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リアクション
3fairyland【3】
爆発は表のカフェも巻き込んでいた。全壊は免れたものの半壊。
わけもわからず吹っ飛ばされた森ガール達は、砂埃にけほっけほっと可愛くむせながら立ち上がる。
しかし、その耳になにやら不吉な音……カランカラン……と何かを引きずりながらこちらに来る足音が聞こえた。
散る砂埃の中に2メートルほどのクリスマスツリーのような影が見える。
影の手にはデコられたバット、血まみれのそれをカランカランと引きずり、彼女は立ち止まった。
「こっからは、マジパーティータイムだかんねっ!」
空京センター街のカリスマ、神守杉アゲハ、仲間を引き連れ堂々戦場にあらわる。
天敵を前に一触即発の空気になる……かと思いきや、森ガール達は戦意をほとんど喪失していた。
皆一様に青い顔。お腹が痛いよう……と苦悶の表情でのたうち回ってる。
「これ、食べたでしょ?」
森ガールに化けた刹那・アシュノッド(せつな・あしゅのっど)はおからドーナッツの袋を見せた。
それは先ほどのお茶会でテーブルに並んでいたもの、しかし、賞味期限が半年くらいブッちぎってしまっている。
「混ぜておいたの。美味しかった?」
けれど、原因はそれだけではない。ミーナが振る舞った『朝顔の種』、あれに秘密があった。
「あー、やっとこのウザイ服脱げる!」
ガラガラと瓦礫の下から出てきたミーナは、森ガール装束を脱ぎ捨てるとこんなもん、と地面に叩き付けた。
「朝顔の種は下剤になるんだよーだ。森ガールのくせに知らなかったんだ、やーいやーい」
「う、ううう……」
森ガールのライフは限りなくゼロ……だが、最後の力を振り絞り、幻獣の主の力で幻獣を呼び寄せる。
どこからともなくあらわれたのは無数の猿の群れ、森に生息する『珍獣ハマヌーン』だった。
ナラカエクスプレスで出てきた奈落人『ハヌマーン』にそっくりな白猿。
人語を解するが、ナラカにいたのよりバカっぽく、シモい。ハヌマーン流によく似た我流の格闘術を使うとのこと。
「内野安打で焼肉定食! 無敵のハマヌーン様のお通りだぁ! おまえの乳首を噛み切ってやるぜぇ!」
「なんか下品……!」
刹那は剣の花嫁遊馬 澪(あすま・みお)から、刀型光条兵器『明光輝星』を発現、斬り結ぶ。
援護に回るアレット・レオミュール(あれっと・れおみゅーる)は彼女の背中を守るように立ち回った。
「見たこともない生き物です、気を付けて下さい。特にその……セクハラに気を付けて下さい!」
「当たり前よ」
けれど、アレットの心配は杞憂だった。威勢良く向かってくる彼らだが、動きは単調、力も弱い。
何かいやらしいことをする前に、二人にフルボッコにのされて、ハマヌーン達は手も足もでないのである。
がしかし、追いつめられてからが彼らの本領発揮であった。
とどめ、と槍を振るうアレットに、ハマヌーンは武術の構えをとる。
それはナラカのハヌマーンと同じ構えだったが、その奥義は『壊人拳』にあらず……『カイジ拳』。
自分の生死、又は破滅する本当のギリギリまで追い込まれた時のみに絶大な威力を発揮する技なのだ。
「うわああああっ!!」
カウンター気味に一撃を叩き込まれたアレットは天高く吹き飛ばされた。
ざわ……ざわ……。その恐るべき威力に刹那は畏怖する。ざわ……ざわ……。
「ほう。ナラカのアレの劣化モンスターかと思ったが、なかなかやるな……!」
真っ赤なコートを翻し、今度はレン・オズワルド(れん・おずわるど)がハマヌーンの群れと対峙する。
その手の『魔導刃ナイト・ブリンガー』を構え、周囲を囲む猿達への警戒を怠らない。
「くそ、小娘どもを血祭りに上げにきたのに……、まさか小汚い猿の相手をすることになるとは……!」
迷彩効果で身を潜める相棒のザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)は苛立たしげに言った。
どうやら彼女、食材調達のため狩りをしていたところを森ガールに襲われたらしい。
