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●蓮見家の新年会

 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)主催の新年会にも、そうそうたるメンバーが集まった。
「うー寒寒っ、帰ったよ」
 玄関ドアを騒々しく開き、黄 健勇(ほぁん・じぇんよん)が帰ってきた。腕に連凧を抱き、さらに和風の独楽を手にしている。
 健勇の後ろからは、カシャ、カシャ、と音を立て、機械姿の戦士ガラン・ドゥロストが付いてきた。ガランは柔らかな口調で言った。
「楽しかった。風があったので凧も高く揚がったしな」
 ガランと健勇は、一緒に日本の伝統的遊びを外で楽しんできたのだ。玄関に迎えに出てきた朱里に、健勇は嬉しそうに報告する。
「母ちゃん、ガランってすげーんだぜっ、ヒーローロボみたいに格好いいだけじゃなくて、凧揚げも独楽回しもムチャクチャ上手いんだ! 俺、コツを教えてあげるつもりが、逆にいっぱい教えられちゃった」
 精密な動作が可能なガランは、とりわけ独楽回しには達人級の腕を見せたとか。ただし隻腕なので、独楽の紐は健勇に巻いてもらったらしい。それは愉快な共同作業だった。
「それはそれは」興奮気味の健勇を見て、朱里も嬉しげに眼を細めた。玄関の梁に頭をぶつけそうなほど長身のガランを見上げて、「ガランさん、うちの子の面倒を見てくれてありがとう。もうじき準備が終わると思うから、奥で休んでいてね」と、畳敷きの和室へ案内した。
「かたじけない。よろこんでもらえてなによりだ」
 ガランと健勇が姿を消した途端、玄関チャイムが鳴った。
「招待してくれてありがとう。連絡をもらった夜月だ」
 開いたドアの前に、夜月 鴉(やづき・からす)を初めとする四人が立っていた。
 互いに簡単に名乗り合ったのち、
「まずは上がって。どうぞどうぞ」
 朱里に案内され、鴉たちも和室へ向かう。しかし鴉だけは和室に入らず厨房をうかがった。
「せっかくだから俺は家事を手伝おう。こう見えて料理や片付けは得意なんだ」
 最初は遠慮した朱里だが、手が足りてないのは事実、鴉の好意に甘えることにした。
「お客様にお手伝いなんかしてもらって、何だか悪いな」
 とは言うものの、鴉の手際の良さはさすがであり、朱里は随分助けられた。
 ちょっとした旅館級に大きな厨房には、もう一人、忙しく立ち働く少女の姿があった。
「お兄ちゃんもママのお手伝い?」
 ピュリア・アルブム(ぴゅりあ・あるぶむ)だ。愛らしいエプロン姿で鴉を見上げる。
「ああ。せっかくだから、君に料理を教えてもらおうかな?」
「やーん」くすぐったそうに笑うと、ピュリアは朱里の背に隠れた。「ピュリアちっちゃいから、教えたりできるほどお料理上手じゃないよー」
 けれどこのやりとりでピュリアは鴉に心を開き、以後彼と二人、仲良く朱里を手伝ったのだった。
 いくらか遅れて、十田島つぐむがチャイムを鳴らした。彼はジャンパーにジーンズというラフな格好だ。
「明けましておめでとう。今日は呼んでくれたこと、感謝している……ガランはもう来ているかな?」
「はじめまして」つづいて竹野夜 真珠(たけのや・しんじゅ)が口を開いた。「遅くなってごめんなさい。買い出しは早く終わったんだけど、私のお節が手間取っちゃって……」
 つぐむと真珠が差し出した重箱には、見るだに美味しそうなお節料理が詰まっていた。家で作ったものを持参したのだという。
「そして、私の衣装も手間取りました」
 ばっ、とミゼ・モセダロァは、来ていた白いコートを脱ぎ捨てた。その下はなんと、革製のボンデージファッションだ。それも、ほとんど紐のような強烈なものである。
「うふふ……もっと控えめな格好にしても良かったのですが、これがワタシの正装ですので……ポートシャングリラで新調したものですのよ」
「さっき、こっそり買いに行ってたものってこれか……」つぐむは手を額に当て天井を仰いだ。恥ずかしさと申し訳なさで隠れたくなる。「すまない……こんなバカ者だが一応は俺のパートナーなんだ。なにかやらかしたら叱るから遠慮無く俺に言ってほしい」そしてつぐむは、朱里に深々と頭を下げたのである。
「えーと」朱里は多少戸惑ったが、ミゼが悪意なく本当に『自分なりの正装』で来たのだと理解したので笑顔で、「でも寒いでしょ、その格好? こたつでぬくもってね」と彼らを案内した。