校長室
【ダークサイズ】続・灼熱の地下迷宮
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5 そんなこんなで、ようやくフレイムタンの復旧作業とフレイムタン・オアシスの調査がひと段落し、温度が安定したフレイムタン・オアシスで一休みした後、彼らは一斉に遺跡へと引き揚げた。 ダイソウはと言うと、浴衣姿のネネとセーラー服姿のモモに、諸々の報告を聞いていた。 二人の姿だけでもツッコミどころ満載だが、クマチャンの暴走の件を聞いて、 「一体何があったのだ……」 と、クマチャンが搬送された神殿へと向かった。 「く、クマチャン……どうしてこんなことに……」 ハッチャンは親友の姿に泣いている。 「さ、みんな下がって。イレイザーの憑依が解けてないんなら、慎重な治療が必要だわ」 と、ティナ・ホフマン(てぃな・ほふまん)がハッチャン達を離す。 ハッチャンはティナにすがり、 「頼むよ、クマチャンを助けてやって……ってティナ!? こんなところで何やってんの」 「久しぶりね。相変わらず頑丈そうで安心したわ」 と、ティナは緑の髪をなびかせる。 「もう! ぜーんぜん帰ってこないから来ちゃったよ!」 ハッチャンの後ろでは、朝野 未沙(あさの・みさ)がダイソウを見上げている。 「おお、未沙か。久しぶりだな」 「久しぶりだなじゃないよー。退屈で死ぬかと思ったわ」 ダイソウ達がニルヴァーナへ出発して以降、パラミタに置く拠点『カリペロニア』で留守番をしていた未沙とティナ。 館の保守をしていたが、一向に帰還の気配がないことにいよいよ痺れを切らして、様子を見に来たのだとか。 「カリペロニアは安泰か?」 「安泰も何も、見事に何も起こらないわ。ていうかあんな辺境の島、そうそう人が通りかからないしね」 「未沙、そなたはわらわのフォローに回って。ダイソウ達は、邪魔になるから外に出てるのよ。クマチャンの改ぞ、あ、治療を始めるわ」 「ちょ、ティナー! 今何て言ったー!?」 ティナはごまかすように、ハッチャンやダイソウたちを外へ蹴り出した。 ☆★☆★☆ ようやくリニアモーターカー組み立てチームの出番とあって、前回組み立てを途中で断念した笠置 生駒(かさぎ・いこま)の気合いは充分である。 生駒はダイダル卿が引っ張って来たマグマイレイザーの皮と、マグマイレイザーの体内から発掘した超耐熱合金のような強力資材を見る。 ダイダル卿は資材を見ながら、 「どうじゃ、これだけあれば作れそうかの?」 「これは舵になる。操縦ハンドルはこれかな? あれ、台座になりそうな板が一つしかないね……」 生駒が資材を整理すると、リリが神殿から、『亀川』の台座を持ってきた。 「よっしゃー! 材料はばっちりだ!」 生駒は、『亀川』の台座を中心に、超耐熱合金の板を可動式にして操縦席から距離を操れるようにする。 「はーい、運んで運んでー」 生駒が【パワードアーマー】などのパワードシリーズを着こんだジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)に、資材を運ばせている。 リニア組立にここぞとばかりにやってくる三船 甲斐(みふね・かい)。 「にっしっし。リニアモーターカーだと? 俺様の頭脳をもってすれば、お茶の子さいさいだぜー」 地球で言うなら超耐熱合金だが、ダークサイズが発見した資材は、あくまでニルヴァーナの特殊金属である。 甲斐が【R&D】【先端テクノロジー】を以てしても、材質は謎のまま。 そんな時に便利なのが、ポータラカ人エメラダ・アンバーアイ(えめらだ・あんばーあい)。 【ナノマシン拡散】でナノサイズで金属に潜り込めばあら不思議、溶接や切断をしなくとも、変形や接合をさせることができる。 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)と和泉 真奈(いずみ・まな)もようやく遺跡に到着し、 「どーもどーも。お、やってるねー」 と、今日起こった波乱を知る由もなく、嬉々として合流する。 