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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

リアクション

「対イコン武器を持つ者、イコンと渡り合える能力を持つ者はいるか!?」
 格納庫に設置されたカメラで事態を確認した神楽崎優子は隔壁閉鎖や酸素供給、避難の指示を出した後、ジェファルコンがこちらの方向に向かっていると報告を受けた。
「こちら方面では……」
 セルフモニタリングで自身をコントロールし、焦りを抑えながらフレデリカが搭乗者データから弾き出したのは。
「1人います! レーザブレード所持。トランスヒューマン、伏見明子」
 フレデリカの言葉を聞くなり優子は、全艦放送をかける。
「制御室、操縦室方面から退避せよ。反乱ジェファルコンの討伐には、操縦室前にて、対イコン用武器を持つ、伏見明子が当たる!」
(ちょっと、優子さん! 本人の確認もなしに何言ってんの!?)
 操縦室前にいる明子からすぐに優子にテレパシーが届く。
(キミが無理なら、私が星剣で出る。相手はジェファルコン、パイロットは天学生。搭乗者のパイロットレベルにもよるが、生身で倒せる相手ではない。引き付けてくれればいい)
(ジェファルコンって、天学の第2世代機!? えー……と、囮になって引き付けろってことね。いいわよ、やるわよ。大体、優子さん武装してないし、んなこと任せられるわけないでしょ)
(すまない、あとで埋め合わせはするから……死ぬなよ)
 そんな会話をしている間に、破壊音は激しくなっていき、破滅が迫る。
「敵はすぐ真下にいます!」
 殺気看破で警戒をしているマリカが、大声で操縦室前のメンバーに言った。
「……大体、考えてることは解るわ。付き合ってあげる」
「相手にとって不足はない……とでも言っておくか」
 操縦室前の通路にて、達人が手にすればイコンの装甲をも貫くという、龍殺しの槍を持つ亜璃珠
 ケンセイの恭司が、明子と共に身構える。
「それじゃ、私が引き付けるから、攻撃の本命はそっちってことで」
「……やってみるわ」
「了解」
 明子の言葉に、亜璃珠と恭司の答えた途端。
「すごいのが来ます! 今!」
 ディテクトエビルで探っていた理紗が大声を上げた。
 瞬時に明子は強化光翼で飛ぶ。
 亜璃珠と恭司は後方に跳んだ。

グィガガガガガガガ――!

 大きな音と共に、床が割れる。
「アンタは私がぶっつぶす!」
 イコンが見えた途端、腹の底から大きな声を出し、明子はレーザブレードを手に、カタストローフェの前に飛び出た。
 真空派を放ち、衝撃を与えると、強化光翼、ダッシュローラーで邪魔になるように走り、飛び回る。
 イコンの機器では人間の捕捉は厳しく、パイロットのアウリンノールアプトムは、明子を自らの目で追うことになる。
 超電磁ネットでの捕縛を試みるが、明子はアクセルギアを発動し躱す。更にミラージュを使い、幻影を周囲に出していく。
「アルカンシェルはまだ飛んでいる。運用不可にするには操縦室を潰す必要があるけれど!」
 アウリンノールの目的は、ブラッディ・ディバインの一員としてアルカンシェルを運用不可能にすることだった。
 目的を達したら速やかに撤退するつもりであったが、既に推進器に大きなダメージを受けている。脱出するためにはこれ以上の機体の損傷は避けなければならない。
「オレは覚悟を決めている。アルカンシェルを道連れにできるのなら本望だ。おまえは?」
 サブパイロットのアプトムはパイロットとしての熟練度が低く、ほとんど乗っているだけの状態だった。銃型HCで情報をスパイ目的で受信し、アウリンノールをサポートしている。
 当然のこととして、アプトムは最悪の場合、アルカンシェルと沈む覚悟を決めてこの作戦に挑んでいる。
「そうね」
 と、アウリンノールが大型超高周波ブレードの扱いに集中し、剣を振り上げたその瞬間。
「うおおおおっ!」
 床を蹴り、恭司がコックピットに突進。
 羅刹の武術によるケンセイの重い拳の一撃が、コックピットの装甲を傷つける。
「串刺しにしてあげるわ」
 恭司が離れた途端、亜璃珠がコックピットに向けて龍飛翔突。
 槍が数十センチ、コックピットに沈む。
「まだ足りないようね」
 イコンの胸部を蹴って槍を抜き、更にランスバレスト。
「ああう……くっ」
 コックピットから小さな悲鳴が漏れる。
 槍はアウリンノールを深く傷つけた。
 カタストローフェの腕が振り下ろされ、亜璃珠は凄まじい力で叩き落とされる。
「ううっ、亜璃珠……」
 隠れていたちび亜璃珠は、リカバリで皆を癒す。
 しかし、叩き落とされた亜璃珠は、カタストローフェが開けた穴から、はるか下の階へと落ちていってしまう。既に、パートナーに影響が出るほどのダメージを受けているのに。
「守って!」
 落ちながら、亜璃珠は力の限り叫んだ。
 それが自分のことではなく、操縦室の……アルカンシェルのことだと、皆は理解し歯を食いしばりながら、カタストローフェへ攻撃を続ける。
「ここで爆発されても困るのよッ!」
 明子は意を決し、アクセルギアを30倍で発動。
「うああああああっ!!」
 超高速でカタストローフェに迫り、レーザーブレードを手首に叩きつける。5秒の間に何度も。
 カタストローフェの片手が落ち、大型超高周波ブレードが落ちる。
 アクセルギアの効果が切れた途端、明子は振り払われて壁に激突。
「目を潰させてもらう」
 その間に恭司が床を蹴ってカタストローフェに接近。拳でカメラを砕く。
 カタストローフェは跳んで離れる恭司に超電磁ネットを発射。
 恭司の身体に高圧電流が流れ、深刻なダメージを与える。
「がんば、って……」
 ちび亜璃珠はもう一度皆にリカバリを。その後、意識を失った。

