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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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閑話休題 年増戦隊ロリババァV その3


 さて、会場が沸き上がっている最中。
 博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)は、丁度買い物を済ませたところだった。
 わざわざヴァイシャリーまで買い物に来た理由は、とあるパン屋さんのパンが美味しいと評判になった際、食べてみたいね、と言っていたのを思い出したからだ。夕飯の買出しのついでにである。
 無事にパンも買えたことだし、大切な人の待つ新居に帰る道。自然と足も軽くなり、口元には笑みも浮かぶ。
 早く帰ろう。そう思って、広場を突っ切る道を選び。
「……ん?」
 ヒーローショーが行われていることに気付いて足を止めた。
 大きいお友達の姿も見えるが、観客の大半は小さな子供たちだ。ショーの内容が面白いらしく、目をきらきらと輝かせて見ている。
 ――小さい子たちを見てると、なんだか感慨深いものがあるなぁ……。
 無邪気に笑う子供達。
 お母さんらしき人と。
 あるいは、お父さんらしき人と。
 ――いつかは、僕らも。
 ああして、子供を中心に仲良く手を繋いで――
「って、気が早いな。僕」
 思わず口に出してツッコんだ。そう、早い。まだ早すぎる。だって、博季はつい先月結婚したばかりの新婚さんなのだ。
 ――……でも。
 ――そんな、未来のお話を想像するのも楽しいよね。
 子供はどっちに似るのかな?
 目元はこっち、口元はそっち。なんて、そんな話をしたりして。
 男の子がいいかな、女の子がいいかな。
「……ってだから、気が早いってば」
 再びツッコんで、頬を軽く押さえた。口元が揺るんでいる。あーあと思っていると、
「……あれ?」
 ステージの上に、目が留まる。
「……マリアベルじゃん」
 ちょっと不服そうな顔をして、エアガンを片手に、
「え、ルイさん? って目ぇ怖っ!!」
 さるさるスーツを着たルイに立ち向かっている。
「それに……朱里さんに、ヒラニィ姉さんも?」
 思わずステージに向かって歩く。何してんの、と思ったからだ。
 観客席まで近付いたところで、何者かに後ろから羽交い絞めにされた。
「へっ?」
 戸惑っていると、
「手を上げろ!!」
 背後から声。首だけしか動かないので状況把握がしづらかったが、見た感じテロリストを模した悪役が三人。
 テロリストたちは、博季を人質にしたままステージの上にあがった。
「動くなァ! 動くとこいつがどうなっても知らねぇぞ!」
 ほとばしる、悪いセリフ。
 ――ははん。僕は人質役ってことですね。
 博季は納得し、大人しく従った。
「ああっ! 怪人ゴリマグロが仲間を呼んだようです!! 銃を持って博季・アシュリングさんを人質にとっています!!」
 司会らしき衿栖が切迫した声を上げる。その声に、若干戸惑いの色が見えた。
 ――ああ、不意打ちか。不意打ちなんて手ぇ込んでますね。
「善良な一般市民が人質に!? ロリババァV、ピンチですっ!」
 衿栖が言った。なるほど、この相手を倒してロリババァVの勝利。そしてハッピーエンドということか。
 ――ふふ、マリアベルに会ったのも久しぶりだし……僕も一肌脱いで手伝って……って……。
「何で黒が三人も居るんだよ!?」
 思わずツッコんだ。
「何を言うか。わしらは誰一人被っておらぬ」
「そうそう。ヒラニィはババァブラック、セラはババーブラック」
「そして朱里はババブラック」
 確かに言われてみれば微妙に、ああ本当に、ほんの少しずつだけ、呼称が違うけど。
「そんなのわかるかッ!」
「ババァ、ババー、ババ……どれも少しずつ、違うのです。……オンリーワン! オンリーワン!」
 ツッコミに、衿栖が言う。どよっ、と観客がざわめく。いや何この流れ。そうツッコむのもバカらしくなってきたので、博季ははぁとため息を吐きかけ、
「ちなみにわらわは『澄み渡る草原を思わせる若々しいグリーン』じゃ」
 マリアベルが耳打ちしてきた言葉に、ぶは、と吐き途中の息を一気に吹いた。変な呼吸をしてしまったため、咽る。
「何だよそれ!? お風呂の入浴剤かよ!?」
「涼しげでよかろ?」
「むしろお風呂が恋しくなるよ! 涼しさ消えるよ!」
 ツッコミの連続で息が切れてきた。ぜぇはぁと肩で息をしていると、
「まぁともかく、そこのテロリストもどきの存在や博季の乱入は予定外だったがかまわぬな」
 ヒラニィがグレネードランチャーを構えた。ぢゃこんっ、という重々しい嫌な音がする。
「うんうん。アレを使うしかないね! 必殺技だね!」
 朱里が嬉しそうに言う。
「やっちゃうか!」
 セラの目も、悪戯を仕掛けた子供のように輝いている。
「わらわも準備OKじゃ」
 マリアベルもエアガンを構えた。
 そして麻羅が、
「喰らえっ! これが真の魔法じゃっ!!」
 叫び、飛び掛った。
「こ、この構えは!」
 衿栖の実況に熱が入る。
 ロリババァ全員が息を吸い、
「「「「「スーパーソニック☆スーパースター!!!」」」」」
 声を合わせて、それぞれが攻撃。
 麻羅が肉体言語に物言わし。
 セラが全魔力を込めたサンダーブラストを放射。
 ヒラニィがグレネードランチャーを発射して。
 朱里はスタンクラッシュをぶちかます。
 マリアベルの放つ銃撃は、BB弾ながらも強力で凶悪な威力だし。
 全ての攻撃が終わったとき。
「………………」
 ルイ扮する怪人、博季を人質に取ったテロリストを模した悪役三人、それから被害者の博季までもがめっためたにやられていた。むしろ、テロリストたちに行くはずだった攻撃を全面に喰らったため、被害者なのに一番怪我が酷いという有様だ。
「………………」
 焦げるわ、痛いわ、今気付いたけどテロリストの持ってる銃が本物だわ。
 ――…………。
 少しの間、硬直して。
「あああああ!!! もうー!!!!! なんていうか、もうー!!」
 博季の中で、何かが弾けた。
 というか、壊れた。
 博季を再び羽交い絞めにしようと近付いてきたテロリストの一人を黙って思い切り殴り倒す。
「ぶっ」
 情けない悲鳴を上げて倒れるテロリスト。
「なんで僕が巻き添え食らってんだー!!」
 構わず博季はファイアストームを発動させた。
「てっ、てめぇッ! 人質は大人しくッ――」
「本物の銃なんぞ僕に向けて何するつもりなんだあんたー!」
 銃を向けた相手には、サンダーブラストを。
「間違って発砲したら危ないだろうがーッ!!!」
 博季の豹変ぶりに呆然としている最後の一人にも、光術乱射。
 そこまでやって、落ち着いた。
「……はぁ」
 そして、両手に持ったネギとパラミタバゲットを見てため息を吐いた。
「あーあ……今日の夕飯の材料、焦げちゃったじゃないか」
 わざわざ買いに来たのに。
「仕方ないな。もう一回行ってみよう。まだ残ってるかなぁ……」
 一人ごちながら、博季はステージを降りて行く。