真奈は少し驚いたような顔で、 「わあ、本当にリニアモーターカーを作ってるんですねー。実際の作成現場は、わたくしも初めてですわ」 と、驚きと同時に興味津津で生駒の元へ。 「こんにちは。工具と技術の支援に参りましたわ」 「やあどうも。リニアって作ったことある?」 「いいえ、いちおう駆動の構造は理解しておりますが……」 「そりゃいいや! 鬼に金棒だね」 「生駒様は作ったことがおありですの? ずいぶんスムーズに進められてるようにお見受けしましたが」 「いーや、初めてだよ」 「え、大丈夫なんですの?」 「そうは言っても、いわゆる地球のリニアとはだいぶ違う構造になりそうだしね。このコイルの超電導反応も特殊だし、そもそも『亀川』とフレイムたんで反応を起こさせるって時点で、だいぶアドリブが必要だし」 真奈と生駒が議論を重ねていると、 「ねーねー、このドラゴンの鱗みたいなやつって何?」 ミルディアが、ジョージの運ぼうとするマグマイレイザーの皮を見る。 「リニアの外壁に使うそうじゃ。如何せん、見つかった資材が枠を作成するに留まったものじゃからのう。このマグマイレイザーの皮は、溶岩の熱にも耐えうる、いわば超耐熱皮じゃな」 「すごーい! ディスティン商会にも欲しいなそれ!」 そんな作業が進む中、猿渡 剛利(さわたり・たけとし)は【至れり尽くせり】や【晩餐の準備】、【ランドリー】などで、フレイムタンで翡翠や終夏たちがやっていたような、作業者のフォローやら汗でぬれた着替えの面倒やらでこまごまと動く。 佐倉 薫(さくら・かおる)は、接合を終えた資材から出て来てナノサイズから戻ったエメラダに言う。 「エメラダ、頼んだ通り、厄除けのルーンの印は打ち込めたましたか?」 「うん! 刻印ができなかったから、材の配列から浮き彫りする形にしたけど、いいよね?」 「結構です。甲斐、わしの魔術処理はあらかた終わりました」 「にっしっしっし。結構結構。切断面なし、接合跡なし、可動部はスムーズ、おまけに東洋魔術の応用で、いくら乱暴に走っても衝突からは自動回避システムが作動する。あとはあたしの【ナノマシン原木】を仕込んどけば、メンテいらずのパーフェクトボディ!」 何だかよく分からないが、甲斐たちによって、骨格と安全性はやたらとレベルの高いものになってきている。 エメラダがハッと思いだして、小さな箱を甲斐と薫に見せる。 「あのね、聞いて! 組み立てたリニアの中で、こんなの見つけたんだよ!」 「ん? なんだそれ。あたしはそんなもの持ってきてないよ」 「中身は何ですか?ナノマシン化して見てみては?」 「うん、さっきもう見たよ。中身は爆弾!」 『ばっ……!』 甲斐と薫が後ずさる。 それには生駒が怒って走って来て、 「こらー! 勝手に外しちゃだめだろー! ていうかどうやって見つけたんだよ。絶対見つからない所に仕込んだのにー!」 「あたしがナノマシン化したら、ちょちょいのちょいだよっ」 と、エメラダが自慢げにブイサインを出す。 今度は甲斐が、 「つーかキミ、なに爆弾とか入れてんだよ。危ないじゃん」 「危なくないって。ただの自爆装置なんだから」 「どーゆーことだよ!」 ほぼ完璧な安全マシンを作りあげた甲斐からすると、何故わざわざ獅子の身中に虫を入れておくのか。 ジョージがやって来て、生駒の頭をごすんと叩く。 「どーもおとなしいと思ったら、すでに仕込んどったのか。やめいと言うたのに」 「だって悪の組織と言ったら自爆でしょー。正義の味方にやられたらドカンでしょー。幹部みんな死んだら、ダイソウトウが高笑いしながら大爆発でしょー!」 『でしょー、じゃねえ!』 総ツッコミを受ける生駒。 生駒はその場に倒れ込んでジタバタして、 「いーやーだー! 入ーれーるー! 自爆装置いーれーるーのー!」 と駄々っ子状態になっている。 「何を言う! 自爆装置でフレイムたんが巻き込まれるなど、言語道断だぞ!」 と、生駒を叱り飛ばすのは七篠 類(ななしの・たぐい)。 今日もダークサイズのリニア作成を阻止しようとやって来たわけだが、今回はどのような作戦を立てて来たのだろう。 