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【ダークサイズ】続・灼熱の地下迷宮

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【ダークサイズ】続・灼熱の地下迷宮

リアクション







 事故復旧組やフレイムタン・オアシス探索組が、マイペースでそれぞれの仕事を進める中、ダークサイズの拠点となりつつ火山帯遺跡の商業地帯に作った温泉の脇では、やはりマイペースにセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)がサングラスをかけて寝転んでいた。
 この遺跡は地下なので、日光が注ぐことはないのだが、セレンフィリティは【ビキニの水着】を着て【リボン】をアイマスクのように目にかけ、ビーチのようなくつろぎっぷりである。

「ねえセレン……あなたいつまでサボってるつもり? あとそのリボン、サングラスのつもり? 意味ないんじゃない?」

 パートナーであり恋人でもあるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、セレンフィリティを起こしに来た。
 セレンフィリティは余裕たっぷりにフッと笑い、

「大丈夫よセレアナ。状況は分かってるわ……さてと、さらば避暑生活!」
 
 セレンフィリティは跳ね上がるように体を起こし、大きく伸びをした後湧き水を浴びて汗を流し、【マシンピストル】二丁を構えた。

「行くわよセレアナ、イレイザー・クマを倒しに!」




 遺跡神殿の前では、すでに強烈な緊張感に包まれ、幹部達がイレイザー・クマと対峙している。
 イレイザー・クマは低いうなり声をあげ、【狂血の黒影爪】は黒い霧状オーラを発し、そのオーラは体中にまとわりついている。
 今はダークサイズを襲うことはせず気の充実を図っているのだろうか、棒立ちに見えるが襲いかかる隙がない。

「あのよー、そもそもこれ、一体どういうことか説明してくんねえか……」

 この三頭身のクマのぬいぐるみが、イレイザーに憑依されたダークサイズの大幹部クマチャンなのだという。
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)にしてみれば、せっかくダークサイズに入ったばかりなのに、外でなく組織内部に発生した敵と戦わねばならない不幸。
 キャノン モモ(きゃのん・もも)が困った顔をしながら、

「それについては、綾香さんから説明してもらった方がいいかと……」

 と、夜薙 綾香(やなぎ・あやか)を見る。
 綾香もさすがの想定外の状況に、

「むぅ……クマチャンに作ってやった『クマードスーツ』に【狂血の黒影爪】を取りつけておってな、どうやらクマチャンが精神汚染を食らってしまったようなのだ。まぁ、武闘派でないクマチャンなのだから、暴走くらいは予想しておったのだが……まさかイレイザーが憑依するとは思わなんだのう」

 恭也はあちゃーと顔を手で覆いながら、

「でもちょっと待て、イレイザーに憑依されたってことは……」
「うむ、当然イレイザー並みに強い。いや、【狂血の黒影爪】の暴走を鑑みると、単純な強さはイレイザー以上かも知れぬ。相応の火力で応じなければ、クマチャンを助けるどころか、こちらがやられてしまうであろうな」
「おま、何てことしやがんだよ……」

 恭也は思わず綾香を責めかけるが、さすがに予想外の展開なので言っても仕方がなかろうと、言葉を飲み込む。
 キャノン ネネ(きゃのん・ねね)が扇子を振りつつ、綾香に尋ねる。

「それで綾香さん? あなたのことですから、リセットボタンのようなものは取りつけてあるのでしょう?」
「良い所に気付いたなネネ。当然、このような時のために緊急停止ボタンを取りつけてある。それを押せば、スーツの全機能が停止し、【狂血の黒影爪】もその威力を失うであろう。そうなれば憑依したイレイザーを追い出すのも、訳はあるまい」
「結構ですわ。わたくしも今回はお手伝いして差し上げましてよ。ボタンはどこに?」
「うむ。肩の後ろの二本の角の真ん中のトサカの下の鱗の右だ」

