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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

リアクション

「主犯格は、死亡したようですね」
 叶 白竜(よう・ぱいろん)が、世 羅儀(せい・らぎ)と共に、制御室に到着を果たす。
 アルカンシェル内に、特に移動できる空間や特別な装置はなかった。
 白竜は血まみれになり倒れている男に近づき、念のため確認をするが、男は心臓を貫かれ完全に絶命していた。
「他に人はいなかったのか?」
 羅儀の問いに、呼雪が「ああ」と答えた。
 呼雪は、倒したこの人物が、アレナにテレパシーを送った男ではないことに、気づいていた。
「手伝おう。状況はどうだ」
 白竜は一人で操作している又吉に近づき、操作パネルを確認する。
「指示通り、防衛システムの解除を行ったぜ」
「ブライドオブドラグーンを外すことは可能か?」
 白竜は機関室の状況を見ようとするが、機関室にアクセスすることは出来なかった。
「要塞のコントロールが出来てからだな。動力エネルギーの残量なんかはわかるんだが、着陸の目処がついていない」
 又吉は焦りながらそう答える。
 現在、アルカンシェルは自動飛行プログラムに従い、飛んでいる。
「どうやら、空京の宮殿に突っ込むようにプログラムされてるらしいぜ。けど、そのプログラムを書き換えるには、ロックをいくつも外さなきゃならねーし、プログラムの組み換えもそう簡単には出来ない」
 数分で行える作業ではないと又吉は言う。
 白竜も急いで、確認していくが、最初の認証の先に進むことすら、難しい。
「操縦室。手動への切り替え作業は進んでいますか!?」
 白竜が武尊を押しのけて、マイクに向かう。
 しかし、操縦室からは返答がない。
 モニターに操縦室を映し出したところ、操縦室に数十体の機晶ロボットが集まっている。