今日の類は、のっけから怒りの叫びをぶつける。 「ふざけるな! フレイムたんを爆発物のそばに置いてみろ。心配で夜も眠れなくなってしまうだろ、俺が! そもそもだ! モンスターの『亀川』はともかく、みんなのアイドル・フレイムたんをリニアモーターカーの一部にしてしまうだと? あんな可愛いフレイムたんを、リニアに閉じ込めてしまうのか!? 何て非道なことを考えつくんだダークサイズ! てめえらの血は何色だーっ!」 「いや、そう言われてもな、フレイムたんはギフトじゃから、生物ですらないんじゃが……」 ジョージがなだめるように冷静に返す。 「うっせー、ぺっ! じゃあ何か? おまえたちは古くなったぬいぐるみは容赦なく捨てるのか? 違うだろう、直してあげるだろう! あっ、フレイムたんをぬいぐるみに例えてしまった。ごめんねええええ、フレイムたあああああん」 見ると、遺跡に戻って炎が消えたフレイムたんを、類は頭に乗せて愛でている。 薫も困った顔をしながら、 「では、貴公はどうしてほしいんです?」 「当然、俺の要求は一つ! リニアの開発を中止しろ! フレイムたんを解放するんだ。ノーモアリニア! 脱リニア!」 類は訳の分からないシュプレヒコールを上げながら、フレイムたんの腕をぴょこぴょこ上げる。 そんな類の反リニアデモに、甲斐も冷静に返す。 「フレイムたんが必要なのはリニアを動かす時だけだぜ? 普段はうろうろしてていいし、『亀川』だって冷房に使うんだろーし」 「何っ、じゃあええと。フレイムたんが疲れるからやだって、ほら首振ってる」 「キミが動かしてんだろ……」 徐々に類の旗色が悪くなってきた。 とはいえ、類はフレイムたんを手放しそうになく、まだリニア反対を続けようとする。 「と、とにかく。フレイムたんの虐待は許さない。見ろ、フレイムたんは怒髪天を突く勢いで、体中が怒りで燃え、あっちいいいいい!」 突然燃え上がったフレイムたんの炎が、類に燃え広がる。 後ろには、いつの間にかミルディアが『亀川』を連れて来ていて、 「おおー、燃えてる燃えてる。うちにも欲しいなー」 などと言っている。 フレイムたんは何ともなしに類から飛び降り、類は悲鳴を上げながら水を求めて走っていった。 (何だったんだよ……) と皆思いつつ、生駒の自爆装置願望が再燃。 それには真奈が、 「それでは、こういうのはいかがでしょう? 自爆装置は取りつけてみて、そのスイッチはダイソウトウさまの鼓動と連動させる、というのは? ダイソウトウさまが正義の味方に倒されて死ぬ時、リニアが爆発して遺跡とフレイムタンもろとも地に沈み、その後、ダイソウトウさまを見た者はいない……」 「それかっけーじゃん! ロマンがあるね! 採用!」 悪役らしい最期を演出できるとあって、生駒も気に入ったようだが、ダイソウは知らぬ間にリニアを運命共同体にしてしまっていた。 ☆★☆★☆ 「目覚めたようね」 クマチャンが目を開けたのを見て、ティナはクマチャンを覗きこむ。 「ハッチャーン。終わったよー」 未沙がハッチャン達に面会の許可を出す。 「く、クマチャン! だいじょ、うわー! やっぱりー!」 ハッチャンの悪い予感が当たったらしく、人間の胴体に両手両足は機械のようなアタッチメントをつけられたクマチャンがいた。 「ティナ、何これ!」 「大丈夫よ。義手義足にすぎないわ。クマードスーツとやらを転用しただけだから、メカ化とかではないわ。断じて」 「そういう問題じゃないよ! 手足とか無事だったじゃん!」 「ああ、表現が正確じゃなかったわ。手足を切り取ったわけじゃないの。上からかぶせただけ」 「それ必要あったの?」 「必要か否かで言うなら、不必要ね」 「じゃ外してよ!」 「嫌よ。わらわが来た意味がないじゃない」 今度はダイソウが、 「ティナよ、そんなことより」 「うわー、閣下まですげー軽視してる、クマチャンの身体」 かつて、ハッチャンを緑の超人化した犯人はティナである。 ハッチャンからすると、友達であることを差し引いても、到底他人事と思えない。 