを集め、避難から迎撃の動きと人員の割り振りについて、纏めていく。
 そうしている間にも、駐留軍や空京警察から連絡が入る。それらの情報をもコンピューターに入力して、全体の防衛計画を作り出していく。
「ヒャッハァー! ご褒美はパンツでいいぜェ〜。全員に新品のパンツをくれてやってくれ。おっと、俺は使い古しで良いぜ」
 そんな鮪の言葉に、アイシャや集まった者達は物凄く不安を感じるが、鮪のようなモヒカンでも、契約者の処理能力の高さは一般人を凌駕する。
 知識もあり、乗り気である彼に任せることに反対する者はいなかった……反対している時間もなかった。
「我々は避難した一般人への支援物資の調達、及び復興支援を行わせていただく」
 奥の席に腰かけて、宣言したのはルメンザ・パークレス(るめんざ・ぱーくれす)だ。
 彼はマフィアの家系の蒼空学園生だが、この場、この状況下ではそういった素性まで言及されなかった。
「大好きなこの空京を守るためなら、金なんぞ惜しくないからな」
 そんな彼の言葉に、アイシャは頷いて「その際にはお願いね」と答える。
 だが今はまだ、それが必要なのかどうかも分からない段階だ。
「ここに集まっている者だが、見た所契約者が多いようだ」
 ルメンザが場を見回す。
 白百合団の初代団長だったという百合子も、戦闘能力があるだろう。
 アイシャはともかく、護衛と事務作業を手伝っている者達にも、百合子やミケーレの傍にいる者達にも、戦う力はあるはずだ。
「探索隊のメンバーは突入を検討しているようだが、ここのメンバーも援軍として駆け付けるべきではないか?」
 今は全力で食い止めるべきだ。
 特に戦闘能力の高い者は、ここで会議をしているよりも早急に突入班に加わった方が良いのではないかとルメンザは提案していく。
「ええ、防衛に備えるのも大事ですが、空京が攻撃範囲内に入ってしまったら多大な被害が出ることは決まり切っていますわ。ここで備えるよりも阻むために戦力を裂くべきでしょう。突入隊として精鋭部隊を向かわせることはできませんか?」
 キュべリエも現場に向かっていない精鋭――ロイヤルガード等に向かわせることはできないかと問う。
「確かにその通りですが、これから準備をして駆け付けても、助けにはならないと思われます。それより戦闘能力の高い方には最後の砦としてこの場の護衛をお願いしたいと思います」
 浮遊要塞は何も障害がなければあと2、3時間で空京に到着してしまうのだ。
「女王陛下自身の護衛も必要ですしね。要塞の狙いが空京や女王と断定できた時点で、アイシャ様には側近を連れて退避していただきます」
 アイシャが驚きの目を発言者の高官に向ける。
 アイシャが残りたいという意思を示したとしても、それは認められないとその高官は言う。
 女王を失えば、空京だけではなく国はまた滅亡し、全土が衰退してしまうのだから。
 尚、ロイヤルガードに所属する十二星華は、アレナを除き護衛として女王に付き添わねばならないため、突入や防衛戦には参加できない。
「では、早めに話し合いを終えて、戦える者はここ空京の前線に立つべきだな」
 そう言うルメンザ自身も、防衛戦に加わる覚悟はあった。
「アイシャ様の避難場所はヴァイシャリーですか? お2人もアイシャ様を護衛してヴァイシャリーに戻られるのでしょうか? それとも白百合団をまとめてくださるとか」
 キュべリエがミケーレと百合子に尋ねる。
「俺はここに残るよ」
「私もヴァイシャリーに向かうつもりはありません。空京にいる百合園の後輩達に関しましても、学友や一般人を守るために戦うかどうか決めるのはあの子達自身であり、私が口を挟むことはありません」
 ミケーレと百合子の返事に、キュべリエはそっと頷いた。
 そして彼らを密かに見守り続ける。……見定める為に。
「元白百合団団長であるあなたほどの人ならもしかして知っているかもしれませんね……」
 小さな声で、大地が百合子に語りかけた。
「あの要塞があそこに存在していたのを知っていて、しかも起動のさせ方まで知っている人物について……。よかったら百合子さんの意見をお聞かせ願いたい」
 大地の問いに、百合子は目を伏せて首を左右に振る。
「私は何も知りません。ですが……彼は何か知っているかもしれませんね」
 小声で答えて、百合子はミケーレに目を向けた。
「最新映像映します」
 リアがスクリーンに浮遊要塞を映し出す。
 回り込んだ国軍が撮影しているものだ。
 追いかけている探索隊は既に離されてしまっていると情報が入っていた。
 まずは国軍と、集まった契約者の部隊で要塞を攻撃し、要塞の進行を阻まねばならない。
「データ投影します」
 続いて、リアはアレナの説明と国軍がら届いた情報、更に独自に映像を解析したデータを画像に重ねて映し出す。
「想定、全長300m前後、全幅50m前後、全高100m前後。使われている素材不明、内部構造不明、搭載兵器不明の為、質量算出不可。七千トン以上と思われます。飛行速度は時速150キロ、まっすぐ空京――こちら、シャンバラ宮殿の方に向かっているようです」