「神楽崎!」
 操縦室に駆け込んだ武尊はまっすぐブリッジの優子の元に走った。
「もう、脱出してここを爆破して倒すしかねぇ! 脱出装置は!?」
 又吉は操縦席に走り込む。
「くそっ、外はあともう少しなのに」
 操縦席のシリウスが操縦桿を握りしめながら悔しげに言う。
「大丈夫ですわ」
 雑用を担っていたリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が、いつの間にかシリウスの傍に居た。
「アルカンシェルだって、こうして取り戻した皆さんですから……わたくしは最後まで、信じて守りますわ」
「けど、イコンの……天学パイロットが操縦するジェファルコンの強さは、身を以て知っている」
「それでもきっと皆さんなら守ってくださいます。そう信じて……あなたは、あなたの判断を」
「……ああ、オレは最後まで、シャンバラに戻るまで、アルカンシェルを飛ばし続けるぜ」
 逃げは、しない。と、シリウスの手に力を籠める。
「“準備”出来てるわよ」
 リカインが何のとは言わずに、優子に言った。
 優子の隣で、レンが無言で頷いた。
「脱出ポッド発射準備!」
 優子の声がブリッジに響き渡る。

『ブリッジ緊急脱出。メインルーム100秒後に自爆。総員退避。衝撃に備えよ』
 リカインの声が、警報と共にアルカンシェル内に最大ボリュームで響いていく。
 続いて、大型の脱出ポッドが宇宙空間に発射される。
 カタストローフェは破壊されていない手で新式ビームサーベルを抜き、脱出ポッドを追う形で突進。
 壁を破壊し、宇宙へと出る。
 前方を映すカメラは一つ破壊されてしまっている。推進機器も十分に作動せず、スピードは出せず、ふらふらと進む。
 アウリンノールは出血により意識が飛びそうになる中、必死にカタストローフェを操り、アルカンシェルから離れアンサラーの方へと向かう。
「何!? 脱出ポッドが」
 ポッドを確認したアプトムが声を上げる……。

「自爆5秒前! 4、3、2!」
 リカインは緊迫した声で叫ぶ。
 しかし。
「……なーんてね」
 直後に、スイッチを切って緩い声でそう続けた。
「ミサイル発射準備完了!」
「照準セット完了! このまま接近する」
 ミサイル修理完了の知らせを受けたルカルカと、操縦士のシリウスの声が響いた。
 そして。
「撃てーっ!」
 優子の声が響いた。
「アルカンシェルは撃たせない。月への道は開けて貰うわ!」
 優子の合図を受けて、ルカルカがミサイル発射ボタンを押す。
 射出した脱出ポッドの中は空だった。
 それを知り、動きを止めて振り向いたカタストローフェに、イコン搭載不可能な絶大な威力の長距離ミサイルが発射された。

「我らブラッディ・ディバインに栄光を!」

 アウリンノールは狂気の笑みを浮かべて、叫んだ。

ドォーーーン

 激しい音と閃光が走り、カタストローフェは藻屑と消えた。