ハッチャンの気持ちは分かるが、ダイソウはクマチャンの内部の方が心配で、 「憑依したと言うイレイザーはどうなったのだ。皆の報告によると、解放されるはずが出てこなかったという話だが」 「ええ、わらわもそこが難問だったわ。憑依による融合の度合いも調べてみたけど、正直よく分からなかった。だから……」 「だから……?」 ハッチャンがティナに乗り出す。 ティナは髪を耳にかけなおし、 「とりあえず、記憶を全部消してみたわ」 「ええー!」 顎が外れる勢いのハッチャンの隣で、ダイソウはクマチャンを見下ろし、 「記憶、全てをか?」 「もう一切合財よ。イレイザーの、人間への怒りが残ったら困るしね。まあコミュニケーションが取れないと困るから、言語野だけは手をつけずにおいたけど」 未沙が看護師のノリでクマチャンの正面に回り、 「あなた、お名前は?」 「……たい」 「ん?」 「わたしは、しずかに、くらしたい……」 クマチャンはクマードスーツの名残となったレッグで床を鳴らしながら外へ出る。 外では、マグマイレイザーの皮を被せ終わり、電車車両一つ分くらいのサイズで出来上がったリニアモーターカーへ歩いてゆく。 クマチャンの異様な格好に、ダークサイズの皆は声をかけるにかけられない。 クマチャンはマグマイレイザーの皮を撫で、リニア車両に入ると運転席に座った。 後ろについて様子を見ていたダイソウが、ティナに聞く。 「これは一体、どういう行動なのだ?」 「もしかしたら、イレイザーの本能のかけらかもね。擬似的に、自分の肉体に戻ってる感覚なのかもしれないわ。ああ、あと何かあるまでダイソウトウの命に従う、っていう記憶だけ刷りこんだから、よっぽどのことがない限り安全だと思うわ」 「そうか……」 ダイソウは、クマチャンの後姿をしばらく眺め、 「……大幹部よ。別命あるまで、リニアの運転手を命ずる」 と声をかけた。 ☆★☆★☆ とまあ、そんな切ない結末が起こっているなどつゆ知らず、商業地域にできた温泉では、 「ふんふんふん♪ アイドルのお肌にはあったかい温泉が一番よねー」 と、ラブ・リトル(らぶ・りとる)が鼻歌交じりに肩までつかっている。 隣にはアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)がいて、 「あのう、ハデス様たちが一生懸命働いてるのに、私達ばかりがのんびりしててよかったんでしょうか……」 と、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)を見る。 咲耶はぷんと頬を膨らまして、 「いいんですっ。だって兄さんったら、一向に私達の服を復活させてくれないんですよ?だからこれは、ストライキですっ」 「そーそー。汗かいた上に、マグマイレイザーの血でどろっどろだったじゃん。特にアルテミスは。お肌が荒れて夜泣くことになるのはあなたなんだからね?」 と、ラブがお湯をアルテミスの顔にかける。 「きゃー、何するんですかー」 「きゃー」 「きゃっきゃ」 「うっふふふふ」 女子三人がお湯をかけ合っている向こうでは、 「テラー! テラーが抜けない! テラーが死んじゃうううう!」 「ちょ、これ本当に危ないんじゃないの?」 「ぶくぶくぶくぶく……」 飛ばされたテラーがちょうど温泉に頭から墜落したのが抜けず、パーシヴァルとグラナダが大慌てになっていて、ラブたちのすぐ目の前では、 ざばあっ 「危なかった! 焼け死ぬところだった! くそっ、ダークサイズめ! 次はどんな作戦でいってくれよう!」 「きゃー! へんたーい!」 と、類が吹っ飛ばされていったのだった。
▼担当マスター
大熊 誠一郎
▼マスターコメント
さいごまでありがとうございました、大熊誠一郎です。 お待たせいたしました。続・灼熱の地下迷宮はいかがでしたでしょうか。 ダークサイズのニルヴァーナ篇は、ここで第一部終了となります。 リニアモーターカーが出来上がり、運転手(クマチャン)も手配できたので、次はどこかへ遠出できるかもしれませんね。 それでは、また次回お会いしましょう ジークダークサイズ