校長室
【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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■ 出会いは不意打ちのように ■ ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)が契約者となったのは、ギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)との契約によってだ。 それから他のパートナーとも契約をしたけれど、最初のパートナーであるギャドルによって契約者としての第一歩を踏み出したことにかわりはない。 今回、龍杜 那由他(たつもり・なゆた)によってその過去が見られるという話を聞き、その最初の契約の様子を見てみたいと他のパートナーが言い出した。 「面白そうじゃん。滅多に見られるもんでもないだろうしな」 ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)が乗り気で誘えば、長尾 顕景(ながお・あきかげ)も面白そうじゃないかと頷く。 「ルファン、どれやってみろ」 「面白そうと言われてものぅ……確かにあれは妙な流れではあったが」 当時を思い出し、ルファンは苦笑する。 「ありゃあ傑作だったもんな」 「ウォーレンは知っているのか?」 「話ではな。けど実際に見たらきっともっと面白いぜ」 「では私も是非見てみたいものだ」 顕景はその辺りのいきさつについては全く知らない。ウォーレンもルファンやギャドルが話すのをちらっと聞いた程度だから、見せろ見せろとルファンに食い下がる。 「まあ、そこまで見たいなら構わぬが……」 ついにはルファンも折れて、パートナー達を伴い那由他の龍杜を訪れたのだった。 ■ ■ ■ 今から3年ほど前。 その頃のルファンは地球の学生だった。 文献や書物に深い関心のあるルファンは、学校の長期休暇になるたび、珍しい文献を求めて各地を彷徨ったりしていた。 この日も珍しい文献を見にやってきたのだが、その帰り。 目当ての文献を見せてもらったあと、ルファンはこれからどうしようかと時計を見た。 まだ時間に余裕はある。 せっかくここまで来たのだから、もう少しゆっくりして行こうか。 気の向くままに、ルファンはふらりと歩き出した どのくらい歩いただろう。 「……っ!」 不意に風を切る気配がして、ルファンは反射的に飛び退いた。 と、ふるわれた腕が身体のぎりぎりをかすめてゆく。 何だと振り返れば、そこにはドラゴニュートがいた。 「一体どうしたと言うのじゃ」 何故いきなり襲われたのかも分からず、ルファンは声をあげる。 「骨のあるニオイがするからだ」 謎のドラゴニュート……ギャドルからの返事は、鋭い蹴りを伴っていた。 ■ ■ ■ 「あいつって昔からあんなんなのかよ」 ルファンとギャドルの過去の出会いを一緒に眺めていたウォーレンが、思わず笑った。 「それにしても、初対面でいきなり攻撃とはぶしつけにもほどがあろう」 呆れ声の顕景に、それは、とルファンが説明する。 「わしもその答えには面食らったものじゃが、どうやら本当のところは、その前にわしがあやつが封印されていた物に触れて解いてしまったのも、狙われた1つの要因であるようじゃがのぅ」 「ではその時に、そう説明すれば良かろう。何故、骨のあるニオイだなどと答えたのか、私には理解不能であるな」 分からぬ、と首を振る顕景に、ウォーレンが軽く言う。 「面倒だったんじゃね?」 「まぁ、きっとそんな所だったのじゃろうて。何しろ、ギャドルはその後も攻撃し続けて来たからのぅ。詳しい理由などゆっくりと説明している暇は無かったのじゃろう」 ルファンは小さくため息をつくと、再び過去へと目を戻した。 ■ ■ ■ ギャドルの攻撃が、殴る蹴るに収まっているうちはまだ良かった。 だがルファンが応戦し続けているうち、ギャドルの闘争心もかき立てられたのだろう。 火まで吹き出したギャドルに、ルファンはぬぅと唸って周囲を見渡した。 小規模な街だが、人通りが無い訳ではない。 このままでは関係ない人を巻き込みかねない。 (たしかここに来る前に、空き地があったの。あそこなら迷惑もかかるまい) ルファンはギャドルの攻撃を受け流しつつ、人気のない空き地へと誘導していった。 空き地にまで連れてこられたギャドルは、ルファンの意図に気付いてにやりとした。 「ほう、俺様の攻撃を受けながらその余裕とは……なめるなよ!」 大振りの腕を、ルファンは身体を低くしてかわした。そのついでに、空き地に転がっていた木ぎれを拾い上げ、体勢を崩したギャドルを一突きする。 「物騒な奴じゃのぅ。人の迷惑は顧みるものじゃ」 「てめぇ……おもしれぇ奴だな」 「いきなり攻撃されたわしとしては、全く面白くは無いのじゃが。……まだ続けるつもりかの?」 「その余裕がどこまで続くか、相手してもらおうじゃねぇか」 一層いきいきと攻撃を仕掛けてくるギャドルに閉口しながらも、ルファンは延々と相手をさせられることとなった。 いつまでも続けるのではないかと思われたギャドルの攻撃も、ようやく止まった。 ギャドルから闘いの気配が消えたのを確認し、ルファンも構えを解く。 「満足したかの?」 「ああ。やっぱりおもしれぇやつだな。気に入った!」 さっきまでの攻撃は何だったのかと言いたくなるほど上機嫌に、ギャドルはルファンの背を叩き、 「俺と契約しねぇか?」 襲いかかってきた時と同じくらい唐突に、そう持ちかけてきた。 「契約とは何じゃ?」 「俺と契約すりゃあパラミタに行けるぜ」 人を襲っておいて何を言う。 普通の人ならばそう一蹴しただろうが、ルファンはパラミタに行けると知って興味をかき立てられた。 あの地には一体どんなものがあるのだろう、どんな文献が眠っているのだろう。 その好奇心に負けて……ルファンはそのままギャドルと契約したのだった。 ■ ■ ■ 「この先は少々憚られるので、ここまでじゃ」 ルファンは過去見を打ち切った。 「ええ、何でだよ」 不服そうなウォーレンに、それがのぅ、とルファンは情けない顔になる。 「この話を実家でしたら、大騒ぎの大喧嘩になってしもうたのじゃ」 「ま、当然だな」 いきなり襲われて、闘った挙げ句に契約しただなんて、親が聞いてはいそうですかと納得してくれるはずもない。 「うむ、あの光景を見るのは少し怖いな」 「ならばここまでということだな。こんな話があったとは存外のことであった」 なるほど、と顕景は水盤を覗くのをやめた。その表情からは、ルファンとギャドルとの出会いをどう思ったのかは窺えない。 「もういいのかしら。お疲れさま」 水盤から離れた皆を見て、那由他が声をかけてくる。 「何が見えたのかは知らないけど、随分楽しそうだったわね」 「楽しそう……そう見えたかの」 那由他の言葉に、ルファンは笑みを漏らす。 出会いは色々。 突然出くわすことももちろんあるけれど。 訳も分からず襲われたのが発端とはまた、自分たちには似合いなのだろうと。