○     ○     ○


「レーダーに反応あり。敵と思われます。階段室方向」
 格納庫の中で、イコンに乗ったまま警戒に務めていたサー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)が声を上げた。
「機晶ロボットか!」
 即座に、氷室 カイ(ひむろ・かい)が武器を手に、階段室へと接近。
 中から現れたのは、工務機晶ロボットだった。
「修理を必要としている機体は、ここにはない」
 立ち塞がり、カイは修羅の闘気を放つ。
「ピー、シンニュウシャハッケン、ハイジョ」
 突如、工務ロボットは顔面からビームを放ってくる。
 後方には守るものがある。
 カイは梟雄剣ヴァルザドーンで防ぎ、レーザーキャノンを発動。
 工務ロボットの肩を破壊。
「はあっ!」
 ロボットが体勢を立て直す前に、一刀両断。真っ二つに斬った。
「マスター、レーダに別の反応があります。おそらく仲間です」
 サーが再び報告をする。
「制御室に向かった方々です。治療の準備を」
 円から連絡を受けたロザリンドがそう言った。
「大丈夫です。準備は出来ています」
 イリス・クェイン(いりす・くぇいん)は、ルカルカが置いていった剣も利用し、バリケードを作って皆の帰りを待っていた。
 格納庫は狙わないようにしてはいても、時折爆風や、破片が飛び込んでくる。
 攻撃により要塞が激しく揺れることもあり、皆の乗り物や、この場に残った者達が、落とされそうになることもある。
 外と内、両方から守るために、築いたバリケードだ。
「よし、ここは変わってないな」
 まず刀真を背負ったラルクが、プロミネンストリックで吹き抜けを飛び下りて、格納庫に戻って来た。
「魔法をかけてやってくれと言いたいところだが、酷だがこのまま我慢させた方がいいだろうな」
 ルシンダをかばって酷い傷を負った刀真は軽く治療されただけだった。
 弾丸が体内の残っていると思われるため、医学生のラルクとしては、このまま魔法で癒すことに賛成できない。
「うん、魔法は使えないけれど、精一杯治療するからね」
 クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)が救急セットを手に近づいてきて、市販の薬と、包帯で、刀真治療していく。
「着いたよ」
 円達は、オリヴィアの空飛ぶ魔法↑↑で飛んで、ルシンダを運んできた。
 オリヴィアがもう一度、命のうねりでルシンダを癒した後、円が名を呼んで揺らして、意識を取り戻させる。
「…………」
 ルシンダは茫然とした顔つきだった。
 彼女の手と足は、紐で軽く結んである。
「貴方は、沢山嘘をつきましたね?」
 オリヴィアは、嘘感知で、ルシンダの悲鳴のいくつかは嘘であったこと、優子の携帯電話に触れた後、壊れたこと、連れていかれた時に、禁猟区の結界を渡した刀真が何も感じなかった事。
 それらから、怪しんでいることを話した。
 故に、敵の手の者であると判断したと。
「今ルシンダさんは、女王殺害未遂など様々な点でほぼ極刑という状態です。私達もそれを望んではいません。貴方は素直な性格をしていると思いますので、進んで自ら犯罪を犯したとは思っていません。罪状を軽くするために、私達に仲間の情報を話してくれませんか?」
 オリヴィアのその言葉に、ルシンダは青い顔で首を横に振る。
「……ミケーレさんにも類が及ぶわよ?」
 その言葉には、ルシンダは強く首を左右に振る。それは、絶対にいや、というように。
「んー、害意とかはいよー」
 殺気看破で警戒しているミネルバがそっと円に話す。
 円は頷いて、ルシンダに質問を始める。
 誰が、協力を持ちかけたか。
 エリュシオンとシャンバラ、双方に仲間がいるのではないか。
 その仲間と、経緯を知る限り教えて欲しいと。
 ルシンダは、首を左右に振り、悲しそうな顔で俯く。
「濡れ衣です。私は皆様の仲間です」
 嘘感知の能力を持つオリヴィアは、彼女の言葉に、違和感を感じなかった。
「捕まりそうになった時、危険に気づいて貴方を庇ったじゃないですか。それで、私は捕らえられて……ひどい目に遭って。疑うなんて、酷い、酷いです……」
 言いながら、彼女は泣き始めた。
 その言葉にも、オリヴィアは違和感を感じなかった。
 だが。
 確かに、彼女はおかしい。
 何かがおかしい。
 泣いてはいるけれど、強い感情を感じない。
「どうしてこんなことをしたの?」
 円は彼女にではなく、別の方向を見ながら独り言のように言う。
「例えば好きな人の為だったとしても、極端な道を進むと、大切な人の命までなくなっちゃう。ボクは前にそういうことをして、大切な人の命が無くなったから解る」
 ルシンダは何も言わなかった。
「周りの人に堂々と助けを借りる事が出来る状況にしないと」
 そして、円はルシンダに目を向けた。
「簡単に、本当に死んじゃうよ?」
「私には、好きな人がいます。互いの命を守るために、交わした約束もあります。私が言えることはそれだけです。私は、本当に皆さんの仲間です。潔白を証明したい……とも思いますが、どうか両国の為に、この拘束を解き、解放してください」
 やはり、ルシンダの言葉に嘘は感じなかった。
「ルシンダさんは、なんていうんだろう……個性があまり感じられないよ。嘘はついてないんだとしても、本当のことはやっぱり言ってないんだと思う」
 円はそう言って、ルシンダの拘束を解いた。
 彼女は敵と繋がっているという確信があった。
 だけれど、彼女は円からすると不自然に、白だった。
「泣かないで。きっとみんな無事だよ」
 不安で泣いているのだろうと思って、クラウンが優しく微笑みながらルシンダに近づいてくる。
「あんまり悲しい顔をしているとみんなが帰ってきたとき不安にさせちゃうよ? だから一緒に笑顔でみんなを待とう?」
 そんな彼女の言葉に、ルシンダは首を縦に振って涙を拭いた。

○     ○     ○


「撃たせない。その力はここに集った者の力。その力は、空京を撃つためではない。これを壊すための力だ!」
 牙竜は、エネルギー炉の中に入り込み、吸収されたエネルギーが残るパイプラインめがけて、サンダークラップを放っていた。
「タイミングを合わせよう」
 グラキエスアウレウスのディフェンスシフト、オートガード、オートバリアの能力で、仲間を守りながらフラワシを送る。
「見返りは相応のものを頂きますよ」
 怪しい笑みを浮かべながら、エルデネストがグラキエスの傍で備えている。
「今だ、撃て」
 グラキエスが合図を出す。
 牙竜とタイミングを合わせ、内側からフラワシの焔、外側からはエルデネストにパイロキネシスで攻撃させる。
 ボンと爆発音が響く。
 炉の中に、エネルギーが逆流し、ヒビを生じさせた。