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リアクション
「くっ」
一切の余裕がない。後方から迫る炎柱のような『ファイアブレス』を避けるべく、クナイ・アヤシ(くない・あやし)は『レッサーワイバーン』を体ごと一気に回転させた。しかしその急な旋回が、同乗していたリオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)を空へ投げ出す事となってしまった。
「ぉおっ」
「リオン!!」
目一杯に手を伸ばし目を見開くリオン、まるで人形が力なく落下する様のように彼は地上50mの高さから落ちて行く―――と思ったら不意にパラシュートを開いたかのように、彼は宙に浮き留まった。
『我は纏う無垢の翼』で飛行してみせたようだ…… いや飛行して魅せたといった所だろうか。リオンは涼しげな顔が「私に構わず、どうぞ続きを」と言っているようで…… 心配した分、余計にクナイはイラッとした。
ゴァアオアォォオオオオ!!!
先ほど炎柱の如き『ファイアストーム』を放った者、ジバルラの新たな相棒である竜が眼を見開きながらに咆哮していた。
「全く、落ち着きのない」
クナイは素早く『聖なる手榴弾』を取り出すと、竜の頭めがけて投げつけた。
先刻のことだ、「竜の躾を手伝おう」と願い出たクナイとリオンに、ジバルラの応えは「それなら獲物になってくれ」であった。
手榴弾の爆発なら獲物の反撃としては十分だろうと考えての事だったのだが―――
バクッ!!!
「なっ」
竜は手榴弾に喰いついて、そして口の中で爆発させた。
鼻の穴がボフンと大きく開いたが、飲み込んだかのように大きく息を吐き出してみせた。
「まったく。何て無茶をさせるのですか、あなたは」
『レッサーワイバーン』を地に下ろさせてジバルラに言うと、彼は「馬鹿言うな、んな指示は出してねぇよ。コイツが勝手に喰ったんだ」と答えた。
「という事は、調教はまだまだまだまだという事ですね」
「まぁなぁ。だが、さっきの判断は悪くは無ぇ、少なくとも俺好みではある」
――指示通り動かないのでは意味が無いでしょうに―――
「指示に従わないんじゃ意味ないでしょお!」
クナイが胸の内で思うのと同じ時に鳴神 裁(なるかみ・さい)は声に出してジバルラにぶつけていた。
「そんなのんびりしてる場合じゃないんだよ、分かってる?!」
「あん? 何だ? 急に出てきてイキナリうるせぇなぁ」
「イキナリじゃないよっ! ずっと居たってんだよぉ」
「そうだそうだ―ずっといたぞ―」
裁はダンッダンッと地面を踏み蹴っていたが、パートナーのアリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)は小馬鹿にするような平坦な口調で裁に合わせていた。すぐ隣に立って「そうだそうだ―」と拳を上げる様は…… 間違いなく楽しんでいますね。
「マルドゥークさんが挙兵して居城に向かったんだよ、それなのに駆けつけないなんてそれって、部下としてどうなの? そんなこと許されると思ってるのぉ?」
「うるせぇなぁ、奴が自分の家を取り戻しに行くってだけの話だろ! 何で俺が手伝わなきゃならねぇんだ!」
「あっはっは〜 全然はなし聞いてないんだね〜。だからぁ! 部下なんでしょ?! 主の為に動くのが部下ってもんじゃないのって言ってるんだよっ!!」
「何で俺がテメェに部下の在り方をとやかく言われなきゃなんねぇんだ!」
「キミの部下感がオカシいからだよっ!」
「ブカカンだぁ? 妙な言葉使ってんじゃねぇぞ、だいたい主の尻についていくだけが部下ってんじゃ無ぇだろうが!」
両者ともに完全にヒートアップしていた。隣でアリスだけはニコニコしていたが、裁はそれにすら気付かずに続けて息巻いた。
「じゃあ聞くけど、そこまで言うなら何か考えがあるんだよね? 挙兵に参加するよりも大切な策があるからここにいるんだよね?」
「…………策?」
「うんうん、それはアリスも聞きたい☆」
ここでようやくアリスもノッてきた。何とも子供らしいキラキラとした瞳をして、
「マルドゥークさんの助けにもなって、ネルガルにも一泡吹かせちゃうような、すんごい作戦があるんだよね☆」
とジバルラに寄り迫った。
ばつが悪そうにジバルラが顔を避けても回り込んで、アリスは「あるん、だよね?」と詰め寄った。
ずっと、じーっと見つめていた裁と目が合ったことで観念したのか、ジバルラは「無ぇよ」と呟いた。
「はぃ? ごめん、ちょっと聞こえなかったよ☆」
「無ぇって言ったんだ、だいたい知ったこっちゃ無ぇんだよ、俺は今コイツの躾で忙しいんでな」
「ざけんなぁ!! どんだけわがままなら気が済むんだよあんた!!! あったまきた!!!」
裁はビシッとジバルラを指さした。
「ボクと勝負しろ!! ボクがあんたから一本取れたらマルドゥークさんの手助けに向かうこと!!」
それはどうだろう……? という空気が漂う中、魔鎧であるドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が「あれ? それだとボクの出番ですか〜?」と裁の体に装着を果たした。
自前の『レッサーワイバーン』の元へ歩み寄る中で、裁は清泉 北都(いずみ・ほくと)の手を取り引いた。
「えっ? あれっ? 何?」
「腕組みしてるなら、手伝っておくれ」
「あ、いやぁ僕は今ジバルラさんの新しい相棒の名前を考えてるからそういった事は―――」
「キミたちもだよっ、獲物くん達っ!!」
有無を言わさず北都、クナイ、リオンを引き連れた。困った事にジバルラもこれに乗り気で、早速相棒を羽ばたかせようとしていた。
「ちょっと! どうしてそうなるのよっ!!」
さすがにフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)が声を荒げたが、
「……フリューネ」
とリネン・エルフト(りねん・えるふと)がなだめて止めた。
「とりあえず…… 今は好きにさせてみようよ」
「でも……」
「大丈夫。あんな調子だけど…… 2人とも冷静だと思うよ」
一人で挑むのではなく、ちゃんと北都たちを連れた所をみれば……。ジバルラは実戦経験が何よりの訓練になると分かってるみたいだし。口喧嘩をさせておくよりは状況は進展するように思えたから。
「埒があかないな」
氷室 カイ(ひむろ・かい)が言うと、伏見 明子(ふしみ・めいこ)も「そうね」と同意した。
「ジバルラに考えがあってもなくても、しばらくはここを動きそうもないし」
「あぁ、居るだけ無駄だな。俺たちは先に行くぜ」
どこへ? と訊くフリューネにカイは「マルドゥークの所へだ」と答えた。
「向こうは少しでも人手が欲しいはずだからな、俺たちは向こうに加わるよ」
「私たちも行くわ。傍に居るだけじゃ何にも変わらないし」
明子とカイが飛び立った。
2人のパートナーを含めれば編成は6人、道中で気狂いのモンスターに遭遇したとしてもどうにでも対処できるだろう。この場に残った面々はそう思い彼らを送り出したのだが―――
僅かの後、彼らは思わぬ敵と遭遇する事になるのだった。
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