「私は狩人だ。狩人の英霊。ここ大事。何処かの紛争地域じゃあるまいし、物々しいなと思って見てただけで私に銃を向けやがった。この私にだぞ。失礼にも程がある。狩人の英霊を狩ろうなんて150年早いってんだ」
「さしもの英霊も多勢に無勢ではどうしようもなかったか?」
「ぐ……! 仕方がないだろ!」
「そう怒るな。ほら、おまえの探していた食材がうようよいるぞ」
「猿なんて食えるか!」
やれやれと肩をすくめるレン。
「しかし、相手が猿なのは好都合だ。女の子よりは余計な気遣いをせずに済む……」
飛びかかるハマヌーン達を銃舞でいなすと、当て身を喰らわせ一撃の下に気絶させる。
打ち漏らした敵はザミエルの射撃でカバー。そのまま敵を倒しながら、アゲハの元へ駆けつける。
ただ、こちらは当て身で済ませる彼とは違い、全力でボコッボコにしてるため、猿たちにとっては悲惨なことだ。
「手助けは必要……なさそうだな」
「マジ当たり前だし。こんなサルにビビってたら、センター街でデカイ顔できないっつーの」
と、二人の前に先ほど、祐也達に着いてきた一匹の猿が躍り出た。
「アゲハ先輩、あたし!」
そう言うと、神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)はさるさるスーツの頭を外し顔を出した。
「なにその格好?」
「へっへー、変装して森ガールたちの様子を探ってたのよ、いいでしょ、このスーツ」
「へー、なんかセンター街にもそういう着ぐるみのヤツいるね。で、なんか情報は掴めたの?」
「え、うーん……森ガールにお菓子もらってるうちに爆発しちゃったからなんにも……えへへ、ごめん」
そして、授受はデコバットに更に釘をデコッたものを振りかざし、ハマヌーンに目をやる。
「ハヌー……」
ナラカにいたハヌマーンは彼女の親友だった……と彼女は勝手に思っている。
そんな彼にそっくりなハマヌーン達、暴れん坊の彼女も流石にその手にためらいの色が……。
「くたばれっ!!」
なかったようである。襲いかかる猿達を動かなくなるまでメッタ打ちにする授受。
そして、ふと思い出したように倒れてる森ガールのところに行き、そっちもメッタ打ちにした。
「よくもあたしとハヌーみたいのを戦わせたわねっ! ふっざけんなぁ! このテロリストのひとごろしどもっ!!」
気絶した人間にもこの所行。鬼か。
しかし、倒しても倒しても我が暮らし楽にならず。次から次にハマヌーンはどこからか湧いてくる。
「不毛ですわ……」
後方に控えていたパラ実の僧侶リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)はため息を吐いた。
ギャルと森ガールの戦争も、簡単に言ってしまえば『ただの少女の喧嘩』である。
そんな諍いに自分が首を突っ込むのもどうかと思っていたのだが、この状況を見てるとそうも言ってられない。
「下らない争いを早期解決に導くのも、僧のお務めかもしれませんわね」
そう言うとデコバットを胸の前に構え、バニッシュの輝きをデコクリスタルで乱反射させる。
アゲハは不思議そうに首を傾げた。
「なにそれ、バットで殴んないの?」
「こんなにキレイな物を、殴る為なんかに使えませんわ。戦いの血で汚すのは勿体無いと思いますの」
リリィは念じる。
「このバニッシュは魔獣を焼き消す聖なる光! カリスマギャルの技術力に、デコバットの輝きに退去せよ!」
魔を退ける光が拡散され、周囲を照らす。無秩序な光の本流……名付けてギャルバニッシュ!
やはりセクハラとかしてくるから邪悪な生き物だったのだろう、ハマヌーン達はギャッと頭を抱え込んだ。
と、アゲハも自分のデコバットを差し出し、リリィのバットと十字のようにクロスさせた。
「アゲハさん?」
「こいつらウザイから、とっとと片付けちゃって」
リリィは静かに微笑み、更なる念を込め、クロスデコバットで威力を増幅させる……!
「これぞセンター街の底力! 魔を滅する聖十字、ギャルバニッシュ・美白エンドッ!!」
閃光。そして、邪悪なセクハラモンキー達はどこか忘却の彼方へと消し飛んでいった。
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