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ハロー、ゴリラ!(第1回/全1回)

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ハロー、ゴリラ!(第1回/全1回)

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Boys & Girls【2】


 樹月 刀真(きづき・とうま)は眼下を流れる川の行方を見つめていた。
 ウゲンには負け、パルメーラは殺せず……自分自身の復讐も果たせないとは……弱すぎる。
 これじゃあ環菜を死なせてしまうのも当然か。
 力が……力があれば。全てを殺せる力があれば……。だが、いずれ手に入れてみせる。
 そして、俺が死んだ時は、パルメーラ・アガスティア、必ずまたおまえを殺しに行く……!
「元気がないのぅ」
 佇む彼の背中に、玉藻 前(たまもの・まえ)は抱きつく。
 怪訝な顔の彼に構わず、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)も彼の腕にギュッと抱きついた。
「……玉藻に月夜、何がとは言わないけれど当たってる。その、アレが……」
「ん、わざとだ嬉しいだろう。我は嬉しいぞ」
「元気出して、刀真」
「いやその……って、白花お前まで」
 ふと、左腕に絡み付くのは封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)だった。
「えっと、月夜さん達もしてますし、私もこうしたいと思ったんです……嬉しいですか?」
「…………」
 正常な男子なら辛抱たまらないところだが、刀真はそんな気分にはなれなかった。
 勿論、彼女達の気遣いには感謝してるし安らぎも感じてる。しかし、それに身を委ねることを何かが止める。
 血に濡れたその手が。積み上げた屍の山が。罪となって彼の心を縛り付けていた……。
「それはともかく暑いんだが……」
「やれ、仕方のない奴だ……『我が三尾より氷がいずる!』」
 氷術で周囲に冷気が満たすと、これで問題ないな、と玉藻は微笑む。
 と思ったのも束の間、ふと人の気配を感じ、彼女は衣装を正して刀真から離れた。
 茂みの奥から優雅にあらわれたのは、薔薇学の黒崎 天音(くろさき・あまね)
 相棒のブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)も一緒だ。
「やあ、お邪魔だったかな。頼んでいたものを受け取りにきたんだけど……?」
「あ、そっか。ごめん」
 月夜は思い出したように言って、鞄からごそごそと資料の束を取り出した。
「なんだ、それは?」と刀真。
「シボラの世界樹の資料。あと、メジャー教授のパーソナルデータよ。図書館とネットで調べてきたの」
「ありがとう」
 天音は受け取り、目を通す。
 世界樹に関してはこれまでに出た以上の情報はないようだ。まだまだ調査が必要だと言うことだろう。
 さて、メジャー教授のほうは……思いのほか詳細な資料が手に入った。

 メジャー・ジョーンズ。空京大学冒険専攻教授。
 1974年5月9日生まれ。47歳。ニュージャージー州プリンストン出身。スリーサイズ不明。
 好きなものは、危険とこんぺいとう。嫌いなものは、政治と戦争。
 大学受験失敗を契機に冒険家を志す。
 冒険録『上野ダンジョン冒険記』『中野ブロードウェイ探索記』『コミックマーケット遭難記』『北千住千代田線乗り場はどこへ消えた?』が全米で大ヒット。
 生死の境を彷徨う壮絶な体験を鬼気迫るダイナミックな文体で描き、一躍冒険家として名を馳せる。
 2020年。秋葉原で山手線から日比谷線への乗り換えに3日を要していたところを空京大学にスカウトされる。
 現在、未開の土地『シボラ』の調査にあたっているとのこと……。

「なるほどね……。それじゃあ、これ約束のもの」
「どうも」
 これらの資料の対価となるのは、ナラカで撮影した映像データ。
 まだ落ち着かない刀真を無闇に刺激しないよう、天音と月夜はこっそり目を盗んでやりとりを済ませる。
「相変わらず裏でコソコソするのが好きなようじゃな」
 二人の様子に目を細める玉藻。そして、ゆっくりと天音に抱きつき、首に腕を絡める。
「久しいな、天音」
「本当に久しぶり。こうしてゆっくり顔を見るのは雛祭り以来かな……相変わらず魅力的だね」
「おまえのような美しい者に言われるのは悪くないのぅ」
「……ハッ! そ、そこの二人、離れんか!」
 急に変な空気をかもしはじめた天音と玉藻に放心。しかしすぐ回復し、ブルーズは間に割って入る。
「天音に近寄るな女ギツネめ。色気ばっかり振りまきおって。天音の教育に悪影響をおよぼすだろうが」
「なにを言う、化け蜥蜴。そうやって過保護にしとるほうが、よほど悪影響とは思わんのか?」
「なんだと……!」
「なんじゃ……!」
 火花を散らす彼らに、ふっ、と天音はため息。刀真に話しかける。
「やぁ。怪我の方はもう良いのかい?」
「……ええ、心配いりません。随分良くなりました」
「それは良かった。それにしても、樹月って結構……」と彼の腕に胸を押し当てる二人の美少女に目を向ける。
 天音は「おっぱい好きだよね」と言う単語を直前で飲み込むと、なんでもない、と首を振った。
「ところで彼女、鉄道王の噂が聞こえてきてるけれど……」
「『御神楽さん』はあの列車が随分気に入ってましたしね……。手伝いますよ、俺なりの方法で」
「俺なりの方法ねぇ……樹月はさしずめ、秘書か鉄道施設について地元住民との折衝担当とか?」
「そうですね。俺が傍に居ても役に立つとは思えませんから……。離れて動いたほうがよいかもしれません」
「そう。色々問題は出てきそうだけれど、あちこち飛び回るのも楽しそうだね」