 綾香の説明を聞いて、全員が少し沈黙した後、恭也が口を開く。

「えっと、もっかい言ってくれ」
「よかろう。肩の後ろの二本の角の真ん中のトサカの下の鱗の右だ」
「…………一応突っ込んだ方がいいのか?」
「いや待て、言いたいことは分かる。だがな、簡単な所に緊急停止ボタンをつけても仕方ないであろう」
「緊急時のボタンなんだから、押しやすいとこにねえとまずいんじゃねえの? カバーつけとくとかしてさ……」
「仕方ないですわね。ボタンの位置に文句を言っても、詮のないことですわ。ともかくアヤカ、そのボタンを押せばいいのですわね? ボタンの位置が……」

 アンリ・マユ(あんり・まゆ)が、改めて緊急停止ボタンの位置を復唱する。

「確か、鷹の後ろの二本のゴボウの真ん中のスネ毛の下のロココ調の右、でしたわね?」
「いや違うぞ。肩の後ろの二本の角の真ん中のトサカの下の鱗の右だ」
「ああ、肩車して後ろ向きに乗り二本のゴボウを持った歌舞伎顔の男、でしたか」
「違うぞ、なぜ正解から離れるのだ。肩の後ろの二本の角の真ん中のトサカの下の鱗の右だ」
「失礼。肩たたきしてあげるからお父さん今度遊園地に連れてっての所」
「待てアンリ、もはや肩しか原型が残っておらぬぞ」

 ボタンの位置を理解したらしいネネが、一歩前に進み出る。

「分かりましたわ。玄関開けたら二分でご飯ですわね」
「むしろそれがどこなのかを教えてくれ」

 綾香のツッコミも聞かず、ネネがイレイザー・クマに突進する。

「お、お姉さま! お姉さまが先陣を切るなんて……!」

 ネネの意外な行動に、モモが声を上げる。
 ネネの肢体がしなやかに動き、右手に持った扇子をイレイザー・クマに振りおろす。
 しかしネネの扇子はイレイザー・クマの身体を通り抜け、空しく空を切った。

「あら?」
『バカメ、ソッチハザンゾウダ……』

 ネネの背中に、悪魔のような濁った声が飛ぶ。

「!」

 ネネが振り返ると同時に、イレイザー・クマが【狂血の黒影爪】を振りおろした。
 黒い霧をまきちらしながら迫る爪を、ネネは扇子を開いて受け、爪が扇子に突き刺さる。
 直後、異常に気付いたモモが、

「お姉さま! 扇子を離して!」

 脊髄反射のスピードで、ネネは扇子を手放してイレイザー・クマと距離を置く。
 イレイザー・クマは再度腕を振り、扇子をネネに向けて投げつける。
 高速回転しながら飛ぶ扇子は、チャクラムのような鋭利な円盤刃物となってネネの顔をかすめて神殿の柱に突き刺さった。
 見ると、ネネの扇子は【狂血の黒影爪】のオーラを纏い、真っ黒に染まったまま、腐敗したように跡形もなく崩れ落ちた。
 ネネが髪を払うと、扇子に切断された金髪が一束振り落ちる。

「綾香さん。やはり右足の親指と左足の親指の間のとある部分を狙うのは難しいですわ」
「だからそれはどこなのだ、いや場所は分かるが全然違うぞ。ある意味停止ボタンになりうるが」

 ネネの先陣を見て、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)はため息をつきながら、

「アルテミスさまにご飯を届けなきゃならないっていうのに、まったくクマチャンってば……肝心な時に問題起こして、困った人だわ」
「そうだよ! まったくもう、バカじゃないの? みんなに迷惑かけて! 元に戻ったらみんなでお説教だね!」

 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はぷんすか怒りながら祥子に同意する。
 隣ではコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、