 進路を逸らすに必要な攻撃質量をも計算し、こちらに関しては参考データとしてアレナから得た情報と一緒に国軍に転送しておく。
「軍事計画については、国軍の作戦を待とう。空京大学等、契約者への呼びかけと手配、配備については、さっきの彼が動いてくれるそうだから、そちらの報告待ちだね」
 ミケーレが映像を見ながら言った。
 鮪と信長は既に退出し、契約者達の指揮に動いている。
「空京警察からは何か連絡入ってる?」
 ミケーレの問いに、リアはメールを確認する。
「難航しているようです。発着場や駅に殺到したら怪我人が増えてしまいますから。まずは屋内退避を放送で呼び掛けているようです」
 区画ごとに避難誘導を進めているようだが、住民全てを一度に乗せられるような巨大な航空機も列車も存在はしないのだから、数時間での避難は無理と言わざるを得ない。
 リアは説明後に、各学校は勿論、マスコミを通じて民間団体に避難場所提供、小型簡易結界の貸し出しを電話とメールで要請していく。
「マスコミへの状況説明は、どの程度行いますか?」
「未確認飛行物体が空京に近づいている。攻撃を受ける可能性があるが、国軍による万全の迎撃体勢が整っている。ただし、ミサイルを撃ち落とした際に破片などが落ちてくる可能性があるため、外出は控えるように。空京警察から避難誘導があった際には速やかに従うように、それくらいで」
「了解しました」
 ミケーレの指示に従い、アイシャの頷きを確認した後、リアは通達を出していく。
「……」
 そんなパートナーのリアを気にかけながら、レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)はハーブティーを出していく。
 邪魔にならないよう、そっと皆の前に置いていき。
「どうぞ。喉、乾いていませんか?」
 アイシャにだけは、リアの代わりに優しい声をかけておく。
 アイシャを支え、彼女の願いを叶え、シャンバラの民を守る。
 その確固たる意志の下、リアは今奮闘をしている。
 アイシャのことを常に気にかけながら。
「ありがとう」
 アイシャは深呼吸をしてハーブティーをいただく。
「要塞の進路は何パターンか想定して、防衛計画を立てる必要がありますね」
 真紅のヴィルフリーゼ・サーコート、グリューエント・ヴィルフリーゼ(ぐりゅーえんと・う゛ぃるふりーぜ)を纏い、地図を見ながら計画を立てているのはフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)
「浮遊要塞といえば、エリュシオンが詳しいのでは」
 その言葉を発したのは、フレデリカではなく、騎士服風魔道衣の姿のグリューエントだ。
「エリュシオン側にアルカンシェルについての情報があれば、提供していただきたいのだが」
「何言ってんのよ……」
 フレデリカが小声でグリューエントを諌める。
「あの要塞についてエリュシオン側に問い合わせてみてはどうだろうか?」
 フレデリカの言葉を無視して、グリューエントは提案を続ける。
「十二星華のアレナ・ミセファヌスさんの説明では、アルカンシェルは十二星華の住居として使われていたものであり、設計も製造もシャンバラで行われたものと考えられます。エリュシオンからは情報は得られないでしょう。……ですが、連絡は入れておいてください」
 アイシャがそう指示をだし、即座にリアはエリュシオンの外交窓口に連絡を入れる。
「その他にも探れ……得られる情報があるかもしれないからな」
 グリューエントの言葉にフレデリカはわだかまりを感じながらも、自分を押し止めて発言をしていくことにする。
「パートナーのルイーザ・レイシュタインが、空京警察と合流したようです」
 そして、連絡訳として空京警察に向かったルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)からの報告を、皆に伝えていく。
 まだ、放送を始めたばかりで避難誘導は行われていないとのことだ。
 市民たちには動揺が走り、警察に詰め寄ってくる者も多く、その対応にも追われてしまっているらしい。
「計画を立てただけじゃ、人は動いてくれない。でも情報規制をしないで全てを放送で説明をしたら……より、多くの人が傷つき、命を失うかもしれない」
 フレデリカはまだつながっている電話に向かって、不審者にも注意してほしい旨話していく。
 また現時点では要塞が空京に向かっている事しか判明していない。
 要塞を起動させたであろう人物の目的が不明なのだ。
 女王はテレポートで避難が出来る。だから、女王1人が狙いならこのような手段は選ばないはずだ。
 市民の中にターゲットがいるのなら……市民の避難を許さない、だろう。
 宮殿が狙いとうことも考えられる。
 そう、要塞の襲撃に呼応して何か事を起こす可能性が捨てきれない――。
 むしろ、なんだろう。何かおかしいような。
 フレデリカは手を軽く震わせる。嫌な予感が駆け巡る。