「……というわけで。こうして、ヴァイシャリーの街に平和が訪れたのでした!」
 無理やりまとめるように、衿栖が声を張り上げる。
 五人のロリババァが、瞬く間にステージ中央に集まった。ビシッとポーズを決め、
「我らロリババァが居る限り!」
「この世に悪は栄えない!」
「栄えたとしてもぶっ潰す!」
「年増戦隊ロリババァ!」
「勝利のV(ブイ)!」
 決めセリフを言い終えて、五人全員でブイサイン。
 わあぁ、と歓声も上がり、いろいろあったがショーは見事成功、といったところだろうか。
「みんなー! 次もこの会場で会おうね〜!」
 衿栖の合図で、ステージに幕が降りた。


 余談だが。
 セラに催眠術をかけられたルイは、スーパーソニック☆スーパースターによって打ちのめされた後放置され。
「あ、あれ? ここはどこでしょう……そして私は何故一人? さるさるスーツはボロボロだし、夕飯用の冷凍マグロはこんがりで……?」
 目覚めた頃には全員撤収しており、一人首を傾げることになる。
 また、悪役だと思われていたテロリストは、実は本物のテロリストで、ヒーローショーに集まった少年少女を利用したテロを考えていたのだが、
「ロリババァがよ。居てよ……」
「つーか人質だったヤツが! あいつがあぁぁ!!」
「あの、俺たちもう悪いことは止めようと思ったんです。きちんと罪を償って、真っ当に生きます」
 何者かに怯え、自首。
 さらには、人質として掻っ攫われ、が、反逆して颯爽と去っていった博季には、『魔術師ソーサラス・テストロイヤー』というあだ名がこっそりつけられたのだが。
 そんなこと、今日の主役たちは知らない。