「怒ってるわりに、ずいぶん心配そうじゃないか」

 と、美羽に優しい笑みを向ける。
 美羽は顔を真っ赤にして、

「な、何言ってるの! 別に心配なんかしてないもん! クマチャンがいないと、スタンプカードのお願い聞いてもらえないから困るだけだもん!」
「でも、スタンプカードのお願い聞くのはダイソウトウだろ?」
「えっ……ち、ちが、クマチャンいなくなったらダイソウトウが泣いちゃって、スタンプカードのこと忘れちゃったら困るじゃん!」
「ふふ、そうですね。全てはスタンプカードのお願いのためですものね。分かってますよ」
「わ、分かってなーい!」

 美羽はベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の横槍に、両手をバタバタさせて応える。
 祥子は美羽の頭をポンポンと叩いて彼女を抑え、

「で、綾香。緊急停止ボタンは押せないようだから、【狂血の黒影爪】を破壊して止めることになるけど、いいわね?」
「ううむ、もったいないが仕方あるまい。だが、【狂血の黒影爪】を破壊したからといって、すぐにイレイザーの憑依が解けるとは限らぬが……」
「大丈夫だよ。それならパーツをぜーんぶ壊しちゃえば、人間の生身なんて役に立たないと思ってイレイザーも出て行くよ!」

 根拠はよく分からないが、美羽が案を出した。

「そうこなくっちゃ! 相手はイレイザーだから、クマチャンを助けるためには全力でいかないとねー。ふふふ」

 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、クマチャンを心配するそぶりをしながら、嬉しそうに腕をぐるぐる回している。
 それを見て、思わず美羽が叫ぶ。

「ちょっと、何で笑ってるの? 倒す気満々じゃないのー!」

 チムチム・リー(ちむちむ・りー)は口に手を当てながら、

「あのクマードスーツ、うらやましいアル。綾香ちゃん、チムチムにもチムードスーツ作ってほしいアル」
「あんな暴走状態になっておるのに、よく欲しがれるのう……」

 綾香は、肝の据わったチムチムにあきれるやら感心するやら。
 祥子は【神の面】をつけながら、

「ともかく、ネネの扇子がやられたみたいに、爪の攻撃を受けると、あの黒い霧が浸食するみたいだわ。あれは気をつけなきゃ」
「ごにゃ〜ぽ☆」

 さらに突如現れた、魔鎧ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を纏った鳴神 裁(なるかみ・さい)が、問答無用で【魔障覆滅】をイレイザー・クマに放つ。
 それをかわしたイレイザー・クマに、さらに物部 九十九(もののべ・つくも)の【ゴッドスピード】が反映した神速で、彼女の腕から伸びる【パラサイトブレード】が襲いかかる。
 イレイザー・クマが【狂血の黒影爪】を振り上げてそれをいなし、すれ違いざまに九十九のブレードとイレイザー・クマの【パワードアーム】がこすれ合う。
 金属が削れる音と火花を散らして離れ、九十九が裁の隣に着地した。

「うにゃ〜ん。【ゴッドスピード】使ったのに、ギリギリかわせるなんてずるい〜」

 と、裁はイレイザー・クマのスピードに、クレームをつける。
 裁と九十九に標的を定めようとしたイレイザー・クマの背中に、【血と鉄】で威力を増した二丁の【マシンピストル】の弾丸が襲いかかる。
 イレイザー・クマはすぐさま反応してアームで弾丸を数発受けた後跳び上がり、二丁銃を放ち続けるセレンフィリティを襲う。
 それを横からセレアナが【光術】で視界を奪い、【フロンティアスタッフ】で攻めるが、イレイザー・クマはそれもかわしてまた距離を取った。

「ちょ、何その反応! なんかずるくない!?」

 不意打ちにもかかわらず、大したダメージもないイレイザー・クマには、セレンフィリティも腹が立つ。

『ワイショウナイノチハ、ホロビヨ』

 イレイザー・クマから、また濁った声が、宣戦を布告するように響いた。